【不貞慰謝料】接触禁止条項の作り方と、実際どこまで守らせられるか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「示談書に接触禁止条項を入れたいのですが、入れたところで本当に守らせられるのでしょうか」。配偶者の不貞が分かった方から、こうしたご相談をいただくことがあります。一方で、請求を受けた側からも「今後いっさい連絡しないという条項に署名するよう求められた。破ったら違約金を払うとも書かれている」というご相談が寄せられます。

 インターネット上では、違約金を定めておけば抑止力になる、という説明をよく見かけます。その説明自体が誤っているわけではありません。ただ、条項が実際に働くのは、違反があったと分かり、それを示すことができ、金銭という形に変えられたときに限られます。書き方の解説だけを読んでいると、その先の部分が見えにくいままになりがちです。

 この記事では、不貞をめぐる示談書や誓約書に置かれる接触禁止条項について、どう組み立てるかと、合意した後にどこまで実現できるのかを順に整理します。慰謝料の金額の決め方、清算条項、口外禁止条項については、別の記事で扱っています。

この記事で扱うことと、扱わないこと

 先に範囲をはっきりさせておきます。

  • 扱うのは、接触禁止条項の組み立て方と、合意した後に実現できる範囲です。
  • 慰謝料の金額そのものの決まり方は、別の記事で扱っています。
  • 清算条項や口外禁止条項の設計は、別の記事で扱っています。
  • 分割払いの条件や公正証書の使い方は、別の記事で扱っています。
  • 条項の文例やひな型は、当事務所の別のページで公開しています。


 なお、以下は一般的な考え方の整理です。同じ文言でも、当事者の関係や交渉の経緯によって評価は変わります。

接触禁止条項は「命令」ではなく「約束」である

 最初に押さえておきたいのは、接触禁止条項が公的な機関から出される命令とは別のものだ、という点です。

裁判所の判決からは出てこない

 不法行為による損害賠償は、金銭で賠償するのが原則とされています(民法722条1項、417条)。また、裁判所は当事者が申し立てていない事項について判決をすることができません(民事訴訟法246条)。そのため、慰謝料の支払いを命じる判決は出ても、「今後は会ってはならない」という内容の判決を求めることは、通常の不貞の裁判では想定されていません。接触の禁止は、当事者が合意したときにだけ書面に置ける項目です。

 契約の当事者は、法令の制限内で契約の内容を自由に決めることができます(民法521条2項)。接触禁止条項は、この自由の中で作られる約束であり、裏を返せば、相手が合意しなければ成立しません。

ストーカー規制法などの命令とは別のもの

 接近禁止命令や禁止命令といった言葉と混同されることがありますが、これらは法律が定めた要件を満たす場合に、裁判所や公安委員会が出すものです。不貞をしたという事実だけでこれらの命令が出るわけではありません。相手の言動が別の法律の要件に当たる場合の対応は、別の記事で扱っています。

誰と誰の約束かで、効き方が変わる

 接触禁止条項でつまずきやすいのが、「誰が誰に対して約束しているのか」という点です。ここが曖昧なまま署名すると、後で想定と違う結果になります。

約束を交わす相手想定される内容見落とされやすい点
不倫相手との示談書不倫相手が配偶者に接触しないこと配偶者は署名していないため、配偶者の側の行動は縛られない
配偶者との誓約書配偶者が不倫相手に接触しないこと夫婦の間の約束であり、法改正で扱いが変わった
三者で作る合意書双方が互いに接触しないこと全員の署名が要るため、成立までに時間がかかりやすい


署名していない人は縛られない

 当たり前のようでいて、実際の相談で行き違いが起きるのがこの点です。不倫相手との間だけで示談書を作った場合、そこに書かれた義務を負うのは不倫相手です。配偶者の側から不倫相手へ連絡することは、その書面では止められません。関係の再開を心配しているのであれば、配偶者との間にも別の約束を置くか、三者で作るかを検討することになります。

配偶者との約束は、法改正で位置づけが変わった

 かつて民法には、夫婦の間でした契約は婚姻中いつでも一方から取り消すことができる、という規定が置かれていました。この規定があるため、配偶者に書かせた誓約書は後から取り消されるのではないか、という不安が語られてきました。

 もっとも、削除される前から、最高裁は「婚姻中」を実質的にも婚姻が続いている状態と解しており、関係が実質的に壊れている場合には取り消せないと判断していました。そのうえで、令和6年の民法改正によってこの規定は削除され、令和8年4月1日から施行されています。現在は、夫婦の間の約束も、他の契約と同じように扱われることが前提になります。配偶者との誓約書について書かれた解説の中には、改正前の記述のまま残っているものもありますので、日付を確かめて読むことをお勧めします。

作り方(1)何を禁止するかを書き出す

 接触禁止条項に法律で決まった型はありません。だからこそ、書き方によって後の結果が変わります。

手段を並べる

 面会、電話、メール、SNSのメッセージ、手紙といった手段を具体的に並べる形が一般的です。「接触しない」とだけ書くと、どこからが接触なのかで解釈が分かれます。連絡先の削除や、写真などのデータの破棄を併せて約束する例もあります。

