何故、M&Aの世界では、カネを投資したい企業が、投資を受けたい企業の8倍いるのか?

松本尚典

松本尚典

テーマ:M&A 投資 資本提携


1.M&Aの世界の常識 「投資を受けたい企業」の8倍、「投資をしたい企業」がいる

 
僕が代表取締役を務める、株式会社URVプランニングサポーターズ(https://urv-group.com/urv-planning-supporters/ 中小企業庁 M&A支援機関登録企業、一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)正会員企業)は、経営支援事業部門の中に、M&Aアドバイザリーセクションを持ち、成長企業M&Aに特化した、企業の資本提携・M&Aの仲介及びアドバイザリーサービスを行っています。

URVグローバルグループの成長企業M&A

https://urv-group.com/services/consulting/growing-manda/


さて、このようなM&Aを専門とする業界の中にいる僕たちにとって、次のような話は常識となっています。

「M&Aでは、買う企業が、売る企業の8倍いる」

どういう意味かというと、企業投資でお金を出したい企業が、企業投資でお金を出してもらいたい企業の8倍いる、ということです。

日本では、一般的に、企業の資金というのは、「設立者の自己資金」か、「銀行からの借り入れ」で賄う、ということが常識になっています。そのため、世界の企業では盛んに行われている、エクイティファイナンス、つまり、他の企業に出資をしてもらい、事業を拡大成長させる、ということに、日本の経営者は、非常に憶病です。

最近は、日本の経営者の高齢化が進み、いわゆる事業承継の局面で、会社を大企業に引き取ってもらう、事業承継型M&Aが、ようやく、増えてきました。

しかし、この事業承継型M&Aというのは、ある意味、「オーナー社長に万が一のことがあった場合に、他に事業を継続できる道がないから、やむを得ず、行う」という手法に過ぎません。

株式会社URVプランニングサポーターズが進める、資本提携や成長企業M&Aのように、現在の経営者のもとで、事業の成長スピードをあげるため、エクイティ投資資金を戦略的に他の大企業から投資を受ける、という戦略を実行に移す経営者は、本当に、日本ではまだ少ない状態です。

一方で、僕たちが、資本提携や成長企業M&Aの世界で動いていると、「投資をしたい」「投資案件を探している」という企業には、本当にたくさん出会います。

僕は、今、日本中の投資志向の強い企業の経営企画部の担当者と、徹底的に人脈を作りたいと思って、活動をしていますが、実は、これは、それほど難しいことではありません。

その結果、資本提携やM&Aの世界では、「カネを出したい企業」余りの、現象が常態化しているのです。

2.「投資をしたい企業」の実態とは?


では、このような「カネを出したい企業」「他社に投資をしたい企業」「他の会社を買いたい企業」(ここでは、これらの企業を、以下、「投資側企業」と称します。)は、どのような企業群なのでしょうか?

僕の経験では、投資側企業は、大きく2種類の企業群に分かれます。

投資ファンド


まず、投資側企業の、代表的な企業群は、投資ファンドと呼ばれる企業です。

投資ファンドは、投資を本業にしている企業です。つまり、投資を商売にしている会社ということです。

これらの企業が投資を行う目的は、一言で言ってしまいますと、投下資本収益率を最大化して利益をあげることです。

投資を行い、収益のアップを狙うということを目的にしています。

一番、わかりやすいのは、未上場企業の株を買い、その企業を上場させることで市場価格をつけ、それによって株式の需要を激増させて、利益をあげる、という方法です。

そのため、成長を志向するベンチャー企業が、将来の上場を、オーナー社長のエグジット(出口)とする目標を設定する場合、その成長のための投資資金の調達を、投資ファンドに求める場合、投資ファンドから投資を受けて、成長スピードを速める方法が、最も適しています。

ただ、現在、東京証券取引所への上場は、非常に高い障壁があり、それ自体が、難関になっていますし、そのコストは、膨大です。

最近は、投資ファンドも、上場をエグジットにしないベンチャーへの投資も検討する企業が増えてきました。

寧ろ、次にあげる事業会社への売り抜けを目標に投資を行ったり、再生を要する企業を極めて安く買い、事業の再生をさせて、売り抜けるなど、多様な投資の対象を求めているのが、今の投資ファンドです。

投資ファンドの場合、事業承継型のM&Aには、あまり積極的ではありませんが、株式会社URVプランニングサポーターズが進める、資本提携や成長企業M&Aについては、非常に、投資意欲を燃やされます。

事業会社


事業会社とは、投資ファンドのような、投資を事業にする会社ではなく、自社で独自の事業を営む会社が、他の企業に投資をする、という投資企業群です。

事業会社が、投資を行う目的は、投資ファンドとは根本的に異なります。事業会社は、自社の成長戦略の根幹に、M&Aや資本提携を位置付けているのです。

通常、事業を行う企業の中で、他の企業の投資をする会社は、最低でも、売上高が年商10億円を超える規模の会社になります。平均的には、売上高が年商500億円程度の企業ということになります。

何故、この規模の企業が、成長戦略の柱に、M&Aや資本提携を位置付けるのでしょうか?

