【不貞慰謝料】マッチングアプリで出会った相手が既婚だった
この記事は2026年9月時点の法令に基づいて解説しています。示談書の文言や事実関係によって結論は変わりますので、個別のご判断にあたっては弁護士にご確認ください。
示談書を取り交わして一度は区切りをつけたはずなのに、相手が約束を守らなかった。連絡を取らないと決めていたのに連絡を続けていた、口外しないと決めていたのに周囲に話していた。そうした場面で頼りになるはずなのが、示談書に書かれた違約金の条項です。
ただ、違約金の条項は「約束を守らせる装置」ではありません。約束が破られたときに、その出来事を金銭の請求に置き換えるための取り決めです。置き換えられる範囲には限りがあり、書いた金額がそのまま通るとも限りません。
この記事では、示談の後に約束が破られた場面を想定して、違約金の条項がどこまで働き、どこから先は別の手段が必要になるのかを順に整理します。請求する側からも、請求を受けた側からも読めるように書いています。
この記事で扱うことと、扱わないこと
この記事が扱うのは、すでに示談書があり、その約束が破られた後の場面です。条項をこれから作る段階の話ではありません。
条項の文言の作り方、示談書全体の構成、分割払いの取り決め、清算条項の射程、慰謝料そのものの金額の考え方は、それぞれ別の記事で扱っているため、ここでは簡単に触れるにとどめます。
- 【不貞慰謝料】不貞の示談書に入れるべき条項|過去の清算と将来の約束を分ける
- 【不貞慰謝料】接触禁止条項の作り方と、実際どこまで守らせられるか
- 口外禁止条項はどこまで効くのか|違反されたときにできること
- 【不貞慰謝料】清算条項はどこまで効くのか|その一行で消えるもの・残るもの
- 【不貞慰謝料】分割払いの条件をどう設計するか
違約金の条項は何をする取り決めなのか
示談書に「この約束に違反した場合は違約金として一定額を支払う」と書いたとき、その定めは民法420条3項により、損害賠償の額をあらかじめ決めておいたもの(賠償額の予定)と推定されます。
この推定には実務上の意味があります。賠償額の予定として扱われる場合、請求する側が示すのは「約束に違反した事実」であって、そこからどれだけの苦痛や実害が生じたかを一つひとつ立証することまでは求められないと考えられています。損害の中身をめぐる争いをあらかじめ避けておく、というのがこの条項の役割です。
言い換えると、違約金の条項があることで変わるのは「何を証明するか」と「いくらを請求するか」の部分です。約束を守らせる力が新たに生まれるわけではありません。
| 場面 | 違約金の定めがないとき | 違約金の定めがあるとき |
|---|---|---|
| 請求の土台 | 約束違反による債務不履行、または新たな不法行為 | 示談書で定めた約束への違反 |
| 証明する対象 | 違反の事実と、生じた損害の中身や程度 | 違反の事実 |
| 請求できる額 | 証明できた損害の範囲 | 定めた額(過大な部分は制限されることがあります) |
| 争いになりやすい点 | どれだけの損害が生じたのか | 違反にあたるのか、その額が相当か |
破られたと気づいたら、最初に確かめる三つのこと
どの条項に触れたのか
示談書には、性質の異なる約束が同居していることが少なくありません。接触をしない、口外をしない、期日までに支払う、といった約束はそれぞれ別のものです。違約金の条項が「すべての条項の違反」に対応しているのか、特定の条項の違反だけに対応しているのかで、請求できるかどうかが変わります。
まず読むべきは、違約金の条項そのものよりも、どの条項の違反に対して違約金が結び付けられているかという部分です。
いつの出来事なのか
示談が成立した日より前の出来事は、違約金の対象になりません。約束は署名の時点から先に向かって働くものだからです。示談の前から続いていた事情が後になって判明した場合、それは違約金の問題ではなく、清算条項の射程の問題として整理されます。
どのようにして知ったのか
請求の場面では、違反の内容と同じくらい、それをどう知ったかが問われます。取得の方法によっては、後の交渉や裁判で使いにくくなったり、こちら側の行為が別のトラブルとして持ち出されたりすることがあります。気づいた直後に動く前に、いったん整理しておく価値があります。