第三者を介した連絡をどう扱うか

 直接の連絡だけを禁じても、共通の知人を経由した伝言や、家族を通じたやり取りが残ることがあります。ここまで含めるかどうかは、事案によって判断が分かれます。含める場合でも、相手の交友関係そのものを広く制限する書き方になると、後で条項の合理性が争われる余地が生まれます。

自分から行う接触に限るかどうか

 実務で差が出るのがこの点です。相手から一方的に連絡が来た場合まで違反として扱う書き方にすると、自分では避けようのない出来事で違反になってしまいます。自らの意思で行う連絡や面会に限定する書き方のほうが、後で争いになりにくいと考えられます。

作り方(2)例外と期間を決める

 禁止の範囲を広げるほど強い条項になる、というものではありません。守れない約束は、違反が起きる前提の約束になってしまいます。

同じ職場である場合

 配偶者と不倫相手が同じ職場にいる場合、いっさいの接触を禁じる書き方は現実に合いません。業務上必要な範囲を除く、私的な連絡や面会をしない、といった形に絞る例が多く見られます。異動や退職まで求めることの是非については、別の記事で扱っています。

偶然の遭遇と、手続上必要な連絡

 同じ路線を使っている、生活圏が重なっているといった場合、見かけること自体は避けられません。偶然の遭遇を除外しておくかどうかは、あらかじめ決めておきたい点です。また、支払いに関する連絡や、代理人を通じたやり取りなど、手続上どうしても必要になる連絡もあります。慰謝料を支払った側が他方に負担を求める場面もありますので、正当な理由がある場合を除く、という留保の中身を具体的に書き出しておくと、後の解釈の幅が狭くなります。

いつまで続く約束なのか

 期間を書かない例も少なくありませんが、この条項は夫婦の共同生活の平穏を守るために置かれるものだと理解されています。そのため、離婚に至った後もそのまま効力が続くとは考えにくく、実務上もそのように整理されることが一般的です。離婚を予定している場合には、その時期までと期間を区切って合意する組み立て方もあります。

守らせるまでには三つの関門がある

 ここからが、書き方の解説では触れられにくい部分です。条項に違反があったとき、そこから実際に何かを得るまでには、順に三つの関門があります。

第一の関門 違反があったことを知る

 条項は、違反があったことを自動的に知らせてくれるものではありません。連絡や面会は、外から見えにくい形で行われます。そして、確かめようとして相手の端末を無断で見る、位置情報を取得するといった方法に踏み込むと、今度はこちら側の行為が問題になりかねません。この点は別の記事で詳しく扱っています。

第二の関門 違反があったことを示す

 仮に気づいたとしても、相手が否認すれば、示す材料が要ります。いつ、どこで、誰と何をしたのかが特定できる形の資料が残っているかどうかで、その後の展開は変わります。「会っていたはずだ」という心証だけでは足りません。証拠の集め方と評価については、別の記事で扱っています。

第三の関門 金銭という形に変える

 接触しないという義務は、何かをしない義務です。執行認諾文言を付けた公正証書によって直ちに強制執行できるのは、金銭の一定額の支払いなどに限られています(民事執行法22条5号)。したがって、公正証書にしても、接触しないという義務そのものを強制的に実現できるわけではありません。違反したときに一定額を支払わせる方法もありますが、これにも債務名義が必要です(民事執行法172条1項)。相手が任意に応じなければ、改めて手続を取ることになります。

 この三つを並べると、条項の位置づけが見えてきます。接触禁止条項は、相手の行動を物理的に止める仕組みではなく、違反があったときに何を求められるかをあらかじめ決めておく仕組みです。

違反があったときに動かせるもの

 違反の内容によって、よりどころも、求められるものも変わります。

違反の内容よりどころ求められるもの
違約金の定めがある条項に違反した合意した違約金の定め(民法420条)定めた額。損害額の立証は要しないのが原則
違約金の定めがない条項に違反した債務不履行(民法415条1項)生じた損害。額を示す必要がある
再び不貞行為に至った新たな不法行為(民法709条、719条)改めての慰謝料


 三つ目については補足が要ります。約束を交わしたうえで関係を再開したという経緯は、改めて慰謝料を検討する際の事情として考慮されうるものです。ただし、条項があるからといって金額が自動的に決まるわけではありません。

 なお、二つ目の場面では、どれだけの損害が生じたのかを示すことが実際には難しく、認められる金額が小さくとどまることがあります。違約金を定めておく実務上の意味は、この立証の負担を軽くする点にあります。

違約金をどう考えるか

 違約金は、賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。あらかじめ額を決めておくことで、違反があったときの請求がしやすくなります。

