【不貞慰謝料・請求された側】相手方の弁護士から連絡が来たときの対応
「300万円を支払ってください」と書かれた通知が届いた。あるいは、自分が送った請求書の金額に対して、相手方からまったく違う数字が返ってきた。慰謝料をめぐる問題では、最初に紙に書かれた金額と、最後に合意される金額とが、かなり離れた場所に落ち着くことが珍しくありません。
この差は、どちらかが不誠実だから生まれるものとは限りません。請求書に書かれる数字と、最終的に着地する数字とでは、そもそも作られ方が違うからです。この記事では、金額の高い低いではなく、その「作られ方の違い」と、両者の間に置かれている関門の側から、ずれが生じる仕組みを整理します。
請求書の金額と着地額は、決める人が違う
請求書に書かれている金額は、請求する側が一人で決めた数字です。慰謝料の金額について、民法709条や710条に計算式が定められているわけではないため、いくらと書くかは請求する側の判断に委ねられています。相手に届いた時点では、その金額は「支払ってほしいという意思表示」にとどまり、相手を法律上拘束するものではありません。
これに対して、最終的に着地する金額は、双方が合意した数字か、裁判所が判断した数字です。前者は示談書や和解調書に、後者は判決に残り、そこで初めて履行の義務が生じます。同じ「慰謝料の金額」という言葉で語られていても、この二つは性質の異なる数字だということになります。
| 請求書に書かれた金額 | 最終的に着地する金額 | |
|---|---|---|
| 決めるのは | 請求する側 | 双方の合意、または裁判所 |
| よりどころ | 請求する側が考える見込みと希望 | 証拠から認められた事実と、それに対する評価 |
| 相手への効力 | 支払いを強いる効力はない | 合意書や判決として残り、履行義務が生じる |
| 期日 | 差出人が希望として定めた回答期限 | 合意や判決で定まった支払期日 |
通知書に記載された回答期限も、差出人の側が置いた希望の日付です。期限が近いという理由だけで金額に同意する必要はありません。もっとも、放置すれば訴訟に移る場合がありますので、期限にとらわれずに、しかし黙ってやり過ごさずに対応を検討することが現実的です。
請求書の数字が高めに置かれやすい理由
請求書の金額は、想定される幅の上のほうから置かれることが多くあります。これは交渉の入口に置かれる書面だからで、いくつかの事情が重なっています。
- 交渉の出発点として置かれるため、そこから動く余地を含んだ数字になりやすい。
- 裁判で認められる可能性のある範囲の上端を示す形で組み立てられることがある。
- 慰謝料本体だけでなく、他の名目を積み上げた合計額として提示されることがある。
- 接触を控えることや誓約など、金銭以外の条件と抱き合わせで示されることがある。
- 相場として世の中に流通している数字を、根拠を確かめないまま採用した結果として置かれることもある。
このうち最後の点、つまり数字がどこから来ているのかという話については、別に一本の記事で詳しく扱っています。ここでは、請求書の金額が「上限に近い側から置かれた交渉の出発点である場合がある」という点を押さえておけば十分です。
請求額から着地額までに置かれた4つの関門
請求書の数字が着地額に変わるまでには、いくつもの関門があります。おおまかに整理すると、次の四つです。
| 関門 | そこで問われること | 数字が動く方向 |
|---|---|---|
| 事実の関門 | 主張された事実が、証拠でどこまで裏づけられるか | 裏づけの範囲を超える部分は落ちやすい |
| 評価の関門 | 認められた事実を、金額としてどう評価するか | 事情によって上にも下にも動く |
| 分け方の関門 | 複数の相手のうち、誰がどれだけ負担するか | 一人あたりの額が変わる |
| 現実の関門 | いつ、どういう形で実際に支払われるか | 支払方法や時期と引き換えに動く |
事実の関門
請求書には、交際の期間や回数、関係の内容が書かれています。ただし、そこに書かれた事実がすべて証拠で裏づけられているとは限りません。証明する責任は請求する側にあり、裏づけの薄い部分については、交渉でも訴訟でも前提として通りにくくなります。逆に、請求を受けた側が事実関係について説明を尽くさなかった結果、当初の主張がそのまま前提になることもあります。ずれの一部は、この段階で生まれています。
評価の関門
