【不貞慰謝料】家庭内別居はどう評価されるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「同じ家に住んではいますが、もう何年も会話がありません」「相手からは、家庭内別居だったのだから責任はないと言われています」。家庭内別居をめぐるご相談は、離婚を考えている方からも、不貞の慰謝料を請求する側・請求された側からも寄せられます。

 ところが、この言葉についての解説を読み比べると、説明は大きく分かれています。「家庭内別居であればすでに破綻しているとみなされやすい」と書かれた記事がある一方で、「同居している以上、破綻とは認められにくいのが実情」と書かれた記事もあります。どちらも弁護士が書いた説明であり、それぞれの前提のもとでは間違いというわけではありません。ただ、読む側からすると、どちらを手がかりにすればよいのか分からなくなります。

 この記事では、家庭内別居という言葉が実際にどう扱われるのかを、説明が食い違って見える理由から順に整理します。別居の起算点や別居年数の考え方、破綻という主張が全体としてどこまで通るのかといった論点は別の記事で扱っていますので、ここでは同居が続いているという一点に絞って説明します。

「家庭内別居」は法律の言葉ではない

定義がないため、指している状態の幅が広い

 家庭内別居という言葉は、法律の条文にも、裁判所が使う定型的な用語としても定められていません。一般には、同じ住居で暮らしながら夫婦としての共同生活の実質が失われている状態を指す言葉として使われています。

 問題は、その中身が人によってまったく違うことです。寝室も家計も食事も完全に分け、顔を合わせることもほとんどないという状態を家庭内別居と呼ぶ人がいる一方で、必要な連絡はするが会話が減った、休日を別々に過ごすようになったという状態を家庭内別居と呼ぶ人もいます。同じ一つの言葉が、生活の切り分けが徹底された状態から、関係が冷えているという程度の状態までを覆っているわけです。

同居していても夫婦の義務は続いている

 民法は、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないと定めています(民法752条)。また、婚姻から生ずる費用は夫婦がその資産や収入その他一切の事情を考慮して分担するとされています(同法760条)。

 家庭内別居と呼ばれる状態になっても、離婚が成立していない限り、これらの規定が及ぶ関係そのものは続きます。当事者が「もう夫婦ではない」と考えていることと、法律上の関係が終わっていることは別の事柄です。

なぜ説明が正反対になるのか

語られている場面が二つある

 一つ目の理由は、家庭内別居が問題になる場面が二つあり、記事によってどちらを念頭に置いているかが違うことです。

 一方は、離婚を認めてもらうために、婚姻を継続し難い重大な事由があると主張する場面です(民法770条1項4号。解説によっては改正前の号数のまま書かれているものもあります)。もう一方は、不貞の慰謝料を請求された側が、その関係が始まった時点ですでに婚姻関係は破綻していたと主張して請求を退けようとする場面です。二つは主張する人も、通ったときに起きることも異なります。この二つの場面の違いについては、別居をめぐる記事で詳しく扱っています。

同じ言葉が違う状態を指している

 二つ目の理由は、先に述べた言葉の幅です。生活が完全に分かれた状態を前提に書かれた記事は「破綻が認められることもある」と述べ、会話が減った程度の状態を前提に書かれた記事は「同居している以上は認められにくい」と述べます。前提が違えば結論が違うのは当然で、食い違っているように見えて、実は別々の状態について語られていることが少なくありません。

見られているのは言葉ではなく生活の中身

 裁判所は、「これは家庭内別居に当たるか」という分類をしてから結論を出しているわけではありません。その夫婦の間に何が残っていて何が失われていたのかを、個別の事情の積み重ねから見ています。

 ですから、ある事案で破綻が認められ、別の事案で認められなかったとしても、それは家庭内別居という言葉の評価が定まっていないからではなく、中身が違ったからだと考えるほうが実態に近いといえます。紹介されている裁判例のうちどれを引くかによって、記事の印象が変わってしまうという事情もあります。

語られる事情を一つずつ分解する

 家庭内別居の説明としてよく挙げられる事情を、そこから言えることと、それだけでは言いにくいことに分けて整理すると、次のようになります。

よく挙げられる事情そこから言えることそれだけでは言いにくいこと
寝室が別々になっている生活空間や生活時間が分かれていること夫婦としての関係が終わっていること
会話がほとんどないやり取りが乏しい状態が続いていることやり直す余地が失われていること
食事や洗濯を別にしている家事の協力が薄れていること家庭内の協力が失われきっていること
家計を分けている生活費の管理が分かれていること扶助の関係そのものがなくなっていること
性的な関係がない夫婦としての交流の一部が失われていること関係の修復の見込みがないこと


