カスハラ対策義務化に向けて、中小企業が今から準備すべきこと【カスハラ対策第3回】

桐生英美

桐生英美

テーマ:労務管理

カスハラ対策義務化に向けて、中小企業が今から準備すべきこと

まず決めるべきは「方針・相談先・記録・対応フロー」


今日もありがとうございます。
人事トラブルを整理する「人の専門家」
ハーレー好きの社労士 キャプテン ヒデです。

「カスハラ対策が義務化されると聞いたのですが、何から始めればいいですか」

最近、このような相談が出てきています。

カスハラ対策というと、立派なマニュアルを作る話に聞こえるかもしれません。
でも、中小企業の場合、最初から分厚いマニュアルを作ろうとすると、そこで止まってしまうことがあります。

私がまずおすすめしたいのは、次の4つです。

会社の方針を決める。
相談先を決める。
記録の残し方を決める。
対応フローを決める。


この4つが決まるだけでも、現場の安心感はかなり変わります。

義務化対応は、今後の指針確認が必要です


制度改正に関わる部分ですので、ここは確認が必要です。

厚生労働省は、改正労働施策総合推進法の施行により、令和8年10月1日からカスタマーハラスメント対策が全ての事業主の義務になると公表しています。

また、厚生労働省は、業種の実態に応じたカスハラ対策の取組として、スーパーマーケット業編や宅配業編などの業種別マニュアルも公表しています。

ただし、会社が具体的にどこまで整備すべきかは、今後の厚生労働省の指針や最新資料を確認しながら進める必要があります。

その前提で、中小企業が今から準備しておきたいことを、実務目線で整理します。

1. 会社の基本方針を決める


最初に決めるべきなのは、会社の姿勢です。

ここが曖昧だと、現場は迷います。

「このお客様にはどこまで対応するのか」
「怒鳴られても最後まで聞くべきなのか」
「上司に相談してよいのか」
「会社は守ってくれるのか」

社員が迷うのは、本人の判断力が足りないからではありません。
会社の方針が見えていないからです。

方針は、難しい言葉でなくて構いません。

たとえば、次のような内容です。

「当社は、お客様からの正当なご意見や苦情には誠実に対応します」

「一方で、従業員の人格や安全を傷つける言動、長時間拘束、威圧的な要求には、会社として対応します」

「現場の社員一人に責任を負わせません」

「悪質な言動が続く場合は、対応を打ち切ることがあります」

この方針を社内で共有しておくだけでも、社員は相談しやすくなります。

2. 相談先・報告先を決める


次に決めるのは、相談先です。

「何かあったら相談して」
という言い方だけでは、現場では動きにくいことがあります。

誰に。
どのタイミングで。
どの方法で。
どこまで報告するのか。

ここまで決めます。

たとえば、

電話対応で困った場合は、直属上司に報告する。
来訪者から威圧的な言動があった場合は、責任者を呼ぶ。
同じ人から繰り返し連絡がある場合は、担当者を固定せず、会社窓口で対応する。
暴言や脅迫があった場合は、社長または管理職に即時報告する。

このように決めておくと、社員は
「相談してよいのだ」
と分かります。

カスハラ対応では、この安心感がとても大きいです。

3. 記録の残し方を決める


カスハラ対応では、記録がないと判断ができません。

あとから
「言った、言わない」
「そこまでひどい話だったのか」
「会社として対応を変えるべきだったのか」
という問題になりやすいからです。

記録に残す項目は、最初はシンプルで構いません。

日時。
相手の氏名・連絡先。
対応した社員。
言動の内容。
要求された内容。
会社側の回答。
同席者や通話を聞いていた人。
社員が受けた影響。
その後の対応方針。

電話であれば通話メモ。
来訪であれば同席者の記録。
メールやSNSであれば、データやスクリーンショットを保存します。

録音を検討する会社もあります。
録音が有効な場面はありますが、保存方法、利用目的、アクセス権限、保存期間を決めずに始めると、別のトラブルになることもあります。ここは会社の実情に応じて確認が必要です。