高く定めれば強くなる、とは限らない

 金額に法律上の上限はありません。ただし、内容が公の秩序または善良の風俗に反する法律行為は無効とされており(民法90条)、接触したというだけで著しく高額の支払いを求める定めについては、合理性が認められる範囲を超える部分が無効と判断された裁判例があります。高い金額を書くことと、実際に受け取れることは同じではありません。請求する側から見れば実効性を失う結果になりますし、請求を受ける側から見れば「どうせ無効になる」と考えて署名するのも危うい判断です。

回数の数え方を決めておく

 一回あたりいくら、という定め方をする場合、何をもって一回と数えるのかで争いになることがあります。メッセージ一通ごとなのか、一日単位なのか。この点を書面に残しておくと、後の解釈の幅が狭くなります。

支払えば会ってよい、と読まれない工夫

 違約金だけを定めると、金銭を払えば接触してよいという意味に読まれる余地が残ります。禁止の約束と、違反したときの取り決めは別のものだと分かる書き方にしておくことが考えられます。

求められた側から読み直すと

 ここまでは主に請求する側の視点で整理しましたが、署名を求められた側の見え方も併せて確認しておきます。

応じるかどうかは選べる

 接触禁止条項は合意によって成立するものですから、応じないという選択自体は可能です。ただし、離婚しない前提で交渉が進んでいる場合、関係を断つことは相手にとって重要な関心事であり、拒めば交渉全体が止まることもあります。応じる姿勢を示すことが、金額の話し合いに影響することもあります。

全部か無かではなく、範囲を詰める

 現実的なのは、拒否か全面的な受け入れかの二択ではなく、範囲と例外を詰めていく進め方です。職務上必要な連絡、正当な理由がある場合、相手から一方的に連絡が来た場合の扱い。例外をはっきりさせておくことは、約束する側にとっても、後から違反を主張されにくくなるという意味を持ちます

署名の前に確かめておきたいこと

 禁止される行為の範囲、例外の有無、期間、違約金の額と回数の数え方。この四つは、署名した後で変えることが難しい部分です。内容に不安があるまま署名を急ぐ必要はありません。

弁護士に相談する意味

 接触禁止条項は、書けば効くというものでも、書いても意味がないというものでもありません。どの範囲まで書けば守れる約束になるか、違反があったときに何を求められる形にしておくか、その設計の部分に判断が要ります。

 また、条項だけを取り出して考えると、交渉全体のバランスを見失うことがあります。金額との関係、清算条項との関係、支払方法との関係。書面全体の中でどう位置づけるかを踏まえて詰めていくことが、後の紛争を減らすことにつながります。

よくあるご質問

口約束でも接触禁止の約束として効力はありますか

 合意そのものは口頭でも成立しますが、後になって内容が争われたときに、何をどこまで約束したのかを示すことが難しくなります。禁止の範囲や例外を具体的に決めておく意味からも、書面にしておくことが一般的です。

相手から一方的に連絡が来た場合も違反になりますか

 条項の書き方によります。自らの意思で行う接触に限る形で書かれていれば、受信したこと自体は違反に当たらないと考えられます。もっとも、そこからやり取りが続けば評価は変わります。この点を明確にしておくためにも、条項の文言が重要になります。

離婚した後も条項は続きますか

 この条項は夫婦の共同生活の平穏を守るために置かれるものと理解されており、離婚後もそのまま効力が続くとは考えにくいと整理されています。離婚を前提に交渉している場合には、期間を区切って合意する方法も検討されます。

まとめ


  1. 接触禁止条項は公的な命令ではなく、当事者の合意によって置かれる約束である(民法521条2項)。
  2. 判決で接触の禁止を命じてもらうことは通常想定されておらず、金銭賠償が原則とされている(民法722条1項、417条、民事訴訟法246条)。
  3. 署名していない人は縛られないため、誰と誰の約束かを先に決める必要がある。
  4. 配偶者との間の約束については、令和6年の民法改正により夫婦間の契約取消権が削除され、令和8年4月1日から施行されている。
  5. 守らせるまでには、違反を知る、示す、金銭に変えるという三つの関門がある。
  6. 接触しないという義務そのものは公正証書によって直ちに強制執行できず(民事執行法22条5号)、違反時の支払いを求めるにも債務名義が要る(民事執行法172条1項)。
  7. 違約金は賠償額の予定と推定されるが(民法420条3項)、著しく高額な定めは合理性を欠く部分が無効とされうる(民法90条)。
  8. 求められた側は、拒否か全面的な受け入れかではなく、範囲と例外を詰める進め方を検討できる。


不貞の示談書の作成をご検討中の方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。接触禁止条項をめぐるご相談は、請求する側からも、署名を求められた側からも寄せられます。

 関係を断ちたいとお考えの方には、実際に守れる範囲で条項を組み立てることが結果につながります。署名を求められている方には、範囲と例外を確かめたうえで判断していただくことが、後の負担を減らすことにつながります。どちらの立場であっても、書面を交わす前の段階でご相談いただければ、取れる選択肢は広くなります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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