 右の列を見ていただくと分かるように、一つひとつの事情は、状態の一面を示すものではあっても、そこから関係の終わりまでを導くものではありません。実務で重く見られやすいのは、こうした事情がいくつ挙がるかよりも、生活の切り分けがどこまで徹底されていて、それがどれだけの期間続いていたかという点です。

同居という外形が残ることの意味

始まりの日が決まりにくい

 住居を分ける別居であれば、家を出た日、住民票を移した日、新しい部屋を借りた日といった形で、動かない日付が残ります。家庭内別居には、その日付がありません。

 関係が少しずつ変わっていった結果として現在の状態があることが多いため、「いつからか」を後になって特定しようとすると、当事者の記憶と説明に頼らざるを得なくなります。どの時点で線を引くかによって、不貞があった時期がその前なのか後なのかも変わってきます。

家の外に出る記録が少ない

 家庭内で起きていることは、外から見えません。会話がなかったこと、食事を別にしていたことは、そのままでは書類にも記録にも残らない事柄です。

 同居している以上、外形上は通常の夫婦と区別がつきにくく、示す責任を負う側にとっては、手元の材料が乏しくなりやすいという構造があります。これは主張の当否以前の、置かれた条件の問題です。

協力の一部が続いていることが多い

 同じ家に住んでいれば、家賃や光熱費は共通し、子どもの学校行事や親族の集まりへの対応が続いていることもあります。生活費が渡されている、病気のときに看病した、といった事情が残っている例も珍しくありません。

 こうした事情は、関係がまったく失われていたわけではないという方向で受け止められることがあります。実際の生活では自然なことであっても、後から振り返ったときには意味を持つ材料になり得ます。

不貞の慰謝料が問題になる場面

 最高裁は、第三者と肉体関係を持った当時にすでに婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情のない限り、その第三者は責任を負わないという判断を示しています(最判平成8年3月26日)。慰謝料の対象とされているのが婚姻共同生活の平和という利益である以上、それがすでに失われていた場合には、侵害されるものがないという考え方です。

 ここで見られるのは、関係が始まった時点で実際にどうだったかです。家庭内別居という呼び名がついていたかどうかではありません。したがって、家庭内別居中だから請求できない、あるいは同居が続いていたのだから請求できる、といった形で一律に決まるものではありません。

 順序も問題になります。家庭内別居に至る前から関係が続いていた場合には、その関係が家庭の状態を変えた事情の一つと見られる方向に働きます。そのため、関係がいつ始まったのかという点が、請求する側からも受けた側からも争点になりやすいところです。

 なお、「破綻していると聞かされ、そう信じていた」という言い分は、実際に破綻していたかどうかとは別の筋道の問題として扱われます。この点については最近の最高裁判決があり、差戻し後の審理が続いていて結論は確定していません。詳しくは、破綻の主張を正面から扱った別の記事をご覧ください。

離婚を求める場面

 離婚を求める場面では、家庭内別居の状態が長く続いていることを、婚姻を継続し難い重大な事由の一つとして挙げることになります。ただ、住居を分ける別居に比べると、その状態を裏づけることが難しく、同居が続いていることをもって関係が残っていると見られる場合があります。

 家庭内別居に至った背景に、生活費を渡さない、家庭を顧みないといった事情があるときは、悪意の遺棄(民法770条1項2号)として主張されることもあります。もっとも、住まいと生活の場が共通している状況では、この点も説明が容易とはいえません。

生活費と同居義務は別に動く

 家庭内別居の状態でも、収入に差があれば、生活費の分担を求めることができます。話し合いがつかない場合には、家庭裁判所の婚姻費用分担調停という手続があり、同居中であっても利用できます。

 一方で、生活費の受け渡しが続いていたという事情は、慰謝料の場面では、関係が完全には失われていなかったことを示す材料として持ち出されることがあります。ただし、分担は法律上の義務ですから、支払いが続いていたという一事だけで結論が決まるわけではありません。

同居の有無を重く見る例は他の制度にもある

 参考までに、公的年金の実務では、届出のある婚姻関係が実体を失っているといえるかを判断する際の目安として、当事者が住居を異にすること、経済的な依存関係が繰り返し存在しないこと、音信や訪問が繰り返し存在しないことが挙げられています(「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」平成23年3月23日年発0323第1号)。

