特定の社員だけ勤務時間を変えても大丈夫? フレックス制度を使わない柔軟な働き方【人事トラブル相談室④】
「忘年会は自由参加にしています。参加しない社員もいますから、
会社から、このような質問を受けることがあります。
確かに、社員が自由に参加を決められる親睦会であれば、原則として労働時間にはなりません。
ただし、案内文に「自由参加」と書いてあるだけで、任意参加になるとは限りません。
上司から一人ずつ出席を確認されたり、欠席理由を求められたり、参加しないと評価に影響しそうな雰囲気があったりすれば、社員は本当に自由参加だとは感じていないかもしれません。
特に、新入社員や若手社員にとって、社長や上司が出席する飲み会を断ることは、会社が考えているほど簡単ではありません。
結論は「本当に断れる飲み会だったか」
会社の飲み会が労働時間になるかどうかは、飲食をしているか、会社が費用を負担しているかだけでは決まりません。
基本となるのは、社員が会社の指揮命令下に置かれていたかどうかです。
最高裁判所は、三菱重工長崎造船所事件において、労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、就業規則などの定めではなく、客観的な実態によって判断されるという考え方を示しています。
したがって、会社が参加を明示的に命じた場合だけでなく、断りにくい状況をつくり、実態として会社の指揮命令下に置かれていたと評価される場合にも注意が必要です。
一方で、参加しなくても不利益がなく、社員が自由に参加、欠席、途中退席を判断できる親睦会であれば、労働時間とは考えにくいでしょう。
大切なのは、会社側の「自由参加のつもり」と、社員側の「実際には断れなかった」という認識のズレをなくすことです。
「自由参加」と書いてあっても、実質的に強制になることがある
例えば、飲み会の案内に次のように書かれていたとします。
「参加は任意です。皆さん、できるだけ参加してください」
文章だけを見れば、自由参加にも見えます。
ところが、その後、部長が部下一人ひとりに、
「もちろん出るよね」
「新人は参加しておいた方がいいよ」
「特別な事情がなければ参加してください」
などと声をかけていたら、どうでしょうか。
欠席した社員に対して、後から理由を聞いたり、「付き合いが悪い」と言ったりしていれば、社員側から見れば任意参加とは言いにくくなります。
会社に強制する意図がなかったことと、社員が自由に断れる状況だったことは、同じではありません。
任意参加と強制参加を分ける主な判断ポイント
1.会社や上司から参加指示があったか
「全員参加」「原則参加」「新人は参加すること」などと伝えていれば、強制性は高くなります。
口頭での指示だけでなく、業務予定表やシフトに飲み会が組み込まれている場合も確認が必要です。
また、「自由参加」と案内していても、管理職が個別に参加を迫っていれば、会社の説明と現場の運用が食い違っています。
2.欠席すると不利益があるか
欠席した社員について、
人事評価を下げる
協調性がないと扱う
上司が繰り返し欠席理由を聞く
重要な情報を参加者だけに伝える
といった運用があれば、形式上は自由参加でも、実質的には参加を求めていたと評価される可能性があります。
実際に評価を下げていなくても、「参加しなければ今後の仕事に影響する」と思わせるような言動は避けるべきです。
3.飲み会で何を行っているか
単なる親睦ではなく、次のような内容を含む場合は、業務性が高くなります。
経営方針や営業方針の説明
業務報告や目標発表
表彰式や辞令交付
研修や会議の続き
取引先の接待
上司による部下面談
飲み会という名称であっても、会社が業務上の目的を持って社員を参加させている場合には、参加指示の有無や途中退席の自由なども含め、総合的に判断されます。
4.途中で自由に帰れるか
参加するかどうかだけでなく、途中退席が自由かも重要です。
「社長が帰るまで帰れない」
「一本締めまでは残るのが常識」
「新人が途中で帰るのは失礼」
このような雰囲気があれば、社員が自由に時間を使える状態とは言いにくくなります。
5.欠席理由を求めていないか
出欠確認自体は、店の予約や人数確認のために必要です。
