職場の“いじり”はどこからパワハラになるのか/会社が確認すべきポイント

桐生英美

桐生英美

テーマ:労務管理

「冗談のつもりだった」
「場を和ませようと思っただけ」
「本人も笑っていたから大丈夫だと思った」

職場のハラスメント相談では、このような説明を聞くことがあります。

上司や同僚から見れば、軽い冗談やコミュニケーションのつもりだった。
しかし、言われた本人は、職場に居づらさを感じていた。
周囲も笑っていたため、本人は「嫌だ」と言えなかった。

こうしたケースは、決して珍しくありません。

特に注意したいのが、職場の「いじり」です。

一度だけの軽い会話で終われば、大きな問題にならないこともあります。
しかし、特定の人だけが繰り返しいじられる。
本人が嫌がっているのに続く。
周囲に笑い話として広がる。

このような状態になると、単なる冗談では済まなくなる可能性があります。

今回は、職場の「いじり」がハラスメント問題に発展する場面と、会社として確認しておきたい対応について整理します。

ハラスメント相談は依然として多い


厚生労働省が公表した「令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況」では、「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は54,987件でした。
民事上の個別労働関係紛争の相談内容としては、13年連続で最多となっています。

この数字からも、職場の人間関係や言動をめぐるトラブルが、今も多くの会社で起きていることが分かります。

また、職場のパワーハラスメントについては、労働施策総合推進法に基づき、事業主に防止措置を講じることが義務付けられています。中小企業についても、2022年4月1日から義務化されています。

つまり、職場の「いじり」は、単なる人間関係の問題ではありません。

放置すれば、ハラスメント相談、職場環境の悪化、休職や退職、会社の安全配慮や管理体制の問題につながる可能性があります。

まず知っておきたいパワハラの3要素


職場のパワーハラスメントは、厚生労働省の資料では、次の3つの要素をすべて満たすものと整理されています。

1. 優越的な関係を背景とした言動
2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
3. 労働者の就業環境が害されるもの

また、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しないとされています。 ([あかるい職場応援団][3])

こで注意したいのは、パワハラに当たるかどうかは、
「言われた本人が不快に感じたか」だけで決まるわけではない
という点です。

もちろん、受け手がどのように感じたか、どの程度の苦痛を受けたかは重要な判断要素です。

しかし実務上は、それだけでなく、次のような事情を総合的に見ます。

* どのような発言・行動だったのか
* 業務上の必要性があったのか
* 表現や方法が相当だったのか
* どのくらいの頻度で行われていたのか
* 周囲にどのように広がったのか
* 本人が嫌がるサインを示していたのか
* 職場で働きにくさが生じていたのか