一つ目の関門|何が「違反」にあたるのか
違約金の条項が働く出発点は、約束に違反した事実です。ここでつまずく例が実際には多く、争いの中心は金額よりも「これは違反なのか」という点に集まりがちです。
偶然その場に居合わせた場合
同じ路線を使っている、生活圏が重なっている、共通の知人の集まりに双方が参加していた。こうした場面で顔を合わせたことが「接触」にあたるかは、条項の書き方によります。意図的な接近を禁じる趣旨で書かれていれば、偶発的に居合わせただけでは違反と評価されにくいと考えられます。
仕事上のやり取りが避けられない場合
同じ職場や取引関係が続いている場合、業務上の連絡まで一切禁じる内容だと、そもそも守ることが難しい約束になります。業務に必要な範囲を例外としていたかどうかが、後から効いてきます。例外の定めがないまま形式的に違反があったと主張すると、条項の趣旨をめぐる争いに発展しやすくなります。
第三者を介したやり取り
本人同士は連絡していないものの、共通の知人を通じて近況が伝えられていた、といった形です。条項が禁じているのが「連絡を取ること」なのか「関係を続けること」なのかによって評価が分かれます。文言が狭ければ、間に人を挟んだやり取りは対象外と読まれる余地があります。
二つ目の関門|定めた額がそのまま通るとは限らない
「増減することができない」という文言が外れたこと
民法420条1項には、改正前は「この場合において、裁判所は、その額を増減することができない」という後段が置かれていました。この部分は2017年の改正で削除されています。削除の理由は、改正前から公の秩序に反する内容の定め(民法90条)は無効になると解されており、裁判所が一切介入できないという読み方は実態に合わなかったためと説明されています。
つまり、条項に書いた金額が、そのまま自動的に認められるわけではないという前提で考えておく必要があります。
過大かどうかはどう見られるのか
判断の材料になるのは、禁じた行為の内容と、そこから想定される損害の大きさとの釣り合いです。一度連絡を取ったという程度の違反に対して、本体の慰謝料を大きく上回る金額が定められている場合、その釣り合いが問われます。金額をどう決めるかという設計の側の話は【不貞慰謝料】違約金条項|高く設定すれば安全とは限らないで扱っていますので、そちらをご覧ください。
一部だけが効力を認められないこともある
裁判例の中には、違約金の定めそのものは有効としながら、金額のうち相当な範囲を超える部分について効力を認めなかったものがあります。条項の全部が無効になるのではなく、線が引き直されるという形です。請求する側から見れば、高い金額を書いておけば安心とは限らないということになり、請求を受けた側から見れば、額を争う余地が残されているということになります。
三つ目の関門|何回分を数えられるのか
1回あたりと書いてあるかどうか
「違反した場合」とだけ書かれている条項と、「1回につき」と書かれている条項とでは、積み上げ方が変わります。前者は、複数回の違反があっても1回分の請求と読まれる可能性があります。後者は回数を数えることが前提ですが、今度は何をもって1回と数えるのかが問題になります。
関係が続いていた期間をどう数えるか
連絡のやり取りが続いていた場合、通信の1件ごとに数えるのか、一連の関係を1つと見るのかで結論が大きく動きます。回数を積み上げた結果として総額が膨らむと、先ほどの「額の相当性」の問題に戻ってくることになります。実務上は、数え方と総額の両方を見据えて請求の組み立てを考えることになります。
条項の効力が終わる場面
接触を禁じる約束は、婚姻関係が続いていることを前提に置かれていることが多くあります。その後に離婚が成立するなど前提が変わった場合、条項の効力がどこまで残るのかが争点になります。期間を定めていた場合は、その期間を過ぎた後の出来事は対象外となります。
四つ目の関門|支払ってもらえないとき何ができるか
違反が認められ、金額にも争いがないとしても、相手が支払わなければ請求は実現しません。ここが、違約金の条項の限界が分かりやすく表れる場面です。
示談書だけでは差押えまで進めない
示談書は当事者間の契約書であり、それ自体は強制執行の根拠になりません。相手が任意に支払わない場合は、あらためて訴訟を起こして判決を得るなど、執行の根拠となる書面を取得する手続が必要になります。