事実が固まっても、それをいくらと評価するかという問題が残ります。夫婦関係のその後、関係の期間や態様、発覚後の対応など、さまざまな事情が総合的に考慮されます。個々の事情がどう働くかについては、増額の事情と減額の事情をそれぞれ扱った記事がありますので、そちらをご覧ください。ここで重要なのは、この評価が加減算ではなく全体を見た判断としてされるため、請求書の数字と一致する保証がない、という点です。
分け方の関門
不貞を理由とする慰謝料は、配偶者と交際相手の双方に向けられることがあります。しかし、生じた損害は一つですから、両方から合計で二重に受け取ることはできません。また、一方が全額を支払った場合、後からもう一方に負担部分を求める話が出てくることもあります。誰にいくら請求し、最終的に誰がどれだけ負担するのかという枠組みによって、一人あたりの着地額は変わります。
現実の関門
金額が定まっても、実際に支払われなければ解決にはなりません。一括で払えるのか、分割になるのか、いつまでに払い終えるのか。こうした支払いの現実は、金額そのものと切り離せません。早期に一括で受け取ることを優先して金額を調整する場合もあれば、期間をかけて回収する前提で金額を維持する場合もあります。
名目が積み上がった請求額と、一本化された着地額
請求書には、慰謝料以外の名目が並ぶことがあります。
- 慰謝料そのもの。
- 関係を調べるために支出した調査費用。
- 弁護士費用に相当する額。
- 支払いが遅れた期間についての遅延損害金。
こうして積み上がった合計額が、請求書の総額として記載されます。一方、話し合いで解決する場合、最終的な書面では「解決金」という一つの名目にまとめられることがよくあります。判決でも、認められた費目とその金額が個別に判断されるため、請求書の内訳とは対応しません。
この点は見落とされがちですが、大切なところです。請求額と着地額を単純に引き算しても、「慰謝料そのものがいくら動いたのか」は分かりません。名目の立て方が両者で違うからです。ずれの大きさを測るときは、総額どうしの比較ではなく、何が含まれた数字なのかを見る必要があります。なお、調査費用、弁護士費用に相当する額、遅延損害金については、それぞれ扱いが異なりますので、個別の記事で詳しく説明しています。
金額以外の条件が、ずれ幅を動かす
交渉では、金額と一緒に条件が話し合われます。今後連絡や接触をしないこと、内容を他に話さないこと、違反した場合の取り決め、負担部分を後から求めないこと、支払いの時期や方法などです。
こうした条件は、金額を下げる方向にだけ働くわけではありません。相手にとって重い条件を受け入れてもらう代わりに金額を調整することもあれば、条件を外す代わりに金額を維持することもあります。裁判では請求できないような内容が、話し合いの中では条件として持ち出されることもあります。着地額だけを見て「安く済んだ」「思ったより高かった」と判断すると、条件の側で何を引き受けたのかが視野から抜け落ちます。
ずれ幅を決めるのは、金額の大きさではなく争点の数
請求額が高いほど大きく動く、と考えられがちですが、実際にはそう単純ではありません。動く幅を左右しているのは、その事案に争点がどれだけ残っているかです。
- 関係の有無や内容について、双方の言い分が食い違っているか。
- 証拠がどこまで揃っているか。
- 夫婦関係が以前からどういう状態だったかについて争いがあるか。
- 相手方が既婚であることを知り得たかどうかに争いがあるか。
- 一定の期間が経過しており、時の経過による制限が問題になるか。
- 支払能力について説明と資料が出ているか。
争点がほとんど残っていない事案では、請求額が高くても、その額から動く幅は限られます。反対に、争点が複数残っている事案では、双方が抱えるリスクが大きくなるため、話し合いによる着地点は請求額から離れやすくなります。請求書を受け取った側が最初に確認すべきなのは、金額の大きさよりも、自分の事案に争える点がいくつあるのかということです。
請求する側から見た、数字の置き方
請求する立場では、高い数字を置くこと自体は選択肢の一つです。ただし、置き方によって、その後の進み方が変わります。
- 高い数字は交渉の余地を作る一方で、相手が弁護士に依頼する動機にもなり、解決までの期間が延びやすくなる。
- 根拠の説明がない数字は、相手方に「話し合いの意思がない」と受け取られ、返答自体が来なくなることがある。
- 訴訟に進んだ場合、請求額のうち認められなかった部分について、こちらの弁護士費用は自分の負担として残る。
