【不貞慰謝料】風俗店・接客業での関係は不貞行為になるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「配偶者が風俗店に通っていたことが分かった。これは不倫にあたるのか」というご相談があります。その一方で、「接客業として働いていたところ、お客様のご家族から通知書が届いた」というご相談も寄せられます。同じ出来事を、立場を変えて見ているわけです。

 インターネット上には「風俗は不貞行為にならない」という説明と、「本番行為があれば不貞行為にあたる」という説明の両方があります。どちらもそれ自体が誤っているわけではありません。ただ、この二つは実は別の問いに答えています。一方は「配偶者との関係でどう評価されるか」を、もう一方は「接客した相手に責任が生じるか」を語っていることが多く、その区別がされないまま並んでいるために、読む側が混乱しやすくなっています。

 この記事では、店の業種の名前ではなく、関係が店の枠の中にとどまっていたのか、それとも枠の外に出ていたのかという一本の物差しで整理します。慰謝料の金額の相場、証拠の集め方、離婚の手続そのものについては、それぞれ別の記事に譲り、ここでは「不貞行為になるのか」という入口の問いに絞ってご説明します。

「風俗は不貞にならない」という言葉が指しているもの

法律の言葉としての「不貞行為」

 「不倫」「浮気」は日常語であり、法律に定義があるわけではありません。法律の条文に出てくるのは「不貞な行為」という言葉で、裁判上の離婚を求められる場合の一つとして挙げられています(民法770条1項1号)。最高裁判所は昭和48年11月15日の判決で、不貞な行為とは、配偶者のある者が自由な意思にもとづいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいい、相手方の自由な意思にもとづくものであるかどうかは問わない、という趣旨を示しています。

 そして、配偶者や関係を持った相手にお金を請求する場面で使われるのは、不法行為の規定です(民法709条、710条)。つまり、「不貞行為かどうか」という問いと、「誰かがお金を支払う義務を負うかどうか」という問いは、根拠となる条文からして別のものです。

二つの説明が混ざっている

 冒頭で触れたとおり、世の中の説明には二つの言い方が混在しています。ひとつは「その行為は不貞行為という枠に入らない」という説明、もうひとつは「不貞行為にあたるとしても、接客した側に賠償責任までは生じない」という説明です。前者は行為の性質の話、後者は責任を負う人の話であり、片方の結論をもう片方にそのまま持ち込むことはできません。この記事でも、両者は分けて扱います。

この記事で扱わないこと

 離婚をするかどうか、離婚の手続をどう進めるかは、ここでは扱いません。また、具体的な金額の水準にも触れません。事情によって幅が大きく、数字だけが独り歩きしやすいためです。

業種の名前では答えが決まらない

看板と実際のサービスは一致しないことがある

 「デリバリーヘルスだから」「メンズエステだから」「キャバクラだから」という業種の呼び名は、実際に何が行われたかを直接には示しません。法律上の営業区分と、業界で使われている呼び名や、店ごとのサービス内容は、そのまま重なっているわけではないからです。同じ呼び名の店でも提供される内容は異なりますし、逆に、性的なサービスを予定していない業態でも、個々の場面で線を越えることは起こり得ます。評価の対象になるのは看板ではなく、実際に何があったかです

「本番の有無」だけでも決まらない

 「挿入行為がなかったのだから問題ない」と考える方は少なくありません。しかし、いわゆる性交類似行為も性的関係の範囲に含まれると理解されており、裁判例の中には、風俗店で受けた性的サービスについて、挿入の有無は結論を左右しないという趣旨の判断を示したものもあります。行為の一部分だけを取り出して線を引く考え方は、実務の見方とはずれることがあります。

対価が支払われていることの意味

 お金を払って受けたサービスであることは、それだけで不貞行為という評価を打ち消すものではありません。ただし、対価の存在は、後で述べる「接客した相手が責任を負うか」という別の場面では意味を持つことがあります。同じ事情が、場面によって効いたり効かなかったりするという点は、この分野を分かりにくくしている原因の一つです。

