【不貞慰謝料】分割払いの条件をどう設計するか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「毎月これくらいなら払えます、と伝えたのですが、条件が折り合いません」。慰謝料を請求された方から、そうしたご相談を受けることがあります。反対に、請求した側からは「分割に応じること自体はやむを得ないと考えています。ただ、どこまで条件を求めてよいのかが分かりません」という声を伺います。

 分割払いの説明としてよく見かけるのは、総額と回数と毎月の額と支払日を決め、滞ったときの取り決めを置き、必要に応じて書面の形式を整える、という項目の並びです。その説明が誤っているわけではありません。ただ、項目を並べただけでは、どれを求めてどれを譲るのかという判断まではできません。分割払いの条件は互いに結びついていて、一つを動かすと別のところが動くからです。

 この記事では、個々の条項をどのような文言で書くか、書面をどの形式で残すか、支払いが止まった後にどう回収するかには立ち入らず、条件同士の関係と決める順序に絞って説明します。請求された金額そのものが妥当かどうか、分割の申し出に応じるかどうかという判断も、それぞれ別の記事に譲ります。

分割払いの「条件」とは何を決めているのか

一括払いなら決めることは多くありません

 一括で支払う場合に決めるのは、いくらを、いつまでに、どこへ払うかという程度です。支払いが済めばその時点で関係は終わります。ところが分割払いにすると、約束が将来にわたって続くことになります。時間が入ってくると、その間に何が起きるかを考えておく必要が生じ、決めるべきことが一気に増えます。分割払いの条件が多くなるのは、契約の中身が複雑だからではなく、相手が引き受けるものが増えるからです。

条件は三つの目的に分かれています

 合意書に並ぶ取り決めは、ばらばらに存在しているわけではありません。それぞれが次のどれかの目的に向かっています。目的ごとに分けて眺めると、どの条件がどの心配に対応しているのかが見えてきます。

条件が向かう目的置かれることの多い取り決め効いてくる場面
支払いが途切れにくくする開始の時期、一回あたりの額、支払日の置き方、期間の長さ合意の直後から完済まで
途切れたときに動けるようにする滞ったときの扱い、書面の形式、支払う側以外の関与支払いが止まった後
完済までの負担を減らす連絡の方法、入金の確認の仕方、変更があったときの通知支払いが続いている間


 三番目は見落とされがちですが、期間が長い合意ほど効いてきます。毎月入金があるかどうかを確認し続けること自体が、受け取る側にとっては負担になるためです。

法律が分割払いの形を定めているわけではありません

 慰謝料は一括払いが原則だと説明されることがありますが、一括でなければならないと定めた条文があるわけではありません。話し合いによる解決は和解として扱われ、当事者が合意した内容が約束の中身になります(民法695条)。分割払いの条件に決まった型はなく、当事者が組み立てたものがそのまま条件になります。だからこそ、どう組み立てるかが結果を左右します。

三つの目的は互いに交換の関係にあります

期間の長さが他の条件の重さを決めます

 支払いが完了するまでの期間が短ければ、その間に事情が変わる可能性はそれだけ小さくなります。受け取る側から見れば、途切れたときへの備えをそれほど厚くしなくても不安が残りにくいということです。逆に期間が長くなるほど、備えの側を厚くしてほしいという要求が出てきます。備えの重さは、支払う側の人柄や誠意ではなく、期間の長さから導かれている面があります。

一つを断るなら別のところで埋めることになります

 書面の形式を整えることや、支払う側以外の人に関わってもらうことを求められて、それは避けたいと考える方は少なくありません。断ること自体はできますが、断った分の不安は消えず、期間を短くする、開始時期を早める、初回を厚くするといった別の条件に移ってくることになります。すべての条件を断ることもできますが、それは合意しないという意味になり、話し合いによる解決とは別の道に進むことになります。

受け取る側から見ると同じ話が裏返しになります

 受け取る側にとっても、条件を求めるほど合意が遠のくという関係があります。厚い条件を並べて相手が署名しなければ、手元に残るのは合意のない状態です。どの条件が自分にとって本当に必要なのかを絞り込む作業は、譲歩ではなく、合意にたどり着くための設計の一部です。

決める順序を変えると条件の総量が変わります

毎月の額から決めると期間が後からついてきます

 支払う側の多くは、家計から出せる額を計算して「毎月これくらいなら」という数字から入ります。ところが総額が決まっている以上、一回あたりの額を低く置けば、そのぶん回数が増え、終わりの時期が遠くなります。そして期間が延びれば、先ほどの交換関係によって、備えの条件が重くなります。生活を守るつもりで置いた数字が、結果として条件全体を重くしてしまうことがあります。

終わりの時期を先に置くという決め方があります

 順序を入れ替えて、いつまでに終えたいかを先に決め、そこから一回あたりの額を割り出す方法もあります。この順序で組むと、一回あたりの額は上がりますが、期間が短くなるぶん、備えの条件を軽くしてもらう交渉がしやすくなります。足りない部分は、開始時にまとまった額を入れる、賞与のある月に多めに入れるといった形で埋めることが考えられます。

