売上1億円でも利益が残らない――スーパーマーケット経営を苦しめる「ムダとロス」の正体

新谷千里

新谷千里

テーマ:スーパーマーケットの経営戦略

売上があっても営業利益が残らない中小スーパーマーケット。
その原因は過剰発注・過剰製造・値引き・廃棄・無駄な作業にあるかもしれません。
26年以上の現場改善経験から、無駄とロスを削減し、生まれた時間と資金を人材育成と顧客満足へ再投資する経営改善の考え方を解説します。

スーパーマーケットの経営者から、こんな相談を受けることがあります。
「売上はそれなりにあるのに、なぜか利益が残らない」
月商が1億円前後あっても、営業利益がほとんど残らない。場合によっては赤字になっている。

私は26年以上、スーパーマーケットの現場改善に携わってきましたが、このような企業には、ある共通点があります。

それは、
「売上をつくること」に一生懸命になるあまり、「利益を残すこと」が後回しになっている
ということです。

スーパーマーケット経営の本当の目的は、単に売上を増やすことではありません。
大切なのは、営業利益を確実に残し、その利益を次の成長に再投資できる経営体質をつくることです。

売上を増やせば、本当に利益は増えるのか

「売上が足りない。もっと売ろう」
そう考えること自体は間違っていません。

しかし、ここで注意しなければならないことがあります。
売上を増やすために、
・発注量を増やす
・製造量を増やす
・売場に大量の商品を並べる
・品揃えを必要以上に広げる
こうしたことを続けた結果、売れ残りが増えてしまう。

すると今度は、
「値引きをする」
「商品を移動する」
「売場を手直しする」
「廃棄する」
「翌日の在庫を整理する」
という、本来必要のなかった作業まで増えていきます。

ここに大きな問題があります。
商品のロスだけではなく、その後始末をするための人件費まで発生しているのです。
私はこれを「ムダが、さらにムダを呼んでいる状態」だと考えています。

100万円のロスは「100万円だけ」の問題ではない

たとえば、過剰に商品を製造した結果、値引きや廃棄が増えたとします。

経営者が損益計算書で確認するのは、商品のロス金額かもしれません。
しかし現場では、それだけではありません。

売れ残った商品を値引きする。
・シールを貼る。
・商品を移動する。
・売場を整理する。
・最終的には商品を撤去して廃棄する。
すべてに「人の時間」が使われています。

つまり、
過剰発注・過剰製造 → 在庫増加 → 値引き → 廃棄 → 後処理作業 → 人件費増加
という連鎖が起こります。


商品原価の損失だけを見ていては、実際の経営へのダメージを正しく把握できません。

スーパーマーケットは「人の生産性」で大きな差がつく

スーパーマーケットには、ドラッグストアなどとは大きく異なる特徴があります。

それが、生鮮部門や惣菜部門の「店内加工」です。
これはスーパーマーケットの大きな強みです。

一方で、やり方を間違えると大きなコスト要因にもなります。
同じ商品をつくる場合でも、作業方法、作業場所、道具の配置、作業手順、技術レベルによって、生産性は大きく変わります。

現場を改善していくと、2割、3割の生産性向上はもちろん、作業によっては大幅に改善できるケースがあります。

ところが多くの企業では、
「忙しいから教育する時間がない」
という状態になっています。

私は、ここに経営上の大きな矛盾があると思っています。
教育しないから生産性が上がらず、生産性が低いから、いつまでも忙しいのです。

ムダを減らす目的は「人を減らすこと」ではない

ここは、私が特に経営者の皆さんにお伝えしたいところです。

作業改善というと、
「人件費を削る」
「人を減らす」
ことだと思われがちです。

しかし、私が考える作業改善の本当の目的は違います。
ムダな仕事を減らして、人と時間とお金を「お客様のための仕事」に振り向けることです。

例えば、ムダな作業を減らすことで生まれた時間を、
・従業員の教育訓練
・商品づくりのレベルアップ
・鮮度管理
・売場改善
・品揃えの見直し
・接客
・販促
・新商品の開発

などに使う。

こちらの方が、はるかに未来につながります。

「ムダ削減」で終わらせないことが重要

私が考える改善の流れは、とてもシンプルです。

ムダ・ロスを減らす
 ↓
時間と資金を生み出す
 ↓
教育と売場改善に再投資する
 ↓
商品・サービスのレベルを上げる
 ↓
顧客満足度を高める
 ↓
売上・粗利益・営業利益につなげる


ここまでつながって、初めて「経営改善」です。

コストを削減するだけでは、会社は強くなりません。
削減して生まれた経営資源を、どこに再投資するのか。
ここまで考えることが経営者の仕事です。

店長・チーフのリーダーシップも利益を左右する

生産性向上は、作業方法だけの問題でもありません。

例えば、ある部門が忙しいときに、別の部門から応援できる仕組みがあるか。
店長が店舗全体を見て、人員配置を柔軟に変えられるか。
チーフ同士が「自分の部門だけ」という考え方ではなく、店舗全体の利益を考えて行動できるか。

こうしたマネジメント力も生産性を大きく左右します。

だから私は、作業改善と同時に、店長やチーフの教育が非常に重要だと考えています。

まず経営者自身が現場を見てください

経営者・経営幹部の皆さんに、ぜひ一度やっていただきたいことがあります。

自社の現場を「売上を見る目」ではなく、
「無駄を見る目」で歩いてみてください。

・商品を作りすぎていないか。
・在庫を持ちすぎていないか。
・値引き作業に何人が何分使っているか。
・従業員が商品や道具を取りに何度も歩いていないか。
・同じ商品を何度も移動させていないか。
・部門ごとに忙しさの差があるのに、人員配置が固定されていないか。

そこには、損益計算書だけでは見えない「利益改善の余地」がたくさんあります。

売上を追う前に、利益が残る会社をつくる

マーケティングも販促も重要です。

しかし、穴の開いたバケツに水を注ぎ続けても、水は溜まりません。

会社の中にムダやロスが大量に残っている状態で、広告や販促にお金を使い、売上だけを増やしても、思ったほど営業利益につながらないことがあります。

だからこそ順番が大切です。
まず、
①無駄とロスを減らす。
②そこで生まれた時間とお金を、人材育成、商品、売場、お客様のために再投資する。
そして企業としての競争力を高めていく。

「もっと売れ」だけではなく、「今ある売上から、いくら利益を残せるか」

中小スーパーマーケットがこれからの人手不足・人件費上昇の時代を生き残るためには、この視点がますます重要になると私は考えています。

一度、自社の売場とバックヤードを歩いてみてください。
そこにある「ムダ」は、単なるコストではありません。

改善できれば、それは会社の未来に投資できる「利益の原資」に変わります。
(文:新谷千里)

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専門家

新谷千里(経営コンサルタント)

有限会社サミットリテイリングセンター

100社以上の業績向上を実現した業務改善のプロ。売れてしまう実践的マーケティングとオペレーション改善とコスト削減。他では教えてくれない理論と実践で、競争の厳しい時代に確実に営業利益を向上させます。

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