会社への不満はどこまで許される?職場秩序を乱す言動への実務対応【人事トラブル相談室13】

桐生英美

桐生英美

テーマ:人事トラブル

今日もありがとうございます。
人事トラブルを整理する「人の専門家」、ハーレー好きの社労士 キャプテン ヒデです。

「上司のやり方に納得できない」
「会社の対応がおかしいと思う」
「もっと現場の意見を聞いてほしい」

職場で、このような不満や意見が出ること自体は珍しくありません。

会社は、多様な考え方を持つ人が集まる場所です。
意見の違いや不満が出ることは、ある意味では自然なことです。

むしろ、現場の声の中には、会社が改善すべき大切なヒントが含まれていることもあります。

ただし、不満の伝え方によっては、会社として放置できない問題になることがあります。

たとえば、

* 会議中に上司の人格を否定する発言を繰り返す
* 飲み会や休憩時間に会社批判を広げる
* 社内チャットで根拠のない噂を流す
* 特定の管理職を名指しして周囲を巻き込む
* 注意を受けても同じ言動を繰り返す

このような状態になると、単なる意見表明ではなく、職場秩序や職場環境の問題として対応が必要になる場合があります。

今回は、会社への不満や上司批判が職場に広がったとき、会社がどのように整理し、どのように初動対応すべきかを考えます。

不満を持つこと自体は問題ではない


まず確認しておきたいのは、会社への不満を持つこと自体は問題ではないという点です。

社員が、業務の進め方、人員配置、評価、上司のマネジメント、会社の方針に疑問を持つことはあります。

また、社員からの問題提起によって、会社の運用が改善されることもあります。

たとえば、

* 業務量が特定の人に偏っている
* 上司の指示があいまいで現場が混乱している
* 評価基準が分かりにくい
* 相談しても返事がない
* 残業が常態化している

こうした声は、会社として丁寧に聞くべき場合があります。

問題は、不満の有無ではありません。

問題になるのは、その伝え方や広がり方によって、職場の信頼関係や業務運営に支障が出ている場合です。

つまり、会社として見るべきなのは、

不満を持っているかどうか

ではなく、

その言動が職場秩序や業務運営にどのような影響を与えているか

という点です。

意見表明と職場秩序違反の境界


意見表明として受け止めるべきものと、会社が注意すべき言動には違いがあります。

たとえば、次のような言い方であれば、会社への改善提案として受け止められる余地があります。

> 「現場ではこの作業に時間がかかっています。手順を見直せないでしょうか」
> 「評価基準が分かりにくいので、説明の機会を設けてほしいです」
> 「この業務量では納期に間に合わない可能性があります」

一方で、次のような言動は注意が必要です。

> 「あの上司は無能だ」
> 「会社は社員のことを何も考えていない」
> 「あの人の言うことは聞かなくていい」
> 「どうせ上は何も分かっていない」
> 「みんなで反対しよう」

内容によっては、単なる不満表明ではなく、人格攻撃、誹謗中傷、業務指示への不服従、職場秩序を乱す言動として問題になる可能性があります。

もちろん、すぐに懲戒処分という話ではありません。

しかし、こうした言動が繰り返され、周囲の社員を巻き込み、業務に支障が出ている場合には、会社として事実確認と指導を行う必要があります。

ハラスメントと職場秩序の問題を分けて考える


このようなケースでは、ハラスメントの問題として整理する場合と、職場秩序の問題として整理する場合があります。

たとえば、特定の上司や同僚に対して、人格を否定する発言や執拗な攻撃が繰り返されている場合には、ハラスメントに該当する可能性があります。

現在、企業には労働施策総合推進法に基づき、職場におけるパワーハラスメント防止措置が求められています。

そのため、相談があった場合には、会社として放置せず、事実確認や必要な対応を行う必要があります。

一方で、すべての不満や批判がハラスメントに当たるわけではありません。

ハラスメントとまでは言えない場合でも、

* 業務指示が通りにくくなっている
* チーム内で対立が生じている
* 事実に基づかない噂が広がっている
* 上司や同僚への信頼が損なわれている
* 周囲の社員が働きにくさを感じている