先に固めておきたいのは総額です

 支払い方の話に入ると、金額そのものの話が置き去りになることがあります。分割にしてもらう代わりに総額を上げるという交換が行われることもあり、支払い方から先に決めると、総額の議論に戻りにくくなります。何に対する支払いなのか、既に渡したお金があるならそれをどう扱うのかを含め、総額の輪郭を固めてから支払い方に進むほうが、後の食い違いが生じにくくなります。

五つの数字は独立して動かせません

 分割払いで出てくる数字は、総額、開始の時期、終わりの時期、回数、一回あたりの額の五つです。このうち独立に決められるのは一部で、いくつかを決めれば残りは自動的に定まります。交渉の場で出てくる要望も、言い方が違うだけで同じことを指している場合があります。

動かす数字連動して動くもの相手側から見た変化
一回あたりの額を下げる回数が増え、終わりの時期が遅くなる途切れる可能性を負う期間が延びる
終わりの時期を早める一回あたりの額が上がる受け取り終わるまでの期間が短くなる
開始の時期を後ろにずらす終わりが遅くなるか、一回あたりの額が上がる合意から最初の入金までが空く
総額を下げる同じ期間なら一回あたりの額が下がる受け取る額そのものが減る


「回数を増やしてほしい」は「終わりを延ばしてほしい」と同じです

 回数の話は、支払う側からは負担の話として、受け取る側からは期間の話として受け止められます。同じ要望でも、回数として伝えるか期間として伝えるかで、相手の受け止め方が変わります。要望を出すときは、自分が本当に動かしたいのがどの数字なのかを先に決めておくと、話が噛み合いやすくなります。

負担の山をどこに置くかという調整もあります

 毎回同じ額にしなければならないという決まりはありません。開始時に厚めの額を入れて残りを均す、収入の増える月だけ多めにする、後半に向けて額を上げていくといった形も考えられます。総額と期間を動かさずに負担の感じ方を変える方法として、山の置き方は交渉の材料になります。ただし、将来の収入をあてにした形にすると、その前提が崩れたときに支払いが止まりやすくなります。

決めていない部分には法律の定めが働きます

どこで払うことになるのかが決まっています

 支払いの場所について取り決めがない場合、金銭の支払いは受け取る側の現在の住所で行うのが原則です(民法484条1項)。振込先の口座を決めていなければ、この原則が働く建て付けになります。実際には振込みで行うのが通常ですが、口座を特定していないと、どこへ払えば約束を守ったことになるのかが曖昧になります。

振込手数料の負担も決まっています

 支払いに要する費用は、別の取り決めがなければ支払う側の負担とされています。ただし、受け取る側が住所を移すなどして費用が増えたときは、その増えた分は受け取る側の負担になります(同法485条)。金額としては小さくても、回数を重ねると積み上がりますし、途中で口座が変わったときの扱いを決めていないと、そのたびにやり取りが生じます。

支払日はいつ守られたことになるのかも問題になります

 口座への振込みによる支払いは、受け取る側がその金額の払戻しを請求できるようになった時に効力が生じます(同法477条)。振込みの手続をした日ではなく、相手の口座に入った時点が基準になるということです。支払日を月末に置くと、休日や金融機関の営業時間の関係で日がずれることがあります。決めていない項目がない状態は作れず、決めなかった部分には法律の定めがそのまま当てはまります。何を決めるかだけでなく、決めなかったらどうなるかを知ったうえで選ぶことが、条件を設計するということです。

完済までの間に必要になる取り決め

入金の確認をどちらがどう行うかを決めます

 支払う側は、支払いと引換えに受取証書の交付を請求することができます(同法486条)。もっとも、振込みで支払う場合には金融機関の明細が記録として残るため、毎回の書面のやり取りまでは求めず、明細の保管で足りるとする運用もあります。どちらにするかを決めておかないと、支払ったのに受け取っていないと言われる、あるいは受領の連絡を求めて連絡が続く、といった摩擦が生じます。

住所や口座が変わったときの通知を決めておきます

 数か月から年単位の合意になると、その間に転居や口座の変更が起きることがあります。通知の取り決めがないと、支払う側は振込先が分からなくなり、受け取る側は相手の居場所が分からなくなります。後者は、支払いが止まった場面で大きく響きます。相手の住所が分からなければ、その後に取り得る手段が実際上狭まるためです。

連絡を取りたくない気持ちとの折り合いをつけます

 当事者間で連絡を取らないことを条件に含める場合、支払いのための連絡まで一律に禁じてしまうと、口座の変更や入金の確認ができなくなります。支払いに関する連絡だけを例外に置く、代理人を窓口にするなど、支払いが続く間に必要な連絡経路は残しておく必要があります。連絡を避ける条項そのものの作り方は、別の記事で扱っています。

