パン売場の発注改善で年間200万円超の利益を生み出す | 中小スーパーに必要な「パート社員の戦略化」

新谷千里

新谷千里

テーマ:スーパーの業務改善

中小スーパーマーケットのパン売場で、発注方法とロス管理を見直した結果、年間200万円超の利益改善が見込まれる状態になりました。パート社員への短期集中指導、数値の可視化、発注ルールの標準化によって、値引き・廃棄ロスを削減する具体的な方法を解説します。

スーパーマーケットの利益改善というと、多くの経営者や店長は、売上を伸ばすことや仕入価格を下げることを最初に考えます。
しかし、現場を詳しく確認すると、売上を大きく伸ばさなくても、利益を改善できる余地は数多く残されています。
その代表的なものが、パン売場における発注の見直しです。

今回、私がクライアント企業のパン売場を確認し、パート社員に発注方法を直接指導したところ、約3週間という短期間で改善が進みました。

年間換算すると、
・菓子パン:約171万円
・食パン:約30万円
・合計:年間200万円超
の利益改善が見込まれる状態になっています。

重要なのは、
特別なシステムを導入したわけでも、大規模な人員削減を行ったわけでもないということです。
現場の数字を比較し、余分なロスが発生している場所を特定し、発注方法を修正しただけです。

パン売場の利益を圧迫する「発注の属人化」

中小スーパーマーケットのパン売場では、発注、品出し、在庫管理などの基本業務が、担当者個人の経験や勘に依存していることが少なくありません。

例えば、
担当者は次のような判断を日常的に行っています。
・月曜日と土曜日では、どの程度発注量を変えるのか
・雨の日には、どの商品を減らすのか
・気温が上がったとき、食パンと菓子パンの動きはどう変わるのか
・特売や地域イベントの前後に、どの程度増減させるのか
・売場在庫とバックヤード在庫を見て、翌日の発注数をどう決めるのか

これらの判断が担当者の経験だけに任されていると、発注精度は安定しません。

売れる機会を逃したくないという心理から多めに発注すれば、値引きや廃棄が増えます。
反対に、
ロスを恐れて発注量を減らし過ぎれば、欠品が発生し、売上と顧客満足度を落とします。

つまり、
パン売場の発注では、単純に発注量を減らせばよいのではありません。
必要なのは、ロスを最小化しながら、実際の需要に追随する発注運用です。

ロスは「仕方のない経費」ではない

パンは賞味期限が短く、天候、曜日、気温、来店客数などの影響を受けやすい商品です。

そのため、多少の値引きや廃棄は仕方がないと考えられがちです。
しかし、
毎週同じような商品で値引きや廃棄が発生しているのであれば、それは偶然ではありません。
発注の仕組みに問題がある可能性があります。

ロスは単なる数字ではなく、本来残るはずだった利益の流出です。
例えば、
1日5,000円の余分なロスが発生していれば、年間では単純計算で180万円を超えます。
日々の金額が小さいため見過ごされやすいのですが、年間換算すると、経営に大きな影響を与えます。

だからこそ、
値引きや廃棄を「仕方のないコスト」として処理するのではなく、発生原因を特定しなければなりません。

約3週間で改善が進んだ指導方法

今回の改善では、長期間の研修や複雑な分析は行っていません。

実施したのは、次のような短期集中型の指導です。

1.売場と数値の両方を確認する

最初に、パン売場の陳列状況(欠品)、在庫量、品出し方法、発注状況、値引き、廃棄などを確認しました。

数字は、ただ眺めるだけでは意味がありません。
曜日別、商品群別、期間別などの比較軸を設定し、どこで余分なロスが発生しているかを特定することが重要です。

2.パート社員に直接指導する

実際に発注を担当しているパート社員に対して、発注数量の考え方と、確認すべき数値(管理データ)を直接説明しました。

発注担当者本人が、
「なぜ、この商品を減らすのか」
「なぜ、この曜日は増やすのか」
を理解しなければ、改善は一時的なものになります。
単に店長が発注数を指示するのではなく、担当者自身が判断できる状態をつくることが重要です。

3.3週間で修正サイクルを回す

今回の事例では、パート社員への直接指導を1回行い、その後、2回の売場確認を実施しました。
約3週間の中で、
発注する

販売結果(日別・単品別・実績データ)を確認する

値引き・廃棄・欠品を確認する

次回の発注量を修正する
というサイクルを繰り返しました。

その結果、余分な発注とロスの発生箇所が明確になり、発注精度が改善していきました。

パート社員を「作業者」で終わらせてはいけない

今回の改善で最も重要なポイントは、発注担当のパート社員を単なる作業者として扱わなかったことです。

中小スーパーマーケットでは、パート社員が発注、品出し、売場管理など、店舗運営の重要な業務を担当しています。
しかし、
十分な教育を受けないまま、経験と勘だけで業務を任されているケースが少なくありません。
これでは、本人に意欲や能力があっても、高い成果を出すことは難しくなります。

必要なのは、
パート社員を戦力として使うだけではなく、数字を理解し、自ら改善できる人材に育てることです。
私は、これを「人財化」と考えています。
ここでいう人財化とは、特定の個人だけが持つ経験を、誰でも再現できる運用資産に変えることです。

