論文投稿のお知らせ~糖尿病関連の恥について~
はじめに(前編のおさらい)
前編では、健診結果では見過ごされがちな「正常範囲内で低め」の血清カリウム値について、「食習慣との関係」「糖尿病との関係」という2つのテーマからご紹介しました。
要点を振り返ると、精製された糖質や加工食品を中心とした食生活は、食後に血中のインスリン濃度を慢性的に押し上げやすく(食事性高インスリン血症指数が高い食事パターン)、そのインスリンの分泌そのものが、食後のたびに血清カリウムを一時的に低下させることが、実験的に確立されています。
この「食習慣→食後高インスリン血症→軽度の低カリウム血症」という流れが繰り返されることで慢性的な低カリウム血症が定着し、さらにそれ自体が2型糖尿病の発症リスクを高めている可能性がある、というのが前編の趣旨でした。
テーマ③ 寿命との関係
血清カリウム値と死亡リスクの関係
今回は、血清カリウム値と寿命(死亡リスク)の関係についてご紹介します。
近年の複数の大規模コホート研究で一貫して示されているのが、血清カリウム値と死亡リスクの間には「U字型」の関係があるという事実です。
台湾の地域住民2,065例を対象とした前向き研究では、血清カリウム値が3.9〜4.4mmol/Lの群で全死亡・心血管死亡リスクが最も低く、それより低い群(3.5〜3.8mmol/L、いわゆる「正常範囲内で低め」の水準)でも、死亡リスクが有意に上昇していました。
心不全や腎臓病がない、比較的健康な地域住民を対象とした結果である点が重要です。
この関係は高齢者で特に顕著であり、心不全・慢性腎臓病・糖尿病の有無に関わらず認められています。
つまり「異常値マークがついていないから大丈夫」とは言い切れない可能性があるのです。
食事由来のカリウムと寿命
食事由来のカリウム摂取量についても、興味深いデータがあります。
14万人を超える方を10年間追跡した韓国の研究では、カリウム摂取量が多い群ほど全死亡リスクが低く、逆にナトリウム摂取量そのものは全死亡リスクと明確な関連を示しませんでした。
減塩以上に、カリウムをしっかり摂ることの方が、寿命という観点では重要かもしれない、ということを示唆するデータです。
まとめ:カリウムを効率よく摂るために
これまでご紹介してきたように、血清カリウム値が「正常範囲内で低め」という、健診結果では見過ごされがちな状態が、食習慣・糖尿病、そして寿命にまで関わっている可能性があります。
ここで改めて強調したいのは、単に「カリウムの多い食品を摂る」という足し算の発想だけでなく、「食後のインスリン分泌を過剰にさせない」という引き算の発想も同じくらい重要だという点です。
前編でご紹介したように、精製された糖質や加工食品を中心とした食生活は、食後の血中インスリン濃度を慢性的に押し上げやすく、そのインスリンの分泌そのものが、食後のたびに血清カリウムを一時的に低下させます。
カリウムを含む食品を摂ることと、インスリンの過剰分泌を招かない食べ方をすることは、どちらも欠かせない、車の両輪のような関係にあります。
具体的には、以下の点を意識していただくとよいと思います。
- 精製された糖質・加工食品を減らす:精製穀物、菓子類、加工肉、揚げ物、清涼飲料水など、食後血糖値とインスリン分泌を急激に押し上げやすい食品の摂りすぎは、血清カリウムの一時的な低下を繰り返す一因になり得ます。これらすべてを全否定するわけではありませんが、摂取頻度や量を見直す価値はあると思います。
- 食物繊維やたんぱく質を組み合わせる:野菜・海藻・豆類などを先に摂る、精製度の低い穀物(玄米・全粒粉)を選ぶといった工夫は、食後の血糖・インスリンの急上昇を抑えることにつながり、結果としてカリウムの細胞内への急激な移動も緩やかになると考えられます。
- カリウムを豊富に含む食品を積極的に取り入れる:生鮮の野菜・果物・海藻・豆類など、加工が進むほどカリウム含量は減少するため、生鮮食品を中心にすることが基本です。
- 調理法にも配慮する:カリウムは水溶性のため、茹でる・煮ると茹で汁に溶け出します。生食(サラダ等)や蒸し調理は損失を抑えられます。汁物にする場合は、汁ごと摂取するのも一案です。
- 腎機能が低下している方は要注意:カリウムの摂取を増やす前に、必ず主治医・管理栄養士にご相談ください。
低カリウム血症を防ぐということは、単に「カリウムを足す」ことではなく、「食後高インスリン血症を招かない食べ方をする」ことと、「カリウムそのものをしっかり摂る」ことの両方を意識する、総合的な食習慣の見直しなのだと言えます。
ご自身の健診結果で、血清カリウム値が「正常範囲内だけれど、やや低め」という方は、これを機会に、日頃の食べ方そのものを振り返ってみてはいかがでしょうか。
参考文献
1. Pan WH. Low-normal serum potassium is associated with an increased risk of cardiovascular and all-cause death in community-based elderly. J Formos Med Assoc. 2015;114(6):517-525.
2. Kwon YJ, Lee HS, Park G, Lee JW. Association between dietary sodium, potassium, and the sodium-to-potassium ratio and mortality: a 10-year analysis. Front Nutr. 2022;9:1053585.