途中で条件を変えることはできるのか

合意があれば変えられますが、一方的には変えられません

 いったん決めた条件も、双方が納得すれば変更できます。書面の形式を整えている場合でも、当事者が合意して新たな取り決めをすること自体は妨げられません。反対に、収入が減ったからという理由で支払う側が一方的に額を下げることはできず、連絡のないまま入金額を減らせば、約束が守られていない状態として扱われます。事情が変わったときに大切なのは、支払いを止める前に伝えることです。

予定より早く終わらせることは考えられます

 期限は支払う側の利益のために定めたものと推定され、その利益は放棄することができます(同法136条1項・2項)。まとまったお金が用意できたときに前倒しで払い終えるという選択は、一般に妨げられません。ただし、放棄によって相手方の利益を害することはできないとされているため、利息を付ける取り決めがある場合には調整が必要になることがあります。前倒しで完済したときに、清算の書面をどう整えるかもあわせて決めておくと安心です。

見直しの余地をあらかじめ置いておく方法もあります

 長期の合意では、一定の事情が生じたときに協議する旨を入れておく、前倒しの支払いを妨げない旨を入れておくといった形で、後から動かせる余地を残すことがあります。反対に、将来の増額をあらかじめ義務として書き込むと、その前提が崩れたときに約束違反の状態になります。動かせる余地と、守れる約束の範囲は、分けて考える必要があります。

条件を出す前に整理しておきたいこと

支払う側が整理しておくこと

 条件を申し入れる前に、次の点を自分の中で確かめておくと、話が具体的に進みやすくなります。

  1. 支払う総額と、それが何に対するものかの確認。
  2. 開始できる時期と、そこまでに用意できる額。
  3. 一回あたりの額が家計のどこから出るのか。
  4. 収入が途切れたときに何か月分まで続けられるか。
  5. 決めていない項目が残っていないかの見直し。


受け取る側が整理しておくこと

 求める条件を並べる前に、優先順位をつけておくと、交渉が行き詰まりにくくなります。

  1. どの条件が自分にとって欠かせないのか。
  2. どこまでの期間なら確認を続けられるか。
  3. 途切れたときに実際に何ができるのかの見通し。
  4. 連絡を取りたくない範囲と、必要な連絡経路の切り分け。
  5. 条件を厚くした結果、合意に至らない場合にどうするか。


よくあるご質問

分割の回数や期間に法律上の上限はありますか

 民法に、慰謝料の分割払いの回数や期間の上限を定めた規定はありません。当事者が合意すれば長期の分割にすることもできます。もっとも、条件は合意によって作られるものですから、相手が応じなければその条件は成立しません。話し合いがまとまらない場合には、条件を組み立てること自体ができず、別の手続に進むことになります。

分割にすると支払う総額は増えるのですか

 分割にしたというだけで総額が増えるわけではありません。増えるのは、利息を付ける取り決めをした場合や、支払いが遅れて別の負担が生じた場合です。遅れたときの取り扱いについては、別の記事で詳しく扱っています。なお、分割に応じてもらう代わりに総額を上げるという交換が話し合いの中で行われることはあります。

途中で早く払い終えることはできますか

 期限は支払う側の利益のために定めたものと推定されるため、前倒しで払い終えること自体は一般に可能です。ただし、受け取る側の口座や受領の方法を確認せずに送金すると、行き違いが起きることがあります。完済にあたっては、残額がないことをどのように確認するかを決めたうえで進めると、行き違いが生じにくくなります。

まとめ


  1. 分割払いの条件に決まった型はなく、当事者が合意した内容が約束の中身になります(民法695条)。
  2. 条件は、支払いが途切れにくくするもの、途切れたときに動けるようにするもの、完済までの負担を減らすものの三つに分かれます。
  3. 三つは交換の関係にあり、期間が長くなるほど備えの条件が重くなりやすいという結びつきがあります。
  4. 毎月の額から決めると期間が後からついてきます。終わりの時期を先に置く決め方もあります。
  5. 決めていない部分には法律の定めが働き、支払いの場所は受け取る側の現在の住所が原則です(同法484条1項)。
  6. 支払いに要する費用は原則として支払う側の負担ですが、受け取る側の事情で増えた分は受け取る側の負担です(同法485条)。
  7. 口座への振込みは、受け取る側が払戻しを請求できるようになった時に効力を生じます(同法477条)。
  8. 支払う側は受取証書の交付を請求でき(同法486条)、期限の利益を放棄して前倒しで終えることも考えられます(同法136条1項・2項)。


分割払いの条件についてお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。分割払いの条件は、いったん書面にすると後から動かしにくくなります。条件を提示する前、あるいは示された条件に返事をする前の段階でご相談いただければ、選べる形が残っていることが少なくありません。

 一括では応じられず条件を組み立てたいという方も、分割の申し出を受けてどこまで求めるべきか迷っているという方も、どちらの立場からでもご相談いただけます。すでに合意した条件の見直しを検討している場合も、現在の書面の内容を踏まえて、取り得る方法をご説明します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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