【解決事例】元交際相手からの約300万円の請求と暴露予告|段階的な警告で解決した事例
本記事は、2026年4月1日に施行された改正民法(養育費の先取特権・法定養育費)と、2025年10月1日に始まった公正証書の作成手続のデジタル化を反映した、2026年10月時点の内容です。
結婚していない相手との間に子どもが生まれ、養育費の支払いについて話がまとまりかけている。そのような段階で「この約束を公正証書にしておくべきか」と迷う方は少なくありません。養育費は、子どもが成人や大学卒業を迎えるまで続く長い支払いになることが多く、口約束のままでは、途中で支払いが止まったときに取れる手段が限られることがあります。
この記事では、未婚の場合に養育費の約束を公正証書にする意味、2026年4月に始まった新しい制度との関係、盛り込んでおきたい項目、相手が作成に応じない場合の進め方を整理します。受け取る側だけでなく、支払う側にとってどのような意味があるのかもあわせて説明します。
未婚の養育費は「認知」が出発点になります
結婚している夫婦の子どもと違い、未婚の父母の間に生まれた子どもは、父親が認知することで初めて父親との法律上の親子関係が生じます。親が子を扶養する義務(民法877条)も、この親子関係を前提としています。
そのため、認知がないまま相手が「毎月いくら払う」と約束していても、その支払いは相手の任意によるものと見られやすく、法的に支払いを求める根拠が弱くなります。公正証書を作る場合も、認知が済んでいるか、少なくとも認知届を出す時期が決まっているかを最初に確かめておくことが大切です。
なお、判例上、子どもが認知を求める権利はあらかじめ放棄できないとされています。「認知しない代わりにまとまったお金を払う」という提案を受けた場合は、その取り決めが後々どのような扱いになるかを含め、応じる前に内容をよく確認することをおすすめします。妊娠中に認知を済ませておく方法については【男女トラブル】胎児認知を求められた|生まれる前に認知する意味で、出産前に話し合っておきたい事柄については【男女トラブル】妊娠中に別れを告げられた|出産前に決めておくことで解説しています。
口約束・合意書・公正証書で何が違うのか
養育費の取り決め方によって、支払いが止まったときの動き方が変わります。主な違いは次のとおりです。
| 取り決めの方法 | 内容の証明 | 支払いが止まったときの差押え |
|---|---|---|
| 口約束 | やり取りの記録がなければ証明が難しい | 原則として裁判などを経る必要がある |
| 当事者が作った合意書 | 署名があれば一定の証拠になる | 2026年4月以降は一定額まで差押えの申立てが可能(後述) |
| 強制執行認諾文言付きの公正証書 | 公証人が作成する公文書として証明力が高い | 裁判を経ずに差押えの手続へ進める |
| 家庭裁判所の調停調書 | 裁判所の手続で作成される | 裁判を経ずに差押えの手続へ進める |
公正証書の大きな特徴は、「支払いを怠ったときは直ちに強制執行に服する」という一文(強制執行認諾文言)を入れておけば、判決を得なくても給与や預貯金の差押えを申し立てられる点にあります(民事執行法22条5号)。ただし、この効力が及ぶのは「毎月○万円」のように金額が特定された金銭の支払いに限られます。「進学時の費用はその都度協議する」といった定め方では、その部分を公正証書だけで差し押さえることはできません。
すでに口頭で条件を決めてしまった場合に、後から書面へ移す方法については【男女トラブル】口約束で別れの条件を決めてしまった|後から書面にする方法で取り上げています。
2026年4月からの先取特権と法定養育費
2026年4月1日に施行された改正民法により、養育費の支払いを確保する仕組みが2つ加わりました。これらの規定は、認知された子どもの養育費にも準用されています(民法788条)。
- 養育費の先取特権=父母が取り決めた養育費のうち、子ども1人あたり月8万円までの部分について、取り決めを示す文書があれば公正証書や調停調書がなくても差押えを申し立てられる仕組み。
- 法定養育費=養育費を取り決めていない場合でも、取り決めが成立するまでの間、子ども1人あたり月2万円を請求できる仕組み。
ただし、先取特権で守られるのは月8万円までの部分に限られ、それを超える部分には及びません。法定養育費も、本来の養育費が決まるまでの暫定的な金額という位置づけです。また、制度が適用されるかどうかは、認知や取り決めの時期によって異なる場合があります。新しい制度ができたからといって公正証書が不要になるわけではなく、金額の上限なく差押えに進める手段として、公正証書の意味は引き続き大きいといえます。
公正証書にしておくべきかを考える視点
公正証書の作成は法律上の義務ではなく、相手の同意がなければ作ることはできません。それでも、次のような事情がある場合は、作成を前向きに検討する価値があります。
- 支払期間が10年以上に及ぶ見込みがあること。
- 相手とすでに別れており、今後の連絡が途絶えるおそれがあること。
- 相手が既婚者であるなど、相手の家庭の事情で支払いが止まる可能性があること。
- 相手が会社勤めで、給与の差押えが現実的な回収手段になること。
- 月8万円を超える養育費を取り決める予定があること。
一方で、公正証書があっても、相手に収入や財産がなければ差押えで回収できる額は限られます。また、公正証書で決めた金額も、収入の大きな変化や再婚など事情が変わった場合には、家庭裁判所の手続で増額や減額が認められることがあります。公正証書は「決めた内容を守らせる力」を強める書面であり、将来の変更をすべて封じるものではない点を押さえておく必要があります。
