【解決事例】メンズエステで不同意性交等罪の被害届|示談により不送致で解決した事例
「返すと言っていたはずだ」と考える方と、「もらったものだと思っていた」と受け止めている方。キャストに渡した金品をめぐるご相談では、同じお金について、双方の呼び方が食い違っていることがよくあります。
「あげたものは返ってこない」という説明を目にしたことがあるかもしれません。その説明自体が誤っているわけではありません。ただ、実際に争いになるのは、その手前にある「あげたものといえるのかどうか」です。渡した側は援助や貸付けのつもりで、受け取った側は好意による贈り物と受け止めている。この食い違いが解けないまま、返す返さないの話だけが進んでいくことになります。
この記事では、キャストに渡した金品が贈与にあたるのか、それとも何かの対価にあたるのかという切り分けだけを扱います。だまし取られたといえるかどうかの見極めや、相手の所在が分からない場合の進め方、店舗そのものへの請求については別の記事に譲ります。
なぜ「贈与か対価か」で結論が変わるのか
渡したお金の性質は、大きく分けて三つの見方ができます。あげたもの、すなわち贈与。返す約束のあるもの、すなわち貸付け。そして、何かの見返りとして渡したもの、すなわち対価です。どれにあたるかによって、返還を求めるときの入口も、その後の見通しも変わります。
贈与とされた場合に閉じる道
贈与は、当事者の一方が財産を無償で相手に与える意思を示し、相手が受け取ることで成立します(民法549条)。書面にしていない贈与は解除できますが、すでに渡し終えた部分については解除できないとされています(民法550条ただし書)。現金を手渡した、品物を渡した、口座に振り込んだといった場合、その部分は履行が終わったものとして扱われるのが通常です。
つまり、贈与だったと評価されると、渡し終えた分については返還を求める足がかりが乏しくなります。書面がないから取り消せるはずだ、という説明を見かけることがありますが、渡し終えている点まで踏まえると、そのままでは当てはまりません。
対価とされた場合に開く道と、その先にある別の壁
では、対価だったと主張すればよいのかというと、そう単純でもありません。対価としての合意が認められれば、約束が果たされなかったときに返還を求める余地は出てきます。一方で、その対価の中身が性的な関係そのものであると評価される場合には、公序良俗に反する合意として効力が否定され(民法90条)、さらに、不法な原因のために渡したものは返還を請求できないという規律が問題になります(民法708条)。
贈与だとされれば渡し終えた分の道が細くなり、対価だとされれば別の理由で道が細くなる。この二つの間にあるのが、返す約束のある貸付けだったといえるかどうかという評価です。争点が贈与と対価の切り分けに集まりやすいのは、この構造があるためです。
| 渡したお金の性質 | 主張の入口 | 見通しを左右する点 |
|---|---|---|
| 贈与(あげたもの) | 書面によらない贈与の解除(民法550条) | 渡し終えた部分は解除の対象から外れる |
| 貸付け(返す約束のあるもの) | 貸金の返還請求(民法587条) | 返還の合意を示せるかどうか |
| 対価(見返りとして渡したもの) | 合意の内容に応じた請求 | 内容によっては民法90条・708条の問題になる |
まず「何を、誰に渡したか」を分ける
ご相談の場では、店舗での支払いと、キャスト個人へ渡した金品とが混ざったまま総額で語られていることが多くあります。この二つは相手方も根拠も別です。店舗に支払った飲食代や指名料は店舗との契約に基づく代金であり、返金を求める場面では契約の内容や説明の当否が問題になります。ここで扱うのは、その枠の外で個人に渡した分です。
渡し方によって争いになる点が変わる
同じ「渡した」でも、形によって残る記録も、後から問題になる点も異なります。
| 渡したもの | 主に争われる形 | 残りやすい記録 |
|---|---|---|
| 現金の手渡し | 贈与か貸付けか | 渡した事実自体が残りにくい |
| 口座への振込み | 贈与か貸付けか | 入出金は残るが、名目までは残らない |
