誓約書の「罰金100万円」は本当に払う義務がある?法的効力を検証
近年、メンズエステを利用した男性が、「お触り(身体への接触)をした」という事実を作り上げられ、恐喝被害に遭うケースが報告されています。特に悪質なのは、実際には接触していない、あるいはごくわずかな接触にすぎない場合でも、録音や誓約書を組み合わせて「触った証拠」に仕立て上げる手口です。
この記事では、風俗トラブルに注力する弁護士の視点から、
- お触りの「証拠」がどのように"作られる"のか(仕組み)
- 証拠を捏造する悪質店を、利用前・利用中に見分けるポイント
- 証拠を作られそうになった/作られたときに、その場で取るべき行動
を整理して解説します。
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お触りの「証拠」はなぜ捏造できるのか
メンズエステの施術は、個室で一対一、第三者の目撃者がいない状況で行われます。この密室性が、証拠を作り出す土壌になっています。
悪質な店では、次のような"記録の仕掛け"を用意していることがあります。
- 施術中の録音・録画
- 別室での監視と、合図に応じたスタッフの突入
- 「お触り禁止・違反時は高額の違約金」と記載した誓約書
これらを組み合わせることで、店側は「客が接触した」という筋書きを、あたかも客観的な証拠があるかのように提示できてしまいます。
「反射的な謝罪」が証拠にされることがある
特に注意したいのが、客自身の言葉を証拠に転用する手口です。
施術中にセラピストが突然「やめてください、触らないでください」と声をあげ、驚いた客が反射的に「すみません」と応じてしまう——この一連のやり取りが録音され、「客が触ったことを認めた証拠」として扱われる、という相談が報告されています。
接触の有無にかかわらず、謝罪の言葉だけを切り取られれば、客に不利な材料になりかねません。実際には、こうした録音がそのまま「触った証拠」として通用するとは限らず、証拠としての価値には争う余地があります。しかし店側は、その場では「証拠がある」と迫り、支払いを求めてきます。
証拠を捏造する悪質店の見分け方
以下は、"証拠を作る仕掛け"を持つ店に共通しやすい特徴です。ひとつ当てはまるだけで悪質店と決めつけることはできませんが、複数が重なる場合は、利用を控えることが望ましいでしょう。
①SNSやDMの「無料券・当選」などから誘導される
正規の広告媒体ではなく、X(旧Twitter)やThreadsなどのSNS・ダイレクトメッセージで「無料券が当たった」などと勧誘してくる導線には注意が必要です。違法性のある店は、正規の広告や口コミが残ると足がつくため、こうした流動的な入口を使う傾向があります。
②誓約書の説明がないまま、急いでサインを求められる
メンズエステでは、健全な店でも「お触り禁止」を明記した誓約書へのサインを求めることがあります。誓約書があるだけで悪質店とは限りません。
問題は、違約金の金額など重要な内容の説明がないまま、薄暗い部屋で文字が読み取りにくい状況で、急いでサインさせようとするケースです。「触れたら○○万円」といった高額の違約金条項に気づかせないまま合意させ、後で「違反した」と主張するための下地作りである可能性があります。
③セラピストが不自然に密着し、接触を"誘発"してくる
施術の範囲を超えて執拗に密着したり、客が身体に触れたくなるよう仕向けたりする動きは、接触の"きっかけ"を作るための演出であることがあります。露出度の高い衣装それ自体が直ちに問題とは限りませんが、誘惑の度合いが強いと感じたら、距離を置く判断が必要です。
④施術中の録音・録画や、別室の存在をうかがわせる不自然さがある
スマートフォンを不自然に手元から遠ざけるよう指示される、常に見られているような感覚がある、隣室に人の気配がある——こうした違和感は、記録や監視の仕掛けを示すサインになり得ます。
⑤ネット上の情報・口コミが極端に少ない
証拠を作る悪質店は、同じ店名で長く営業しない傾向があるため、検索してもヒットが極端に少なかったり、口コミがほとんど見当たらなかったりします。「悪い口コミがある」ことよりも、「情報そのものが乏しい」ことのほうが、むしろ注意すべき兆候といえます。
証拠を作られそうになったら、その場でやるべきこと
