【男女トラブル】仕事が軌道に乗った途端に別れを告げられた、返金は?
職場で知り合った相手との交際が終わり、交際中に貸したお金が返ってこない。相手とは今も同じ職場で顔を合わせるため、上司や人事に間に入ってもらえないか、給料から返してもらえないかと考える方もいらっしゃいます。
ただ、会社はお二人の貸し借りの当事者ではありません。会社を通じて請求しようとすると、返済につながらないだけでなく、ご自身の職場での立場に影響したり、相手から責任を問われたりするおそれがあります。
この記事では、会社を通じた請求で起きやすいこと、会社が返済に関わる場面、同じ職場にいる相手へ請求を進める順序を整理します。
本記事は2026年11月時点の法令にもとづいて解説しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応はご相談のうえでご判断ください。
会社には、元恋人に代わって返す義務はありません
お金の貸し借りは、貸した人と借りた人との間の契約です(民法587条)。同じ職場で知り合った相手でも、私的な交際の中で貸したお金であれば、会社は契約の当事者ではなく、相手に代わって返済する義務も、返済を指示する義務もありません。
会社に事情を伝えたとしても、会社が私的な貸し借りに踏み込むことには慎重なのが一般的で、「当事者同士で話し合ってください」と返されることも少なくありません。
一方で、相手の勤務先が分かっていることは、後に裁判所の手続をとる段階では意味を持ちます。会社は「請求の窓口」にはならなくても、「回収の手続」に関わることはある、という区別が出発点になります。
会社を通じて請求しようとすると起きやすいこと
会社を間に入れようとする方法にはいくつかの形がありますが、それぞれ注意が必要です。
上司や人事に「お金を返してくれない」と伝える
借りたお金を返さないという話は、相手の社会的な評価を下げる内容です。名誉毀損罪(刑法230条)は、伝えた内容が事実であっても成立し得るとされています。上司や人事など限られた相手に伝えただけでも、そこから社内に広がる見込みがあれば問題になることがあり、民事上の損害賠償を求められるおそれもあります。
また、貸し借りの経緯を説明すれば、交際していた事実も会社に伝わります。相手のプライバシーに関わるだけでなく、ご自身の私生活も社内で知られることになり、職場での居心地に影響することがあります。
給料から天引きして返してほしいと会社に頼む
賃金は、原則として全額を本人に直接支払わなければならないとされています(労働基準法24条)。法令に定めがある場合や労使協定がある場合などを除き、会社が従業員の給料から個人間の借金を差し引いて第三者に渡すことは認められていません。会社に頼んでも応じてもらえないのが通常です。
職場で直接催促する
同じ職場にいると、顔を合わせたときに返済を求めたくなるのは自然なことです。ただ、勤務中に同僚の前で催促したり、繰り返し席まで行ったりすると、業務の妨げや職場の秩序を乱す行為と受け取られることがあります。就業規則で職場での私的なトラブルを問題とする定めを置いている会社もあり、懲戒の対象になる可能性も否定できません。
ご自身が相手の上司や先輩にあたる場合は、立場の差を背景にした言動として、ハラスメントと受け止められやすい点にも注意が必要です。
「会社に知らせる」と告げて返済を迫る
貸したお金を返してもらう権利があっても、その手段が社会通念上許される範囲を超えると、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(刑法249条)にあたると判断されることがあります。「返さないなら上司に話す」「会社にいられなくする」といった言葉は、正当な請求のつもりでも相手を怖がらせるものと受け取られやすく、かえって相手から被害を訴えられるきっかけになりかねません。
法律事務所の解説やインターネット上の法律相談でも、勤務先への電話や押しかけによって、貸した側が逆に責任を問われるおそれがたびたび指摘されています。
会社が関わるのは、裁判所の手続を経た後です
会社が返済に関わる正当な場面として、給料の差押えがあります。判決や和解調書などの「債務名義」を得たうえで裁判所に申し立てると、相手の勤務先が「第三債務者」として、差し押さえられた部分を直接支払う仕組みです(民事執行法152条・155条)。
差し押さえられるのは、税金や社会保険料を差し引いた手取り額の4分の1が原則です。手取りが月44万円を超える場合は、33万円を超える部分の全額が対象になります。
| 手取り月額 | 差押えの対象になる額(目安) |
|---|---|
| 20万円 | 5万円 |
| 30万円 | 7万5千円 |
| 44万円 | 11万円 |
| 50万円 | 17万円 |
上の表は、一般の貸金を回収する場合の目安です。賞与や退職金にも、同じ考え方で差押えが及びます。
差押えの手続では、裁判所から会社に書類が届くため、会社に事情が伝わる点は変わりません。ただし法律にもとづく手続であり、個人が会社に働きかける方法とは性質が異なります。なお、相手が退職すると、それ以降の給料には差押えが及ばない点に留意が必要です。
