メンズエステでお触りをして「触られた」と言われた。不同意わいせつ罪のリスクと対応
本記事は、2026年11月時点の刑法(2023年7月13日施行の不同意わいせつ罪の規定、2025年6月1日施行の拘禁刑への一本化を反映)と民法の規定にもとづいて作成しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は弁護士にご相談ください。
メンズエステでのトラブルについてご相談を受けると、「施術中に触ったと言われ、店から示談金を求められている」という声もあれば、「出禁にすると告げられ、後日あらためて連絡すると言われたまま、何も手につかない」という声もあります。どちらも、店から次に何を言われるか分からない不安を抱えたまま、相談の窓口にたどり着かれています。
こうした場面について、「早めに弁護士に相談を」と説明されることは多く、それ自体は誤りではありません。ただ、相談の場で何を見せ、何を話せばよいのかは、あまり語られていません。手元の資料が少なかったり、記憶が整理されていなかったりすると、初回の相談で見通しを立てにくくなることがあります。
この記事では、メンズエステで行為をめぐってトラブルになった方が、弁護士に相談する前に揃えておきたい資料と、まとめておきたい整理メモの項目を、チェックリストの形でご紹介します。不同意わいせつ罪が成立するかどうかの考え方や、美人局の見分け方については別の記事で解説していますので、本文中のリンクからあわせてご覧ください。
相談の前に資料と整理メモを用意しておく理由
弁護士が最初に確かめるのは「求められていること」と「残っているもの」
メンズエステでの行為をめぐるトラブルでは、店から求められている内容が、示談金の支払い、誓約書への署名、出入り禁止の通告、「警察に相談する」という予告など、事案ごとに異なります。弁護士はまず、誰から何をいつまでに求められているのかを確かめ、そのうえで、書面ややり取りの記録として何が残っているかを確認します。
請求の名目が「罰金」「違約金」「示談金」「慰謝料」のいずれであっても、金額が書かれているだけで支払いの義務が決まるわけではありません。支払いの義務があるかどうか、金額が妥当かどうかは、利用時の規約や当日の状況、残っている記録を突き合わせて初めて判断できるものです。
記憶は時間とともにあいまいになる
施術中の出来事は、個室の中で、しかも短い時間のうちに起きていることが多く、日がたつにつれて細部の記憶が薄れていきます。誰が先に何をしたのか、相手がどのような反応を示したのか、終了後に店のスタッフが何と言ったのかといった点は、その後の交渉や、警察から話を聞かれる場面で問われることがあります。
覚えているうちに書き留めておいたメモは、弁護士が事実関係を把握するための手がかりになります。完璧にまとめる必要はなく、分かる範囲で書き出しておくだけでも、相談の進み方が変わります。
揃えておきたい資料のチェックリスト
相談の前に揃えておきたい資料を、店と利用の情報、書面と支払いの記録、やり取りの記録の三つに分けてご紹介します。手元にないものがあっても相談はできますので、まずは集められる範囲で確認してみてください。
店と利用の情報
最初に、どの店をいつ利用したのかを特定できる情報を集めます。
- 店名と、店舗の所在地または施術を受けた場所(マンションの一室・ホテル・自宅など)。
- 店の形態(店舗型か、出張型・無店舗型か)が分かる情報。
- 利用した日時、担当したセラピストの名前(源氏名)、コースとオプションの内容、料金。
- 予約に使った方法(電話・予約サイト・SNSなど)と、その画面や履歴。
- 店のホームページや予約サイトに掲載されていた禁止事項・利用規約の画面(保存できる場合)。
店舗型か無店舗型かによって、営業の届出の有無や、その後に問題となる点が変わることがあります。詳しくは【風俗トラブル】メンズエステの『無店舗型』と『店舗型』|届出の有無で客のリスクはどう変わるかで解説しています。
書面と支払いの記録
利用の前後に署名した書面と、すでに支払った金銭の記録は、請求の根拠や支払いが任意だったかどうかを確かめるうえで中心になる資料です。
- 利用前に署名した利用規約・同意書・誓約書の控え、または写真。
- トラブルの後、その場で書くよう求められた念書・誓約書・示談書・借用書の控え、または写真。
- 店に撮影された、または預けた身分証・名刺・社員証などの内容と、そのときの経緯。
- 施術料金以外に支払った金銭の額と方法(現金・振込・カード決済・電子マネーなど)。
- 領収書、振込明細、カードの利用明細など、支払いを裏づける記録。
