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福味健治

建築主の思いを形にする注文住宅の専門家

福味健治(ふくみけんじ) / 一級建築士

岡田一級建築士事務所

コラム

新しい家造りの手法

2018年10月30日

テーマ:【賢い家造り】

コラムカテゴリ:住宅・建物

リノベーションか建替えか


最近、土地探しからのご相談メールが数多く寄せられて来ます。郊外のニュータウンと呼ばれる住宅地の中の物件が、世代交代時期に差し掛かり、手頃な価格で売りに出され、不動産が数多く市場に出回っているからかと考えています。
若いご夫婦で、現在賃貸に住んでおられる方には、マイホームを手に入るのに追い風が吹いているのを感じます。

写真の物件も、マイホームを希望されて、ご相談メールを頂いた、お客様が購入された物件です。

奈良県のニュータウンの一画にある物件で、大阪市内まで、バスと電車で40分以内と云う好立地にありながら、1000万円を切った価格で購入されました。
古家の状態がもう少し良ければ、リノベーションと云う選択枝もありましたが、構造的検証を行っていないと思われる増改築を繰り返した形跡のある物件で、リノベーションのコスト増が予想されたのと、若いご夫婦のライフサイクル等を考え併せても、新築にする方が、生涯に渡って不動産に投資するコストが安く抑えられると判断しましたので、新築をお勧めしました。

土地探しの躊躇

今回のお客様は、子育て真っ最中の若いご夫婦で、近所に子供の友達になりそうな、同世代が多く住むであろう、新しく造成された新興住宅地をメインに探されていました。周りの環境全体が真新しく、若いご夫婦が住むのに理想的な環境のはずです。
難点は、敷地面積が今回取得した土地より狭く、庭が取れないのと、建物に関する不満でした。
建物は、どの建物に入っても合板フロアーと、ビニルクロスで仕上げられた今風の家で、新しいうちは良いのですが、周り近所にもっと新しい家が建ち並ぶと、急速に魅力を失ってしまう家です。キッチンセットやユニットバスは豪華でも、耐震性能や断熱性に関して、こだわりを盛り込む事が出来ません。
そこに、今回購入された中古物件の情報が流れて来ました。ニュータウンの一画にある角地で、尚且つ東側は公園に面していて、将来に渡り公園の緑を楽しむ事が出来ます。
しかし、近所の街並みは落ち着いてはいますが、華やぎがありません。ご近所の住人の年齢層は、お客様の親世代の年齢に近く、子供たちの友達になってくれそうな、子供のの声が聞こえて来ません。
また、土地も、前の候補地に比べ大きかったのですが、リノベーションでないと予算的にオーバーしそうな雰囲気です。

それでもニュータウンの土地を勧めました

土地を資産としてみた場合、角地は資産価値が上がります。また向いが公園に面している土地は、ニュータウンの中でも希少です。現在、購入希望者よりも、土地供給が上回っていますので、安値で推移していますが、ちょっと景気が良くなったり、法改正等で、土地取得に関する仕組みが変わってしまえば、こう言った資産価値・希少価値の高い物件から値段の上昇が始まります。その事を経験的に知っていましたので、この土地を強く勧めました。
また、ご近所にも同様の売り物件が複数あり、ここも世代交代が進んでいます。つまり、いつまでも古い街並みであるはずもありません。
振り返って、そう言う目線で新しい新興住宅地を見れば、今は新しくても、一斉に古くなりますので、20~30年すれば、このニュータウンと同じか、土地の狭い分余計にみすぼらしい環境になってしまうのが見えてしまいます。そうなれば資産価値もあったものではありません。
そうお客様にお話ししますと、お客様はご理解頂き、ニュータウンの土地の購入を決断されました。

