危機意識と、危機管理 ~10歳の子供の事例を考える~
目次
1.コロナ禍で激増している、「補助金支援専門家」の営業
新型コロナ禍で、日本企業は、はじめて、「企業版ベーシックインカム」の味をしめてしまいました。
欧米の社会主義的な学者によって提唱されたベーシックインカム論は、未来の世界に、AIによるシンギュラリティが到来することを前提に、未来の先進国の国民は、生産手段をすべてAIに奪われる結果、社会に費生じる「無産階級」に、国家が、生活の保障を行う固定の支給を行うべきであるという文脈で、欧米では提唱された考え方です。
AIを操ることができる一部のエリートによる支配階級が、AIによって一切の仕事を奪われた人による社会不安を防ぐため、生活を保障するという、「新型社会主義」国家の基礎をなす考え方で、欧米では、一定の注目をあび、独裁的な社会主義国家の指導者に信奉されていた議論でした。
このベーシックインカムが、新型コロナという、想定していないかった事態で、現実に実行され、日本でも、全国民を対象に、固定額の資金が国によって、はじめて支給されました。
更に、企業には、個人よりも手厚く、飲食業などのコロナ禍による事業の停止を余儀なくされた業界の企業だけでなく、コロナによる売り上げ減少を申告した企業に、持続化給付金や事業復活支援金の名目で、数百万円単位で、国家より支給をされました。
いわば、コロナウイルスによる、「企業版ベーシックインカム」が、現実に大きく動いたわけです。
このようなベーシックインカムの最大の弊害は、事業を持続させるとか、事業を復活させるといった目的ではなく、本来、自助努力によって、利潤を追求しなければならない企業が、ベーシックインカムの味を占め、ギャンブルのビギナーズラックのような心理で、「また、もう一度、濡れ手に粟をせしめられないか」と動くことにあります。
流石に、国は、持続化給付金や事業復活支援金を今後も続けることはありませんが、このようなビギナーズラックの再来を狙う企業が、補助金の申請に向かっています。
補助金は、従来から、補助金申請を代行する一部の士業やブローカーが、「返済をする必要がない資金」という広告文句で、過度な広告を展開していました。
コロナ禍をきっかけに、先に述べたような濡れ手に粟を狙う企業の増加を背景に、以前よりも、補助金申請代行の業者の広告は、激しさを増しているように感じます。
補助金がすべて悪いわけでは、勿論ありません。
適切に利用すれば、企業の活性化や、成長にとって、役立つケースもあります。
しかし、一方、「返済をする必要がない資金」というような広告に踊らされ、持続化給付金や事業復活支援金と同様の意識で補助金を申し込んだりすると、痛い目にあいます。
補助金のメリットとともに、補助金の危険性を充分踏まえ、補助金を利用すべきかどうかを、正確な情報を基に判断をすべきだと、僕は思います。
そこで、このコラムでは、補助金申請業者が、「あえて書かない」補助金の危険性に踏み込み、情報を発信したいと思います。
2.補助金のメリットとともに、デメリットをきちんと知ろう
まず、補助金を活用する場合、そのメリットとデメリットをしっかり把握しておくことが必要です。
補助金のメリット
補助金は、企業や個人事業主の資金調達の中で、借入金と異なり、返済の必要がありません。
従って、ヒトを雇用したい、売り上げ向上策を実行したい、あるいは、備品等を購入したいという目的がある場合、それに、当該補助金が適合すれば、結果的に、その経費を補てんしてくれるのが、補助金です。
このようなメリットは、多くの補助金申請事業者が、PRしている通りです。
補助金のデメリット
補助金は、その使用の補助事業が完了し、その報告を行い、管理する機関がその報告を審査して、はじめて現金が支給されてきます。
従って、よく、「費用の3分の2が補助金で賄える」と広告でうたわれますが、キャッシュフローとしては、その費用を業者や従業員の給与に支払い、そこから審査をえて、補助金が入ってきます。その間、半年から、長いものは1年を超えます。
使用する費用の資金が減るわけではありません。