署名した書面の控えを受け取っていない場合でも、どのような表題の書面に、どのような内容が書かれていたかを、覚えている範囲でメモしておけば足ります。利用規約の禁止事項を理由にした請求については、【風俗トラブル】利用後に「規約違反だった」と言われた|利用時の記録を残しておくもあわせてご覧ください。
店やセラピストとのやり取りの記録
帰宅した後に届いた連絡は、請求の内容や相手の言い分を知るための資料になります。
- 店・セラピスト・関係者を名乗る人物からのLINE、SMS、メール、SNSのメッセージ。
- 着信履歴(日時と相手の番号が分かる画面)。
- 通話や当日のやり取りを録音している場合は、その音声データ。
- 留守番電話のメッセージと、郵送で届いた書面・封筒。
これらの記録は、内容が自分にとって不利に思えるものであっても、削除せずにそのまま残しておくことが大切です。削除してしまうと、相手の言動を確かめられなくなるだけでなく、後で事情を説明する際に不自然に受け取られるおそれがあります。
まとめておきたい整理メモの項目
資料と並んで役立つのが、出来事の流れと、ご自身の希望を書き出した整理メモです。次の表は、メモに書いておきたい項目の例です。
| 項目 | 書いておく内容の例 |
|---|---|
| 来店から施術まで | 予約から入室までの流れ、受付で説明されたこと、署名した書面 |
| 施術中の出来事 | 施術の流れ、どちらから何が始まったか、相手の反応や言葉 |
| 終了直後の出来事 | 誰が部屋に来たか、何と言われたか、その場にとどまった時間 |
| 求められていること | 請求額とその名目、支払いの期限、書面への署名や身分証の提示の求め |
| 相手から告げられたこと | 「警察に行く」「家族や職場に知らせる」「出禁にする」などの発言の有無と日時 |
| 相手に知られている情報 | 本名、電話番号、住所、勤務先、車のナンバーなど |
| ご自身の希望 | 家族や職場に知られずに解決したい、刑事事件になることを避けたい、支払える金額の上限など |
出来事は時系列で、確かなこととあいまいなことを分けて書く
整理メモは、来店前から現在までを時間の順に書き出すと、弁護士が全体の流れをつかみやすくなります。そのうえで、はっきり覚えていることと、あいまいなことを分けて書いておくと、後で記憶違いが問題になりにくくなります。
施術中の出来事について、ご自身に不利に思える点を省いたり、事実と異なる内容に書き換えたりすることは避けてください。弁護士には守秘義務があり、相談した内容が店や相手方に伝わることはありません。不利な点も含めて分かっていれば、それを前提にした対応を考えることができます。
「求められていること」と「ご自身の希望」を分けておく
店から求められていることと、ご自身がどう解決したいかは、別々に書いておくと整理しやすくなります。相手の要求にどう応じるかを決める前に、ご自身が何を優先したいのかを言葉にしておくと、相談の場で現実的な選択肢を検討しやすくなります。
「出禁だ」と告げられた場合、出入り禁止の通告と金銭の請求は、法的には別の問題として整理されます。この点は【風俗トラブル】「ブラックリストに載せた」「出禁だ」と言われた|出入り禁止と請求の関係で解説しています。
資料を揃える間に避けたい行動
相談までの間に取った行動が、その後の交渉や手続に影響することがあります。次のような行動は、弁護士に相談するまで控えておくことをおすすめします。
- 店やセラピストとのやり取りの記録を削除する。
- セラピスト本人に個人的に連絡を取り、謝罪や口止めを持ちかける。
- 店から求められるまま、追加の書面に署名したり、身分証の写しを送ったりする。
- 期限を区切られたことを理由に、金額の根拠を確かめないまま支払う。
- 自分の非を認める内容を、メッセージや書面で相手に送る。
セラピストへの個人的な連絡は控える
謝りたい気持ちや、事情を説明したい気持ちから、セラピスト本人に連絡を取りたくなる方もいます。しかし、店を通さずに本人へ連絡すると、相手に新たな不安を与えたり、口裏合わせを求めたと受け取られたりするおそれがあります。謝罪や示談の申し入れは、弁護士を通じて行うほうが、相手にとっても受け止めやすい形になります。
支払う前に請求の中身を確かめる
請求の名目が「罰金」であっても、刑罰としての罰金を私人が科すことはできず、法的には違約金や損害賠償の請求として扱われます。違約金の定めは損害賠償額の予定と推定されますが(民法420条3項)、金額が著しく過大な場合には、公序良俗に反するとして効力の全部または一部が否定されることがあります(同法90条)。
