【親子問題】ひきこもりの子のことを近所の人に聞かれたら、どう答える?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

「息子さん、最近見かけないけれどお元気?」「お仕事は何をされているの?」。ひきこもりの状態にあるお子さんと暮らしていると、近所の方からのこうした何気ない一言に、どう返せばよいか迷う場面があります。正直に話すべきか、ごまかしてよいのか、答え方ひとつで噂が広がらないかと気になり、外出そのものが重くなってしまう親御さんも少なくありません。

 この記事では、近所の人に聞かれたときの答え方を、聞かれ方の違いごとに整理します。あわせて、説明する義務があるのかどうか、噂を広められたときの考え方、反対に近所や地域の人に話してよい場面についても取り上げます。

本記事は、成人したお子さんがひきこもりの状態にあり、親御さんと同居している、または近くに住んでいるご家庭を念頭に置いています。お子さんからの暴力や大声が近所に聞こえている場合は、答え方より先に安全の確保を考える必要があるため、本記事とは別の整理が必要です。


近所の人に家族の事情を説明する義務はない

 まず前提として、近所の人に家族の状況を説明しなければならない法的な義務はありません。お子さんが働いているかどうか、家で何をしているかは、家族の私的な事情です。聞かれたからといって答える必要はなく、答えないことが失礼にあたるわけでもありません。

 もう一つ押さえておきたいのは、成人したお子さんの状態は、親御さんの事情であると同時に、お子さん本人の事情でもあるという点です。ひきこもりの背景には、仕事や人間関係のつまずき、心身の不調などさまざまな事情があることが多く、本人が人に知られたくないと感じている場合もあります。親御さんが善意で近所に話した内容が本人の耳に入り、親子の関係がさらにこじれることもあります。

 そのため、答え方を考えるときは「近所の人にどう思われるか」だけでなく、「本人が後で知ったときにどう受け止めるか」という視点を持っておくと、判断がぶれにくくなります。

聞かれ方ごとに答え方を分ける

 近所の人からの質問といっても、その背景はさまざまです。聞かれ方によって、ふさわしい答え方は変わります。

聞かれ方背景にありそうなこと答え方の方向
立ち話で何気なく聞かれたあいさつの延長で深い意味はない短く受け流して話題を変える
心配そうに何度も聞かれる本人や家族を気にかけている詳しく話さず、気遣いへのお礼を伝える
事情を探るように聞かれる興味本位や噂話の材料答えない線を穏やかに示す


何気なく聞かれたときは短く受け流す

 多くの場合、近所の人の質問はあいさつの延長です。「おかげさまで、元気にしています」「家のことを手伝ってもらっています」など、嘘ではない範囲の短い答えで受け流し、天気や地域の行事など別の話題に移れば十分なことがほとんどです。

 ここで大切なのは、答えを事前にいくつか用意しておくことです。その場で考えようとすると、言葉に詰まったり、つい話しすぎたりしがちです。家族で使う言い回しを決めておくと、気持ちの負担もずいぶん軽くなります。

気にかけて何度も聞かれるときはお礼で区切る

 お子さんを小さい頃から知っている近所の方などは、純粋に心配して声をかけてくれていることもあります。その場合、詳しい事情を話さなくても、「気にかけてくださってありがとうございます。いまは家で過ごしていますが、家族で見守っています」と、気遣いへのお礼を伝えて区切る方法があります。

 気にかけてくれる人を遠ざける必要はありません。将来、親御さんが体調を崩したときなどに、さりげなく見守ってくれる存在になることもあります。ただし、その人に何をどこまで伝えるかは、本人の意向も踏まえて慎重に決めることが望ましいといえます。

探るように聞かれるときは答えない線を示す

 事情を根掘り葉掘り聞かれる、ほかの人に話している様子がある、という場合には、「家族のことなので、そっとしておいていただけると助かります」と穏やかに伝え、それ以上は答えない姿勢を示すことが考えられます。強い口調で拒むと、かえって関心を引いたり関係が悪くなったりすることがあるため、角を立てない言い方を選ぶのが無難です。

答えるときに避けたいこと

 答え方に正解はありませんが、後で困りやすい対応はあります。

  • 事実と異なる作り話を重ねること(「海外で働いている」など、後で辻褄が合わなくなりやすい)。
  • 病名や診断名、過去の出来事など、本人の具体的な事情を話すこと。
  • 「怠けている」「育て方を間違えた」など、本人や家族を悪く言うこと。
  • 家族の間で答え方がばらばらになり、話の食い違いから詮索を招くこと。
  • 本人がいる場所や聞こえる場所で、本人のことを話題にすること。