また、補助金は、補助金申請を行い、採択をされた後から、当該事業を開始し、その期間中に事業を完了して、報告を行わなければなりません。この期間中に、補助事業を開始し、支払いを終えて、報告をしなければなりません。採択を受けたからと言って、それで補助金を貰えるわけではなく、採択から事業をスタートし、それを期間中に終えて、支払いを行って報告を終える必要があります。補助金の申請業者は、採択をもって、成功報酬を請求するのが通常ですが、採択があったからといって、補助金が入ってくるわけではありませんから、業者の成功報酬よりも、補助金の入金は、相当な期間がかかります。
更に、補助金は、申請段階の計画の通りに、その使用を進める必要があり、かつ、その使用の証拠となる書類(例えば、業者への支払いが発生する場合、見積書・契約書・受領書・請求書・領収書の5点と、銀行振り込みなどの入金書類、の「すべて」)を提出しなければなりません。
クレジットカード支払いの場合、そのカード会社への引き落としまで、その期間中に完了していなければならず、かつ、使用の証拠書類は、一部だけでは認められません。
このような取引書類のすべてを出してくれる業者を選定して取引をしないと(換言すれば、補助金に精通した業者でないと)、なかなか証拠書類が揃えられません。
このように、補助金は、非常に硬直的な制度に従わないと受け取れません。
新型コロナ禍で、持続化「給付金」を簡単に受け取れたからと言って、名前が似ていても、それとは全く異なる持続化「補助金」を簡単に受け取れるわけではないのです。
3.中小企業の経営は、「収益性」よりも「流動性」が重要
このように、補助金を使って人を雇ったり、プロジェクトを進めたりするためには、必ず、そのための支出が先に企業や個人事業主から出ることが前提です。
しかも、その支出の仕方や、証拠書類が補助金の機関が求める内容からみて不十分だった場合、補助金は出ません。
採択をされれば、その事業に先んじて補助金が支払われたり、支出と相殺されたりするものではなく、しかも、補助金の機関の審査如何では、採択を受けても、補助金が受け取れないケースがあります。
特に、補助額が少額な補助金は比較的容易に基準をクリアーできますし、支払いも早いのですが、補助額が大きい補助金ほど、審査が厳しく、かつ、支払われるまでの長いのが普通です。
従って、特に金額が大きい補助金ほど、それを活用する企業に資金的な余裕が必要になります。
資金繰りが苦しい企業が補助金を利用すると、業者への支払いが期間中に行えず、補助金が受け取れずに、債務だけが残るという最悪の事態にもなりかねません。
4.成功する経営者は、「生産性」→「収益性」→「流動性」→「生産性」というサイクルをきちんと踏まえて行動する
補助金は、決して、「費用が賄える」ものではなく、そのプロジェクトを完了した後に、次の投資や経費使用をすることが補充されるという性質のものです。
成功する経営者は、企業にとって必要なプロジェクトを進める際、時期的な条件と、補助金の要件にそのプロジェクトが該当する場合に、はじめて補助金を活用し、その後の投資や経費の再投資に補助金の給付を使用するという、賢い方法で、補助金を使います。
経営とは、ヒト・モノ・カネを使って生産性をあげ、それによって得られる対価から収益が生まれ、その収益が現金をはじめとする流動性に蓄積される結果、その流動性を再投資して、生産性を生む、というサイクルを回すことです。
このサイクルの中で、対価から支払われる費用に補助金が補填される結果、流動性の金額が増額して、再投資額が増える、というのが、補助金の効用です。
あくまでも、次の生産性を生む循環の拡大に、補助金が寄与するのです。
この点を踏まえ、補助金支援業者の甘言に騙されずに、賢く、補助金を利用してください。
松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
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