なぜ特徴のないスーパーは衰退するのか | 同質化から抜け出し、選ばれる店になるためのポジショニング戦略

新谷千里

新谷千里

テーマ:スーパーマーケットの販売戦略

スーパーマーケット経営で最も危険なのは、顧客に嫌われることではなく無関心になられることです。

同質化した店は価格で比較され、粗利益を失いやすくなります。

中小スーパーが選ばれる店になるためのポジショニング、売場づくり、価値訴求の考え方を解説します。

スーパーマーケットにとって最も怖いこと

スーパーマーケット経営において、もっとも避けなければならないことは何でしょうか。

価格競争に負けることでしょうか。
売上が伸びないことでしょうか。
競合店に客数を奪われることでしょうか。

もちろん、どれも大きな問題です。

しかし、私がコンサルティングの現場で最も危険だと感じるのは、お客様がその店に対して何も感じなくなることです。

つまり、顧客の無関心です。

「好き」 でもない。
「嫌い」 でもない。
「行きたい」 とも思わない。
「行きたくない」 とも思わない。
ただ、記憶に残っていない。

この状態が、スーパーマーケットにとって最も怖いことなのです。

「好き嫌い」 の反対語は 「無関心」 である
よく、「好き」 の反対は 「嫌い」 だと思われます。

しかし、マーケティングの視点で見ると違います。

本当に怖いのは、嫌われることではありません。
お客様の関心の対象から外れることです。

嫌われているということは、まだ印象に残っているということです。
何かしらの特徴があり、評価の対象になっているということです。

しかし、無関心な店は違います。

お客様の頭の中に、その店の存在がありません。
比較の対象にもなりません。
「好き」 に転じてもらう余地すらありません。

これは、小説や映画、音楽でも同じです。

賛否が分かれる作品には、強い個性があります。
一部の人には強く支持され、一部の人には受け入れられない。

しかし、誰にも何も感じさせない作品は、存在そのものが記憶に残りません。
スーパーマーケットも同じです。

たとえば、
「便利な店」
「安い店」
「品質が良い店」
「惣菜が美味しい店」
「青果が楽しい店」
「接客がとても気持ちがいい店」
「地域の食生活を提案してくれる店」

このような印象が明確に残らなければ、お客様にとっては、どこにでもある店になってしまいます。

日本の総合スーパーが苦戦した本当の理由

日本の総合スーパー業態は、長年にわたり大きな役割を果たしてきました。
衣食住を一か所で揃えられる便利な店として、多くの地域で支持されてきました。

しかし、時代が変わる中で、総合スーパーは徐々に苦戦を強いられるようになりました。

その理由は、単に価格競争に負けたからではありません。
人口減少やネット通販の影響だけでもありません。

大きな要因の一つは、店の特徴が見えにくくなったことです。

どの店に行っても、似たような売場。
似たような商品。
似たような価格。
似たようなチラシ。
似たような販促。
似たような接客。

この状態になると、お客様は店を選ぶ理由を失います。

結果として、
「近いから行く」
「ついでだから行く」
「他にないから行く」
という消極的な来店動機になってしまいます。

これは、非常に危険です。

なぜなら、近くにもっと安い店ができれば、簡単に流出するからです。

便利なドラッグストアができれば、日用品や食品の一部を奪われます。
ディスカウントストアができれば、価格で比較されます。
ネットや宅配サービスが整えば、来店頻度そのものが下がります。

つまり、明確なポジショニングを持たない店は、競争環境が変わった瞬間に一気に弱くなるのです。
ドン・キホーテが強い理由は 「好き嫌い」 の対象になっているから
その中で、明確にポジショニングを獲得した企業の一つがドン・キホーテでしょう。

ドン・キホーテの店づくりには、好き嫌いがあります。

売場がごちゃごちゃしていると感じる人もいます。
探しにくいと感じる人もいます。

一方で、宝探しのようで楽しいと感じる人もいます。
夜遅くまで営業していて便利だと感じる人もいます。
圧倒的な品揃えや独特の商品と価格訴求に魅力を感じる人もいます。

