暗号資産ではなく、ブロックチェーンを見る時代 M&A・資本提携に活きるデジタル技術の本質

松本尚典

松本尚典

テーマ:デジタルマーケティング ブロックチェーン


ブロックチェーン技術の凄さと、暗号資産は、別物


2008年10月。
Satoshi Nakamotoと名乗る匿名の人物が、ビットコインの原型となる論文を公表しました。そして、2009年1月にビットコインのネットワークが稼働し、ここから暗号資産の歴史が本格的に始まりました。世界経済が、リーマンショックの後遺症に揺れていたタイミングでした。

当時、僕は、2007年にウォール街を離れ、日本の大手企業の役員の立場にいました。しかし、独立を見据え、古巣である金融業界にも情報網を張り続けていましたので、このブロックチェーンという新しいテクノロジーには、非常に強い関心を持ちました。

情報処理分野の国家資格も保有していた僕の当時の常識では、情報システムの基本的な姿は、クライアントサーバーシステムを中心に組み立てられるものでした。その常識を大きく揺さぶったのが、中央管理者に依存せず、参加者相互の検証によって取引記録を保持するブロックチェーンという技術でした。僕も、この技術には大きな可能性を感じ、それ以来、事業展開の可能性をこの分野に模索してきました。

しかし、金融業界で経営コンサルタントとして仕事をし、また、情報技術にも一定の知見を持つ立場から見ると、当時の世論には一つの混同があったように感じました。

それは、ブロックチェーンという優れた情報技術に対する評価と、金融資産としての暗号資産に対する評価が、十分に切り分けられていなかったという点です。

僕は、ブロックチェーンというテクノロジーについては、改ざん耐性、取引記録の透明性、中央集権的な管理者に依存しない記録保持の仕組みという点で、非常に画期的なものだと考えています。金融取引、貿易、サプライチェーン、契約管理、知的財産、本人確認、医療情報、行政手続きなど、幅広い分野で応用可能性があります。

特に、企業経営の実務においては、ブロックチェーンは単なる暗号資産の基盤技術ではなく、取引の信頼性を高め、契約や決済の透明性を向上させ、国境を越えた事業活動の効率を高める可能性を持っています。AI、IoT、デジタルID、スマートコントラクト、国際送金、貿易金融などと結びついたとき、ブロックチェーンは、企業間取引の基盤技術の一つになり得ると考えます。

一方で、その技術の実用化の先頭に立って登場したビットコイン、そしてその後に続いた多くの暗号資産については、金融経済の観点から慎重に見る必要があります。

ブロックチェーン技術が優れていることと、暗号資産が安定した通貨または投資対象として優れていることは、同じではありません。

ここを切り分けて考えることが、AI時代、情報通信時代、そして資金調達の選択肢が多様化する時代の経営者には、非常に重要だと思います。

国家の政策関与なしに、現代の通貨はありえない


高度に発展した現代経済を支える通貨は、古代に発生した「和同開珎」などの原始的な通貨とは全く異質なものです。

現代の通貨は、単なる交換手段ではありません。中央銀行の金融政策、国家の財政政策、物価安定、雇用、為替、金利、金融システムの信用維持と深く結びついています。

需要と供給だけが自律的に通貨価値を決め、価格が「神の見えざる手」によって理想的に調整されるという考え方は、古典派経済学の重要な出発点ではあります。しかし、国家が経済政策の主体として、物価、為替、賃金、金融機関の信用秩序に深く関与する現代経済においては、それだけで通貨制度を説明することはできません。

したがって、暗号資産が国家の通貨発行権力から完全に独立し、国家の金融政策に服さない経済圏をつくるとすれば、それは必ずしも理想的な未来とは限りません。

通貨価値が市場参加者の思惑によって大きく変動し、価格が乱高下し、労働の対価として得られる賃金の購買力すら安定しない社会は、企業経営にとっても、生活者にとっても、極めて不安定な社会です。

もちろん、暗号資産を保有するすべての人を否定する必要はありません。新しい技術に対する関心、既存の金融システムへの不信、国際送金の利便性、ポートフォリオの一部としての分散投資など、そこには様々な動機があります。

しかし、経営者が注意すべきことは、暗号資産には、価格変動リスク、流動性リスク、規制リスク、マネーロンダリング対策上のリスク、税務上のリスク、会計処理上のリスク、サイバーセキュリティ上のリスクが存在するという点です。

特に、事業資金、運転資金、成長投資資金を暗号資産の値上がり益に依存するような経営判断は、極めて危険です。企業経営における資金調達は、本来、事業計画、収益性、キャッシュフロー、資本政策、投資家との信頼関係を基礎に設計されるべきものです。

中国のデジタル人民元をはじめ、各国中央銀行によるCBDC、すなわち中央銀行デジタル通貨の研究・実証も進んでいます。また、国際決済の領域では、中央銀行デジタル通貨や分散台帳技術を用いて、国境を越えた決済を効率化しようとする動きも現実化しています。

この流れを見ると、将来の通貨や決済がデジタル化することは、ほぼ避けられないと考えます。

しかし、それは、国家の通貨発行権力から完全に独立した暗号資産が、現在の法定通貨に代替するという意味ではありません。むしろ、今後は、中央銀行、金融当局、銀行、決済事業者、IT企業、AI企業、ブロックチェーン関連企業が、規制と技術の両面から新しい金融インフラを構築していく方向に進む可能性が高いと考えます。