しかし、欠席理由まで書かせると、社員は「相当な理由がなければ欠席できない」と受け取る可能性があります。
完全な任意参加とするのであれば、原則として欠席理由は求めない方がよいでしょう。
6.費用を誰が負担するか
会社が飲食代を全額負担していても、それだけで労働時間になるわけではありません。
反対に、社員が自費で参加していても、会社から参加を命じられていれば、労働時間となる可能性があります。
費用負担は判断材料の一つですが、それだけで結論は決まりません。
7.これまでどのように運用してきたか
今回の案内文だけでなく、過去の運用も見ておく必要があります。
過去の案内メールや社内チャット
上司がどのように参加を促していたか
欠席者がどのように扱われていたか
飲み会で業務上の説明をしていたか
二次会まで参加するのが当然になっていなかったか
以前から実質的な全員参加で運用してきた会社が、案内文に一度「自由参加」と書いただけでは、社員の受け止め方はすぐには変わりません。
ケース別に考える飲み会の労働時間
完全な自由参加の親睦会
有志が企画し、欠席理由は不要で、参加しなくても評価や仕事に影響がない。途中退席も自由であれば、労働時間とは考えにくいでしょう。
会社が費用の一部を補助していても、それだけで労働時間になるわけではありません。
会社主催の忘年会
会社が会場を予約し、費用を負担していても、実態として自由参加であれば、直ちに労働時間になるとは限りません。
ただし、管理職が部下に個別に参加を迫っていないか、欠席者が不利益を受けていないかは確認しておく必要があります。
「原則参加」の歓送迎会
「特別な事情がない限り参加してください」と案内し、欠席理由を求め、新入社員には全員参加を指示している場合は、労働時間と評価される可能性が高くなります。
取引先との接待
会社が担当社員を指定し、取引関係の維持を目的として参加させている場合は、飲食を伴っていても業務と考えられる可能性が高いでしょう。
一次会は会社行事、二次会は有志
一次会で表彰、方針説明、業務報告などを行い、参加を指示しているのであれば、一次会は労働時間となる可能性があります。
一方、一次会終了後の二次会が完全な有志参加で、自由に参加・退席できるのであれば、二次会まで当然に労働時間になるとは限りません。
一次会と二次会は分けて判断する必要があります。
労働時間になったら、すべて25%増しになるのか
ここも誤解されやすいところです。
飲み会が労働時間になったとしても、その時間の賃金がすべて25%増しになるとは限りません。
確認すべきなのは、
所定労働時間を超えているか
1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えているか
午後10時から午前5時までの深夜時間帯に及んでいるか
法定休日に実施しているか
という点です。
所定労働時間を超えていても、法定労働時間内に収まっている場合は、直ちに25%の割増賃金が必要になるとは限りません。就業規則や賃金規程の定めによって取扱いが異なります。
一方、1日8時間または週40時間を超える法定時間外労働に該当する場合は、原則として25%以上の割増賃金が必要です。
また、午後10時から午前5時までに及ぶ場合は深夜割増、法定休日に実施した場合は休日割増の問題も生じます。
法定時間外労働や法定休日労働をさせるのであれば、36協定の範囲内であるかも確認しなければなりません。
会社が飲み会への参加を求めるのであれば、開始時刻と終了時刻を把握し、勤怠記録や賃金台帳に反映できるようにしておく必要があります。
全員に参加してほしいなら、勤務時間として扱う方法もある
会社として「できれば全員に参加してもらいたい」と考えること自体が悪いわけではありません。
社員同士が普段とは違う環境で話すことに、一定の意味を感じている経営者もいるでしょう。
ただし、全員に参加してほしいのであれば、無理に「自由参加」とするより、会社行事として勤務時間内に実施した方が分かりやすい場合があります。
例えば、
就業時間の最後の1時間に交流会を行う
昼食会として実施する
表彰や方針説明の部分だけ勤務時間として扱う
業務部分の終了後、希望者だけで懇親会を行う
飲酒を前提としない社内イベントにする
といった方法があります。