困難を極めた施工者選定

リノベーションも視野に入れて、ニュータウンの土地を推薦しましたが、建物を調査すると、傷みが激しく、増築と改築を繰り返した形跡が見られました。構造的な検証を行いつつ、構造に手を加えるのであれば、問題はないのですが、無秩序に柱や壁を撤去してしまうと、構造耐力が極端に落ちてしまいます。どこでどの様な、改造されているのか判らない為、リノベーションの費用の算出がどうしても、割高になってしまい、お客様の年齢を考えると、リノベーションをした処で、人生の後半のいずれかの時期で、再度家に手を加える事になり、不動産に対する生涯投資額が、新築より上回ってしまう事が予想された為、思い切って新築を勧めました。
限りある予算の中で、お客様のご希望をあれもこれもと詰め込んで行けば、予算がオーバーするのは目に見えてます。じっくりとお客様とディスカッションを重ね、譲れないもの・世間相場ほどこだわらないもの、を整理していきました。
こだわりは、耐震性能・省エネ性能・創エネ・自然素材です。一見全て高額なご要望に見えますが、逆に言えばそれ以外がこだわっておられない事がはっきりしました。最近の住宅の予算の中で、大きなウェイトを占めるのは住設機器です。この部分は天井知らずで、キッチンセットだけで300万円を超えるものもあります。こだわらなければ、20万円以下で手に入るものですので、こだわらないもの・後で取り換えが利くものを中心に省コスト化を図りました。

それでもまだ二~三百万円追い付きません。当初はそのギャップを住宅メーカーの購買力に頼ろうと考えました。大手のハウスメーカーで無くても、年間に相当件数をこなすハウスメーカーであれば、購買力を持っています。建設資材の値引き率も、町屋の工務店さんの比ではありません。そう思って、複数のハウスメーカーさんに声を掛けました。そのうち何社かは興味を示し、こちらの熱意を好意的に受けて頂き、真剣に検討して頂きました。
しかし、ハウスメーカーさんの購買力に頼るなら、ハウスメーカーさんの仕様も尊重しなければなりません。お施主さんのこだわりをある程度我慢して貰わなければならない事態となりました。土地契約から数か月が過ぎて、築き上げてきた理想の家の形態を見直すのはとても勇気のいる事で、いまさら感がフツフツと湧いてきて、ハウスメーカーさんとの交渉は止まってしまいました。

次に考えたのが、オープンシステムです。工務店の間接経費をカット出来れば、予算に合います。知り合いの大工さんに相談し、そもそもお客様の希望額で、工事可能か図面を渡して判断してもらいました。
思惑は当たり、大工さんが工事をさせて欲しいと云って来られましたので、施工可能な旨をお客様に伝えました。
数日後今度はお客様より連絡がありました。銀行に融資の相談をされたのですが、個人の大工さんたちと、個々に契約を結ぶのでは、中間資金の借り入れが難しいと云われたそうです。その他にも瑕疵担保保険が受けられないとかの問題も発生して来て、行き詰まり感が漂ったのですが、ここで妙案を思いつきました。
以前取引のあった建材卸しの会社があり、知り合いの大工さんも何度か取引がありました。そこの建材卸しの会社が建設業の許可も持っていましたので、建材卸しの会社と工事請負契約を結び、建材卸し会社の施工部隊として知り合いの大工さんが施工する手はずを整えました。
建材卸しの会社は、資材の調達・納入で利益を出します。大工さんは大工仕事で稼ぎますので、間接経費は圧縮出来ます。銀行も建材卸しの会社が元請けですので、融資に問題はありません。
これで、ようやく予算内に納まった内容の建物を、借り入れも通していよいよ着工の運びとなりました。

このコラムを竣工までシリーズ化します

この手法は、こだわりの家を、安く建てる一つのケーススタディーになります。お客様に匿名を条件にコラムにする許しを頂きましたので、工事の順を追って連載して参ります。

この記事を書いたプロ

福味健治

建築主の思いを形にする注文住宅の専門家

福味健治(岡田一級建築士事務所)

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