金融の未来が齎す、ポリオプティコン社会を生き抜くために

松本尚典

松本尚典

テーマ:資金調達 レバレッジ 創業融資 連帯保証


今後の世界では、与信が非常に重要になる



給与を会社から銀行口座で受け取り、その口座からキャッシュレスで使用した費用が引き落とされてゆく現代と未来の私たちは、その消費や投資といった金銭の行く先を自由にするため、与信という評価と無縁では生きてゆけません。

親の仕送りと、アルバイトで稼ぐ現金とその現金の有り高だけしか使用できないデビットカ-ドだけで生活する学生が、消費者としては、極めて不自由な生活を強いられることからわかる通り、現代と未来の経済的自由というのは、かなりの側面で、与信の付与のレベル如何によっています。

僕たち、経営事業家は、過去の収益実績から得られる大きな与信の力によって、レバレッジをかけて事業を拡大し、その投資収益率を利用して、大きな利益を生み出して、更に、与信を拡大しています。消費者もまた、与信を拡大しながら、その消費生活を拡大するヒトが、経済の需要の主役を担ってゆくことが、先進国では今、当たり前になっており、それが、今後、新興国から途上国に押し寄せ、世界の隅々にまで与信が重要な信用経済が普及する事態が、この21世紀後半に向けた流れになることは間違いないだろうと思います。

与信と人工知能


世界の与信総規模は、今後、大きく増大し、その与信の付与を、人工知能AIが担う流れは、間違いありません。

そうなると、人工知能がより的確な判断をする前提として、個人や企業といった与信の対象となる主体に関する、あらゆる情報が、ビックデーターとしてAIに読み込まれ、それによって、強大な与信の審査が営まれる時代が、おそらくそぐそこまで到来しています。

このような世界が、巨大な新たな監視社会となることは間違いありません。

現金のみで買い物をしていた時代には、その購買行動は、一切、情報として存在しませんでした。そして、誰が、どこの電車で、どこに行ったかも、情報として存在しませんでした。

しかし、我々のクレジットカードや、交通系カードの情報は、我々の購買行動やその行動をすべて情報として残してしまいます。道に設置される監視カメラによって撮影され続ける情報が顔認証とあわされば、その行動はすべて情報として残ります。

テレワークが、個人の働き方の自由を実現する方法であるという時代は、もうすぐ終わります。会社に行くリアルワークであれ、テレワークであれ、カメラから得られる勤務態度を評価し続けるAIに、人間の管理職のような、「隙」があるはずはないからです。

そのような絶え間なく残される個人や企業の情報が、AIによってすべて分析されて、与信に反映する時代は、確実に、それ以前の時代と異なります。

パノプティコンから、ポリオプティコンに社会の監視は変わってゆく


近代から、20世紀までの自由主義社会では、ヒトは基本的には自由な主体であって、例外的に、学校に入るとか、企業に入るとか、最悪には監獄に収容されるなどの事態によって、少数者(先生や管理職・看守)によって、監視を受けて自由を制限されました。この監視状態を、フランスの哲学者のミシェル・フーコーは、「パノプティコン」(一望監視施設)と呼びました。

企業社会も、これまでは、出社を義務付けられ、会社のオフィスという箱の中に勤務を義務づけられ、そこで管理職による監視を受けるパノプティコンでした。

21世紀に進んでいるのは、フリーアドレスのオフィスや、テレワークによって、このパノプティコンから脱却したかに見える企業社会が、今度は、絶え間なくAIによって情報的に監視を受ける状態に移行しています。

この状態は、パノプティコンではありません。一見すると、より自由に見えるヒトが、ヒトよりも例外性のない徹底的なビックデーター収集によって、監視を受け続ける状態です。この新たな、デジタル管理社会が生み出した「新たな牢獄」を、ノルウエーの社会学者である、トマス・マシーセンは、「ポリオプティコン」と名付けられました。

少数のヒトが多くのヒトを物理的に監視するパノプティコンは衰退し、AIという例外性のない情報収集マシーンによって、ネット空間の上で、監視を受ける新たな脅威の進行の中に、僕たちは、生きてゆくことになります。

そして、このような監視の結果、生まれる未来の与信に基づく金融は、おそらく、20世紀までのそれとは、大きく性格を変えるでしょう。

日常の購買活動や、移動情報、SNSでのつぶやき、Google検索をした足跡が、すべてデジタル的に残され、それが消えずに、AIにディープラーニングされる結果、そのヒトの人間性や活動の特徴が洗い出されて、それが、返済の誠実性や能力を形成する与信に利用されて、動く巨大な金融が、既に、先進国を越えて、新興国や途上国まで、覆いつくそうとしています。

この時代に生きてゆかねばならない私たちは、それを覚悟し意識して、生きてゆかねばならないのではないでしょうか。

あなたは、今も、もう、AIに監視されはじめているのです。

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松本尚典
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