関係が店の枠の中にあるか、外に出ているか

四つの段階に分けて考える

 業種の名前の代わりに使えるのが、関係が店の枠からどれだけ外に出ているか、という物差しです。実務では、次のような段階で見ていくことになります。

段階起きていること手がかりになりやすいもの
第1段階店の予約と受付を通して来店し、店が定めたサービスの範囲で終わっている予約履歴、店のアプリ、支払いの記録
第2段階来店の枠組みは店を通しているが、店の定めた範囲を超えた行為があった同上に加え、店との間の連絡や精算のやり取り
第3段階店を通さない個人的な連絡が始まり、営業時間の外でもやり取りがある個人の連絡先でのメッセージ、私的な通話の記録
第4段階来店と切り離して会うようになり、関係が続いている宿泊や旅行の記録、贈り物、共通の予定


段階が上がると何が動くのか

 この段階が上がるとき、動くのは一つではありません。配偶者との関係での評価、接客した相手が責任を負うかどうか、そして手元に残る記録の種類が、それぞれ別の速さで変わっていきます。

段階配偶者との関係での評価接客した相手の責任
第1段階から第2段階性的関係があれば不貞行為と評価される可能性がある判断が分かれており、責任を認めなかった裁判例もある
第3段階同上責任が認められる方向に傾きやすくなる
第4段階通常の不貞と同じように扱われやすい通常の交際相手と同様に扱われやすい


境目は店ではなく記録に表れる

 どの段階にいるのかを外から確かめるとき、手がかりになるのは店の説明ではなく、やり取りがどの経路を通っていたかです。店の予約システムや店のアカウントを通じたやり取りなのか、個人の連絡先を通じたやり取りなのかという違いが、段階を分ける最も分かりやすい目印になります。営業時間の外にやり取りが及んでいるか、金銭が店を通らずに動いているかも、同じ方向を指す事情です。

接客した相手に請求できるかは、別に判断される

裁判所の判断は分かれている

 東京地方裁判所平成26年4月14日判決は、クラブのママと顧客との間に長年の関係があった事案で、それがいわゆる枕営業と認められる場合には、商売として応じたにすぎず婚姻共同生活の平和を害するものではないとして、妻から店側の女性に対する請求を認めませんでした。他方、同じ東京地方裁判所では、その後、枕営業と称されるものであっても、婚姻共同生活の平和の維持という利益を侵害する以上は不法行為が成立するとした判断も示されています。

 最高裁判所が統一した判断を示した領域ではなく、事案の中身によって結論が動きます。「請求できない」と決めつけることも、「当然に認められる」と考えることも、いずれも実際の状況からは離れてしまいます。

既婚だと知っていたかという関門

 接客した相手にお金を請求する場合、請求する側は、相手が既婚だと知っていたか、または知ることができたことを示す必要があります。店の利用にあたって客が既婚かどうかを確認する仕組みが置かれていないことは多く、この点を示すのが難しい場面があります。逆に、個人的な連絡が続いていた場合には、家庭の事情が話題に上っていることも多く、示しやすくなります。ここでも、先ほどの段階が効いてきます。

相手に請求できないことと、配偶者の責任は別

 接客した相手への請求が難しいという結論が出ても、それは配偶者本人の責任を軽くするものではありません。配偶者に対する請求は、離婚をするかどうかにかかわらず検討できます。この点の詳細は、配偶者への請求を扱う記事に譲ります。

接客業として働く側に通知が届いた場合

源氏名あてに書面が届くことがある

 店を通じて、あるいは個人の連絡先に、源氏名あての通知書が届くことがあります。この段階では、相手方が本名も住所も把握していないことが少なくありません。落ち着いて対応の方針を決めるまでの間、本名や住所を自分から明かさずに窓口だけを立てるという進め方が取られることもあります。慌てて身分証を示したり、その場で金額に合意したりする前に、何を根拠に請求されているのかを確かめることが先になります。