公正証書にしていた場合
強制執行を受け入れる旨の文言を付した公正証書を作成していた場合は、訴訟を経ずに手続を進められることがあります。ただし、民事執行法22条5号により、この方法の対象になるのは金銭の支払いなどに限られます。接触しない、口外しないという約束そのものは対象外で、違約金という金銭の部分だけが対象になり得るという構造です。作成の手順や費用については【不貞慰謝料】公正証書の作り方・費用・当日の流れをご覧ください。
「やめさせる」ことを求めたい場合
違約金を受け取ることよりも、行為をやめさせることを望む方は少なくありません。この場合は、その不作為を内容とする判決などを得たうえで、民事執行法172条1項の間接強制という手続を使うことが考えられます。裁判所が、履行しないときは一定額を支払うよう命じる方法です。同条4項は、この支払いがあった場合でも損害額がそれを上回るときは差額の賠償請求を妨げない旨を定めています。
いずれにしても、手元の示談書だけで進められる範囲と、裁判所の手続が必要になる範囲は別だという点は押さえておきたいところです。
| 求めたいこと | 手元の示談書だけでできること | 別の手続が必要になること |
|---|---|---|
| 違約金を支払わせる | 書面や交渉による請求 | 支払いがないときの訴訟、その後の差押え |
| 接触や口外をやめさせる | 中止の申し入れ | やめることを内容とする判決などの取得と、その後の間接強制 |
| 将来の違反に備える | 条項の確認と記録の保存 | 裁判所を通じた手続の検討 |
違約金と、あらためての慰謝料は両方請求できるのか
賠償額の予定と違約罰の違い
違約金が賠償額の予定として扱われる場合、その金額は損害賠償の代わりに位置付けられます。そのため、実際の損害が定めた額を上回っても、原則としては予定した額の範囲にとどまると考えられています。これに対し、違約金を制裁として定め、損害の賠償は別途求められるという趣旨(違約罰)であることが読み取れる場合は、扱いが変わります。民法420条3項の推定は、あくまで推定です。
示談後の新たな関係は別の問題として扱われる
示談で清算されたのは、示談の時点までに生じていた事柄です。示談の後にあらためて関係が生じた場合、それは新たな出来事として評価されるのが一般的な考え方です。したがって、違約金の請求とは別に、あらためての慰謝料請求が問題になることがあります。
二つが重なる部分の調整
もっとも、同じ出来事について二重に受け取れるわけではありません。裁判例の中には、あらためての慰謝料額を認めたうえで、すでに認めた違約金の分を差し引いて残りの支払いを命じたものがあります。違約金と慰謝料は名目が違うだけで、同じ損害を埋める性質を持つ部分があるためです。請求の組み立てを考えるときは、この重なりを意識しておく必要があります。
いつから請求でき、いつまで請求できるのか
支払いの期限を決めていなかった場合
違約金の条項には、金額は書かれていても支払期限が書かれていないことがあります。期限の定めがない債務については、民法412条3項により、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うとされています。実務上は、請求書を送った日を起点として遅延損害金を計算することになります。請求の日付が残る方法で通知しておく意味は、ここにもあります。
請求できる期間
違約金は示談という契約に基づく債権なので、不法行為の期間制限(民法724条)ではなく、民法166条1項の考え方が基本になります。ただし、示談で確定した債権の期間の数え方については見解が分かれる部分があり、短く見積もった判断はおすすめできません。違反に気づいた時点で、時間の経過を前提に動き方を考えたほうが安全です。
請求を受けた側から読み直すと
ここまでは主に請求する側の視点で整理してきましたが、同じ条項は、請求を受けた側にとっての反論の手がかりでもあります。
事実そのものを争う
まず問われるのは、違反があったと言えるだけの材料が示されているかです。伝聞や推測だけを根拠に高額の請求が届くことは珍しくありません。争点を金額の話に移す前に、事実の特定がされているかを確認することになります。