そのため、会社としては、
「本人が嫌だと言っているから即パワハラ」
「言った側に悪気がなかったから問題なし」
のどちらかで単純に判断するのは危険です。

大切なのは、事実関係を丁寧に確認し、業務上必要な言動だったのか、相当な範囲を超えていなかったかを整理することです。

「いじり」が職場トラブルに変わる3つの場面


「いじり」という言葉には、法律上の明確な定義があるわけではありません。

だからこそ、言った側は「冗談だった」と考えやすく、言われた側は「自分が気にしすぎなのでは」と抱え込みやすくなります。

職場で問題になりやすいのは、次の3つの場面です。

1. 特定の人だけが繰り返しいじられている


一度だけの軽い冗談で終わる場合と、毎日のように同じ人が同じ話題でいじられる場合では、受け止め方が大きく変わります。

たとえば、

「また太った?」
「今日も独身貴族だね」
「天然だから仕方ないよね」
「若いんだから残業できるでしょ」

こうした発言が、特定の社員にだけ繰り返されている場合、本人にとっては大きな負担になります。

周囲は笑っていても、本人はその場をやり過ごすために笑っているだけかもしれません。

会社としては、
「本人も笑っていたから大丈夫」
と安易に判断しないことが大切です。

特定の社員が繰り返し対象になっていないか。
本人が表情を曇らせていないか。
周囲が止めにくい空気になっていないか。

このような点を確認する必要があります。

2. 本人のいないところで広がっている


職場の「いじり」が問題になるのは、本人に直接言う場面だけではありません。

本人の失敗、容姿、家庭の事情、恋愛、病気、評価、異動、退職の噂などが、本人のいないところで話題にされることがあります。

言っている側は、軽い雑談のつもりかもしれません。

しかし、本人があとからその話を知ったとき、
「職場全体に笑われていた」
「自分の知らないところで話が広がっていた」
と感じることがあります。

噂話や陰口は、職場の信頼関係を壊します。

内容や広がり方によっては、名誉毀損やプライバシー侵害などの問題に発展する可能性もあります。

会社としては、本人のいないところで特定の社員を笑いの対象にする文化がないかを確認する必要があります。

3. 本人が嫌がるサインを出しているのに続いている


本人が明確に「やめてください」と言えないことは珍しくありません。

相手が上司や先輩の場合、または職場全体が笑っている場合、本人はその場で反論しにくいものです。

そのため、会社や管理職は、言葉以外のサインにも注意する必要があります。

たとえば、

* 表情が曇る
* その場から離れようとする
* 話題を変えようとする
* 発言が減る
* 休みが増える
* 特定の人との接触を避ける

こうした変化がある場合、本人が負担を感じている可能性があります。

黙っていることは、同意とは限りません。
笑っていることも、納得している証拠とは限りません。

この点を管理職が理解していないと、「気づいたときには深刻な相談になっていた」ということが起こります。

グレーゾーンは会社で共通認識を作る


ハラスメント対応で難しいのは、明らかにアウトな言動だけではありません。

むしろ現場で迷うのは、いわゆるグレーゾーンです。

たとえば、

* 容姿や年齢に関する冗談
* 独身・既婚・子どもの有無に関する話題
* 失敗を笑いに変える発言
* 性格や能力を決めつける言い方
* 飲み会や休憩時間でのからかい
* 本人の許可なくプライベートを話題にすること

これらは、場面や関係性によって受け止め方が変わります。

だからこそ、会社としては、
「これは本人が嫌がっていなければ問題ない」
「昔からこの職場では普通だった」
で済ませない方がよいです。

職場ごとに、どのような言動を避けるべきか、どのような相談ルートがあるのか、管理職はどの段階で介入するのかを整理しておく必要があります。

法律や指針は基本的な枠組みを示すものです。
実際の職場では、その枠組みを自社のルールや研修に落とし込み、社員が理解できる形にすることが大切です。

会社がまず確認したい5つのポイント


職場で「いじり」が気になる場合、会社としては次の5つを確認してみてください。

1. 特定の人だけが対象になっていないか


一部の社員だけが、いつも冗談の対象になっていないでしょうか。

「いじられ役」が固定化している職場は注意が必要です。

本人が明るく振る舞っていても、内心では負担を感じていることがあります。

2. 本人が嫌がるサインを出していないか


本人が明確に拒否していなくても、表情や態度に変化が出ていないか確認します。

特に、以前より発言が減った、休憩時間に一人でいることが増えた、特定の人を避けているといった変化は見逃さない方がよいです。

3. 周囲が止められない空気になっていないか


職場全体が笑っていると、誰も止められなくなることがあります。

「このくらい普通」
「本人も笑っている」
「場の空気を壊したくない」

このような空気があると、問題が見えにくくなります。

管理職は、周囲が止められないときに介入する役割を持っています。

4. 相談しやすい窓口やルートがあるか


ハラスメント防止措置として相談窓口を設けていても、社員がその存在を知らなければ機能しません。

また、窓口があっても、
「相談したら不利益になるのでは」
「大げさだと思われるのでは」
と社員が感じていれば、相談は上がってきません。

会社としては、相談窓口の周知だけでなく、相談者や協力者を不利益に扱わないことも明確に伝える必要があります。

5. 管理職が初動対応を理解しているか


相談を受けた管理職が、どう対応してよいか分からないケースもあります。

よくない対応としては、たとえば次のようなものがあります。

* 「気にしすぎでは」と軽く扱う
* すぐに行為者を呼び出して詰問する
* 相談内容を関係者に広げてしまう
* 相談者に我慢を求める
* 記録を残さない
* 人事や経営層に共有しない

