デット・エクイティ・スワップ(DES)とは?役員借入金を資本化する仕組み・メリット・税務リスク

松本尚典

松本尚典

テーマ:会社 借金 債務 減らす

目次

デット・エクイティ・スワップとは、「借金を消すテクニック」ではない

貸借対照表から、DESの意味を理解する

DESをしても、会社に現金は1円も増えない

DESの法的な仕組みは「債権の現物出資」

株式会社でも、現金以外による「現物出資」は認められている

DESでは、一定の金銭債権なら検査役の調査が不要になる

専門家の証明によって検査役調査を省略する制度は、別の仕組み

DESをしても、全額を「資本金」にする必要はない

DESのメリット1 負債を減らし、純資産を増やせる

DESのメリット2 借入金の返済負担を減らせる

DESのメリット3 事業再生・事業承継・M&Aに向けて資本構成を整理できる

DES最大の注意点 債務消滅益が生じることがある

社長個人側の税務も確認しなければならない

DESをしたから「税務調査に入られる」とは限らない

「役員報酬を増やして会社へ戻し、DESすればよい」と単純に考えてはいけない

許認可の「資本金対策」としてDESを使う場合は、要件を細かく確認する

DESは、本業の赤字を治療してくれるわけではない

DESを提案された経営者が確認するべき10の質問

専門家は「誰から紹介されたか」ではなく、役割で使い分ける

M&A前のDESは、「企業価値を高く見せるため」に行わない

DESを使う目的は、「資本金を増やすこと」ではない

DES・役員借入金・資本政策を、会社全体から見直したい経営者の方へ


デット・エクイティ・スワップとは、「借金を消すテクニック」ではない


中小企業の貸借対照表を見ていると、

役員借入金。

短期借入金。

長期借入金。

といった負債が大きくなっている会社があります。

特にオーナー企業では、

会社の資金が足りない。



社長個人が会社へおカネを入れる。



会社では役員借入金として計上する。



何年も繰り返すうちに、多額の役員借入金が残る。

ということがあります。

こうした負債を整理する方法の一つが、

デット・エクイティ・スワップ

Debt Equity Swap

DES


です。

簡単に言えば、

Debt
=会社の負債

を、

Equity
=株主資本

へ転換する方法です。


例えば社長が会社に対して1000万円の貸付債権を持っている場合、

その1000万円の債権を会社へ現物出資し、

会社がその対価として社長へ新しい株式を発行する。

これが典型的なDESです。

しかし、

DESは、「帳簿上の借金を簡単に資本金へ振り替える会計テクニック」ではありません。

債権者が持っている債権という財産を会社へ出資し、その対価として株式を取得する資本取引です。


貸借対照表から、DESの意味を理解する


貸借対照表は、

会社が持っている資産

と、

その資産をどのように調達したのか

を表しています。

大きく分けると、

資産

=会社が持っている財産

負債

=金融機関、取引先、役員など、会社外部へ返済・支払い義務のあるもの

純資産

=株主が払い込んだ資本や、会社がこれまで蓄積した利益など


という構造です。

DESでは、

会社が社長へ返さなければならなかった役員借入金を減らし、

代わりに社長が株主として持つ株主資本へ転換します。

例えば、非常に単純化すると、

【DES前】

資産 3000万円

負債 4000万円
うち役員借入金 1000万円

純資産 ▲1000万円

【1000万円をDESした後】

資産 3000万円

負債 3000万円

純資産 0円


という変化が起こる可能性があります。

この例では、

負債が1000万円減り、

純資産が1000万円増え、

債務超過が解消しています。

DESをしても、会社に現金は1円も増えない


ここは、DESを理解するうえで最も重要なところです。

先ほどの会社は、

DESによって、

負債4000万円

から、

3000万円

へ改善しました。

しかし、

会社の資産は3000万円のままです。

銀行口座へ新たに1000万円が入ったわけではありません。

したがって、

明日の給与を払えない。

来週の仕入代金を払えない。

税金の納付資金がない。

という会社がDESを実行しても、