それは、この規模の企業になると、社内でベンチャー的に、新規事業を立ち上げても、「成功しない」からです。

企業にとって、新規事業が成功すると言えるためには、事業開始から3年程度で、年商の10%程度にまで事業の売上高を高める必要があります。

年商の10%にも満たない事業は、企業の成長にインパクトを与えることができず、成功とは評価されません。

例えば、年商の売上高が500億円の企業であれば、その企業が投資をしてベンチャービジネスを立ち上げた場合、3年程度で、年商50億円程度にまで新規事業が育っていなければ、失敗とみなされてしまいます。

しかし、例えば、社内で、社員が自分のアイデアのもとに、社内ベンチャーを立ち上げたとしても、3年程度で、50億円の売り上げを作ることは、至難のわざです。

ですから、この規模の企業にとって、社内ベンチャーによる新規事業の起業は、従業員の育成という意味はあっても、売上高に大きなインパクトをあたえる、経営戦略上の新規事業とはならないのです。

そのため、この規模の企業は、出来上がった会社を買ったり、投資したりして、自社のグループ企業とし、グループ全体の売上高を大きくしてゆくのです。

勿論、売上が大きくなれば、なんでも買うわけではありません。

自社の事業にとって、シナジー効果がある会社・自社が成長を目指す分野の事業を持っている会社を投資の対象とします。

これが、事業会社のM&Aや資本提携の位置づけです。

一定規模以上になった会社にとって、M&Aや投資は、自社の成長戦略に欠かせないものです。従って、非常に優秀な担当者を経営企画部に置き、M&Aの案件探しを常に行っておられるのです。

3.「投資を受けたい企業」と「投資を受けられる企業」は、違うという現実


以上の説明で、投資ファンドや、事業会社が、それぞれの目的でM&Aや資本提携に、真剣に取り組んでいることがお分かりだと思います。

その結果、「M&Aでは、買う企業が、売る企業の8倍いる」ということになるのです。

よく、「他の知らない会社に、返済されない資金を投資する会社なんて、いないでしょ」という思い込みをされている中小企業の社長は多いのですが、そのようなことは全くありません。

但し、もう一方で、投資を検討する会社がたくさんある、ということは、「どこの会社でも投資を受けられる」ことになるわけではありません。

投資を検討する会社は、先にも述べたように、投資ファンドにせよ、事業会社にせよ、「投資のプロ」が投資先を徹底的に調査します(これを、デューデリジャンスと言います)。

財務面は勿論のこと、事業の成長性や、企業の理念・事業計画、そして労務面やコンプライアンスの問題に至るまで、投資先を徹底的に調べます。

最近は、M&Aのマッチングサイトが非常に多いのですが、少なくとも、投資が本当に行える会社(マッチングサイトの中には、「なんちゃって投資企業」が多数、俳諧していますので、このような企業に自社の重要な情報を提供することがないように、注意が必要です)であれば、サイトに掲載されている売り企業に、そのまま投資を簡単に決める、などという企業は存在しません。

4.だから、M&Aは、日本全体で年間4,000円件程度しか公表されない


僕たちのように、資本提携やM&Aの、アドバイザリーや仲介を行う専門家は、本当に真剣に投資を検討し、かつ投資ができる能力がある企業と、投資を受けられる企業を、結びあわせることが重要なのですが、これは、とても、大変なことなのです。

一番難しいのは、「投資を受けたい企業」の中から、「投資を受けられる企業」を見つけること、または、投資を受けられる企業に変えていくことなのですが、事業承継型M&Aで、売りたいと言ってくる企業で、買い側が買えると判断する企業は、とても少ないのです。

僕が対象としている成長企業の場合、企業を、投資を受けられる企業に変えていくことは、充分できるのですが、残念ながら、事業承継を検討に入った年齢の経営者がトップに立つ事業承継側のM&Aでは、会社が投資をしてもらえる会社に、変われないケースが多いのが実情です。

このような難しさから、M&Aは、仲介会社は多数あれど、日本全体で、年間4,000件程度しか成立していない、ということになります。

多くの日本の中小企業は、資金の調達という手段を、銀行から返済を要するおカネを借り入れ、返済を必要としない「投資を受ける」という手段を知らず、また知っていても、どうしたら、「投資を受けられる企業」になれるのかを知らないのだと僕は思います。

5.日本企業は、もっとエクイティで資金を調達しよう


僕は今、URVグローバルグループが提供する、経営支援サービスと、資本提携・成長企業M&Aサービスを連携させ、中小企業が、どうしたら、「投資を受けられる企業」になれるのかの指導活動を、中小企業のオーナー経営者に対して、行っています。

そもそも、株式会社という仕組みは、市場から資本を調達し、その大きな資本を投資して、より大きな投下資本収益率をあげてゆくための装置です。

企業があげる収益は、基本的に、税法上の所得と、ほぼ同じですから、仮に大きな収益をあげても、その相当な部分を、法人税等で納税しなければなりません。日本の法人税等は、シンガポールのような国と異なり、国税に加えて、都道府県税・市民税が重く、その総額は、法人税が15%程度の新興国の、およそ倍の、30%を超えます。

そのため、日本の企業は、収益で、成長のための投資を行いづらいのが、実情です。

返済と、収益にかかわらず確定的に要求される金利を支払わなければならない借入金では、思い切った投資も行いづらいと言えます。

だからこそ、日本企業は、事業承継という「終活」ではなく、社長が、行いたい事業を遂行するための資金を調達する手法として、エクイティファイナンスを活用すべきなのだと、僕は思うのです。

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松本尚典
専門家

松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

経営者の弱みを補強して売上を伸ばし、強みをさらに伸ばして新規事業を立ち上げるなど、相談者一人一人の個性を大切にしたコンサルティングで中小企業を成長させる。副業から始めて、独立で成功したい人も相談可能。

松本尚典プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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