慰謝料が認められない典型4パターン|請求しても通らない場合
「交際していた相手が未成年だと後から分かりました。話をつけて書面も交わしましたが、これで終わったと言えるのでしょうか」。反対の立場からは、「子どもが年上の相手と金銭のやり取りをしていたようです。親として、どこまで関与できるのでしょうか」。男女間のトラブルで相手方が未成年である場面のご相談は、双方の側から寄せられます。
インターネット上の解説では、「未成年者との示談は親権者の同意がなければ取り消されるおそれがある」「だから親権者と話をすべきだ」と説明されることが多く、この説明自体が誤っているわけではありません。ただ、実際に迷うのはその先です。誰の同意を、どのような形で取れば足りるのか。相手の親と連絡が取れないときはどうするのか。取り消されたとき、すでに渡した金銭はどこまで戻るのか。こうした点まで書かれている解説は多くありません。
加えて、2026年4月1日に施行された改正民法により、「誰の同意が必要か」を定める条文そのものが整理し直されました。この記事では、交際をめぐる金銭の授受、返金の要求、慰謝料の請求といった民事の場面を前提に、合意が取り消される仕組みと、親権者の関与をどう取り付けるかを整理します。刑事上の問題は当コラムの別記事で扱っており、ここでは触れる範囲を限っています。
この記事が扱う場面
はじめに、言葉の意味を確認しておきます。成年年齢は2022年4月1日から18歳です(民法4条)。ここでいう未成年者とは18歳未満の方を指し、18歳・19歳の方は未成年者ではありません。20歳を基準にした古い説明が残っているため、この点は最初に押さえておく必要があります。
この記事が想定しているのは、次のような場面です。
- 交際の中で渡した金銭について、返還を求められている、または求めたい場面。
- 関係を解消するにあたって、金銭の支払いや今後の連絡についての書面を交わす場面。
- 相手の親から連絡があり、支払いや謝罪を求められている場面。
- すでに書面を交わしたのに、後から「取り消す」と言われた場面。
一方、刑事事件としての手続の見通しや処分への影響は、この記事では扱いません。民事の話が片づいたことと、刑事上の問題が片づいたことは、切り離して考える必要があります。
未成年者との合意が取り消される仕組み
出発点になるのは、民法が未成年者の法律行為をどう扱っているかです。
同意がなければ取り消すことができる
未成年者が法律行為をするには、法定代理人の同意を得なければならないのが原則です(民法5条1項本文)。単に権利を得、または義務を免れる法律行為については同意が要りませんが(同項ただし書)、示談や合意書は、金銭を受け取る一方で「今後は請求しない」「連絡しない」といった義務も負う内容になるのが通常ですから、この例外には当たりません。そして、同意を得ずにした法律行為は、取り消すことができます(同条2項)。
取り消せるのは誰か、いつまでか
取り消すことができるのは、未成年者本人、その法定代理人、および承継人です(民法120条1項)。本人が取消権者に含まれる点は見落とされがちです。
期間は、追認をすることができる時から5年、行為の時から20年に制限されています(同法126条)。本人については、成年に達し、かつ取消権があることを知った後が起算点になります(同法124条1項)。相手が16歳のときに交わした書面は、その相手が成年に達した後もしばらくの間、取消しの可能性を残したままになります。期間の経過を待つという発想では、解決までの時間が長くなりすぎます。
取り消されたときに戻るもの・戻らないもの
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされ(民法121条)、給付を受けた者は原則として原状回復の義務を負います(同法121条の2第1項)。
ただし、行為の時に制限行為能力者であった者には例外があり、返還の義務は現に利益を受けている限度にとどまります(同条3項)。受け取った金銭がそのままの形で、あるいは形を変えて残っている分は返す必要がありますが、すでに費消されて残っていない場合には、その分の返還を受けられないことがあります。この扱いは、受け取った側が事情を知っていたかどうかを問いません。
取消しは、こちらが支払った金額を当然に取り戻せることまで意味するわけではありません。取消しを求める側にとっても、取り消される側にとっても、状態が不安定に戻る点では共通しています。
