【刑事事件・ストーカー事件】警告を受けた後に引っ越す必要はある?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「警察から警告を受けました。相手の家までは歩いて数分の距離です。このまま住み続けていたら、それだけで違反になるのでしょうか」。当事務所には、警告を受けたご本人から、このような住まいについてのご相談が寄せられます。ご家族からも「実家が相手の家の近くにあり、帰省させてよいのか分からない」という声をうかがうことがあります。

 インターネットでは「警告を受けたら相手に近づかないこと」と説明されることが多く、その説明自体は誤りではありません。ただ、相手に近づかないことと、住む場所を変えることは同じではありません。生活の拠点が相手の生活圏と重なっているときに、どこまで気をつければよいのかという点は、あまり触れられていないように見えます。

 この記事では、ストーカー規制法に基づく警告を受けた方の立場から、引っ越す義務があるのか、住み続ける場合に何に気をつけるのか、引っ越しが話題にのぼる場面ごとの考え方を整理します。警告そのものの性質や前科との関係は、別の記事で詳しく扱っています。

この記事は、2026年3月までに施行された改正ストーカー規制法と、2025年6月1日から適用されている拘禁刑の規定を前提にしています。


警告には住む場所を変えさせる効力はない

警告が求めているのは「行為をくり返さないこと」

 ストーカー規制法の警告は、つきまとい等をした人に対し、さらにくり返して同じ行為をしてはならないと警察が告げる措置です(ストーカー規制法4条1項)。警告の書面に書かれるのは、やめるべき行為の内容であり、どこに住むかを指定するものではありません。条文上、警告を受けた人に転居を義務づける定めは置かれていません。

 また、警告に違反したこと自体を罰する規定もありません。警告の後もつきまとい等が続くおそれがあるときに検討されるのは、公安委員会による禁止命令などの次の措置です。警告の性質や、その後に起こりうることについては、警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで整理しています。

どこに住むかは本人が決めること

 住む場所を選ぶ自由は、憲法22条1項が保障する居住・移転の自由に含まれます。警告を受けたからといって、この自由が失われるわけではありません。警察から転居を勧められることがあったとしても、それは任意のお願いにとどまり、応じなかったことそれ自体を処罰する規定はありません。

 もっとも、自由に住めることと、住み続けるうえで気をつけることがないことは別の話です。次の章では、相手の近くに住み続ける場合に問題になりやすい点を見ていきます。

近くに住み続けるときに問題になりやすいこと

「住んでいること」と「近くでの行動」を分けて考える

 ストーカー規制法が規制するつきまとい等の中には、相手の住居や勤務先などの付近で見張りをすること、住居等の付近をみだりにうろつくことが含まれています(同法2条1項1号)。ここで問われているのは、相手の住まいの近くでどう行動したかであり、たまたま近くに住んでいるという事実そのものではありません。

 また、つきまとい等にあたるには、恋愛感情やそれが満たされなかったことへの恨みの感情を満たす目的で行われたことが必要です(同法2条1項柱書)。自宅から駅へ向かうといった生活に必要な移動は、通常はこの目的と結びつきにくいと考えられます。ただし、相手の家の前を通る道をわざわざ選ぶ、相手の帰宅時間に合わせて外に出るといった行動が重なると、同じ移動でも別の見え方をすることがあります。一つひとつの行為と、それがくり返された場合の違いについては、連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いもあわせてご覧ください。

生活の動線を見直しておく

 相手と生活圏が重なっていると、駅やスーパー、コンビニなどで顔を合わせる場面が出てきます。偶然であっても、相手から見れば不安を覚える出来事になりうるため、次のような点を見直しておくと、誤解を招く場面を減らせます。

  • 相手の住まいや勤務先の前を通らない経路を、通勤や買い物の基本の道にすること。
  • 相手がよく使う駅の出入口や店舗、時間帯を、できる範囲で避けること。
  • 偶然見かけたときは、声をかけず、その場から静かに離れること。
  • 自宅の窓やベランダから相手の家の方向を見続けるような行動を控えること。
  • いつ、どこへ、何のために外出したかを簡単に記録しておくこと。


 最後の記録は、後から「その日その場所にいた理由」を説明する必要が生じたときの手がかりになります。仕事の予定表や交通系ICカードの利用履歴なども、日々の行動を裏づける資料として残しておくと役立つことがあります。

引っ越しが話題にのぼる3つの場面

警察から転居を勧められたとき

 警告の際やその前後に、警察官から「できれば離れて暮らしてほしい」と言われることがあります。これは、申出をした相手の安全を考えての働きかけであり、法律上の命令ではありません。

 とはいえ、そう言われた背景には、相手が距離の近さに強い不安を感じている事情があるのかもしれません。すぐに応じられない場合でも、どのような点が心配されているのかを確認し、動線の見直しなどで応えられる部分がないかを考えておくことは、その後の関係をこじらせないうえで意味があります。

示談の条件として求められたとき

 刑事事件として捜査が進んでいる場合や、民事の請求を受けている場合には、示談の条件として転居を求められることがあります。示談は双方の合意で成り立つものなので、転居を受け入れるかどうかも当事者が判断することになります。