| 品物・ブランド品など | 現物の返還か、価額の返還か | 購入履歴や配送記録 |
| 家賃・通信料などの立替え | 立替金の清算か贈与か | 引き落としや振込みの記録 |
立替えのように支払いが続いていた場合は、途中から性質が変わったと主張されやすいという特徴があります。最初は貸すつもりだったが、いつからか援助になっていた、という見方が入り込む余地があるためです。
名目は後から選び直せない
返してほしいと考えた時点で「あれは貸したお金だった」と言い直しても、その言い直しがそのまま通るわけではありません。贈与か貸付けかは、渡した当時に当事者の間でどのような話がされていたかによって判断されます。
手がかりになるのは渡した時点のやり取り
実際の判断で参照されるのは、渡す前後のメッセージ、渡した場面での言葉、金額の決まり方、返す時期の話が出ていたかどうかといった事情です。まとまった金額を渡す前に返済の話が一切出ていないと、貸付けであったという説明は通りにくくなります。
「返さなくていい」と伝えていた場合
相手を安心させるために「返さなくていい」「これはあげるものだから」と伝えていた方は少なくありません。その言葉が記録に残っていると、贈与を裏づける事情として扱われることになります。渡した側の心境としては、そう言わざるを得なかったという事情があるかもしれませんが、外から見える資料は言葉のほうです。
返還の合意があったといえるか
貸付けとして返還を求める場合、請求する側が示すことになるのは、金銭を渡したという事実と、返してもらう約束があったという事実の二つです。前者だけでは足りず、後者が示せるかどうかが分かれ目になります。
借用書がない場合に手がかりになるもの
書面を作っていないご相談がほとんどですが、書面がないことが直ちに結論を決めるわけではありません。次のようなものが手がかりになります。
- 返す時期や方法について触れているメッセージのやり取り。
- 金額の端数や回数が、貸し借りとして説明できる形になっているか。
- 一部でも返済を受けた事実や、返済を約束する返信があるか。
- 渡すときに相手が使途を説明していた内容と、その後の実際の使われ方。
- 渡した後に返済を求めたやり取りと、それに対する相手の反応。
返済を求めた際の相手の返信は、後から作ることのできない資料になります。金額の話をする前に、まずやり取りを残しておくという順番が実務では効いてきます。
対価だったという反論が出てきたとき
返還を求めると、相手方から「あれは関係を続けるための対価だった」という反論が出てくることがあります。この反論は、対価としての合意があったという主張ですから、主張する側にその裏づけが求められます。実際の裁判でも、男女の関係が背景にあった可能性は否定できないとしつつ、対価として金銭を渡す合意があったと認めるに足りる資料がない、として退けられた例があります。
不法原因給付は形式だけで決まるわけではない
不法な原因のために渡したものは返還を請求できないという規律は、条文の形だけを当てはめて結論が出るものではありません。裁判例では、次のような事情を総合して実質的に判断されています。
- 渡すに至った経緯と、どちらの働きかけが先だったか。
- 渡した目的が関係を続けることだけにあったといえるかどうか。
- 渡した金銭が実際に何に使われたか。
- 渡した後の関係の推移と、返還を求めた時期。
これらの事情によっては、返還請求が認められる余地が残ります。逆に、性的な関係と金銭とが一対一で結びつく形になっていると、返還を求める側にとって厳しい評価につながりやすくなります。対価であることを強く押し出す主張は、相手の反論を打ち消す一方で、自分の請求の根拠も細らせることがあるという点に注意が必要です。
条件を付けて渡したという主張
「店を辞めるという話だったから渡した」「付き合うという前提だった」というご相談も多くあります。約束が果たされなければ返してもらう趣旨だった、という主張です。
条件を付けた贈与や、相手に一定の負担を伴わせる贈与という形は、法律上は考えられます(民法553条)。ただ、書面がなく、渡すときのやり取りにも条件として明示されていない場合、後からそれを条件だったと評価してもらうのは容易ではありません。好意の表現として交わされた会話と、返還を左右する条件とを、外から区別しにくいためです。渡す前後に条件が文字で残っているかどうかが、実際上の分かれ目になります。