取り消せなくなる場合
以下の場合には、取消しが認められません。
- 単に権利を得、または義務を免れる法律行為であるとき(民法5条1項ただし書)。
- 法定代理人が目的を定めて、または目的を定めずに処分を許した財産を処分したとき(同条3項)。
- 一種または数種の営業を許され、その営業に関する行為をしたとき(同法6条1項)。
- 制限行為能力者が、行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたとき(同法21条)。
- 取消権者が追認をしたとき(同法122条)。
このうち詐術に期待しすぎるのは危険です。単に「もう成人だ」と述べただけ、あるいは年齢の欄に成年である旨を入力させただけといった事情は、それだけでは詐術に当たらないと整理されることが多く、相手を誤信させる目的での積極的な言動があったかどうかが問われます。年齢確認をしていたという事情は、別の問題との関係では意味を持ちますが、取消しを封じる決め手になるとは限りません。
追認については、明示の意思表示がなくても成立する場合があります。追認をすることができるようになった後に、履行、履行の請求、担保の供与といった一定の行為があったときは、異議をとどめた場合を除き、追認をしたものとみなされます(同法125条)。相手が成年に達した後も分割金を受け取り続けていた、支払いを催促していたといった経過は、この観点から意味を持つことがあります。
2026年4月に変わった「誰の同意が必要か」
ここからが、従来の解説では追いつけていない部分です。
条文の置き場所が整理された
従来は、民法818条3項が「父母の婚姻中は、親権は、父母が共同して行う」と定めていました。2024年に成立した民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)が2026年4月1日に施行され、親権の行使方法は同法824条の2に整理されています。同条1項は、親権は父母が共同して行うことを原則としたうえで、一方のみが親権者であるとき、他方が親権を行うことができないとき、子の利益のため急迫の事情があるときを例外として掲げています。
法務省の解説資料は、この規定が父母の婚姻中と離婚後の双方に適用され、両者で親権の行使方法が異なるわけではないとしています。つまり、離婚した父母であっても、双方が親権者と定められている場合には、双方の意思に基づく決定が必要になります。「両親が離婚していれば、親権者である親だけと話せばよい」という説明は、そのままでは当てはまらない場面が出てきました。
もっとも、施行日より前に離婚した父母については、家庭裁判所への親権者変更の申立てを経ない限り、従前どおり一方のみが親権者です。相手方の家庭がどちらに当たるのかは、戸籍の記載で確認することになります。
示談への同意は「日常の行為」に当たらない
民法824条の2第2項は、父母双方が親権者であるときでも、監護および教育に関する日常の行為については単独で親権を行使できると定めています。そこで、示談への同意がこれに含まれるかが問題になります。
この点について法務省の解説資料は、財産管理は監護または教育に関する行為ではない、としています。金銭の支払いや請求権の処分を内容とする合意への同意は、財産に関する法律行為への同意ですから、一方が単独で行える「日常の行為」の範囲には含まれないと考えられます。
「共同して行う」は双方の署名が必要という意味か
共同で行うと聞くと、父母二人の署名が揃っていなければならないように思えますが、実際の運用はもう少し柔軟です。
署名押印が必須とはされていない
法務省の解説資料によれば、「父母が共同して行う」とは、親権の行使が父母の共同の意思で決定されることをいい、一方が他方の同意を得て単独名義で行う場合も含まれます。そして、その他方の同意は黙示のものでもよいとされています。したがって、契約の締結等にあたって父母双方の署名・押印が必須になるわけではありません。改正前の実務では、一方の署名押印をもって他方の黙示の同意を推定する取扱いもありましたが、改正はこれを変更するものではないとも説明されています。
ただし、これは「一方の署名だけで足りる」という意味ではなく、「足りる場合がある」という意味です。後日争いになったとき、黙示の同意があったことを示すのは簡単ではありません。実務的には、双方の署名を得ておくほうが安全です。