 転居は費用も生活への影響も大きく、すぐには受け入れられないことも少なくありません。その場合は、相手の住居や最寄り駅など一定の範囲に立ち入らない約束、連絡や接触をしない約束、約束を破ったときの違約金などを組み合わせて、相手の不安に別の形で応える案を検討する余地があります。守れるかどうか分からない条件を急いで約束するより、守れる内容を具体的に決めるほうが、合意を長く維持しやすいと考えられます。

保釈や執行猶予の条件と重なるとき

 事件で起訴され保釈されている場合には、裁判所が住居を制限し、被害者への接触を禁じる条件を付けることがあります(刑事訴訟法93条3項)。住居の制限が付いているときは、指定された住居から移るのに裁判所の許可が必要になり、自分の判断だけで引っ越すことはできません。保釈中の生活の決まりは、保釈中の生活ルール|仕事・転居・旅行はどこまでできるかで詳しく扱っています。

 保護観察付きの執行猶予となった場合も、転居や7日以上の旅行をするときには、あらかじめ保護観察所の長の許可を受けることが遵守事項とされています(更生保護法50条1項5号)。場面ごとの違いをまとめると、次のとおりです。

場面引っ越しの義務確認しておきたいこと
警告を受けた段階法律上の義務はない相手の近くでの行動の見直し
警察から転居を勧められた任意のお願いにとどまる相手が何を心配しているか
示談で転居を求められた合意しなければ生じない代わりに守れる条件の内容
保釈中・保護観察中転居には許可が必要指定された住居と付けられた条件


引っ越すかどうかを決める前に整理しておきたいこと

判断の材料になる事情

 引っ越すか、住み続けるかに、誰にでも当てはまる正解があるわけではありません。次のような事情を書き出してみると、ご自身の場合にどちらが現実的かが見えやすくなります。

  • 自宅と、相手の住まい・勤務先・最寄り駅との距離。
  • 通勤や買い物の動線が、相手の生活圏と重なっている程度。
  • 仕事、家族、子どもの学校など、今の住まいを離れにくい事情。
  • 転居にかかる費用と、賃貸借契約の解約時期。
  • 捜査が続いているか、示談の話が出ているかといった手続の状況。


引っ越しても警告の記録は消えない

 引っ越せば一区切りつく、と考える方もいますが、警告を受けたという記録は警察の内部に残ります。転居先から相手に接触するようなことがあれば、それまでの経緯も踏まえて判断されることになり、遠くへ移ったことで過去の経緯が考慮されなくなるわけではありません。

 また、転居先を選ぶときは、相手の勤務先や実家、よく利用する場所に近づく方向を避けることが大切です。転居をきっかけに相手の新しい住所を調べたり、共通の知人に相手の様子を尋ねたりすることは、それ自体が新たな問題を生むおそれがあります。

よくあるご質問

実家が相手の家の近くにあります。帰省してもよいですか

 帰省そのものを禁じる決まりはありません。滞在中は、相手の家の前を通らない、外出の時間帯を考えるなど、近くに住み続ける場合と同じ注意をしておくと安心です。禁止命令を受けている場合は、命令書に書かれた内容と照らして確認してください。

引っ越したら、警察に新しい住所を伝える必要がありますか

 警告を受けただけの段階で、転居を警察に届け出る義務は定められていません。ただし、事件として捜査が続いている場合は、呼出しなどの連絡が届かなくなると手続が滞ることがあるため、連絡先の扱いを弁護士と相談しておくと安心です。保釈中や保護観察中は、前の章で触れたとおり許可が必要です。

引っ越せば、禁止命令は出されにくくなりますか

 禁止命令は、つきまとい等をさらにくり返すおそれがあるかどうかなどを踏まえて判断されます(ストーカー規制法5条1項)。転居は事情の一つとして考慮される可能性がありますが、引っ越したことだけで禁止命令の対象から外れるわけではありません。禁止命令の期間や違反した場合の扱いは、禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新で解説しています。

まとめ


  1. 警告は、つきまとい等をくり返さないよう告げる措置であり、転居を義務づけるものではありません(ストーカー規制法4条1項)。
  2. 住む場所を選ぶ自由は、警告を受けた後も保障されています(憲法22条1項)。
  3. 問題になるのは、相手の住居等の付近で見張りをしたり、みだりにうろついたりする行動です(ストーカー規制法2条1項1号)。
  4. 警察から転居を勧められても任意のお願いにとどまりますが、相手が何を心配しているかは確認しておくと役立ちます。
  5. 示談で転居を求められた場合は、立ち入らない範囲や接触しない約束など、守れる条件で応える案も検討できます。
  6. 住居の制限が付いた保釈中は裁判所の許可、保護観察中は保護観察所の長の許可がなければ転居できません(刑事訴訟法93条3項、更生保護法50条1項5号)。
  7. 引っ越しても警告の記録は残るため、転居先でも相手に近づかない行動を続けることが大切です。


警告を受けた後の住まいにお悩みの方へ

 警告を受けた後、今の住まいに住み続けるか、離れるかは、生活全体にかかわる判断です。相手との距離や手続の進み具合によって、気をつけるべき点も、取れる選択肢も変わります。住まいを決める前に、ご自身の状況で何が問題になりうるかを一度整理しておくことをおすすめします。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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