それだけでは資金ショートを解決できません。

DESは「資金調達」ではありません。

既に存在する負債を株主資本へ組み替える「資本政策」です。


ここを間違えてはいけません。

DESの法的な仕組みは「債権の現物出資」


典型的なDESでは、

社長。

金融機関。

取引先。

などの債権者が持っている、

「会社からおカネを返してもらう権利」

を会社へ現物出資します。

例えば、

社長が会社へ1000万円を貸している。

ということは、

社長には、

会社に対する1000万円の金銭債権

があります。

その債権そのものを会社へ出資する。

そして会社が社長へ新しい株式を発行する。

すると、

会社に対する債権と、

会社自身の債務

が同じところへ集まり、債務が消滅します。

一方、社長は、

会社へ1000万円を返してもらう債権者

から、

会社の株式を保有する株主

へ立場を変えます。

これがDESの基本的な法的構造です。

株式会社でも、現金以外による「現物出資」は認められている


現物出資というと、

特殊な会社だけに認められている制度

と思われることがあります。

しかし、株式会社でも現物出資は認められています。

例えば、

不動産。

有価証券。

機械設備。

会社に対する金銭債権。

など、金銭以外の財産を出資し、その対価として株式の交付を受けることがあります。

問題になるのは、

その財産を、いくらの価値として出資するのか

です。

例えば、

実際には100万円しか価値がない資産を、

1000万円あるものとして現物出資し、

1000万円相当の株式を発行した。

となれば、

会社の資本が実態以上に大きく表示される可能性があります。

そのため会社法では、現物出資財産の価額について、原則として検査役による調査という仕組みを設け、そのうえで複数の例外を定めています。

DESでは、一定の金銭債権なら検査役の調査が不要になる


DESで重要なのが、

会社自身に対する金銭債権

について設けられている会社法上の特例です。

一定の条件を満たせば、

裁判所が選任する検査役による調査を必要としない場合があります。

重要な条件は、

会社に対する金銭債権である

その債権の弁済期が到来している

現物出資財産として定める価額が、その債権に対応する会社側の負債の帳簿価額を超えていない


ことです。

つまり、

会社が社長から1000万円借りており、

その返済期限が到来している。

会社の帳簿にも1000万円の負債として記録されている。

その債権を1000万円以下の価額で現物出資する。

というような一定の場合には、

検査役調査を省略できる可能性があります。

「DESなら必ず検査役が不要」

でも、

「税理士に証明してもらえばDESの検査役は不要」

でもありません。

どの会社法上の例外に該当するのかを確認することが重要です。


専門家の証明によって検査役調査を省略する制度は、別の仕組み


会社法には、

現物出資財産の価額が適正であることについて、

弁護士。

公認会計士。

税理士。

など、一定の専門家による証明を受けることで、検査役による調査を不要とする制度もあります。

しかし、

これは、

弁済期の到来した会社向け金銭債権について認められるDESの特例

とは別の仕組みです。

したがって、

「税理士の証明書があればDESできる。」

とだけ理解するのは適切ではありません。

DESでは、「登記書類を作れるか」より先に、「どの法的根拠によってこのDESを実行するのか」を確認することが重要です。

DESをしても、全額を「資本金」にする必要はない


もう一つ、経営者に知っていただきたい重要な点があります。

DESによって1000万円の株主資本が増えるからといって、

1000万円すべてを資本金へ計上しなければならない

とは限りません。

会社法上、株式発行によって会社へ給付された財産の価額について、

一定の範囲を資本金へ計上せず、

資本準備金

とすることができます。

したがって、

DESによって株主資本を1000万円増加



資本金 500万円

資本準備金 500万円


というような設計を検討できる場合があります。

この点は非常に重要です。

なぜなら、

会社の資本金額は、

税制。

地方税。

各種中小法人向け制度。

許認可。

その他の制度上の区分。

へ影響する場合があるからです。