担当者の頭の中にある経験を、
・数値目標
・判断基準
・発注ルール
・確認手順
・修正方法
として見える形にすること
で、担当者が変わっても一定の成果を維持できるようになります。

発注の標準化で決めるべき5つの基準

パン売場の発注を標準化するためには、少なくとも次の5つの基準が必要です。

1.曜日別の発注基準
平日、週末、給料日前後など、曜日や時期による販売数の違いを把握します。

2.天候・気温による修正基準
雨、猛暑、寒波などによって来店客数や商品動向が変化した場合の増減基準を設定します。

3.商品別の上限・下限
売れ筋商品、定番商品、低回転商品ごとに、発注数量の上限と下限を決めます。

4.値引き・廃棄の管理基準
単品(SKU)別に値引き額、廃棄額、値引き率を確認し、改善対象を明確にします。

5.週次の検証ルール
週に一度、売上、粗利益、値引き、廃棄、欠品を確認し、翌週の発注に反映させます。

重要なのは、最初から完璧な基準をつくろうとしないことです。
仮説を立て、実行し、結果を確認しながら修正することで、各店舗に合った発注ルールが完成していきます。

店長は担当者と一緒に数字を確認する


発注改善をパート社員だけに任せてはいけません。

店長が担当者と一緒に売場で数字を確認し、改善の方向を共有する必要があります。
ただし、
店長が毎日の発注数を細かく指示する方法では、担当者は育ちません。
店長の役割は、答えをすべて教えることではなく、判断に必要な基準を示し、結果を検証することです。

例えば、次のような問いかけが有効です。
「先週より値引きが増えた商品は何ですか」
「雨の日に販売数が落ちた商品は何ですか」
「欠品した時間帯はいつですか」
「次回は発注数をいくつ変えますか」

このように、担当者自身に数字を考えさせることで、発注能力が向上します。

大型店ほど改善金額は大きくなる

今回の改善見込みは、菓子パンと食パンを合わせて年間200万円超です。

売上規模や取扱商品数が大きい店舗であれば、同じ考え方を応用することで、さらに大きな改善金額が期待できます。
ただし、
重要なのは店舗全体を一度に変えようとしないことです。

最初は、パン売場、日配品、惣菜など、ロスが見えやすい部門やカテゴリーに絞って改善する方が、短期間で成果を確認できます。

一つの売場で成功事例をつくり、その方法を他部門へ水平展開することが、効率的な進め方です。

中小スーパーの利益改善は現場に眠っている

中小スーパーマーケットの利益改善余地は、仕入交渉や価格変更だけにあるのではありません。

日々の発注、在庫管理、品出し、値引き、廃棄といった基本業務の中に、大きな改善余地が残されています。

今回の事例では、パート社員への1回の直接指導と、2回の売場確認によって、約3週間で改善が進みました。
これは、パート社員の能力が低かったから改善したのではありません。
必要な判断基準と教育の仕組みが与えられていなかったことが、問題の本質です。

現場で働く人に数字を見せ、
判断基準を教え、
結果を一緒に検証すれば、
人は成長します。

そして、
その成長は値引きや廃棄の削減だけでなく、店舗全体の利益改善につながります。

よくある質問

Q.発注量を減らすと欠品が増えませんか

単純に発注量を減らすだけでは、欠品が増える可能性があります。
重要なのは、
曜日、天候、販売実績、在庫などを確認し、需要に応じて発注量を変えることです。

Q.パート社員に数字の管理は難しくありませんか

複雑な経営数値をすべて教える必要はありません。
担当カテゴリーの単品ごとの販売数、値引き、廃棄、欠品など、発注判断に必要な数字に絞れば、十分に理解できます。

Q.発注改善はどのくらいの期間で効果が出ますか

売場の状況やデータの整備状況によって異なりますが、改善対象を絞り、週次で検証すれば、1週間程度でも変化を確認できる場合があります。

Q.最初にどの部門から取り組むべきですか

値引きや廃棄が多く、販売実績と発注数を確認しやすいカテゴリーが適しています。
パン、各日配品、惣菜、生鮮部門の一部などが候補になります。

まとめ

パン売場の発注改善で重要なポイントは、次の4つです。
1.値引き・廃棄を年間金額に換算する
2.曜日、天候、商品別に数字を比較する
3.担当者へ判断基準を直接教える
4.店長と担当者が週次で検証する

ロスは、仕方のない経費ではありません。
発注方法と教育の仕組みを変えることで、利益に変えられる可能性があります。
中小スーパーマーケットにとって、現場で働くパート社員は、単なる労働力ではありません。
正しい教育と数値管理の仕組みを提供すれば、会社の利益を生み出す重要な運用資産になります。

店舗の利益改善は、現場で働く人の能力を引き出し、再現可能な仕組みに変えることから始まります。

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新谷千里
専門家

新谷千里(経営コンサルタント)

有限会社サミットリテイリングセンター

100社以上の業績向上を実現した業務改善のプロ。売れてしまう実践的マーケティングとオペレーション改善とコスト削減。他では教えてくれない理論と実践で、競争の厳しい時代に確実に営業利益を向上させます。

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