したがって、僕は、暗号資産そのものが、将来の経済において法定通貨に代わる中心的なポジションを獲得するとは考えていません。

ただし、ブロックチェーン、分散台帳、デジタル決済、スマートコントラクト、トークン化された資産、デジタルIDなどの技術が、企業経営や資金調達に大きな影響を与えることは間違いありません。

経営者が見るべきなのは、暗号資産の価格変動ではなく、その背後にある技術と制度の変化です。

ビットコインに助けられた経験


しかし、実は、かくいう僕自身も、過去に一度だけ、ビットコインに大きく助けられた経験があります。この点も、正直に書いておかなければなりません。

僕は、現在、インドに2つの野菜工場を経営する会社のオーナーです。一方で、URVグローバルグループは、インドのチェンナイとバンガロールに、商品である野菜輸出の業務を行うためのオフィスを構えております。

この活動の前哨戦として、株式会社URVプランニングサポーターズを創業した2015年当時から、僕はインドの可能性を予測していました。そして、現地に契約リサーチャーを配置し、情報収集を続けながら、事業機会を模索してきました。

そのインドで、2016年11月、モディ首相が高額紙幣の廃止を突然発表しました。インド国内に流通する偽造通貨や不正資金を一掃する目的で、既存の500ルピー紙幣と1,000ルピー紙幣の法定通貨としての効力が停止されたのです。

インド国内には、大きな衝撃が走りました。

高額紙幣は一瞬のうちに利用できなくなり、銀行で新しい紙幣に交換しなければ、支払いもできなくなるという、まるでSF映画のような事態が現実に起きたのです。

一方で、銀行には多くの人が殺到し、十分に機能しない状態となりました。新しい通貨を取得することも、通常の決済を行うことも、容易ではありませんでした。

この時、僕は、急激に勃興する新興国における政策変更の大きさと、現地オペレーションのリスクを痛感しました。

URVグローバルグループのインドの現場においても、リサーチャーの給与を支払うためのルピー紙幣が機能しなくなりました。銀行での振込手続きも、通常通りには動きません。

インド国内では、債務の支払い停止が頻発し、多くの企業で決済や給与支払いが滞りました。現地の経済活動は、大きな混乱に陥りました。

僕としては、何とか現地で活動を継続し、リサーチャーに支払う給与を、僕が資産を保有する欧州のプライベートバンクからインドに緊急に送る必要がありました。しかし、銀行決済が円滑に動かず、通常の国際送金も機能しにくい状態でした。

そこで、僕は初めて、ビットコインによる送金を試みました。

国家から独立したビットコインの送金だけが、この時、現実的な選択肢として機能したのです。

その結果、インドの多くの企業が取引先への支払いや従業員への給与支払いに苦労する中、URVグローバルグループは、必要な支払いを予定通り行うことができました。チェンナイにおける当社の評判と信用は、大きく向上しました。

この経験から、僕は一つの現実も学びました。

暗号資産は、通常の企業経営における資金運用や資金調達の中心に置くべきものではありません。しかし、政府、銀行、既存の決済システムが一時的に機能しなくなったような緊急時には、代替的な価値移転手段として機能する可能性があります。

つまり、暗号資産を全面的に礼賛する必要はありませんが、全面的に否定してしまうのも、経営者としては適切ではありません。

重要なことは、技術、制度、リスク、実務上の使い道を切り分けて考えることです。

ブロックチェーンは、企業の情報基盤、契約管理、貿易、物流、決済、資金調達、投資、事業提携に影響を与える技術です。一方、暗号資産は、価格変動性が高く、規制や税務の影響も大きい金融資産です。

経営者は、この二つを混同してはいけません。

AI、ブロックチェーン、デジタル決済、CBDC、資産のトークン化、スマートコントラクトといった技術の進化は、今後の企業経営に大きな影響を与えます。特に、資金調達や資本提携を考える企業にとっては、単に銀行借入に依存するだけでなく、事業会社との資本提携、投資企業とのマイナー出資、M&A、海外展開、知的財産やデータを活用した企業価値向上など、より多面的な資本政策を検討する時代に入っています。

新しい技術を事業価値に転換できる企業は、資本提携の対象としても高く評価される可能性があります。一方で、技術の流行語だけを追いかけ、収益モデル、顧客基盤、知的財産、組織体制、財務管理が整っていない企業は、投資家や提携先から厳しく見られます。

ブロックチェーンやAIの時代に、経営者が考えるべきことは、暗号資産の価格ではありません。

自社の事業をどのように高度化し、どのような技術を取り入れ、どのような資本政策によって成長を加速させるかです。

URVグローバルグループでは、成長企業が持つ技術、事業モデル、市場性、経営者の構想を整理し、投資企業との資本提携、事業提携、M&Aを通じて、企業価値を高めるための支援を行っています。

AI、情報通信、ブロックチェーン、デジタル決済、海外展開などを成長戦略に取り込みたい経営者の方は、まず、自社の技術や事業が、投資企業からどのように評価されるのかを整理することが重要です。

技術を持つ企業が、資金と経営資源を持つ企業と結びつくことで、単独では実現できない成長を実現できる場合があります。

暗号資産に投機するのではなく、技術を事業価値に変え、資本提携によって企業成長を加速させる。

これこそ、これからの時代に、経営者が選ぶべき現実的な成長戦略の一つだと考えます。

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松本尚典
専門家

松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

経営者の弱みを補強して売上を伸ばし、強みをさらに伸ばして新規事業を立ち上げるなど、相談者一人一人の個性を大切にしたコンサルティングで中小企業を成長させる。副業から始めて、独立で成功したい人も相談可能。

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