【不貞慰謝料・請求された側】家族や職場に知られないための実務

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

不貞をめぐる慰謝料の問題では、金額そのものよりも「家族に知られないか」「職場に伝わらないか」のほうが重い、という方が少なくありません。請求を受けた方はもちろん、請求する側でも、親や子ども、勤務先には伏せたまま解決したいという事情はあります。

 ただ、この不安は「隠しきれるかどうか」という問いのままでは扱いにくいものです。知られる場面は一つではなく、場面ごとに、それを動かしているのが自分なのか、相手方なのか、法律上の手続なのかが違うからです。動かしているのが誰かによって、打てる手はまったく変わります。

 この記事では、家族や職場に知られたくないという前提で慰謝料の問題に向き合うとき、どの場面で何ができて、どこから先は自分の意思では動かせないのかを整理します。あわせて、知られないことを最優先に置いたときに生じやすい別の不利益にも触れます。

この記事で扱うこと・扱わないこと

 本記事で扱うのは、慰謝料の問題が進んでいく過程で、家族や勤務先に伝わる可能性のある場面と、その場面ごとの実務的な対応です。

  • 扱うこと。連絡・書面・お金・手続という四つの経路と、それぞれで打てる手。扱うこと。手続に入った後に届け先がどう決まるのかという仕組み。扱わないこと。慰謝料の金額の相場や減額の交渉方法。扱わないこと。相手方に「会社にバラす」と告げられている場合の刑事的な評価や、暴露された後の対応。


 なお、はじめにお伝えしておきたいことがあります。どのような手を尽くしても、家族や職場に一切伝わらないと確約できる方法はありません。この記事で示すのは、伝わる可能性を下げるための段取りと、伝わってしまう場面をあらかじめ知っておくための材料です。

「知られたくない」の中身を先に決める

 同じ「知られたくない」でも、人によって守りたいものは違います。ここが曖昧なままだと、優先順位のつけようがありません。

誰に知られたくないのか

 配偶者なのか、同居する親なのか、離れて暮らす親族なのか、子どもなのか、勤務先なのか。対象によって、伝わりうる経路も、打てる手も変わります。

 たとえば同居する家族が対象であれば、自宅に届く郵便物と自宅にかかる電話が中心の課題になります。勤務先が対象であれば、郵便物よりも、後述する手続上の宛先や、支払いが滞った場合の展開のほうが重い課題になります。離れて暮らす親族が対象であれば、そもそも経路がかなり限られます。

何を知られたくないのか

 ここも分けて考える必要があります。交際や関係があったこと、慰謝料を請求されている(している)こと、支払う金額や支払い方は、それぞれ別の情報です。

 関係そのものは伏せたいが、金銭のやり取りは説明できるという方もいますし、逆に、金額が動くことは隠しにくいので関係の中身に立ち入られたくない、という方もいます。どちらを守るかで、後述する支払い方の選び方が変わってきます。

いつまで伏せておきたいのか

 解決するまでの数か月なのか、その後もずっとなのかでも話が変わります。分割払いを選べば支払いは長期間続きますから、その間ずっと伏せ続けるという前提になります。一括で終えられるのであれば、伏せておく期間は短く済みます。

 この三つを言葉にしておくと、後で条件を選ぶときの物差しになります。

伝わる場面ごとに「動かしているのは誰か」が違う

 ここが本記事の中心です。知られる可能性のある場面を並べ、それぞれを自分が動かしているのか、相手方が動かしているのか、法律上の手続が動かしているのかで仕分けると、できることとできないことがはっきりします。

知られる場面動かしているのはこちらにできること
相手方からの手紙・電話・訪問相手方連絡の窓口を決めて伝える
裁判所から届く書類法律上の手続送達場所の届出をする
支払いのためのお金の準備と受け渡し自分方法と時期を選ぶ
支払いが滞った後の回収手続法律上の手続滞らない条件で合意しておく
相手方が第三者に伝える行為相手方合意の条件として取り上げる
自分の生活の変化や言動自分急な行動を避ける


 自分が動かしている場面は、段取り次第で相当程度コントロールできます。相手方が動かしている場面は、交渉の材料として扱うほかありません。そして法律上の手続が動かしている場面は、こちらの希望とは無関係に進みます。手続に入る前の段階で打てる手が多いのは、このためです。

自分の側で段取りを決められる部分

 まずは自分で決められる範囲から見ていきます。

連絡の窓口を一つにする

 相手方からの連絡が、電話、メール、SNS、郵便とばらばらに来る状態は、それだけ人目に触れる面が増えます。早い段階で「連絡はこの方法でお願いしたい」と伝え、窓口を一本化しておくことには意味があります。