店側の狙いは、その場の動揺につけ込んで「認めさせる」「サインさせる」「支払わせる」ことにあります。次の対応を意識してください。
①反射的に謝らない・身に覚えのない接触を認めない
とっさの「すみません」は、たとえ礼儀や動揺からの一言であっても、後に「認めた」と主張される材料にされかねません。身に覚えのない接触については、謝罪ではなく、事実と異なる旨を落ち着いて伝えることが大切です。
②事実を「言葉で」明確に残す
店側が録音をしているのであれば、その記録にはあなたの説明も残ります。「触っていません」「同意していません」など、事実を落ち着いた口調で明確に述べておくことで、一方的な筋書きに反論するための材料になります。感情的にならず、淡々と述べるのがポイントです。
③その場でお金を払わない・ATMや消費者金融への同行に応じない
一度支払ったお金を取り戻すのは容易ではありません。財布や口座残高の確認を求められたり、ATM・消費者金融へ連れて行こうとされたりしても、応じる必要はありません。
④示談書・誓約書・念書にサインしない
「サインすれば警察には言わない」と書面を差し出されても、その場でのサインは避けてください。事実と異なる内容を認める書面や、清算条項のない書面にサインすると、後日不利になったり、繰り返し請求されたりするおそれがあります。「弁護士に相談してから連絡します」と伝えましょう。
⑤やり取りを録音・保存する
可能であれば、その場の会話を録音してください。「払わないと家族や職場に言う」といった発言は、恐喝罪などにあたる可能性があり、後の相談で重要な証拠になります。退店後の電話やメッセージも、削除せずに残しておいてください。
⑥その場からの退去を確保する
不用意に走って逃げ出すと、「逃亡」と受け取られる口実を与えかねません。一方で、支払うまで帰さない・出口をふさぐといった行為は、店側の監禁にあたる可能性があります。落ち着いて「弁護士に相談してから連絡します」と告げ、退去を図ってください。
⑦暴行を受けたら、怪我を記録し診断書をとる
身体を押さえられるなどして痛みや傷が残った場合は、その場で写真を撮り、早めに医療機関で診断書を受け取ってください。傷は時間の経過とともに消えるため、立証が難しくなります。
「実際に触れてしまった」「心当たりがある」ときの考え方
ここまでは、身に覚えのない証拠を作られる場面を中心に説明しました。もっとも、実際に接触してしまった場合は、話が別のレイヤーになります。
令和5年(2023年)7月13日施行の改正刑法では、相手の同意なくわいせつな行為・性交等をした場合、不同意わいせつ罪(刑法176条/6月以上10年以下の拘禁刑)や不同意性交等罪(刑法177条/5年以上の有期拘禁刑)に問われる可能性があります。「相手から誘ってきた」と感じていても、同意がなかったと判断されるリスクは残ります。
したがって、
- 身に覚えのないことを認めない(事実と異なる自白を避ける)ことと、
- 実際にした行為について責任を負うかどうか
は、切り分けて考える必要があります。心当たりがある場合は、警察に行く前に弁護士へ相談し、状況を整理することをおすすめします。
まったく接触していないと言い切れる場合は、警察への相談も選択肢になります。ただし、店側があなたを加害者として被害届を出す構図もあり得るため、証拠を確保したうえで慎重に進めることが大切です。
店側の行為は犯罪にあたり得る
言いがかりをつけて金銭を要求する行為は、恐喝罪(刑法249条/10年以下の拘禁刑)にあたる可能性があります。ほかにも、脅迫罪(222条)、強要罪(223条)、退去を許さない場合の監禁(220条)、詐欺罪(246条)などが問題になり得ます。
早めに弁護士へ相談を(内密に解決するために)
一人で抱え込むと、動揺や焦りから不利な対応をしてしまいがちです。弁護士が代理人になれば、店側との直接のやり取りを止め、脅しや不当な請求に対応することができます。示談する場合も、清算条項を備えた書面で、後日蒸し返されるリスクを抑えた解決を図れます。弁護士は守秘義務を負っているため、家族や職場に知られないよう、内密に進めることも可能です。
すでに高額な違約金を請求されている、繰り返し連絡が来ている、「警察に行く」と言われている——こうした状況では、事態が悪化する前に弁護士へご相談ください。