ここで重要なのは、すべてのお客様に好かれようとしていないことです。

明確な個性がある・・・。
独自の売場体験がある・・・。
他社と違う空気感がある・・・。


だから、好き嫌いの対象になるのです。

これは、マーケティング上とても重要です。

お客様から見て、
「あの店はこういう店だ」
と語られる状態
になっているからです。

一方で、特徴が薄い店は語られません。
語られない店は、記憶に残りません。
記憶に残らない店は、選ばれません。
アメリカのチェーンストアに見るポジショニングの強さ
アメリカの小売業を見ると、ポジショニングの重要性がよく分かります。

ウォルマートとターゲットは、どちらも大きな総合小売業ですが、顧客の受け止め方は明確に違います。

ウォルマートは、低価格、生活必需品、圧倒的な購買効率というイメージがあります。
ターゲットは、デザイン性、買い物の楽しさ、少し洗練されたライフスタイル提案というイメージがあります。

どちらが良い、悪いという話ではありません。

重要なのは、お客様の頭の中で明確に違う店として認識されていることです。
ウォルマートが好きな人もいれば、ターゲットが好きな人もいます。
逆に、どちらかをあまり好まない人もいます。

しかし、両社とも「無関心」の対象ではありません。
これは非常に大きな差です。
選ばれる店
強いチェーンストアは、必ず顧客の頭の中に明確な位置を持っています。
反対に、何の印象も残さない店は、競争の中で静かに消えていきます。
中小スーパーが目指すべきは「万人受け」ではない
中小スーパーマーケットが陥りやすい失敗があります。

それは、すべてのお客様に好かれようとすることです。

価格も安くしたい。
品質も良くしたい。
品揃えも広げたい。
接客も良くしたい。
高齢者にも若い世代にも対応したい。
簡便商品も強化したい。
健康商品も増やしたい。
惣菜も青果も精肉も鮮魚も全部強くしたい。

もちろん、努力の方向性としては間違っていません。

しかし、経営資源には限りがあります。
人手も限られています。
売場面積も限られています。
在庫資金も限られています。
教育時間も限られています。

その中で、すべてを平均的に良くしようとすると、結果として「特徴のない店」になってしまいます。

これが『同質化』です。

同質化した店は、価格で比較されます。
価格で比較されると、粗利益率が下がります。
粗利益率が下がると、人件費や販促費に投資できなくなります。
投資できなくなると、さらに売場の魅力が落ちます。

この悪循環から抜け出すには、まず自店は誰に、何で選ばれる店なのかを明確にする必要があります。

ポジショニングを明確にするための3つの視点

スーパーマーケットが顧客の無関心から抜け出すには、ポジショニングを明確にする必要があります。

そのためには、次の3つの視点が重要です。

1. 誰に選ばれたいのかを決める

まず、自店の主力顧客を明確にすることです。

例えば、
共働き世帯なのか。
子育て世帯なのか。
高齢者世帯なのか。
健康志向の高い顧客なのか。
料理好きの顧客なのか。
簡便・時短を求める顧客なのか。

ターゲットが曖昧なままでは、売場づくりも販促も曖昧になります。

結果として、誰にも強く刺さらない売場になります。

2. 何で選ばれたいのかを決める

次に、自店の強みを明確にします。

青果の鮮度で選ばれる店。
鮮魚の生きの良さで選ばれる店
惣菜のおいしさで選ばれる店。
精肉の品質とメニュー提案で選ばれる店。
地元商品の品揃えで選ばれる店。
接客と接遇で選ばれる店。
簡単・時短・健康提案で選ばれる店。