 代理人を立てれば、相手方からの連絡先は代理人の事務所になります。ただし、代理人がついたことを知った後も相手方本人が直接連絡してくることはあり得ますので、連絡が完全に止まると考えないほうが安全です。名義の選び方や、代理人を立てた場合に何が変わるのかについては、別の記事で扱っています。

郵便の受け取り方を指定してもらう

 通知書や内容証明は、同居する家族が受け取ることがあります。ここで知っておくとよいのが、日本郵便の本人限定受取という取扱いです。

 これは、郵便物に記載された名あて人か、差出人が指定した代人一人に限って郵便物を渡す仕組みです。家族であっても、指定されていなければ受け取ることはできません。基本型は郵便窓口での受け取りに限られ、特例型は自宅への配達も選べます。内容証明と組み合わせて差し出すこともできます(取扱いの可否は差出しの際に郵便窓口でご確認ください)。

 注意点は二つあります。この取扱いを選ぶのは差出人であり、受け取る側からは指定できません。また、代人を指定できるのも差出人です。したがって、受け取る側の立場でこれを使いたい場合は、相手方や相手方の代理人に対して「この方法で送ってほしい」と依頼するという形になります。相手方に代理人がついている場合、こうした依頼が通ることは珍しくありません。

 なお、保管期限を過ぎると差出人に返送されますので、到着通知が届いたら早めに手続をしてください。

手元の端末や記録から伝わる面

 相手方とのやり取りが増えるほど、通話履歴やメッセージ、メールの送受信記録は手元に残ります。相談先の名称が着信履歴に残ることもあります。この部分は完全に自分の管理下にありますので、どこにどう残るのかを意識しておくだけでも違います。

 ただし、記録を消すことには別の問題があります。後になって「そのようなやり取りはなかった」と説明できなくなったり、こちらに有利な内容まで失われたりします。人目に触れにくい方法を選ぶことと、記録そのものを消すことは、分けて考えてください。

手続に入ると、届け先は制度が決める

 交渉がまとまらず訴訟や調停に進んだ場合、書類の届け先は自分の希望だけでは決まりません。ここは仕組みを知っておく価値がある部分です。

最初の書類は住所あてに届く

 訴えを起こされた場合、裁判所からの書類は、送達を受けるべき人の住所や居所などに送るのが原則です(民事訴訟法103条1項)。相手方が訴状に記載した住所が自宅であれば、最初の書類は自宅に届きます。

 同居する家族などが代わりに受け取ることも制度上認められていますので(法106条1項)、最初の一通については、弁護士に依頼していても自宅に届くのが通常です。「弁護士に頼めば裁判所の書類も全部事務所に届く」という説明を見かけることがありますが、正確ではありません。

送達場所の届出という仕組み

 もっとも、その後の書類については、届け先を届け出ることができます。民事訴訟法104条1項は、当事者や訴訟代理人は、送達を受けるべき場所を裁判所に届け出なければならないと定めています。届出があった場合、その後の送達は届け出た場所に対して行われます(同条2項)。

 この届出は、実務上は答弁書などに記載する形で行われることが多く、民事訴訟規則41条2項も、できる限り訴状や答弁書に記載してするよう求めています。代理人を立てている場合は、代理人の事務所を送達場所として届け出るのが通常です。これによって、二通目以降の書類が自宅に届かなくなります。

届出書には「勤務先」という選択肢もある

 裁判所が用意している送達場所等の届出の書式を見ると、届け出る場所として「住所」「勤務先」「その他」から一つを選ぶ形になっています。つまり、勤務先は制度上の正規の選択肢の一つです。

 これは裏を返すと、勤務先が裁判所からの書類の宛先になり得るということでもあります。自分から勤務先を届け出る場面は多くありませんが、住所地で書類を受け取れない状態が続いた場合には、こちらの意思とは別に就業場所が宛先とされることがあります(法103条2項)。この点は別の記事で詳しく扱っていますが、受け取らずにいることが、かえって職場に書類が向かう入り口になり得るという点だけは押さえておいてください。

送達受取人を届け出るときの注意

 同じ書式には、送達場所とあわせて送達受取人を届け出る欄があります。自分に代わって書類を受け取る人を指定する仕組みで、送達場所が住所でも勤務先でもない場合には、届出が必要とされています。

