【男女トラブル】交際相手が亡くなった、貸していたお金は家族に請求できる?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

交際相手が突然亡くなり、気持ちの整理がつかないなかで、生前に貸していたお金のことが気にかかる方は少なくありません。相手のご家族に伝えてよいのか、伝えるなら誰にどう切り出せばよいのか、迷われることもあるでしょう。

 亡くなった方の借金は相続の対象になるため、相続人に対しては返済を求められる可能性があります。ただし、請求できる相手は「家族」全般ではなく法律上の「相続人」に限られ、相続放棄があれば請求先が変わります。また、交際中の貸し借りは記録が乏しいことが多く、借りた本人に事情を確かめられない点も、通常の貸金とは違う難しさです。

 この記事では、交際相手が亡くなった後に貸したお金の返還を求める場面について、相続の仕組み、請求の前に確かめたいこと、ご遺族への伝え方の順に整理します。

この記事は、2026年11月時点の民法と家庭裁判所の手続をもとに解説しています。個別の事情によって結論が変わることがあるため、具体的な対応は専門家にご相談ください。


請求先は「家族」ではなく「相続人」

 亡くなった方が負っていた借金は、預貯金や不動産などの財産と同じく、相続によって相続人に引き継がれます(民法896条)。借りた本人が亡くなったからといって、貸したお金を返してもらう権利が消えるわけではありません。

 ここで押さえておきたいのは、返済の義務を引き継ぐのは「相続人」であり、「家族」だからではないという点です。たとえば亡くなった交際相手に子がいれば、親やきょうだいは原則として相続人になりません。同居していた家族であっても、相続人でなければ返済の義務は負いません。

誰が相続人になるのか

 相続人の範囲と順位は民法で決まっています(民法887条・889条・890条)。配偶者がいれば常に相続人となり、それ以外の人は次の順で、先の順位の人がいない場合に限って後の順位の人が相続人になります。

順位相続人になる人交際相手の状況に当てはめた例
常に配偶者離婚していれば元配偶者は相続人にならない
第1順位子(亡くなっていれば孫)以前の婚姻でもうけた子や認知した子も含む
第2順位父母(いなければ祖父母)子のいない独身の方では親が相続人になることが多い
第3順位兄弟姉妹(亡くなっていればその子)子も親もいない場合に限られる


 交際相手が独身であれば、子がいない限り、ご両親が相続人になる場面が多いでしょう。一方、交際相手が既婚者だった場合は、配偶者と子が相続人になります。この場合、交際の事実そのものが別の争いにつながることがあり、慎重な進め方が求められます。

交際していた側は相続人にならない

 交際していた方ご自身は、同棲していた場合でも、婚姻届を出していない以上は相続人になりません。貸したお金を返してもらいたいときは、「債権者」として相続人に請求するという立場になります。

相続人が払うかどうかを左右する相続放棄

 相続人は、亡くなった方の財産も借金もまとめて引き継ぐのが原則です。しかし、家庭裁判所で相続放棄の手続をとれば、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。放棄した人には請求できなくなり、次の順位の人が相続人になります。

 相続放棄は、原則として自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内にしなければなりません(民法915条1項)。この期間は家庭裁判所に申し立てて延ばしてもらえることがあり、借金がないと信じたことに相当な理由がある場合には、借金の存在を知った時から数えるとした判例もあります(最高裁昭和59年4月27日判決)。

 このほか、相続した財産の範囲内でだけ借金を払う「限定承認」という方法もあります(民法922条)。相続人全員でそろって選ぶ必要があるため利用は多くありませんが、選ばれれば遺産の範囲を超えて回収することはできません。

放棄したかどうかは家庭裁判所に照会できる

 相続人が相続放棄をしたかどうかは、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に照会して確かめることができます。この照会は、相続人だけでなく債権者などの利害関係人からも申請でき、照会そのものに手数料はかからない運用です。請求の前に照会しておくと、誰にいくらを求めるのかを確定させやすくなります。

相続人が複数いるときの請求の割り方

 お金を返す義務は、相続が始まると同時に、各相続人の法定相続分に応じて当然に分かれると考えられています(最高裁昭和34年6月19日判決)。たとえば亡くなった交際相手に配偶者と子2人がいて、貸したお金が300万円であれば、配偶者に150万円、子それぞれに75万円ずつを求める形になります。

 相続人どうしの話し合いで「借金は長男がすべて引き継ぐ」と決めたとしても、債権者はその取り決めに縛られず、各相続人に法定相続分どおりの請求をすることができます(民法902条の2)。反対に、債権者がその取り決めを承認すれば、その割合で請求することになります。相続人が支払いに応じる場合は、誰がいくらをいつまでに払うのかを書面にして残しておくことが大切です。

請求の前に確かめておきたいこと

 交際中のお金のやり取りは、借用書を作らないまま現金や振込で渡していることが少なくありません。亡くなった後は本人に確かめることができず、相続人の側も事情を知らないのが通常です。貸したことを示す記録が残っているかどうかが、回収の見通しを大きく左右します。

 手元で確認しておきたい記録は、次のとおりです。

  • 振込の明細や通帳の記録(日付・金額・振込先)。
  • 借用書、メモ、念書など、返済の約束が書かれた書面。
  • 「必ず返す」「来月返す」など、返済の約束が読み取れるLINEやメールのやり取り。
  • 一部でも返してもらった記録。
  • お金を渡した理由や使い道が分かるやり取り。