 特に作り話は、その場をしのげても、別の人との会話で話がずれたり、本人が近所の人と顔を合わせたときに困らせてしまったりするおそれがあります。「詳しくは話さない」と「事実と違うことを言う」は別のことであり、前者で十分に対応できる場面がほとんどです。

家族の中で答え方をそろえておく

 近所の人から聞かれるのは親御さんだけとは限りません。配偶者やきょうだい、近くに住む祖父母が聞かれることもあります。家族がそれぞれの判断で答えると、内容が食い違い、かえって関心を集めることがあります。

 家族で話し合える状況であれば、「どこまで話すか」「どの言い回しを使うか」「しつこく聞かれたら誰に相談するか」を決めておくと安心です。親戚から子の問題について意見されて困っている場合の伝え方は、【親子問題】親戚から子の問題に口出しされる|家族の方針を守る伝え方でも解説しています。

近所で噂を広められたときの考え方

 「あの家の息子は働かずに家にいる」といった話が近所に広まり、つらい思いをされることもあります。このような場合、言い方や広がり方によっては、名誉毀損(刑法230条)や侮辱(刑法231条)にあたるかが問題になることがあります。名誉毀損は、話した内容が事実かどうかにかかわらず、不特定または多数の人に向けて人の社会的評価を下げる事実を示した場合に問題となり得るものです。

 もっとも、近所の立ち話の一つひとつが直ちに法的な問題になるわけではなく、どこから違法になるかは、内容や伝わった範囲などの事情によって判断が分かれます。また、近所の人との関係はその後も続くため、いきなり法的な手段に進むことが最善とは限りません。

 噂によって生活に支障が出ている場合には、誰が、いつ、どのような内容を、誰に話していたのかを、日付とともにメモしておくことが大切です。そのうえで、自治会の役員など間に入ってもらえる人がいるか、相手に直接伝えるべきか、弁護士から書面で伝えるべきかを、状況に応じて検討していくことになります。

近所や地域の人に話してよい場面もある

 ここまで「話しすぎない」ことを中心にお伝えしてきましたが、地域の中に事情を知っている人がいることが、家族の支えになる場面もあります。

民生委員は守秘義務のある身近な相談相手

 地域には、厚生労働大臣から委嘱された民生委員がいます。民生委員には、職務を行うにあたって個人の人格を尊重し、その身上に関する秘密を守ることが法律で求められています(民生委員法15条)。近所の人に話すのとは違い、相談した内容が地域に広まらないことを前提に、行政の窓口や支援機関につないでもらえることがあります。

公的な窓口や家族会に話す

 近所の人に打ち明けられない気持ちを、外に出す場所を持つことも大切です。自治体のひきこもり支援の窓口や、同じ悩みを持つ家族が集まる家族会では、事情を知られることを心配せずに話ができます。それぞれの窓口の特徴は、【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことや【親子問題】家族会・当事者会の役割|弁護士に頼む前にできることで紹介しています。

親が急に入院したときなどに備える

 親御さんが急病で入院した場合など、家に残ったお子さんの様子を誰かが気にかける必要が出てくることがあります。そのような事態に備えて、信頼できる近所の方や民生委員に、必要な範囲だけを伝えておくという選択もあります。何を伝えるかは、本人の意向や家族の考えを踏まえて決めておくとよいでしょう。

お子さんが近所とトラブルになっている場合

 近所の人から聞かれる理由が、お子さんと近所の人との間のもめごとにある場合は、答え方の問題とは別に、事実関係を確認する必要があります。成人したお子さんの行為について、親御さんが当然に責任を負うわけではありませんが、対応の仕方によっては関係が悪化することもあります。詳しくは【親子問題】子が近所の人とトラブルを起こした|成人した子の賠償と親の責任をご覧ください。

弁護士に相談できること

 近所への答え方そのものは、家族の中で決められることがほとんどです。それでも、噂や詮索が続いて生活に支障が出ている場合や、近所の人とのもめごとに発展している場合、あるいはお子さんのひきこもりが長期化し、家族だけでは先が見通せない場合には、弁護士に相談することも一つの方法です。

 当事務所では、親御さんの代理人として、お子さんとの話し合いや自立に向けた取り組みに関わっています。自立支援のカウンセラーとチームを組み、親御さんの負担を軽くしながら、お子さんが自分の生活を築いていけるよう支援しています。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご案内しています。相談内容の取り扱いについては【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方も、相談先の選び方については【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担もあわせてご覧ください。

 近所の人からの一言が気になるのは、それだけ家族のことを大切に考えているからこそです。答え方を家族で決めておくこと、話してよい相手と話さない相手を分けること、そして家族だけで抱え込まないことが、親御さんの気持ちを少しずつ楽にしていく手がかりになります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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