会社行事として参加を求める部分と、社員が自由に参加する親睦部分を、時間と内容の両面で分ける方法も考えられます。
「自由参加」と書くだけでは足りない
任意参加の飲み会として実施する場合は、案内文に次の点を明記するとよいでしょう。
参加は任意であること
欠席理由は不要であること
不参加による不利益はないこと
途中退席も自由であること
人事評価には影響しないこと
ただし、文章を整えるだけでは不十分です。
管理職には、
「自由参加と言いながら、一人ずつ参加を迫らない」
「欠席理由を詮索しない」
「参加しない社員を冗談の対象にしない」
「二次会への参加を当然視しない」
という点まで共有しておく必要があります。
案内文は自由参加でも、上司の声のかけ方が強制的であれば、会社としての説明と現場の運用が食い違ってしまいます。
飲み会には労働時間以外のリスクもある
会社の飲み会では、残業代だけを確認すればよいわけではありません。
飲酒の強要
セクハラやパワハラ
私生活への過度な質問
酔った上司による不適切な発言
深夜の帰宅に伴う事故
車や自転車での飲酒運転
翌日の勤務への影響
なども考える必要があります。
「勤務時間外の飲み会だから会社は関係ない」とは言い切れません。
会社主催の行事で問題が発生した場合、会社の対応や事後の説明が問われることがあります。
飲み会を実施するのであれば、労働時間の整理だけでなく、参加方法、飲酒への配慮、終了時刻、帰宅方法まで考えておく必要があります。
飲み会を廃止すれば解決するのか
飲み会を廃止すれば、労働時間や飲酒をめぐる問題は減るかもしれません。
しかし、社員同士の交流や、普段話す機会が少ない社員との接点まで、すべてなくす必要はないでしょう。
問題なのは、飲み会そのものよりも、参加しなければ職場の情報や人間関係から外れてしまうような運用です。
ランチミーティング、勤務時間内の交流会、少人数の面談、社内研修後の短時間交流など、飲み会以外の方法もあります。
会社として何を目的に実施するのかを整理し、その目的に合った方法を選ぶことが大切です。
動画でも解説しています
会社の飲み会と残業代については、以前、動画でも解説しています。
動画では、飲み会が業務と判断される場面だけでなく、飲み会文化を続ける場合の注意点や、廃止する場合の社内コミュニケーションについてもお話ししています。
過去記事でも、この動画の内容として、「業務とみなされる条件」「残業代が必要になるケース」「飲み会文化を継続・廃止する場合の対応」などをご紹介しました。
文章とは少し違う角度から整理していますので、あわせてご覧ください。
【動画】
「会社の飲み会に残業代は必要?法的解釈と対策を徹底解説」
※動画公開後の制度改正や行政運用の変更については確認が必要です。個別の事案については、現在の法令や実際の運用状況を踏まえて判断してください。
まとめ
会社の飲み会が労働時間になるかどうかは、「自由参加と書いてあるか」だけでは判断できません。
確認すべきなのは、
社員が実際に断れる状況だったか
欠席や途中退席による不利益がなかったか
会社や上司が参加を事実上求めていなかったか
飲み会で業務上の活動を行っていなかったか
という実際の運用です。
全員に参加してほしい行事であれば、無理に自由参加という形を取るのではなく、勤務時間内に実施する、業務部分だけ賃金を支払うなど、会社行事として整理する方法もあります。
飲み会を続けるか、やめるかよりも大切なのは、
「会社は自由参加のつもりだった」
「社員は実際には断れなかった」
という認識のズレをなくすことです。
案内文だけでなく、管理職の声のかけ方や、これまでの運用も含めて、一度見直してみてはいかがでしょうか。
忘年会、歓送迎会、社員旅行などを実施している会社は、案内文、勤怠処理、管理職の対応が合っているか確認しておくと安心です。
就業規則や賃金規程の内容、36協定、実際の勤怠処理を含めて整理が必要な場合は、個別の状況を確認したうえで対応を検討します。
具体的な対応は、会社の就業規則、社内ルール、実際の運用状況によって判断が変わります。
判断に迷う場合は、個別にご相談ください。
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