「それ、クレームですか?カスハラですか?」【カスハラ対策第1回】

桐生英美

桐生英美

テーマ:ハラスメント

「それ、クレームですか?カスハラですか?」


お客様対応で社員を追い込まないために、会社が知っておきたいこ


今日もありがとうございます。
人事トラブルを整理する「人の専門家」
ハーレー好きの社労士 キャプテン ヒデです。

「先生、スタッフが電話に出るのを怖がるようになってしまいました」

カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラの相談では、こういう形で話が始まることがあります。

最初から「これはカスハラです」と整理されて相談に来ることは、実はそれほど多くありません。

多くの場合は、

「お客様から何度も電話が来ている」
「かなり強い口調で怒鳴られている」
「担当者が一人で抱えてしまっている」
「会社として、どこまで対応すればよいのか分からない」

という状態になってから、相談になります。

お客様の声を大切にすることは、もちろん必要です。
会社に不手際があれば、謝罪も改善も必要です。

ただし、ここで会社が間違えてはいけないことがあります。

お客様だからといって、社員の人格や安全を傷つけてよいわけではありません。

まず分けたいのは「正当なクレーム」と「行き過ぎた言動」


カスハラ対策で最初に整理したいのは、
お客様からの苦情すべてがカスハラではない
ということです。

たとえば、

「説明と実際のサービス内容が違う」
「商品に不具合があった」
「スタッフの案内が分かりにくかった」
「約束した時間に対応されなかった」

このような場合は、会社として事実確認をします。
会社側に落ち度があれば、きちんと謝罪し、改善する。
ここを飛ばして、何でもカスハラ扱いしてはいけません。

一方で、次のような言動になると、通常のクレーム対応の範囲を超えてきます。

「土下座しろ」
「担当者を辞めさせろ」
「家まで謝りに来い」
「SNSに名前をさらすぞ」
「電話を切るな。納得するまで話を聞け」
「毎日のように来店して、同じ話を繰り返す」

こうなると、単なる苦情対応ではなく、社員の就業環境を害する問題として考える必要があります。

研修資料でも、カスハラは、顧客等からのクレーム・言動のうち、要求内容の妥当性に照らして、その実現のための手段・態様が社会通念上不相当であり、労働者の就業環境が害されるものと整理しています。

判断のポイントは「言っている内容」と「言い方・やり方」


実務で迷うのは、お客様の言い分に一部正しいところがある場合です。

会社側にミスがあった。
説明不足もあった。
お客様が怒る理由も分かる。

こういうケースはあります。

ただし、会社側にミスがあったとしても、社員を長時間拘束したり、人格を否定したり、必要以上の金銭を求めたりすることまで認める必要はありません。

ここは、次の2つに分けて考えます。

1つ目は、要求内容に理由があるか。
2つ目は、その要求の仕方が行き過ぎていないか。


たとえば、返金を求める理由があるとしても、
「担当者をクビにしろ」
「自宅まで謝りに来い」
「誠意を見せろ。金額はそちらで考えろ」
という話になれば、会社として対応を切り替える場面です。

現場の社員に判断を任せると、真面目な人ほど我慢してしまいます。

「自分の対応が悪かったのかもしれない」
「お客様を怒らせたら会社に迷惑がかかる」
「ここで電話を切ったら、もっと大きな問題になるかもしれない」

そう考えて、限界まで対応してしまうのです。

「お客様は神様です」で、社員を守れなくなることがある


昔から「お客様は神様です」という言葉があります。

商売をするうえで、お客様を大切にする姿勢は必要です。
この考え方自体を否定するつもりはありません。

ただ、この言葉を会社が間違って使うと、現場の社員を追い込みます。

「お客様なんだから我慢して」
「あなたの言い方にも問題があったんじゃないの」
「とにかく謝っておけばいい」
「大ごとにしないで済ませて」

こう言われた社員は、次から相談しなくなります。

そして、表面上は何も起きていないように見えても、内心ではこう感じています。

「会社は守ってくれない」
「また自分が対応しなければならない」
「電話に出るのが怖い」
「この仕事を続けるのはしんどい」

カスハラは、接客マナーの問題だけではありません。
社員の安全、メンタルヘルス、離職防止に関わる労務管理の問題です。

中小企業ほど、一人に負担が集中しやすい


カスハラ対策というと、大企業や店舗ビジネスの話に見えるかもしれません。

しかし、中小企業こそ注意が必要です。

受付担当が一人しかいない。
電話対応をする社員が限られている。
責任者が外出していて、すぐに交代できない。
社長自身が直接クレーム対応をしている。

こうした会社では、特定の社員に負担が集中します。

研修資料でも、医療機関、鉄道、コンビニ、郵便など、さまざまな業種でカスハラ対策の方針公表や掲示が進んでいる事例を紹介しています。
また、厚生労働省は業種別マニュアルの整備も進めており、たとえばスーパーマーケット業編や宅配業編など、業種の実態に応じた対策資料を公表しています。

これは、カスハラが特定の業種だけの問題ではなくなっているということです。

まずは「ここから先は一人で受けない」を決める


カスハラ対策というと、分厚いマニュアルを作らなければならないと思うかもしれません。

でも、最初の一歩はそこではありません。

まず決めるべきことは、
「ここから先は、社員一人で受けない」
という線引きです。

たとえば、

暴言が出たら、責任者に引き継ぐ
同じ話が一定時間以上続いたら、いったん対応を区切る
担当者個人への攻撃があれば、会社対応に切り替える
金銭要求や土下座要求があれば、現場で判断しない
SNS投稿や脅しのような発言があれば、記録を残して上司に報告する

こうした基準があるだけで、現場の安心感は変わります。

社員にとって一番つらいのは、
「どこまで我慢すればよいのか分からない」
という状態です。

法改正への対応も、確認が必要です


ここは制度改正に関わるため、最新情報の確認が必要です。

厚生労働省は、改正労働施策総合推進法の施行により、令和8年10月1日からカスタマーハラスメント対策が全ての事業主の義務になると公表しています。

そのため、今後は「現場がうまく対応してくれればよい」という扱いでは済まされにくくなります。

ただし、具体的に会社が講ずべき措置の詳細については、厚生労働省の最新資料や指針を確認しながら整備する必要があります。

まとめ


カスハラ対策の第一歩は、
正当な苦情と、行き過ぎた言動を分けること
です。

お客様の声には誠実に向き合う。
会社側に落ち度があれば、謝罪し、改善する。

その一方で、暴言、威圧、長時間拘束、過大要求、担当者個人への攻撃などは、会社として線を引く。

この判断を現場の社員一人に任せてはいけません。

「これはクレームなのか、カスハラなのか」
「どこから責任者対応に切り替えるのか」
「記録には何を残せばよいのか」

ここが曖昧な会社は、一度、自社の対応基準を整理しておくことをおすすめします。

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桐生英美
専門家

桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事経験25年、社労士登録30年。労基署対応、労務トラブル対応など、現場実務を中心に支援してきました。経営と法令のバランスを考え、実務としてどう整えるかを経営者と伴走する社労士です。

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