同じ職場にいる元恋人へ請求を進める順序
会社を通さずに請求する場合、おおむね次の順序で進めることになります。
- 貸したお金なのか、贈与だったのかを整理します。
- 私的な連絡手段で返済を求めます。
- 内容証明郵便などの書面で請求します。
- 応じない場合は、支払督促や少額訴訟、通常訴訟を検討します。
- 判決などを得ても支払われない場合は、給料の差押えを申し立てます。
貸したお金か、贈与かを整理する
交際中のお金のやり取りでは、別れた後に相手から「もらったものだと思っていた」と言われることが少なくありません。借用書がなくても、返済の約束がうかがえるLINEのやり取り、振込の記録、一部を返してもらった記録などから、貸付であったと示せる場合があります。いつ、いくらを、どのような名目で渡したのかを一覧にしておくと、後の請求や手続の土台になります。
また、貸金の請求には時効があります。返済の時期を決めていた場合は、その時期から5年で時効にかかるのが原則です(民法166条1項1号)。交際中の貸し借りは時期を決めていないことも多く、起算点の判断が難しくなるため、早めに整理しておくことが大切です。
詳しくは恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?でも解説しています。
連絡は私的な手段で、勤務時間外に
返済を求める連絡は、本人の私的な電話番号やLINEなどを使い、社内メールや社内チャットは避けます。社内の連絡手段は会社の管理下にあり、内容を会社が確認できる場合があるためです。書面を郵送する場合も、勤務先あてにすると会社の人が受け取ったり開封したりするおそれがあるため、相手の自宅あてにします。
相手の自宅の住所が分からない場合でも、弁護士であれば職務上の手続で住所を調べられることがあります。
内容証明郵便で請求する
話し合いで進まない場合は、貸した金額、返済の期限、振込先を記載した書面を、内容証明郵便で送る方法があります。請求した事実と日付が記録に残り、時効の完成を6か月猶予させる効果もあります(民法150条)。文面は事実と要求を淡々と書き、職場に知らせるといった表現は入れないようにします。
裁判所の手続を使う
それでも支払われない場合は、裁判所の手続を検討します。
| 手続 | 主な特徴 |
|---|---|
| 支払督促 | 書類の審査で進み、出頭は不要。相手が異議を出すと通常の訴訟に移る |
| 少額訴訟 | 60万円以下の請求が対象。原則として1回の期日で審理を終える |
| 通常訴訟 | 金額の制限はない。貸付か贈与かで争いがある場合などに向く |
同じ職場にいる相手の場合、裁判所から書類が届いたことをきっかけに、職場での接し方が気まずくなることもあります。手続を始める前に、職場での接触をどう減らすかも合わせて考えておくと、落ち着いて進めやすくなります。この点は【男女トラブル】別れた相手が同じ職場にいる|職場での接触を減らす方法で整理しています。
職場での嫌がらせは、会社に相談できる別の問題です
返済を求めたことをきっかけに、相手から職場で悪口を広められたり、業務上の嫌がらせを受けたりするようになった場合、それは職場環境の問題として、会社のハラスメント相談窓口などに相談できます。会社には、職場でのハラスメントについて相談に応じ、必要な措置をとる体制を整えることが法律で求められています。
この場合に会社へ伝えるのは職場で起きている言動であり、貸金の回収を頼むわけではありません。何があったかを日時とともに記録しておき、貸し借りの話は必要な範囲にとどめると、相談の趣旨がぶれにくくなります。
よくあるご質問
相手の上司が共通の知人です。個人的に相談するのも問題になりますか
上司の立場にある人に話せば、個人的な相談のつもりでも、会社に伝えたのと同じように受け止められることがあります。相手の評価に関わる話が社内に広がるおそれもあるため、返済の問題は相手本人との間、または弁護士を通じて進めるほうが無難です。
相手から「会社に言うなら返さない」と言われました
返済の義務は、会社に知られるかどうかとは関係なく続きます。会社に伝えないことを返済の条件にする必要はなく、書面での請求や裁判所の手続で淡々と進めることができます。
相手が退職しそうです。急いだほうがよいですか
退職すると勤務先が分からなくなり、給料の差押えが難しくなる場合があります。相手の財産が処分されるおそれがあるときは、判決の前に財産を押さえておく仮差押えという手続もありますが、担保金の準備が必要になるなど要件があります。退職の気配がある場合は、早めにご相談ください。
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ご相談について
同じ職場の元恋人に貸したお金は、会社を通じて請求するのではなく、本人への請求と裁判所の手続を組み合わせて進めることになります。弁護士にご依頼いただいた場合は、弁護士が窓口となって相手の自宅あてに請求するなど、勤務先を通さない形で進めるため、職場で直接やり取りする場面を減らしながら回収を目指すことができます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