この「選ばれる理由」が明確でなければ、チラシもPOPも売場づくりも弱くなります。

安さだけに頼ると、大手やディスカウント業態との消耗戦に巻き込まれます。

3. 売場で伝え切れているかを確認する

ポジショニングは、会議室で決めただけでは意味がありません。
お客様に伝わって初めて価値になります。

売場の入口で伝わっているか。
主通路で伝わっているか。
平台で伝わっているか。
エンドで伝わっているか。
POPで伝わっているか。
従業員の声かけで伝わっているか。


ここが重要です。

「うちは青果が強い」と社内で思っていても、お客様に伝わっていなければ意味がありません。

「惣菜がおいしい」と自信があっても、売場で魅力が表現されていなければ選ばれません。

ポジショニングとは、経営方針であると同時に、売場表現の問題でもあります。

顧客の無関心を防ぐ売場づくりの実践ポイント

では、現場では何をすればよいのでしょうか。

重要なのは、売場に「その店らしさ」を出すことです。

例えば、青果部門であれば、単に商品を並べるだけではなく、
「鮮度感」
「季節感」
「食べ方提案」
「地元感」
「楽しさ」
を売場で表現することです。

惣菜部門であれば、
「できたて感」
「手づくり感」
「夕食解決」
「家族が喜ぶメニュー」
「今日買う理由」
を伝える必要があります。

精肉部門であれば、
「用途別提案」
「メニュー提案」
「部位の価値」
「簡単調理」
「週末のごちそう感」
を表現することが大切です。

売場は、商品を置く場所ではありません。
お客様に価値を伝える場所です。

商品そのものに価値があっても、売場で伝わらなければ価格だけで判断されます。
価格だけで判断されると、粗利益は取りにくくなります。

だからこそ、売場づくり、POP、陳列、関連販売、従業員の声かけが重要になるのです。

「安い店」ではなく「思い出される店」になる

これからのスーパーマーケット経営では、単に安いだけでは生き残れません。

もちろん、価格対応は必要です。
しかし、価格だけで競争すれば、体力のある大手やディスカウント業態が有利です。

中小スーパーが目指すべきは、
「安いから行く店」だけではありません。

それ以上に、
「あの店の青果は楽しい」
「あの店の惣菜はおいしい」
「あの店に行くと夕食のヒントが見つかる」
「あの店の従業員は感じがいい」
「あの店には地域らしさがある」


と思い出される店になることです。

お客様の頭の中に、自店の明確な位置をつくる。
これがポジショニングです。

そして、ポジショニングが明確な店は、価格だけで比較されにくくなります。

結果として、
粗利益を守りやすくなります。
売場づくりにも投資できます。
従業員教育に投資して力を入れられます。
営業利益の改善にもつながります。

まとめ:無関心から抜け出すことが、スーパー再生の第一歩

スーパーマーケットにとって、最大の危機は 「嫌われること」 ではありません。
お客様に何も感じてもらえないことです。

同質化した店は、無関心の対象になります。
無関心の店は、価格でしか比較されなくなります。
価格で比較される店は、粗利益を失いやすくなります。
粗利益を失えば、営業利益は確実に低下して、現場への投資も人材育成も難しくなります。



だからこそ、これからのスーパー経営に必要なのは、明確なポジショニングです。

誰に選ばれるのか。 何で選ばれるのか。
売場でどう伝えるのか。
競合店と何が違うのか。
お客様の記憶に何を残すのか。


『この問い』 に答えられる店だけが、これからの競争を勝ち抜いていきます。

売上を上げる前に、まずお客様の関心を取り戻すこと。
価格を下げる前に、自店の価値を明確にすること。
チラシを打つ前に、店の存在理由を売場で表現すること。


これが、これからの中小スーパーマーケットに求められる経営の基本です。

顧客に無関心になられない店。
好き嫌いの対象になるほど、個性が明確な店。
「あの店に行きたい」と思い出される店。

そのような店づくりこそ、スーパーマーケットが同質化から抜け出し、営業利益を高めていくための第一歩です。
(文:新谷千里)


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有限会社サミットリテイリングセンター

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