人生の後半に現れる不安の正体

小橋広市

小橋広市

テーマ:自己開示

仕事や家庭、役割に真面目に向き合ってきた人ほど、人生の途中でふとした違和感を覚えることがあります。「このままでいいのだろうか」「頑張ってきたはずなのに、なぜか満たされない」こうした声は、特定の年齢に限ったものではありません。若い世代にも、中高年にも、そして高齢期に入った方にも共通して見られるものです。

私は七十一歳になり、これまでの人生を振り返る機会が増えました。体力やスピードの低下、将来への不安がまったくないとは言えません。ただ、それらは「老いそのもの」よりも、自分との距離が広がっていたことへのサインだったのだと、今は感じています。
60代男性
幼い頃はいわゆる健康優良児で、無理がきく体を当たり前のように使ってきました。仕事に没頭し、止まらずに走り続けることが自分の価値を証明してくれると思っていたのです。しかし五十九歳で重度の心筋梗塞を経験し、その後も大腸がんの早期発見、入院中の敗血症と、命と向き合う出来事が続きました。そのとき初めて、「自分は何を優先し、何を後回しにしてきたのか」を真剣に考えるようになりました。

多くの相談現場で感じるのは、不調や不安の原因が「出来事」そのものではなく、長年の思考のクセや生き方の前提にあるということです。「頑張らなければ認められない」「止まることは甘えだ」こうした考えが、知らず知らずのうちに心と体を消耗させていきます。

若い世代は情報や選択肢の多さに疲れ、自分の基準を見失いがちです。中高年は責任や期待を背負い、弱さを出す場所を失っていきます。高齢期になると、体の変化が現実となり、「この先どう生きるのか」という問いが避けられなくなります。年齢は違っても、共通しているのは、自分の内側との接続が薄れている状態です。

そこで私が大切にしているのが「再接続」という考え方です。再接続とは、過去を否定することでも、何かをやり直すことでもありません。これまでの人生をそのまま受け取りながら、今の自分の感覚とつながり直すことです。評価や役割から一度距離を置き、「本当はどう感じているのか」を確かめる作業とも言えます。

私自身、もう一度テニスコートに立ちたいという思いから、膝の人工関節置き換え手術を選びました。それは若さを取り戻すためではなく、「自分の人生を自分の足で味わう」という感覚を取り戻すための選択でした。できないことが増える一方で、感じ取れるものが増えていく。この変化を受け入れられたとき、不安の質が変わっていったように思います。

人生の後半に現れる不安は、衰えの証ではありません。むしろ、自分とつながり直す準備が整ったサインとも言えます。立ち止まることは後退ではなく、方向を確かめるための時間です。
年齢を重ねた今だからこそ見える視点を、これからを生きる世代へ静かに手渡していく。そんな関わり方が、これからの私の役割なのだと感じています。

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小橋広市
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小橋広市(講師)

一般社団法人Self&Lifeコンディショニング協会

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