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新型コロナウイルス感染症の後遺症に対する糖尿病治療薬であるメトホルミンの影響

松田友和

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テーマ:糖尿病治療薬

はじめに

新型コロナウイルス感染症の後遺症が、世界中で社会問題の1つとなっています。発症の機序や頻度も明らかにはなっていませんが、糖尿病の治療薬であるメトホルミンが、新型コロナウイルス感染症の後遺症の発症予防に有効ではないかという研究結果が報告されましたので、紹介させていただきます。

新型コロナウイルス感染症の後遺症とは

新型コロナウイルスに感染(COVID-19感染症)した人で、抗原キットなどで、コロナウイルスが検出されなくなってからも、症状が長く続く場合があることが知られています。多くの方は、数日から1~2週間程度で症状が改善しますが、一部の人で症状が長引くことがあり、海外では「 long COVID(ロング COVID)」と呼ばれています。
全身倦怠感、咳、集中力低下、息切れ、記憶障害、脱毛など、症状は多様であり、その原因もまだ明らかになっていません。

<厚生労働省のホームページより抜粋した新型コロナウイルス感染症の後遺症の例>

厚生労働省のホームページより引用

新型コロナウイルス感染症の発症時に抗ウイルス薬を投与された方に後遺症の発症が少なかったという報告や、ワクチン接種歴の有無で後遺症に出現に差があるのではないかという報告は散見されますが、これらの後遺症に対する有効な予防法や治療法はまだ確立していないのが現状です。

新型コロナウイルス感染症の後遺症に有効である可能性のある薬剤

2023年6月に米国のミネソタ大学の研究グループは、糖尿病の治療薬として、一般的に使用される薬であるメトホルミンが新型コロナウイルス感染症の後遺症の発症を予防することを報告しました。

Lancet Infect Dis. 2023 Jun 8;S1473-3099(23)00299-2.
doi: 10.1016/S1473-3099(23)00299-2.
Outpatient treatment of COVID-19 and incidence of post-COVID-19 condition over 10 months (COVID-OUT): a multicentre, randomised, quadruple-blind, parallel-group, phase 3 trial

研究の方法

全米の1100人以上のボランティアを対象に、メトホルミン、イベルメクチン、またはフルボキサミン(※1)を、新型コロナウイルス感染症の罹患早期に治療することで、偽薬と比較して、後遺症(※2)を軽減することができるかどうかを感染してから10か月間追跡調査しました。

※1 これらの3つの治療薬は、投与することで新型コロナウイルス感染症の重症化を予防できるのではないかという研究結果が報告されています。
※2 新型コロナウイルス感染症の後遺症の定義;新型コロナウイルス感染症に感染後4週間以上経過した患者(軽症または無症状の急性感染者を含む)が有する、身体的および精神的な健康影響の総称としています。

結果

  • メトホルミンを投与された人は、プラセボ(偽薬)を投与された人よりも、後遺症を発症する可能性が40%以上低かった。
  • 新型コロナウイルス感染症の症状が始まってから4日以内にメトホルミンを開始した。参加者の場合、メトホルミンは後遺症のリスクを63 %減少させました。
  • この効果は、参加したボランティアの様々な人口統計学的集団間、およびオミクロン変異体を含む複数のウイルス変異体にわたって一貫していました。
  • イベルメクチンとフルボキサミンは後遺症を予防しませんでした。


結果から考えられること

研究グループでは、
「新型コロナウイルス感染症の後遺症は人々の生活に大きな影響を与える可能性があるため、この研究の結果は重要です」
「メトホルミンは安価で安全で広く入手可能な薬であり、予防策としての使用は公衆衛生に重大な影響を与える可能性があります。」
とコメントしています。
一方で、
「私たちの試験の半数はワクチン接種を受けていたました。また、以前に新型コロナに感染したことのある人や、肥満のないやせた人でも、メトホルミンに効果があるかを検証する必要があります。」
とも述べています。

つまり、ワクチン接種歴のない方や、肥満ではない方に対して、メトホルミンが新型コロナウイルス感染症の後遺症に有用であるかは、今後の検討が必要だということです。

この研究が、私たち日本人にそのまま当てはまるかどうかは、明らかではありませんが、感染症関連の論文の中でも、もっとも信頼度の高い論文に発表されたデータですので、注目度は高い研究結果だと思います。
糖尿病を持っている方で、メトホルミン(商品名:メトグルコ)を内服されている方は実際に多くいらっしゃいますので、後遺症に対するご感想をお伺いしたいです。

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松田友和
専門家

松田友和(内科医)

医療法人社団翠藍 糖尿病内科まつだクリニック

糖尿病専門クリニック。糖尿病専門医による薬物療法に加え、認定看護師や療養指導士など糖尿病専門スタッフがチームで食事療法や運動療法も行う。フットケア外来、禁煙外来、糖尿病患者友の会「ばんぶぅ会」もある。

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