 交際相手に渡したお金については、相続人から「贈与だったのではないか」「生活費を出し合っていただけではないか」と言われることがあります。裁判になれば、お金を貸したことを示す責任は請求する側にあるため、返済の約束を示す記録がなければ、回収が難しくなることがあります。借用書がない場合の考え方は恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で、生活費やプレゼント代の立替えについては交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?で解説しています。

相続人をどう調べ、どう伝えるか

 交際相手のご家族と面識がない場合、そもそも誰が相続人なのか分からないことがあります。相続人を確定させるには戸籍をたどる必要があり、第三者が他人の戸籍を取り寄せるには、自分の権利を行使するために必要であることなど、正当な理由を示さなければなりません(戸籍法10条の2)。弁護士に依頼すれば、職務上の請求として戸籍を取り寄せ、相続人を調べることができます。

 弁護士ドットコムには、相手の親族を名乗る人からメールで死亡を知らされたものの、葬儀への参列を断られ、本当に亡くなったのか分からないという相談も寄せられています。住所が分からない場合でも、氏名や振込先の口座、住んでいた地域などを手がかりに、弁護士会照会などで確認を進められることがあります。

ご遺族への最初の連絡で気をつけたいこと

 ご家族にとって、亡くなった家族に借金があったと知らされることは、大きな負担になります。最初の連絡では、次の点を意識しておくと、その後のやり取りが落ち着いて進みやすくなります。

  • 葬儀の直後など、気持ちの整理がつきにくい時期を避けて連絡すること。
  • 金額・日付・根拠となる記録を整理し、事実を淡々と伝えること。
  • 「家族なのだから払ってほしい」など、相続と関係のない理由で支払いを求めないこと。
  • 勤務先や近所など、ご家族以外の人に借金の話を広めないこと。
  • 亡くなった方の部屋から、貸したお金の代わりとして品物を持ち出さないこと。


 ご遺族に借金の存在を伝えることが、相続放棄を選ぶきっかけになる可能性もあります。一方で、相続人にとって借金の有無は、相続を受け入れるか放棄するかを決める大切な材料です。伝えずにいれば回収につながるというものでもなく、どの時期にどのような形で伝えるかは、時効や相続放棄の期間との兼ね合いも踏まえて考える必要があります。

 相続人がはっきりしない段階では、支払いを求めるのではなく、事実の確認と相続人の調査から始めるのが穏当です。

時効と、相続人全員が放棄したとき

 貸したお金を返してもらう権利には時効があります。2020年4月1日以降に貸したお金であれば、返してもらえる時期が来たことを知った時から5年、または返してもらえる時期から10年が過ぎると、時効が完成する可能性があります(民法166条1項)。

 相続が絡む場合には特則があり、相続財産に関する権利については、相続人が確定した時などから6か月を経過するまでの間、時効は完成しないとされています(民法160条)。ただし期間の数え方は事案ごとに確かめる必要があります。請求の種類ごとの時効の目安は、男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかで整理しています。

相続人がいない、または全員が放棄した場合

 相続人が全員相続放棄をした場合や、もともと相続人がいない場合には、借金を払う人がいなくなったように見えます。このような場合でも、債権者などの利害関係人が家庭裁判所に申し立てて「相続財産清算人」を選んでもらい、清算人が遺産を整理するなかで、遺産の範囲内で支払いを受けるという道があります(民法952条)。

 もっとも、申立ての際には、清算人の報酬などに充てる予納金を求められることがあり、事案によっては数十万円から100万円程度になることもあります。遺産がほとんど残っていなければ回収できる額は限られるため、貸した金額、遺産の見込み、手続にかかる費用を比べたうえで、進めるかどうかを判断することになります。

保険金や香典から返してもらえるか

 「自分に何かあったら保険金で返す」と交際相手から言われていた、というご相談もあります。弁護士ドットコムにも、借用書に死亡保険金から返済すると書き加えていた場合についての相談が見られます。

 しかし、受取人が指定された死亡保険金は、原則として受取人自身の財産とされ、亡くなった方の遺産には含まれません。受取人が相続放棄をしても、保険金は受け取れます。そのため、本人が保険金から返すと約束していても、それだけで受取人に保険金からの支払いを求められるわけではありません。香典も、一般に葬儀の費用を助けるために喪主などへ贈られるものとされ、遺産には含まれないと考えられています。

よくあるご質問


交際相手のきょうだいに、代わりに払ってほしいと頼んでもよいですか

 きょうだいが相続人になるのは、亡くなった方に子も親もいない場合です。先の順位の相続人がいれば、きょうだいに支払いの義務はありません。任意に払ってもらえないかを尋ねること自体が直ちに問題になるわけではありませんが、断られた後も求め続けると、新たなトラブルに発展するおそれがあります。

生前に交際相手の借金を肩代わりしていた分も、相続人に請求できますか

 交際相手に代わって返済したお金は、交際相手に対して返還を求められる場合があり、その権利も相続人への請求の対象になりえます。肩代わりや連帯保証をめぐる考え方は、交際相手の借金を肩代わり・連帯保証したとき|返済義務の有無と、払ったお金の取り戻し方で解説しています。

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交際相手が亡くなった後の貸金についてのご相談

 交際相手が亡くなった後の貸金の問題は、相続の仕組みに加えて、ご遺族との関係や記録の乏しさといった事情が重なり、一人で判断するのが難しい場面が多くあります。当事務所では、手元の記録の整理から相続人の調査、ご遺族とのやり取りの窓口まで、状況に応じてお手伝いしています。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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