条項の射程を争う
違反にあたるとされている行為が、その条項の禁じている範囲に本当に含まれるのか、という角度です。文言が広く書かれていても、条項全体の趣旨や示談に至った経緯から読むと、そこまでは含まれないと解される場合があります。
額を争う
事実も射程も争えない場合でも、金額の相当性は残された論点です。前述のとおり、定めた額のうち相当な範囲を超える部分について効力が認められない余地があります。署名してしまったのだから全額を支払うほかない、と即断する必要はありません。
弁護士に相談する意味
違約金の問題は、示談書の文言、起きた出来事、示せる材料の三つがそろって初めて形になります。どれか一つだけを見て結論を出すのが難しい分野です。
請求する側であれば、請求できる範囲と、そのために必要な材料を早い段階で把握しておくと、無理のある請求を避けられます。請求を受けた側であれば、支払う前に争える点があるかどうかを整理しておくことで、応じる範囲を検討しやすくなります。当事務所では、示談書の内容を確認したうえで、現在の状況で何ができるかをお伝えしています。
よくあるご質問
示談書に違約金の定めがない場合、約束を破られても何も請求できないのでしょうか
違約金の定めがないだけで、約束そのものが無意味になるわけではありません。約束に違反したことによる損害の賠償を求めることは考えられます。ただしその場合は、違反の事実に加えて、どのような損害がどの程度生じたのかを示す必要があり、その点が争いになりやすくなります。
相手が違反を認めません。どのような材料があれば請求できますか
一律の基準はありませんが、いつ、どこで、誰と、どのような接触があったのかを特定できる材料が中心になります。断片的な情報しかない段階で請求を先行させると、相手に否認の準備の時間を与えることにもなりかねません。材料の集め方自体に問題があると、後で不利に働くこともあるため、進め方は慎重に検討したほうがよい場面です。
一度違約金を受け取ったら、その後の違反については請求できなくなりますか
条項の書き方によります。1回ごとに違約金が発生する趣旨であれば、その後の違反についてあらためて問題にする余地があります。一方、受領の際に「今後は一切請求しない」という趣旨の書面を交わしていた場合は、その範囲に縛られることになります。受け取るときの書面の文言も、後から効いてきます。
まとめ
- 違約金の条項は、約束を守らせる仕組みではなく、破られたときに金銭の請求へ置き換える仕組みです。
- 民法420条3項により、違約金は損害賠償額の予定と推定され、損害の中身を細かく立証する負担が軽くなります。
- 最初に確認するのは、どの条項の違反に違約金が結び付けられているか、という点です。
- 実務上の争点は、金額よりも「その行為が違反にあたるか」に集まりやすい傾向があります。
- 民法420条1項の「増減することができない」という文言は削除されており、書いた額がそのまま通るとは限りません。
- 裁判例には、条項自体は有効としつつ、相当な範囲を超える部分の効力を認めなかったものがあります。
- 回数の数え方は条項の書き方次第で、1回あたりと書かれているかどうかで積み上げ方が変わります。
- 示談書だけでは差押えに進めず、公正証書による方法も金銭の支払いなどに限られます。
- 行為をやめさせたい場合は、判決などを得たうえで間接強制という別の手続を検討することになります。
- 違約金と、あらためての慰謝料が重なる部分は調整されるため、名目を分ければ二重に取れるわけではありません。
- 請求を受けた側には、事実、条項の射程、金額という三つの争い方が残されています。
ご相談を検討されている方へ
示談後に約束が破られた場面は、請求する側にとっても、請求を受けた側にとっても、感情が動きやすい局面です。その状態で相手と直接やり取りを重ねると、話が本筋から離れていきやすくなります。
示談書の文言と、実際に起きたことを突き合わせれば、請求できる範囲と、そこから先は別の手続が必要になる範囲がある程度は見えてきます。判断に迷われている段階でも、状況の整理からお手伝いできます。
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