また、「払わなければ警察や家族に知らせる」などと告げて金銭を求める行為は、内容や態様によっては恐喝罪(刑法249条)にあたる可能性があります。その場の圧力で支払ったお金を後から取り戻すのは容易ではないため、支払う前に請求の中身を確かめておくことが大切です。行為の証拠をつくり上げて請求する手口については、お触りの証拠を捏造するメンズエステ美人局の見分け方と現場での対処法で解説しています。
早めの相談が有効なサインのチェックリスト
次の項目のうち、当てはまるものが多いほど、早めに弁護士に相談することが有効です。
- 支払いや書面への署名の期限を区切られている。
- 「警察に相談する」「被害届を出す」と告げられている。
- 家族や勤務先に知らせることをほのめかされている。
- 身分証を撮影された、または預けたままになっている。
- その場で念書や示談書に署名した、または請求額の一部を支払った。
- 本名・住所・勤務先など、相手に知られている情報が多い。
- 警察から電話や呼び出しの連絡があった。
- 相手の言い分と、ご自身の記憶が大きく食い違っている。
とくに、警察から連絡があった場合や、「被害届を出す」と告げられている場合は、刑事手続の見通しも含めて検討する必要があるため、早めの相談が望まれます。不同意わいせつ罪(刑法176条)は告訴がなくても起訴できる罪とされており、示談の成立は処分の判断で重視されるものの、それだけで手続が終わるとは限りません。罪の成否の考え方は、メンズエステでお触りをして「触られた」と言われた。不同意わいせつ罪のリスクと対応で解説しています。
当事務所で扱った解決事例としては、【解決事例】メンズエステでの行為をめぐり500万円を請求された男性が、弁護士の交渉で200万円まで減額できた事例や、【解決事例】メンズエステでの行為の態様をめぐり主張が食い違った男性が、解決金50万円の示談で解決した事例があります。結果は事案ごとに異なりますが、資料と記憶の整理がどのように交渉に生かされるかの参考になります。
よくあるご質問
資料がほとんど手元にない状態でも、相談はできますか?
はい、相談できます。署名した書面の控えがなく、やり取りも電話だけだったという方も少なくありません。その場合でも、覚えている範囲の出来事と、スマートフォンに残っている着信履歴や予約の画面があれば、見通しを考える手がかりになります。カードの利用明細や振込の記録のように、後から取り寄せられる資料もあります。
整理メモは、店に見せたり送ったりしたほうがよいですか?
整理メモは、弁護士への相談のために作るものです。店やセラピストに見せたり、内容をメッセージで送ったりすることは控えてください。メモには不利に思える点も含めて書いておくことが望ましいため、相手に渡ると、意図しない形で使われるおそれがあります。
店からの連絡に返信しないまま、相談を待ってもよいですか?
期限を区切られている場合でも、その場で詳しい説明や約束をする必要はありません。ただ、連絡を放置し続けると、相手が次の行動に出るきっかけになることもあります。返信が必要な場合は、内容に踏み込まず、検討している旨を伝える程度にとどめ、できるだけ早く弁護士に相談してください。弁護士が依頼を受けた後は、店との連絡の窓口を弁護士に一本化することができます。
まとめ
- 店から何を求められているのかと、手元に何が残っているのかを確かめることが、相談の出発点になる。
- 利用規約・誓約書・念書などの書面と、支払いの記録は、請求の根拠を確かめるための中心的な資料になる。
- 店やセラピストとのやり取りの記録は、不利に思える内容であっても削除せずに残しておく。
- 整理メモは時系列で書き、確かなこととあいまいなこと、相手の要求とご自身の希望を分けておく。
- 「罰金」名目の請求も法的には違約金や損害賠償として扱われ、著しく過大な定めは効力が否定されることがある(民法90条、同法420条3項)。
- 警察や家族への通報をほのめかして金銭を求める行為は、恐喝罪にあたる可能性がある(刑法249条)。
- 不同意わいせつ罪は告訴がなくても起訴できる罪であり、警察から連絡があった場合は刑事手続の見通しも含めて早めに相談する(同法176条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、メンズエステをはじめとする風俗トラブルに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。ご相談の時点で資料が揃っていなくても、お手元にあるものと、覚えている範囲のお話をもとに、今後の見通しをお伝えします。
店から請求を受けている方、「警察に行く」と告げられている方、すでに一部を支払ってしまった方も、一人で抱え込まずにご相談ください。