支払う側にとっても、金額や期間、特別な費用の扱いをはっきりさせておくことで、何をどこまで負担するのかが明確になるという面があります。根拠のはっきりしない請求が後から重なる事態を避けやすくなるため、双方にとって意味のある書面といえます。
公正証書に盛り込んでおきたい項目
未婚の場合の養育費の公正証書では、主に次の項目を検討します。
- 認知の事実、または認知届を提出する時期。
- 月々の金額、支払日、振込先口座。
- 支払いの始期と終期(20歳まで、大学卒業までなど)。
- 進学や病気など、特別な費用の分担方法。
- 出産費用など、すでに生じた費用の清算の扱い。
- 住所・勤務先・連絡先が変わったときの通知。
- 親子交流(面会交流)の方法や頻度。
- 強制執行認諾文言。
親子交流の定めは公正証書に書くことができますが、金銭の支払いではないため、公正証書をもとに強制執行をすることはできません。また、養育費について「今後一切請求しない」といった定めを置いても、子どもの生活に必要な費用は、事情に応じて改めて求められることがあると考えられています。条項の書き方によって効力が変わるため、原案の段階で内容を確認しておくと安心です。
作成の流れと費用の目安
公正証書は、公証役場で公証人に作成してもらいます。おおまかな流れは次のとおりです。
- 当事者の間での金額や期間などの合意。
- 公証役場への連絡と、合意内容をもとにした原案の作成依頼。
- 本人確認書類や、認知の記載がある戸籍謄本などの準備。
- 予約日における当事者の内容確認と署名。
- 公正証書の正本・謄本の受取り。
2025年10月1日から公正証書の作成手続がデジタル化され、対応している公証役場では、公証人が相当と認める場合にウェブ会議を使った作成もできるようになりました。相手と同じ場所に出向くことに抵抗がある場合は、利用できるかを公証役場に問い合わせてみるとよいでしょう。代理人に手続を任せる方法もあります。
作成手数料は、取り決める金額をもとに定められています。同じく2025年10月の見直しで、養育費の公正証書の手数料は負担が軽くなるよう改められ、算定の基準となる期間は最大5年分とされました。具体的な金額は、作成を依頼する公証役場で確認できます。
実際に差押えを申し立てるときには、公正証書に執行文を付けてもらうことに加え、相手方に公正証書が送達されていることの証明も必要になります。作成時に送達の手続まで済ませておくと、いざというときの手間を減らせます。
相手が公正証書の作成に応じないとき
相手が公証役場での手続を拒んだり、内容に合意しなかったりする場合は、家庭裁判所に養育費の請求調停を申し立てる方法があります。調停で合意できれば調停調書が作成され、公正証書と同じように差押えの根拠になります。合意に至らなければ審判に移り、裁判所が金額を定めます。
まだ認知がされていない場合は、まず認知調停を申し立て、相手が父子関係を争うときにはDNA鑑定などを通じて親子関係を確定させることになります。相手と連絡が取れなくなっている場合の進め方は妊娠を告げたら逃げられた・音信不通|相手を特定して認知・養育費にたどり着くまでで取り上げています。
また、相手が「払う」と言いながら具体的な取り決めを先延ばしにしている場合は、内容証明郵便などで請求の意思をはっきり示しておくことも考えられます。過去の養育費は、請求の意思を示した時点以降の分から認められることが多いとされているためです。相手が認知はしても支払いを拒んでいる場面については、【男女トラブル】認知はするが養育費は払わないと言われた|いつからの分を、どの順番で求めるかもあわせてご覧ください。
支払いが止まったときに使える手続
公正証書や調停調書があれば、相手の給与や預貯金の差押えを申し立てることができます。養育費の場合、給与は原則として手取り額の2分の1まで差し押さえることができ、一度の申立てで将来の支払期日の分も対象にできる仕組みがあります(民事執行法151条の2、152条3項)。
相手の勤務先や預金口座が分からない場合でも、財産開示手続や、市町村などから勤務先の情報を得る第三者からの情報取得手続を利用できる場合があります。なお、公正証書があっても、毎月の支払分はそれぞれ時効にかかる可能性があるため、支払いが止まったら長く放置せずに動き出すことが大切です。
よくあるご質問
認知の前でも公正証書を作ることはできますか
認知の前でも、支払いの約束を公正証書にすること自体は可能な場合があります。ただ、法律上の親子関係がない段階では、その約束が親としての扶養義務に基づく養育費として扱われるかに疑問が残ります。胎児認知をしたうえで出産後に作成するか、認知を済ませた後に作成する流れが一般的です。
相手が既婚者でも公正証書は作れますか
相手が既婚者であっても、認知がされれば養育費を求めることはでき、その内容を公正証書にすることも可能です。ただし、相手の配偶者から不貞行為を理由に慰謝料を求められる可能性もあるため、進め方には注意が必要です。この場面については不倫相手との妊娠|認知・養育費・中絶をめぐるトラブルで整理しています。
養育費を一括で受け取ることはできますか
当事者が合意すれば、養育費をまとめて受け取る取り決めをすることもできます。ただし、将来の事情の変化に対応しにくくなることや、金額によっては税務上の扱いが問題になることがあるため、月々の支払いと比べながら慎重に検討する必要があります。
弁護士に相談するという選択
養育費の取り決めは、認知の有無、相手の婚姻状況、収入や勤務先の状況によって、公正証書に盛り込むべき内容や優先順位が変わります。相手と直接話すことに負担を感じる場合や、示された条件が妥当か判断しにくい場合は、合意する前に弁護士へ相談し、原案の内容を確認しておくことが、後の行き違いを減らすことにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