4. 対応フローを決める


最後に、対応の流れを決めます。

難しい図を作る必要はありません。

まずは、次の程度で十分です。

苦情・要望を受ける
内容に妥当性があるか確認する
暴言・威圧・長時間拘束などがあれば責任者へ引き継ぐ
記録を残す
必要に応じて、書面回答・対応窓口の限定・警察や弁護士への相談を検討する
対応後、社員の状態を確認する

この流れがあるだけで、現場はかなり動きやすくなります。

特に忘れやすいのが、最後の
対応後の社員フォロー
です。

トラブルが終わったように見えても、対応した社員には負担が残っていることがあります。

電話が鳴るだけで不安になる。
同じお客様の名前を見るだけで緊張する。
接客そのものが怖くなる。
自分の対応が悪かったのではないかと悩む。

上司や責任者が、
「大変だったね」
「今後は会社として対応するから、一人で抱えなくていい」
と声をかけるだけでも、社員の受け止め方は変わります。

余裕があれば整備したいもの


まずは4つで構いません。

そのうえで、余裕があれば次の整備も検討します。

社外向けのカスハラ方針。
店頭や施設内の掲示。
ホームページへの掲載。
管理職研修。
従業員向け研修。
電話対応の想定問答。
就業規則やハラスメント規程との整合。
顧客対応記録の保存ルール。

特に、店舗、施設、医療・介護、受付窓口がある会社では、社外向け表示が有効な場合があります。

ただし、書き方には注意が必要です。

いきなり
「迷惑行為には一切対応しません」
とだけ書くと、正当な苦情まで拒否する会社のように見えてしまうことがあります。

おすすめは、次のようなバランスです。

「お客様からのご意見は、サービス向上のため真摯に受け止めます」

「一方で、従業員の人格や安全を傷つける言動、長時間拘束、威圧的な要求等については、対応をお断りする場合があります」

「必要に応じて、警察・弁護士等の関係機関に相談することがあります」

正当な意見は受け止める。
でも、行き過ぎた言動には会社として線を引く。

このバランスを崩さないことです。

管理職への説明は必ず行う


カスハラ対策で、もう一つ大事なのが管理職です。

社員が相談しても、管理職が
「それくらい我慢して」
「お客様なんだから仕方ない」
「あなたの対応にも問題があったのでは」
と言ってしまうと、ルールは機能しません。

管理職には、次のことを伝えておきます。

社員の話をまず受け止める。
事実関係を確認する。
社員を一人で対応させない。
必要に応じて対応を交代する。
記録を残す。
会社としての対応方針を共有する。
対応後の社員の状態を確認する。

ルールを作るだけでは足りません。
管理職がどう動くかまで決めておく必要があります。

中小企業向け・まず確認したいチェックリスト


最初から全部を整える必要はありません。

まずは、次の項目を確認してください。

会社として、カスハラにどう向き合うかを決めているか
正当な苦情と、行き過ぎた言動を分ける基準があるか
社員が誰に相談するか決まっているか
上司や責任者に引き継ぐ基準があるか
対応を打ち切る基準があるか
記録に残す項目が決まっているか
管理職が対応方針を理解しているか
対応後の社員フォローを行う流れがあるか

このチェックでいくつも空欄になる会社は、義務化を待たずに整備を始めた方がよいと思います。

まとめ


カスハラ対策義務化に向けて、中小企業が最初に準備すべきことは、難しいことではありません。

まずは、次の4つです。

会社の方針。
相談先。
記録の残し方。
対応フロー。


ここが決まっていないと、現場の社員は毎回迷います。
そして、真面目な社員ほど一人で抱え込みます。

カスハラ対策は、お客様を敵にするためのものではありません。
正当なご意見には、これまでどおり誠実に対応します。

そのうえで、社員の人格や安全を傷つける言動には、会社として対応する。
現場の社員一人に背負わせない。

この仕組みを作ることが、これからの会社に求められます。

「電話を切る基準がない」
「責任者対応に切り替えるタイミングが決まっていない」
「記録様式がない」
「管理職にどう説明すればよいか分からない」

こうした状態であれば、まずは自社の現場に合わせて、カスハラ対応ルールを整理しておくことをおすすめします。

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桐生英美
専門家

桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事経験25年、社労士登録30年。労基署対応、労務トラブル対応など、現場実務を中心に支援してきました。経営と法令のバランスを考え、実務としてどう整えるかを経営者と伴走する社労士です。

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