「営業の一環だった」という説明の位置づけ

 この説明は、先ほどの裁判例のとおり通用する場面もありますが、当然に通るものではありません。実際には、店を通さない連絡が続いていた、営業時間の外で会っていた、金銭が店を経由していなかったといった事情が示されると、説明が届きにくくなります。自分がどの段階にいたのかを、記録に照らして具体的に説明できるかどうかが分かれ目になります

店に任せることの限界

 店に相談すること自体は自然な流れですが、次の点は分けて考える必要があります。

  • 配偶者からの請求は、店ではなく個人に向けられたものであること。
  • 店の顧問弁護士は店のための代理人であり、働いている個人の代理人とは限らないこと。
  • 店と客との間の違約金や精算の話と、配偶者からの慰謝料請求は、別々の話であること。


男女が入れ替わる場面

ホストクラブや女性向けの店でも枠組みは同じ

 世の中の解説は、夫が客である場面を前提に書かれたものが大半です。しかし、ここまで述べた考え方は、配偶者がホストクラブや女性向けの店に通っていた場面でもそのまま当てはまります。貞操義務は夫婦の双方が負うものであり、業態や性別によって判断の枠組みが変わるわけではありません。

色恋営業のやり取りが持ち出されたとき

 接客業では、来店を促すための親密なメッセージがやり取りされることがあります。これが後から取り出されると、恋愛関係そのもののやり取りに見えることがあります。もっとも、文面の親密さだけでは、関係が第3段階に移っていたことまでは示しきれません。どのアカウントから、どの時間帯に、どのような頻度で送られていたのかという経路の情報が、あわせて見られることになります。請求する側にとっても、請求を受けた側にとっても、この点は同じ意味を持ちます。

よくあるご質問

一度だけの利用でも不貞行為になりますか。

 回数は、不貞行為かどうかを決める要件ではありません。一度の性的関係でも評価の対象になり得ます。他方で、回数や期間は、金額を考えるうえでの事情としては影響します。回数の位置づけについては、回数と金額の関係を扱う記事をご覧ください。

相手の源氏名しか分からないのですが、請求できますか。

 交渉や訴訟を進めるには、相手方の氏名と住所が必要になります。源氏名しか分からない場合には、まず特定の作業が入ることになり、手続と時間の見通しが変わります。特定の方法については、相手方が分からない場合の記事に譲ります。

店を辞めれば、請求されなくなりますか。

 退職によって、すでに生じた責任の有無が変わるわけではありません。もっとも、辞めるかどうかは生活の問題であり、請求への対応とは切り離して考えたほうが判断しやすくなります。なお、損害賠償の請求権には期間の制限があります(民法724条)。

まとめ


  1. 「不貞な行為」は法律上の言葉であり、日常語の「浮気」とは範囲が異なります(民法770条1項1号)。
  2. お金の請求の根拠となるのは不法行為の規定であり、行為の評価とは別に検討されます(民法709条、710条)。
  3. 業種の名前や本番行為の有無だけでは結論は決まらず、実際に何があったかが見られます。
  4. 関係が店の枠の中にあるか外に出ているかという段階が、実務上の目安になります。
  5. 接客した相手に責任が生じるかについては、裁判所の判断が分かれており、事案によって結論が動きます。
  6. 相手への請求が難しいことと、配偶者本人の責任とは、別々に考える必要があります。
  7. 請求を受けた側は、身分の情報を明かす前に、請求の根拠と自分がいた段階を確かめることが先になります。
  8. 損害賠償の請求権には期間の制限があります(民法724条)。


風俗店・接客業に関わる男女間のトラブルでお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。この分野は、同じ出来事でも立場によって見え方が大きく変わり、インターネット上の説明だけでは自分の状況に当てはめにくいところがあります。

 配偶者の行動を知って請求を検討されている方も、通知書を受け取って対応に困っている方も、まずは事実関係と手元の資料を整理することから始まります。おひとりで抱え込まず、早い段階でご相談いただければと思います。

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Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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