安価な抗老化薬としてのメトホルミンの可能性
はじめに
前編では、手術前に特に注意が必要な、SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬・メトホルミンについてお伝えしました。後編では、その他の経口血糖降下薬とインスリン注射の対応、そして全体のまとめをお伝えします。
なお、実際の休薬・再開のタイミングは、手術の内容や腎臓の機能によって変わります。手術を受ける医療機関からの指示が最も優先されますので、必ずその指示に従ってください。この記事は、その指示の背景や考え方を理解していただくための参考としてお読みください。
その他の経口血糖降下薬
以下の薬は、手術当日は絶食のため飲まない状況となります。術後は食事が安定して再開できた後に、通常通り再開します。
| 薬剤クラス(代表的な薬名) | 休薬のタイミングと主な注意点 |
|---|---|
| SU薬(グリメピリド・グリベンクラミドなど) | 絶食中でも血糖に関係なくインスリンを分泌し続け、低血糖を起こしやすい。大きな手術・高用量・高齢の方・腎機能低下の方は2〜3日前からの中止を相談する。 |
| グリニド薬(ミチグリニド・ナテグリニドなど) | 食事直前に飲む短時間作用型の薬。絶食中は低血糖のリスクだけが残る。術後は食事再開後に毎食直前から再開。 |
| DPP-4阻害薬(ジャヌビア・ネシーナ・エクアなど) | 血糖値が上がったときだけ働く薬のため、単独では低血糖を起こしにくい。インスリンやSU薬と一緒に飲んでいる方は低血糖に注意。 |
| チアゾリジン薬(ピオグリタゾンなど) | 絶食中は飲む意義がない。術後は全身状態・むくみ・心臓の機能を確認してから再開。 |
| イメグリミン(ツイミーグ) | 比較的新しい薬で周術期のデータはまだ限られている。術後は食事が安定してから再開。 |
| α-GI薬(ベイスン・グルコバイなど) | 食後の糖の吸収を遅らせる薬のため、食事がなければ働く機会がない。低血糖が起きたときはブドウ糖(砂糖では効果が弱い)を使うこと。 |
インスリン注射— 基礎インスリンは継続が原則
自己判断で完全にやめないでください
インスリン注射は他の飲み薬とは考え方が大きく異なります。基礎インスリン(持効型・中間型の注射)は、たとえ絶食中であっても継続することが原則です。
基礎インスリンは食事とは別に、肝臓からの糖の放出を抑えたりケトアシドーシスを防いだりする役割があります。食事をとらないからといってやめてしまうと、かえって危険な状態になります。
術前の量の調整について
基礎インスリン(ランタス・トレシーバなど)の量は、手術前に医師から個別に指示が出ます。通常量の50〜100%の範囲で調整されることが多いです。絶食中は食事の影響がなくなるため、人によっては通常量のままでは血糖が下がりすぎることがあります。どの程度減量するかは血糖の変動パターンや体質によって個人差があるため、必ず医師の指示に従ってください。
| インスリンの種類 | 周術期の対応 |
|---|---|
| 持効型・中間型(基礎インスリン) 例:ランタス、トレシーバ、レベミル | 絶食中も継続。量は医師が個別に指示(通常量の50〜100%)。自己判断でやめないこと。 |
| 超速効型・速効型(追加インスリン) 例:ノボラピッド、ヒューマログ | 食事をとらない間は打たない。食事再開に合わせて再開。 |
| 混合型インスリン | 手術前に基礎と追加の分割に変更することがある。医師・看護師に確認を。 |
| インスリンポンプ(CSII) | 基礎の投与は継続。手術室での対応は事前に麻酔科・担当医と決めておく。 |
※ 1型糖尿病の方は基礎インスリンを必ず継続してください。中止は禁忌です。
※ 術中・術後は血糖を2〜4時間ごとに測定し、目標値は140〜180 mg/dLとなります。
まとめ— 薬ごとの休薬タイミング
| 薬の種類 | 休薬のタイミング | 主なポイント |
|---|---|---|
| SGLT2阻害薬 (フォシーガ等) | 手術の3日前から | ケトアシドーシス予防。心不全・慢性腎臓病で飲んでいる方も同じ。 |
| GLP-1週1回注射 (オゼンピック・マンジャロ等) | 手術の1週間前の 注射を最後に | 胃に食べ物が残りやすく、全身麻酔時の誤嚥リスクがある。 |
| GLP-1日1回注射・飲み薬 (ビクトーザ・リベルサス) | 手術前日を最後に | 同上。 |
| メトホルミン | 手術の2〜3日前から (施設の指示に従う) eGFR30未満:禁忌 | 日本では安全性を優先し早めに休薬。造影剤は腎機能により前後で休薬が必要。 |
| SU薬 | 手術当日朝 (大手術・高用量は2〜3日前) | 絶食中も低血糖が起きやすい。 |
| グリニド・DPP-4阻害薬 チアゾリジン・イメグリミン・α-GI薬 | 手術当日朝 | 絶食中は飲まない。術後は食事再開後に再開。 |
| インスリン(基礎) (ランタス・トレシーバ等) | 継続(量は医師が調整) | 絶食中もやめない。自己判断での中止は危険。 |
| インスリン(追加) (超速効型・速効型) | 絶食中は打たない | 食事の再開に合わせて再開。 |
【配合錠(2種類の成分が入った薬)について】
スージャヌ、カナリア、エクメット、イニシンク、メタクト、ソニアスなどの配合錠は、含まれる成分それぞれの基準が適用されます。最も早く休む必要がある成分の基準に従ってください。
おわりに
手術前後の薬の管理は、糖尿病治療の中でも特に個別対応が求められる場面です。薬の種類・手術の内容・腎臓の機能によって対応が変わるため、「自分はどうすればよいのか」と不安に感じられることもあるかと思います。
実際の休薬・再開のタイミングは、手術を受ける医療機関からの指示に従ってください。糖尿病の治療を受けている医療機関にも、手術の予定が決まった時点で伝えておくと安心です。
引用文献
1. Halperin I, Malcolm J, Moore S, Houlden RL. Suggested Canadian Standards for Perioperative/Periprocedure Glycemic Management in Patients With Type 1 and Type 2 Diabetes. Can J Diabetes, 2022.
2. 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2024. 文光堂, 2024.