 ここで注意が必要なのは、送達受取人を届け出ると、その人があて名になって裁判所から書類が送られ、その人が受け取った時点で自分が受け取ったものとして扱われるという点です。家族に受け取りを頼めば、当然その家族に書類が届きます。知られたくない相手を受取人にすることはできませんし、実際に自分が中身を見ていなくても、受け取ったものとして期限は進みます。

 届出をしないという選択も一見ありそうですが、届出をしなければ最初に送達を受けた場所がその後の宛先になり続けますので、状況が改善するわけではありません。

お金の動きから伝わることがある

 書面と連絡に注意が向きがちですが、実務上見落とされやすいのがお金の経路です。

一括か分割かで残り方が変わる

 一括で支払えば、大きな出金が一度だけ生じます。分割にすれば、金額は小さくなりますが、支払いが終わるまで毎月の記録が残り続けます。家計を共有している場合、どちらが説明しにくいかは事情によって異なります。

 分割を選ぶということは、相手方との関係が支払い終了まで続くということでもあります。その間に連絡が入る機会も、伝わる機会も残ります。支払能力の問題で分割にせざるを得ない場合は別として、伏せておきたいという観点だけで言えば、期間が短いほうが管理はしやすくなります。

振込か手渡しか

 振込であれば、通帳や明細に相手方の名義が残ります。相手方に代理人がついている場合は、事務所の預り金口座あてになることが多く、その場合は法律事務所の名義が残ります。

 現金の手渡しであれば記録は残りませんが、支払った事実を後から示せなくなるという別の問題が生じます。手渡しにするのであれば、受領書を受け取っておき、それをどこで保管するかまで決めておいてください。記録を残さないことと、支払った証拠を持たないことは違います。

支払いが滞ると勤務先が手続に登場する

 ここが、職場に知られたくないという方にとって、実務上いちばん重い部分です。

 合意した支払いが滞り、相手方が判決や公正証書などに基づいて強制執行に進んだ場合、給与が差押えの対象になることがあります。このとき、差押命令は、本人だけでなく勤務先にも送達されます(民事執行法145条3項)。勤務先は法律上「第三債務者」という立場になり、手続に関与することになります。

 さらに、差押命令は、本人と勤務先を審尋しないで発せられます(同条2項)。つまり、事前に本人へ意見を聞く手続はありません。気づいたときには勤務先に書類が届いている、ということが制度上あり得ます。

 支払いの中身や強制執行の詳しい流れは別の記事で扱っていますが、職場に伝わる経路として現実味があるのはここであり、それを避けるうえで効くのは「滞らない条件で合意しておくこと」だという点は、あらためて確認しておく価値があります。無理な条件で早く合意することが、かえって職場に伝わる可能性を高めることがあります。

相手方の言動が経路になる場合

 相手方が家族や勤務先に直接連絡してくる、あるいは「連絡する」と告げてくる場面があります。この場合、こちらが管理できる部分はほとんどありません。できるのは、交渉の条件として取り上げることです。

 示談書に、第三者に口外しない旨の条項を置くことは可能です。ただし、これは当事者間の約束であって、公的な禁止命令とは性質が異なります。合意が成立する前の言動を縛ることはできませんし、違反があったことを確認すること自体が難しいという限界もあります。条項の書き方と限界については、別の記事で詳しく扱っています。

 また、金銭を支払わなければ勤務先に伝えると告げられているような場合には、その言動自体が別の評価を受けることがあります。この点も別の記事で扱っていますので、そうした要求を受けている段階であれば、支払いを決める前に一度ご相談ください。

知られないことを最優先にすると起きること

 ここまで実務的な手当てを見てきましたが、優先順位の話も避けられません。知られたくないという事情は、交渉の場では相手方からも見えています

  • 内容を確かめないまま、示された金額で早く終わらせようとしてしまう。事実と違う点まで認めてしまい、後から訂正しにくくなる。支払える見込みのない分割条件を受け入れてしまい、結果として滞る。伏せることと引き換えに、不利な条項を受け入れてしまう。期限のある書類を放置してしまい、手続だけが先に進む。


 最後の点は特に重要です。書類を受け取らない、返事をしないという対応は、その場では何も起きていないように見えますが、手続はこちらの応答を待たずに進みます。答弁をしないまま判決が出れば、次に来るのは強制執行であり、そこで勤務先が登場します。伏せることを優先した結果として、いちばん伝わりやすい経路に自分から近づいてしまうという逆転が起きやすい場面です。