一方が無断で行った場合の扱い
共同で行使すべき場面で、父母の一方が他方に無断で子の代理権を行使した場合、無権代理としてその効果は子に帰属しないとされています。ただし、父母の「共同の名義」で行われた場合には、相手方が悪意でない限り効力を妨げられません(民法825条)。「単独の名義」の場合は同条による保護は受けられませんが、権限があると信ずべき正当な理由があるときは、同法110条による保護が問題になります。
書面の末尾に「親権者 父」「親権者 母」と並べて記載しておくことには、この意味での違いがあります。形式の問題に見えて、後から効力を争われたときの結論を分ける部分です。
連絡しても返事がないとき
法務省の解説資料は、父母の一方が他方に協議を求めたにもかかわらず、事柄の性質や父母間の関係に照らして相当な期間内に反応がない場合には、黙示の同意があったと評価できる場面も多いとしています。
ただし、これは父母の間の話です。こちら側が一方の親にだけ連絡し、返事がないことをもって同意があったものとして進めてよい、という趣旨ではありません。こちら側から確定させたいのであれば、次に述べる方法を使うことになります。
宙に浮いた状態を終わらせる催告
取り消されるかどうか分からない状態が続くのは、支払う側にとって負担です。民法は、この状態を終わらせる手段を相手方の側に用意しています。
- 相手が成年に達した後は、その本人に対し、1か月以上の期間を定めて、取り消すことができる行為を追認するかどうか確答すべき旨を催告することができます。期間内に確答を発しないときは、追認したものとみなされます(民法20条1項)。
- 相手が未成年のうちは、その法定代理人に対し、権限内の行為について同じ催告をすることができます。期間内に確答がないときの扱いも同様です(同条2項)。
取消権の期間が過ぎるのを待つのではなく、こちらから期限を区切って確定させる道がある、ということです。期間は1か月以上を定める必要があり、それより短い期間を定めた催告では効果が生じません。また、父母双方が親権者である場合には、催告の宛先も双方としておくほうが無難です。宛先や期間を誤ると、せっかくの催告が意味を持たなくなります。
協議が調わないとき・話が裁判所に移ったとき
当事者の話し合いだけでは決着しない場面のために、制度上の受け皿が用意されています。
家庭裁判所が親権行使者を定める制度
父母の意見が割れて合意が固まらないという事態は、現実に起こります。この場合、特定の事項に係る親権の行使について父母間に協議が調わず、子の利益のため必要があると認められるときは、家庭裁判所が父または母の請求により、その事項について一方が単独で親権を行使できる旨を定めることができます(民法824条の2第3項)。
法務省の解説資料は、この「特定の事項」には親権に基づく法定代理権の行使も含まれ、未成年者の法律行為についての同意権・取消権(同法5条)も対象になるとしています。示談への同意をめぐって父母の意見が割れた場合に、家庭裁判所の判断を経て前に進める道が用意されていることになります。ただし、申立てができるのは父または母であり、こちら側から申し立てることはできません。
訴訟や調停になったとき
未成年者は、法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができません(民事訴訟法31条本文)。訴える相手方は未成年者本人であっても、手続を実際に進める相手は法定代理人になります。
さらに法務省の解説資料は、裁判手続については手続の安定性の観点から、少なくとも訴訟の提起や家事審判の申立てといった裁判を開始する行為は、共同親権者双方の名義で行うか、家庭裁判所の審判等によって親権行使者の指定を受けた父または母が行う必要があると説明しています。交渉の段階よりも、形式が厳しく問われる場面です。
相手の親に請求できるのか
ここまでは、親が「同意する側」として登場する場面でした。これとは別に、親に支払いを求められるかという問題があります。
まず、自己の行為の責任を弁識する能力を備えていなかった未成年者は、賠償の責任を負いません(民法712条)。この場合には、監督義務者が責任を負うことになります(同法714条1項)。責任能力の目安は11歳から12歳前後と説明されることが多く、男女間のトラブルで問題になる年齢層では、本人に責任能力が認められるのが通常です。