- 金額を優先するのか、接触を控える約束などの条件を優先するのかを先に決めておくと、着地点の判断がぶれにくい。
- 支払いの見込みが乏しい相手に対しては、高い金額で合意しても回収できず、書面だけが残ることがある。
請求を受けた側から見た、請求書の読み方
請求書が届いたとき、金額の欄だけを見て判断すると、その後の交渉で使える材料を見落とします。
- 書かれている事実関係が、自分の記憶と一致しているかどうかを、期間や回数まで含めて確認する。
- 金額が慰謝料だけの額なのか、他の名目を含んだ合計額なのかを内訳から読み取る。
- 支払いを求める根拠として、どのような資料があると書かれているかを確認する。
- 金銭以外にどのような条件が求められているかを、金額と分けて把握する。
- 回答期限は差出人が置いた希望の日付であり、その日までに金額へ同意しなければならないものではないと理解する。
- 返答をしないまま放置すると訴訟に移ることがあるため、期限までに何らかの連絡をするかどうかを検討する。
なお、事実と異なる内容を認める返答をしてしまうと、後から取り消すことは容易ではありません。金額に触れる前に、事実関係についてどこまで認めるのかを整理しておくことをおすすめします。
よくあるご質問
請求額が高いこと自体が問題になることはありますか
金額を高く書くこと自体は、それだけで違法とされるものではありません。慰謝料の額に上限が定められていない以上、いくらと請求するかは請求する側の判断です。ただし、請求の仕方が度を超えている場合、たとえば勤務先や家族に知らせると告げて支払いを迫るような場合には、方法そのものが別の問題になり得ます。
請求額の何割くらいまで下がるのが一般的ですか
割合の目安を示すことは難しいと考えています。前述のとおり、動く幅は事案に残っている争点の数によって変わりますし、請求額そのものが根拠を持たずに置かれている場合には、そこからの割合を語ること自体に意味がありません。目安として意味を持つのは、請求額との比較ではなく、同じような事情の事案でどのくらいの金額が認められてきたか、という水準のほうです。
いったん提示した金額を、後から下げることはできますか
交渉の途中であれば、提示額を見直すことは可能です。ただし、合意書に署名した後や、支払いに応じる旨をはっきり伝えた後では、覆すことが難しくなります。請求を受けた側についても同じで、支払う意思を伝えてしまった後の減額交渉は不利になりやすいという点は共通しています。
訴訟にすれば請求額どおり認められますか
訴訟でも、認められるのは証拠から裏づけられた事実に対する評価としての金額です。請求額がそのまま認められるとは限らず、一部だけが認められる形で判決が出ることもあります。また、判決が出ても相手に支払う資力がなければ、回収のための手続が別に必要になります。訴訟にするかどうかは、認められる見込みだけでなく、期間と回収の見通しも合わせて考えることになります。
この記事のまとめ
- 請求書の金額は請求する側が一人で決めた数字で、着地額は合意または裁判所の判断による数字であり、性質が異なる。
- 請求書の数字は交渉の出発点として、想定される幅の上のほうから置かれることが多い。
- 請求額から着地額までには、事実、評価、分け方、支払いの現実という4つの関門がある。
- 請求額は名目の積み上げ、着地額は解決金として一本化されることが多く、総額どうしの単純な比較はできない。
- 金銭以外の条件は、金額を下げる方向にも維持する方向にも働く。
- 動く幅を決めるのは金額の大きさではなく、その事案に残っている争点の数である。
- 回答期限は差出人が置いた希望の日付であり、期限を理由に金額へ同意する必要はない。
慰謝料の請求額と着地額でお悩みの方へ
請求書に書かれた金額と、実際に落ち着く金額との距離は、事案ごとに違います。その距離を決めているのは、証拠の状況、争点の数、支払いの現実といった要素であり、どれも書面の金額欄だけを眺めていても分かりません。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料を請求する方からのご相談も、請求を受けた方からのご相談も承っています。届いた請求書の内容をどう読むべきか、どのあたりが着地点として現実的かについて、事案の内容をうかがったうえでご説明します。判断に迷われている段階でも構いませんので、お気軽にご相談ください。