DESでは、「負債をいくら減らすか」だけではなく、「資本金と資本準備金をどう設計するか」まで考える必要があります。

DESのメリット1 負債を減らし、純資産を増やせる


DESの最も分かりやすいメリットです。

負債として計上されていた役員借入金等を株主資本へ転換するため、

負債総額を減らし、

純資産を増やすことができます。

その結果、

自己資本比率。

債務超過。

財務構成。

などが改善する場合があります。

ただし、

DESを行ったから会社の事業価値そのものが増えたわけではありません。

会社が本業で稼ぐ力は別問題です。

DESのメリット2 借入金の返済負担を減らせる


借入金である限り、

会社には債権者へ返済する義務があります。

一方、株式へ転換すれば、

貸付金のように、

「○年○月までに元本1000万円を返してください。」

という元本返済義務はなくなります。

これによって、

会社の将来の返済負担を減らせる場合があります。

しかし当然、

債権者側から見れば、

確定した返済請求権を手放し、価格や回収時期が確定しない株式へ交換する

ことになります。

債権者にとっても重大な意思決定です。

DESのメリット3 事業再生・事業承継・M&Aに向けて資本構成を整理できる


例えば、

オーナー社長からの役員借入金が5000万円。

純資産がマイナス。

という会社があるとします。

その会社が、

事業承継。

資本提携。

M&A。

を検討する場合、

役員借入金をどのように扱うのか

が交渉上の重要な論点になります。

DESを含めて資本構成を整理し、

会社とオーナー個人との貸し借りを分かりやすくすることは、

事業承継・M&A準備の一つになる場合があります。

ただし、

DESを行えばM&A価格が上がる、というものではありません。

企業価値を決める中心は、将来の収益力、キャッシュ創出力、顧客、組織、競争優位などです。


DES最大の注意点 債務消滅益が生じることがある


DESを考えるとき、

法務以上に慎重に確認したいのが、

税務

です。

例えば、

会社帳簿上の役員借入金が1000万円ある。

しかし、会社は深刻な経営不振に陥っており、

その債権の税務上の時価が600万円と評価された。

とします。

この場合、

1000万円の債務が消滅する一方、

資本等として認識される価額との間に差が生じ、

会社側に、

債務消滅益

が発生する場合があります。

つまり、

「1000万円の役員借入金を、そのまま無税で1000万円の資本へ移せばよい。」

という単純な処理ではありません。

DESでは、「債権の額面」と「債権の税務上の時価」が同じとは限りません。

この差が、会社側の課税問題につながる可能性があります。


特に、

DESが必要になるほど財務状態の悪い会社では、

債権の時価が額面を下回っている可能性があります。

だからこそ、税務の確認が重要なのです。

社長個人側の税務も確認しなければならない


オーナー社長が会社への貸付債権をDESする場合、

会社側だけを見ればよいわけではありません。

社長個人は、

貸付債権

を手放し、

代わりに、

非上場会社の株式

を取得します。

そのため、

債権の取得価額。

株式の取得価額。

債権・株式の時価。

他の株主との関係。

将来の相続。

将来のM&A。

などを考える必要があります。

また、株主が複数いる会社では、

DESによって特定株主へ大量の株式を発行すれば、

既存株主の持株比率が下がる

という問題も起きます。

発行条件によって株主間に経済的な価値移転が生じれば、別の税務論点が発生する可能性もあります。

したがって、

DESは会社側だけの会計処理ではありません。

会社と債権者・株主の双方から確認する資本取引です。


DESをしたから「税務調査に入られる」とは限らない


ここも、過度に不安を煽らないために整理しておきます。

DESは、会社法・税法上想定されている資本政策の一つです。

適正な債権があり、

会社法上必要な手続を行い、

税務上も適切に処理しているのであれば、

DESを行ったという理由だけで、

「税務調査に入られる。」

と考える必要はありません。

一方で、

実際には存在しない債権を帳簿上だけ作る。

債権の発生根拠を説明できない。

債権価額を合理的に説明できない。