 期限を落とさないこと、事実関係を確かめたうえで応じることは、伏せておきたいという目的とも矛盾しません。むしろ、早く着地させるほうが、伝わる機会は少なくなります。

すでに知られてしまった場合

 郵便物を家族が開けてしまった、勤務先に連絡が入った、という段階でご相談に来られる方もいます。この場合でも、できることは残っています。

  1. 何がどこまで伝わったのかを確かめる。関係の事実まで伝わったのか、金銭の請求があることだけなのかで、その後の説明の仕方が変わります。伝わったことを前提に、交渉の材料を組み直す。伏せることを条件に譲歩する必要がなくなった分、金額や条件そのものを正面から検討できるようになります。まだ伝わっていない相手を確認する。家族に伝わったことと勤務先に伝わることは別ですので、残りの経路について引き続き手当てをします。


 伝わってしまったこと自体は取り返しがつきませんが、そのことで交渉上の立場が決定的に不利になるわけではありません。慰謝料の金額は、伏せられているかどうかではなく、不貞の事実関係や事情によって決まるものだからです。

請求する側が家族や職場に知られたくない場合

 ここまでは主に請求を受けた側を想定してきましたが、請求する側にも同様の事情はあります。子どもや親に知らせずに解決したい、自分の勤務先に伝わってほしくない、という場合です。

 請求する側には、受ける側にはない選択肢があります。書面を出す時期、宛先、名義、そして訴訟に進めるかどうかを自分で決められるという点です。自分の名義で内容証明を出せば、書面と封筒に自分の住所が記載されます。代理人の名義で出せば、記載されるのは事務所の所在地になります。

 相手方の家族に開封されることを避けたいのであれば、前述の本人限定受取を使うという選択もあります。差出人の側で指定できる取扱いですので、こちらは請求する側のほうが使いやすい仕組みです。

 なお、自分の配偶者に知られずに不貞相手だけへ請求できるかという論点や、訴訟にした場合に記録がどこまで開かれるのかについては、別の記事で詳しく扱っています。

よくあるご質問


郵便局に転居届を出せば、書類を別の場所で受け取れますか

 郵便物の転送は日本郵便のサービスであり、裁判所からの書類を確実に受け取るための手段ではありません。裁判所からの書類の届け先を変えたいのであれば、前述の送達場所の届出によるのが正しい方法です。転送に頼った結果、書類が期限までに手元に届かないことのほうが、実務上は問題になります。

弁護士に依頼すれば、家族に知られずに済みますか

 連絡の窓口が事務所になり、二通目以降の裁判所の書類も事務所あてになりますので、伝わる機会は減ります。ただし、最初の書類は自宅に届きますし、支払いのためのお金の動きや、相手方本人の言動までは管理できません。伝わらないと確約できるものではないという前提でご検討ください。

示談書に「家族には言わないでほしい」と書けますか

 合意ができれば、口外しない相手として特定の人を挙げることは可能です。ただし、合意が成立する前の言動には及びませんし、実際に守られたかどうかを確認しにくいという限界があります。条項を置くこと自体は有効ですが、それだけで安心できる仕組みではありません。

まとめ


  1. 家族や職場に一切伝わらないと確約できる方法はありません。伝わる可能性を下げるための段取りを積み重ねることが実務になります。まず「誰に」「何を」「いつまで」伏せておきたいのかを言葉にすると、優先順位がつけられます。伝わる場面は、自分が動かしているもの、相手方が動かしているもの、法律上の手続が動かしているものに分かれます。連絡の窓口と郵便の受け取り方、お金の動かし方は、自分の側で段取りを決められる部分です。裁判所からの最初の書類は住所あてに届きますが、その後の届け先は送達場所の届出で変えられます。送達受取人を届け出ると、その人が受け取った時点で自分が受け取ったものとして扱われます。支払いが滞って給与の差押えに進むと、差押命令は勤務先にも送達されます。滞らない条件で合意しておくことが、職場に伝わる可能性を下げるうえで効いてきます。


 伏せておきたいという気持ちが強いほど、目の前の要求に早く応じたくなります。しかし、内容を確かめないまま応じた結果として支払いが滞れば、最も伝わってほしくない場所に手続が向かうことになります。急ぐことと、確かめることは両立します。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞をめぐる慰謝料の問題について、請求を受けた方からのご相談も、請求を検討されている方からのご相談もお受けしています。ご家族や勤務先に知られたくないという事情がある場合には、連絡の方法や書面の受け取り方を含めて、進め方をご一緒に検討します。書面に署名される前、また支払いの条件を決められる前の段階でご相談いただければ、選べる方法はそれだけ多く残ります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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