という場合には、職場秩序の問題として対応が必要になることがあります。

大切なのは、何でも「ハラスメント」と決めつけることではありません。

会社として、
何が起きているのか
誰にどのような影響が出ているのか
業務運営にどの程度支障があるのか
を冷静に整理することです。

会社が確認すべき5つの判断軸


会社への不満や上司批判が問題になったときは、次の5つの軸で整理すると実務対応がしやすくなります。

1. 発言内容|事実に基づく意見か、人格攻撃か


まず確認すべきなのは、発言の内容です。

事実に基づいた業務上の意見なのか。
それとも、人格攻撃や誹謗中傷なのか。

たとえば、

> 「この作業手順ではミスが起きやすいと思います」

という発言は、業務改善の意見です。

一方で、

> 「あの上司は使えない」
> 「あの人は人としておかしい」

という発言は、業務上の問題提起ではなく、人格に向けられた批判になりやすいです。

会社として問題視すべきなのは、不満を持ったことではありません。

業務上必要な意見ではなく、相手を攻撃する言葉になっていないかです。

2. 発言場所|適切な相談ルートを使っているか


次に、どこで発言しているかを確認します。

同じ内容でも、上司との個別面談で伝えるのと、会議中に突然強い口調で言うのとでは、周囲への影響が違います。

また、社内チャット、飲み会、休憩室、朝礼、他部署との会話などで繰り返し広がっている場合には、職場全体に影響が出やすくなります。

会社としては、社員に対し、

* 不満や意見はどこに伝えればよいのか
* 相談窓口はどこか
* 上司に言いにくい場合は誰に相談できるのか

を明確にしておくことが大切です。

適切な相談ルートがない会社では、不満が非公式な場で広がりやすくなります。

3. 頻度|一時的な不満か、繰り返し続いているか


不満の発言が一度だけなのか、繰り返されているのかも重要です。

誰でも、感情的になって不満を口にしてしまうことはあります。

しかし、注意を受けた後も同じ言動を繰り返す場合は、会社として段階的な対応が必要になります。

たとえば、

* 会議のたびに上司批判をする
* 休憩時間に毎回会社批判を広げる
* 社内チャットで何度も不満を書き込む
* 注意を受けても改善しない

このような場合、単なる一時的な感情ではなく、職場秩序に影響する行動として整理する必要があります。

4. 影響|業務やチームに支障が出ているか


会社が特に確認すべきなのは、周囲への影響です。

たとえば、

* 上司の指示に従わない社員が増えている
* チーム内で派閥のような対立が起きている
* 会議が建設的に進まない
* 真面目に働いている社員が疲弊している
* 特定の上司や社員が孤立している
* 業務連絡に支障が出ている

こうした影響が出ている場合、会社として放置することはできません。

職場秩序の問題は、本人と上司だけの問題ではありません。

周囲の社員、チームの業務運営、顧客対応にも影響することがあります。

5. 会社の対応|相談ルートを示し、記録を残しているか


最後に、会社自身の対応も確認が必要です。

社員の言動に問題があるとしても、会社が何も説明せず、いきなり処分に進むのは危険です。

まずは、本人に対して、

* どの言動が問題なのか
* 会社は何を問題視しているのか
* 職場にどのような影響が出ているのか
* 今後どのように改善してほしいのか
* 不満や意見はどのルートで伝えてほしいのか

を具体的に伝える必要があります。

その際には、面談記録や指導記録を残しておくことも大切です。

後から、
「言われていない」
「会社が一方的に決めつけた」
とならないように、会社として丁寧なプロセスを踏む必要があります。

会社が取るべき初動対応


では、実際に職場で不満や上司批判が広がっている場合、会社はどう対応すべきでしょうか。

いきなり処分を考えるのではなく、次の順番で整理することをおすすめします。

1. 事実関係を確認する


まずは、何が起きているのかを確認します。

* いつ
* どこで
* 誰が
* 誰に対して
* 何を言ったのか
* その場に誰がいたのか
* どのくらい繰り返されているのか
* 業務や職場にどのような影響が出ているのか

ここを曖昧にしたまま注意や処分に進むと、後でトラブルになることがあります。

2. 本人から事情を聞く


次に、本人から話を聞きます。

このとき大切なのは、最初から
「あなたが悪い」
と決めつけないことです。

本人には本人なりの背景や不満があるかもしれません。

業務量、上司の対応、評価への不満、人間関係、会社への不信感など、会社側が確認すべき問題が隠れていることもあります。

ただし、背景に事情があったとしても、人格攻撃や誹謗中傷、周囲を巻き込む言動が許されるわけではありません。

会社としては、本人の話を聞いたうえで、問題となる行動を切り分けて整理します。

3. 問題となる行動を具体的に伝える


本人に改善を求める場合は、抽象的に
「職場の空気を悪くしないでください」
と伝えるだけでは不十分です。

たとえば、

> 「〇月〇日の会議で、上司に対して『無能だ』と発言したこと」
> 「休憩室で、根拠のない評価の噂を複数人に話したこと」
> 「注意後も同じ内容を社内チャットに書き込んだこと」