 これは遺族年金を誰が受け取るかを決めるための基準であって、不貞の慰謝料や離婚の判断に直接用いられるものではありません。ただ、同居が続いている状態を「実体がない」と扱うことについては、制度をまたいで慎重な見方がされていることがうかがえます。

後から手がかりになりやすいもの

 家の中の出来事は記録に残りにくいものですが、まったく残らないわけでもありません。次のようなものが手がかりとして挙がることがあります。

  • 生活費の振込や引き落としの履歴など、家計の分かれ方が分かる資料。
  • 同じ時期に当事者の間で交わされたメッセージや手紙。
  • 離婚届の用紙の準備、離婚協議書の案、調停の申立てなど、離婚に向けた具体的な動きを示すもの。
  • 転居や部屋の使い分けについてやり取りした記録。
  • 子どもや親族など、当時の様子を知る立場の人の認識。


 なお、後から作成したメモや日記だけでは、内容を裏づけるものがないと指摘されやすい面があります。日付の分かる客観的な資料と組み合わせて説明できるかどうかが、受け止められ方に影響します。

立場ごとの受け止め方

請求する側・離婚を求める側

 相手から「家庭内別居だった」と言われても、それだけで結論が決まるわけではありません。次の点を整理しておくと、話し合いの見通しが立てやすくなります。

  1. 相手の言う家庭内別居が、どの時期の、どのような状態を指しているのかを確かめる。
  2. 生活費のやり取り、家族での外出、看病など、協力が続いていた事情を書き出しておく。
  3. 関係がいつ始まったのかを示す材料が手元にあるかを確認する。
  4. 自分の側の説明も、日付の分かるものと結びつけて整理しておく。


請求を受けた側

 当時の生活実態を説明することには意味がありますが、伝え方によっては前提を認めたものとして受け取られることもあります。

  1. 家庭内別居という言葉ではなく、具体的にどう分かれていたのかを事実として整理する。
  2. その状態がいつから続いていたのかを、裏づけられる範囲で確認する。
  3. 関係が始まった時期との前後関係を確かめる。
  4. どこまで述べるかを決めないまま、やり取りの中で経緯を細かく説明してしまわないよう注意する。


よくあるご質問

家庭内別居が何年続けば破綻と認められますか

 年数だけで決まる基準はありません。解説記事に出てくる年数の目安の多くは、住居を分ける別居について、しかも離婚を認めるかどうかの場面で語られてきたものです。家庭内別居の場合は、期間の長さに加えて、生活の切り分けがどこまで徹底されていたかが併せて見られることになります。

寝室も家計も別なら、それだけで破綻と認められますか

 その二つは重く見られやすい事情ですが、それだけで結論が決まるわけではありません。同じ時期に家族としての行事や協力が続いていた場合には、そちらも併せて考慮されます。実務では、生活のどの部分が分かれ、どの部分が残っていたのかを全体として見る形になります。

家庭内別居の間に始まった関係でも慰謝料を請求されますか

 請求されること自体はあり得ます。その請求が認められるかどうかは、関係が始まった時点で婚姻関係が実際にどのような状態だったかによります。家庭内別居であったという事情は、その判断のための材料の一つという位置づけになります。

まとめ


  1. 家庭内別居は法律上の用語ではなく、指している状態の幅が広い言葉である。
  2. 解説の説明が食い違って見えるのは、語られている場面と、前提としている状態が違うためであることが多い。
  3. 夫婦の同居・協力・扶助の関係は、家庭内別居と呼ばれる状態でも離婚まで続く(民法752条)。
  4. 不貞の慰謝料では、関係が始まった時点で実際に破綻していたかが見られる(最判平成8年3月26日)。
  5. 同居という外形が残るため、始まりの日が決まりにくく、外に出る記録も少ないという条件がある。
  6. 生活費の分担は義務であり、支払いが続いていたことだけで結論が決まるわけではない(民法760条)。
  7. 言葉で分類するより、生活の何が分かれ何が残っていたかを、日付の分かる資料とともに整理することが出発点になる。


家庭内別居についてお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。家庭内別居という言葉のもとで語られている事情は一つひとつ異なり、同じ状況の説明でも、整理の仕方によって伝わり方が変わります。

 相手の言い分にどう向き合えばよいか迷っている方も、ご自身の置かれた状況をどう説明すればよいか分からない方も、まずは事実関係を一緒に整理するところから始めることができます。お一人で判断される前に、お気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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