時間の経過と、残しておきたい資料
返還を求める権利にも期間の制限があります。権利を行使できることを知った時から5年という期間が一般的な目安になり(民法166条1項1号)、どの構成で請求するかによって起算点の考え方も変わります。時間が経つほど、やり取りの記録が消え、相手の記憶も曖昧になります。
手元に残しておきたいものとしては、次のようなものが挙げられます。
- 振込明細やカードの利用明細など、金銭の動きが分かるもの。
- メッセージアプリのやり取りの画面全体と、日付が分かる形での保存。
- 品物を渡した場合の購入履歴、配送記録、写真。
- 相手の勤務先の店舗名、源氏名、在籍していた時期のメモ。
- やり取りが削除された場合に備えた、端末そのものの保管。
求め方を誤ると立場が入れ替わる
返してほしいという気持ちが強いほど、連絡の回数が増え、言葉も強くなりがちです。しかし、返還を求める過程での言動が、脅迫や恐喝、名誉毀損として問題にされたり、繰り返しの連絡がつきまといとして扱われたりする場面があります。店舗に押しかける、勤務先に知らせると告げる、私的な写真の話を持ち出すといった対応は、請求の当否とは別に、渡した側の立場を悪くします。
権利があると考えていても、自分で相手の持ち物を持ち帰るような対応は認められていません。請求そのものが正当であっても、求め方によって責任を問われる場面があるという点は、はじめに押さえておいていただきたい部分です。
よくあるご質問
渡した品物が手元に残っていない場合、返してもらえないのでしょうか
現物が残っていない場合でも、返還を求める余地がなくなるわけではありません。返還の対象を現物ではなく金銭に置き換えて求める形が考えられます。ただし、購入時の金額がそのまま基準になるとは限らず、購入履歴や品物の状態に関する資料が乏しいほど、金額を詰める作業は難しくなります。
店舗で使った売上の分も、キャスト個人に請求できますか
店舗での飲食代や指名料は、店舗との契約に基づく代金です。キャスト個人に渡した金品とは相手方も根拠も異なりますので、まとめて一人に請求する形は取りにくくなります。まずは、店舗に支払った分と個人に渡した分とを分けて整理することをおすすめします。
相手が店を辞めて連絡が取れません。請求はできますか
相手の氏名や住所が分からないままでは、請求書を送ることも、手続を進めることもできません。特定に向けた方法はいくつかありますが、使える場面と使えない場面が分かれます。この点は本記事の範囲を超えますので、個別にご相談ください。
まとめ
- 渡した金品の性質は、贈与、貸付け、対価の三つに分けて考えると整理しやすくなる。
- 贈与と評価されると、渡し終えた部分については解除の対象から外れる(民法549条・550条ただし書)。
- 貸付けとして請求する場合は、金銭を渡した事実に加えて、返還の合意を示すことが求められる(民法587条)。
- 対価であるという反論は、その合意の裏づけを主張する側が示すことになる。
- 性的な関係との結びつきが強い形になると、公序良俗や不法原因給付の問題が生じる(民法90条・708条)。
- 条件を付けた贈与という主張は、条件が渡す時点の記録に残っているかどうかで見通しが変わる(民法553条)。
- 権利には期間の制限があり、記録は時間とともに失われるため、早い段階での整理が有効になる(民法166条1項1号)。
キャストに渡した金銭のことでお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルや繁華街での金銭トラブルに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。渡した金品を返してほしいとお考えの方には、手元の資料からどの構成で組み立てられるかを一緒に整理し、無理のない進め方をご提案します。
返還を求められている側の方からのご相談もお受けしています。どちらの立場であっても、やり取りが残っているうちにご相談いただくほど、選べる手段は多くなります。お一人で抱えず、まずはお気軽にご連絡ください。