のように、具体的な行動を示します。

そのうえで、

* なぜ問題なのか
* 周囲にどのような影響が出ているのか
* 今後はどのような方法で意見を伝えてほしいのか

を説明します。

4. 改善の機会を与える


最初から懲戒処分を前提にするのではなく、まずは改善の機会を与えることが重要です。

口頭注意で改善が見られる場合もあります。

ただし、問題行動が繰り返されている場合や、影響が大きい場合には、文書で注意することも検討します。

文書注意や指導書を使う場合は、

* 問題となった行動
* 会社が求める改善内容
* 今後の相談ルート
* 改善が見られない場合の対応

を明確にしておくとよいです。

5. 改善しない場合は段階的に対応する


指導しても改善が見られない場合には、段階的な対応が必要になります。

たとえば、

* 再度の面談
* 文書注意
* 始末書の提出
* 配置上の配慮
* 懲戒処分の検討

などです。

ただし、懲戒処分を検討する場合は、就業規則に根拠となる服務規律や懲戒規定があるかを確認します。

また、行為の内容、回数、影響、本人への指導経過、過去の処分例とのバランスなども見る必要があります。

解雇は最終手段です。
不満や批判があったというだけで、すぐに解雇できるわけではありません。

上司が気をつけたいこと


このようなケースでは、上司側の対応も重要です。

部下から批判的な発言をされたとき、上司が感情的に反応すると、対立がさらに大きくなります。

特に避けたいのは、次のような対応です。

* その場で強く言い返す
* 周囲の前で叱責する
* 個人的な感情で評価する
* 「あいつは問題社員だ」と周囲に話す
* 相談や不満をすべて反抗と受け止める

上司は、感情で対抗するのではなく、会社のルールと業務上の必要性に基づいて対応する必要があります。

指導は個別に、冷静に行う。
記録を残す。
必要に応じて人事や経営層に相談する。

これが、問題を大きくしないための基本です。

周囲の社員にも伝えておきたいこと


職場秩序は、当事者だけで守れるものではありません。

周囲の社員が、噂話に同調したり、事実確認のない話を広げたりすると、問題はさらに大きくなります。

会社としては、社員に対して、

* 事実確認のない噂を広げない
* 不満は適切な相談ルートで伝える
* 個人攻撃に同調しない
* 困ったときは上司や相談窓口に相談する

という基本を伝えておくことも必要です。

特に、社内チャットやSNSの利用がある会社では、感情的な投稿や拡散がトラブルにつながることがあります。

職場の不満をどう扱うかは、会社全体のルールとして整えておくべきテーマです。

まとめ|不満を抑え込むのではなく、冷静に整理する


会社への不満や上司への批判があること自体は、直ちに問題ではありません。

むしろ、現場の声として会社が受け止めるべき場合もあります。

しかし、人格攻撃、根拠のない誹謗中傷、執拗な批判、周囲を巻き込む言動が繰り返される場合には、会社として職場秩序の問題として対応する必要があります。

大切なのは、強く抑え込むことではありません。
また、放置することでもありません。

会社が確認すべきなのは、次の5点です。

* 発言内容は、事実に基づく意見か、人格攻撃か
* 発言場所は、適切な相談ルートか、公の場での批判か
* 頻度は、一時的な不満か、繰り返されているか
* 影響は、業務やチームに支障を与えているか
* 会社は、相談ルートを示し、記録を残しているか

問題が小さいうちに整理できれば、職場の不信感や対立を大きくせずに済みます。

当事務所では、中小企業の実情に合わせて、

* 職場秩序を乱す言動への対応方針の整理
* 問題社員との面談設計
* 注意書・指導書の作成支援
* 懲戒処分前の事実整理
* 就業規則の服務規律・懲戒規定の確認
* ハラスメント相談や職場トラブルの初動対応
* 管理職向けの対応研修

についてご相談を承っています。

「社員の不満が周囲に広がっている」
「上司批判や会社批判への対応に悩んでいる」
「注意しても改善しない社員への対応を整理したい」
「処分を考える前に、進め方を確認したい」

このような場合は、早めに事実関係と対応方針を整理しておくことをおすすめします。

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根拠・参考情報

本記事は、以下の法令・行政資料を参考にしています。

* 労働施策総合推進法
職場におけるパワーハラスメント防止措置義務

* 厚生労働省
「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」

* 労働契約法第15条
懲戒処分が権利濫用に当たる場合には無効となる旨の規定

※本記事は、一般的な人事労務実務の考え方を整理したものです。実際の対応は、発言内容、場所、頻度、周囲への影響、会社の規程、過去の指導経過などによって判断が異なります。個別事案では、最新の法令・行政資料を確認したうえで、慎重に対応することが必要です。

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桐生英美
専門家

桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事経験25年、社労士登録30年。労基署対応、労務トラブル対応など、現場実務を中心に支援してきました。経営と法令のバランスを考え、実務としてどう整えるかを経営者と伴走する社労士です。

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