本人に責任能力がある場合、714条は適用されません。ただし、監督義務者の義務違反と未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者について民法709条に基づく不法行為が成立するとした最高裁判決があります(最高裁昭和49年3月22日判決)。もっとも、この枠組みで親の責任が認められる場面は限られます。
親が同意者として関与することと、親自身が支払義務を負うことは、別の問題です。親が任意に支払いに関与する形を取る場合には、第三者弁済、保証、併存的債務引受といった複数の形があり、どれを選ぶかで後の扱いが変わります。この点は別のコラムで扱っています。
同時に進む別の問題
相手が18歳未満である場合、民事の話とは別に、刑事上の問題や各都道府県の青少年保護育成条例上の問題が並行して生じることがあります。年齢を知らなかったという事情がどう評価されるか、金銭の授受があったかどうかによって、当てはまる枠組みが変わります。これらは当コラムの別記事で扱っています。
また、金銭の授受を内容とする合意そのものが公序良俗に反して無効と評価される場合もあります(民法90条)。このときは、取消し以前に合意の効力自体が問われることになります。
よくあるご質問
ご相談の場で繰り返し尋ねられる点を 三つ挙げます。
相手が18歳や19歳の場合も、親の同意が必要ですか
成年年齢は18歳ですので(民法4条)、18歳・19歳の方は未成年者に当たらず、同法5条の同意は問題になりません。ただし、社会経験の乏しさや年齢差が、交渉の経過や合意内容の評価に影響することはあります。また、18歳未満を対象とする法令や条例の適用は、成年年齢とは別の基準で決まります。
相手の親に伏せたまま、本人とだけ話を進めても構いませんか
話をすること自体が禁じられているわけではありません。ただし、法定代理人の同意を欠いた合意は、取消しの対象として残り続けます。また、相手が未成年であると分かっていながら親に伏せたまま金銭のやり取りを重ねた経過は、後の交渉や手続において不利に評価されることがあります。
一度取り消されたら、もう請求はできないのですか
取り消されるのは合意であり、その前提にあった請求権そのものではありません。失われるのは、金額、支払方法、清算条項といった取決めの部分です。ただし、すでに支払った金銭の扱いも巻き戻りますので、双方にとって不安定な状態に戻ることになります。
まとめ
- 成年年齢は18歳であり、ここでいう未成年者は18歳未満の方を指します(民法4条)。
- 法定代理人の同意を得ずにした未成年者の法律行為は、取り消すことができます(同法5条1項2項)。取り消せるのは本人、法定代理人、承継人です(同法120条1項)。
- 取消権には、追認をすることができる時から5年、行為の時から20年という期間制限があります(同法126条)。
- 取り消された場合、未成年者側の返還義務は現に利益を受けている限度にとどまります(同法121条の2第3項)。
- 2026年4月1日施行の改正民法により、親権の行使方法は同法824条の2に整理され、父母双方が親権者であるときは共同して行うことが原則とされています。
- 共同して行うとは共同の意思で決定することをいい、双方の署名押印が常に必要という意味ではないと説明されていますが、名義の書き方によって相手方の保護の根拠が変わります(同法825条、110条)。
- 相手方は、1か月以上の期間を定めて追認するかどうかの確答を求めることができます(同法20条1項2項)。訴訟や調停では、未成年者は法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができません(民事訴訟法31条)。
男女間のトラブルでお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。相手が未成年である場面は、話す相手が本人なのか親権者なのか、書面を誰の名義で作るのか、どの時点で合意が確定するのかといった、手続の入口から判断が必要になります。
すでに書面を交わした後に「取り消す」と言われた方も、相手の親から連絡を受けて対応に迷っている方も、進め方を決める前の段階でご相談ください。取り得る手段と、その順序をご説明いたします。