ハラスメント相談では、初動対応が非常に重要です。

最初の対応を誤ると、相談者の不信感が強まり、問題が大きくなることがあります。

相談を受けたときの基本対応


職場の「いじり」について相談を受けた場合、会社は感情的に判断せず、次の流れで整理することが大切です。

1. 相談内容を丁寧に聞く

まずは、相談者の話を遮らずに聞きます。

いつ、どこで、誰が、何を言ったのか。
その場に誰がいたのか。
どのくらい繰り返されているのか。
本人はどのような影響を受けているのか。

このような事実を整理します。

2. 相談者を不利益に扱わない

相談したことを理由に、配置転換、評価低下、孤立、退職勧奨などの不利益な取扱いをしてはいけません。

また、相談内容や個人情報が不必要に広がらないように配慮する必要があります。

3. 関係者から事実確認を行う

相談者の話だけで直ちに結論を出すのではなく、必要に応じて関係者からも確認します。

ただし、確認の仕方には注意が必要です。

不用意に広げると、相談者が特定されたり、二次被害が起きたりする可能性があります。

4. 行為者への対応を検討する

事実関係が確認できた場合は、行為者への注意、指導、配置上の配慮、懲戒処分の要否などを検討します。

一方で、事実確認が十分にできなかった場合でも、再発防止のための研修や注意喚起が必要になることがあります。

5. 再発防止策を講じる

個別事案への対応だけで終わらせず、職場全体の再発防止策を検討します。

具体的には、

* ハラスメント研修
* 管理職向けの初動対応研修
* 相談窓口の再周知
* ハラスメント防止方針の周知
* 社内ルールや規程の見直し
* 職場アンケートの実施

などが考えられます。

「いじり」を放置しない職場づくり


職場のいじりは、最初は小さな違和感として始まります。

しかし、放置すると、本人のストレス、周囲の不信感、退職、休職、社内トラブルにつながることがあります。

大切なのは、
「冗談だから」
「本人も笑っていたから」
「昔からそういう職場だから」
で済ませないことです。

職場で必要なのは、笑いを禁止することではありません。

相手を一方的にネタにしないこと。
嫌がるサインがあれば止めること。
周囲が止められる空気を作ること。
相談があったときに会社が受け止めること。

この積み重ねが、安心して働ける職場環境につながります。

まとめ|「いじり」は職場文化の問題として見直す


職場の「いじり」は、単なる冗談や人間関係の問題に見えることがあります。

しかし、特定の人だけが繰り返し対象になったり、本人のいないところで広がったり、嫌がるサインを無視して続いたりすると、ハラスメント問題に発展する可能性があります。

会社としては、次の点を確認しておくことが大切です。

* 特定の人だけが繰り返しいじられていないか
* 本人が嫌がるサインを出していないか
* 周囲が止められない空気になっていないか
* 相談窓口や対応ルートが機能しているか
* 管理職が初動対応を理解しているか

「いじり」は、個人同士の相性だけでなく、職場文化の問題でもあります。

職場で違和感がある場合は、問題が大きくなる前に、社内ルールや研修、相談対応の流れを見直しておくことをおすすめします。

当事務所では、中小企業の実情に合わせて、

* ハラスメント研修
* 管理職向けの指導・面談スキル研修
* 就業規則・ハラスメント規程の整備
* 相談窓口の設計
* 個別事案の初動対応支援
* 職場アンケートを踏まえた課題整理

についてご相談を承っています。

「職場でいじりが常態化している」
「相談を受けたが、会社としてどう判断すればよいか迷っている」
「管理職がどこまで介入すべきか分からない」
「ハラスメント研修を実施したいが、現場に響く内容にしたい」

このような場合は、早めに状況を整理しておくことが大切です。

根拠・参考情報

本記事は、以下の法令・行政資料を参考にしています。

* 労働施策総合推進法
職場におけるパワーハラスメント防止措置義務

* 厚生労働省
「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」

* 厚生労働省
「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました」

* 厚生労働省
「令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況」

※本記事は、一般的な実務整理を目的としたものです。実際の対応は、発言内容、頻度、職場での関係性、業務上の必要性、本人の受け止め、会社の規程や過去の対応状況によって判断が異なります。個別事案では、最新の法令・行政資料を確認したうえで対応することが必要です。

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桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事経験25年、社労士登録30年。労基署対応、労務トラブル対応など、現場実務を中心に支援してきました。経営と法令のバランスを考え、実務としてどう整えるかを経営者と伴走する社労士です。

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