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「わかってるけど、できない」の正体 〜健康行動を支える2つの柱〜

松田友和

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テーマ:糖尿病

糖尿病をはじめとする生活習慣病を持つ方から、診察室でよく聞く言葉があります。「頭ではわかっているんです。でも、なかなか……」

意志が弱いのでしょうか。性格の問題でしょうか。おそらく、そうではありません。

知識だけでは動けない

長年、医療の世界では「行動を変えられないのは知識が足りないからだ」という考え方が主流でした。食事の説明をする、運動の効果を伝える、合併症のリスクを話す。そういったアプローチが中心でした。

確かに、知識は大切です。しかし「知っているのに動けない」という状態は、どう説明すればよいのでしょうか。

タバコが体に悪いと知りながら吸い続ける人。カロリーの計算ができるのに、夜中についつい食べてしまう人。運動の大切さは百も承知なのに、ソファから立ち上がれない人。

こういった現象に向き合う中で、心理学の分野では「行動を起こすには、知識だけでは足りない」という認識が深まっていきました。

「自分にできる」という感覚の力

自己効力感とは

まず注目されたのが、「自己効力感」という概念です。心理学者バンデューラが提唱したもので、「自分にはこれができる」という感覚のことです(Bandura, 1977)。

自己効力感が高い人は行動を起こしやすく、低い人は起こしにくい。この発見は、健康支援の分野に大きな影響を与えました。「できる気がしない」という壁を取り除くことが、行動変容の鍵だと考えられるようになりました。

結果期待という要素

さらに、「結果期待」という要素も重要です。「やっても意味がない」と思っている人は動きません。「これをやれば良くなる」という見通しを持てることが、行動の前提になります。

この枠組みは多くの場面で役立ちましたが、ひとつの疑問が残りました。「できると思っていて、効果もわかっている。それでも動かない人」をうまく説明できなかったのです。

行動を続けるには「動機の質」が問われる

この問いへの答えとして、近年注目されているのが「動機の質」という視点です(Deci & Ryan, 2000)。

「なぜやるのか」という動機には、大きく分けて二種類があります。

外から押しつけられた動機

「医師に言われたから」「怒られたくないから」「家族が心配するから」。こうした理由で始めた行動は、外部の圧力がなくなると続かなくなります。

自律的動機

「これは自分の人生にとって大切だ」「自分がそうしたい」という感覚。これを「自律的動機」といいます。

自律的動機を持っている人は、たとえ途中でつまずいても自分で立て直せることが示されています(Williams et al., 2004)。数値が悪化したとき、ストレスで食事が乱れたとき、そういう局面での粘り強さが違うのです。

自己効力感は行動を「始める」ための力ですが、「続ける」ためには自律的動機が欠かせません。

もうひとつの柱──「自分に合った知識」

動機と並んでもうひとつ重要なのが、知識の質です。ここでいう知識とは、情報の量ではありません。

インターネットや書籍には健康情報があふれており、熱心に調べている方ほどさまざまな情報を持っています。問題は、その情報が「自分の状態に本当に合っているかどうか」です。

根拠の薄い健康法を熱心に実践している、あるいは一般的には正しい情報でも自分の病態には当てはまらない。こうしたことは珍しくありません。高い動機を持ちながら方向がずれている状態は、知識がないよりもある意味でやっかいです。

「自分に合った、根拠のある知識」を持つことが、動機と並んで健康行動の重要な柱になります。

2つの柱が揃ったとき

長期にわたる健康行動を支えるのは、次の2つです。

  1. 自律的動機──自分が選んでいるという感覚
  2. 適切な知識──自分の状態に合った、根拠のある理解


この2つが揃ったとき、人は無理なく、自分らしく、健康のための行動を続けられるようになります。

「わかっているけど、できない」という状態のほとんどは、この2つのどちらか──あるいは両方──が十分でないときに起きています。意志の問題でも、怠けでもありません。

自律的動機は誰かに与えてもらうものではありませんが、周囲の関わり方によって育ちやすくも育ちにくくもなります。一方的な指示より、一緒に考えること。正解を押しつけるより、自分で選べる状況をつくること。そういった関わりが、動機の質を変えていきます。

「わかっているけど、できない」と感じているなら、まず「自分はなぜこれをやるのか」を改めて自分の言葉で考えてみることが、最初の一歩になるかもしれません。私たちのクリニックでも、そのお手伝いをしたいと考えています。

引用文献

Bandura A. Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change. Psychol Rev. 1977;84(2):191-215.
Deci EL, Ryan RM. The 'what' and 'why' of goal pursuits: human needs and the self-determination of behavior. Psychol Inq. 2000;11(4):227-268.
Williams GC, et al. Testing a self-determination theory process model for promoting glycemic control through diabetes self-management. Health Psychol. 2004;23(1):58-66.
Matsuda T, et al. Development and validation of the Japanese version of the Treatment Self-Regulation Questionnaire for Diabetes (TSRQ-DJ). 糖尿病. 2022;65(1).
Matsuda T, et al. BMJ Open Diabetes Res Care. 2022;10(6):e003001. doi:10.1136/bmjdrc-2022-003001.

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松田友和
専門家

松田友和(内科医)

医療法人社団翠藍 糖尿病内科まつだクリニック

糖尿病専門クリニック。糖尿病専門医による薬物療法に加え、認定看護師や療養指導士など糖尿病専門スタッフがチームで食事療法や運動療法も行う。フットケア外来、禁煙外来、糖尿病患者友の会「ばんぶぅ会」もある。

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