役員・会社間で短期間に不自然な資金移動を繰り返す。

という処理であれば、

当然、その経済的実態や税務処理について説明を求められる可能性があります。

そこで、

金銭消費貸借契約書

銀行口座の資金移動

総勘定元帳

借入金明細

返済条件

取締役会・株主総会等の記録

DESを行う経営上の目的


などを整理しておくことが重要です。

DESで重要なのは、「税務調査を避けること」ではありません。

第三者へ、取引の実態と経営上の合理性を説明できる状態を作ることです。


「役員報酬を増やして会社へ戻し、DESすればよい」と単純に考えてはいけない


例えば、

社長への役員報酬を増やす。



社長が受け取ったおカネを会社へ貸す。



役員借入金を作る。



その役員借入金をDESする。

という方法を考えるケースがあるかもしれません。

こうした一連の取引については、

直ちに違法である

と一律に言うことはできません。

しかし、

役員給与の損金算入要件。

源泉所得税。

社会保険。

貸付債権の実在性。

DESの目的。

会社の資金繰り。

株式発行条件。

などを総合的に考える必要があります。

特に、

「現金の資金力はないが、資本金という数字だけ増やしたい。」

という目的で複雑な資金移動を行うのであれば、

本当にその方法が経営上合理的なのか

を慎重に検討すべきです。

許認可の「資本金対策」としてDESを使う場合は、要件を細かく確認する


特定の事業では、

純資産。

資本金。

現金・預金。

などについて、財務上の要件が定められていることがあります。

この場合、

「DESで純資産を増やせば、許認可要件を全部クリアできる。」

とは限りません。

例えば、

純資産額の要件

と、

現金・預金の要件

が別々に設定されている制度であれば、

DESによって純資産が増えても、

会社の現金・預金は1円も増えません。

したがって、

現金・預金要件は別に満たす必要があります。

許認可対策では、「資本金はいくら必要か」だけを見るのではなく、法令・通達・許可基準の財務要件を一つずつ確認することが重要です。

DESは、本業の赤字を治療してくれるわけではない


例えば、

毎年1000万円の営業赤字を出している会社。

役員借入金5000万円。

債務超過3000万円。

という会社があったとします。

5000万円をDESすれば、

貸借対照表上の純資産は大きく改善する可能性があります。

しかし、

翌年も1000万円赤字。

その翌年も1000万円赤字。

であれば、

再び純資産は減っていきます。

そして資金が足りなくなれば、

再び社長がおカネを入れることになります。

これでは、

役員借入金



DES



再び役員借入金

という循環になってしまいます。

DESは、赤字の原因を治療するものではありません。

財務構造を再構築する手段です。

DESと同時に、本業の収益構造を立て直す必要があります。


DESを提案された経営者が確認するべき10の質問


僕は、DESを提案された経営者には、少なくとも次の10項目を確認することをおすすめします。

  1. DESする債権は、本当に実在するのか
  2. その債権は、どのような経緯で発生したのか
  3. 現在の弁済期はいつなのか
  4. 会社法上、どの方法で検査役調査を省略するのか
  5. 債権の税務上の時価はいくらなのか
  6. 会社側に債務消滅益は発生しないか
  7. 債権者・株主側にどのような税務が生じるのか
  8. 資本金と資本準備金をどう配分するのか
  9. DESを行っても会社の資金繰りは本当に大丈夫なのか
  10. DES後に本業を黒字化・成長させる経営計画があるのか


この10項目に明確な回答がないまま、

「DESをすれば財務が良くなります。」

という説明だけで実行するのはおすすめできません。

専門家は「誰から紹介されたか」ではなく、役割で使い分ける


DESには、

会社法。

商業登記。

法人税。

所得税・相続税。

会計。

資本政策。

が関係します。

したがって、

一人の専門家だけで、すべての論点を完結できるとは限りません。

例えば、

税務
=税理士・公認会計士

会社法上の手続・契約
=弁護士

商業登記
=司法書士

経営・財務・事業再生・M&A
=経営者、財務責任者、M&A・経営アドバイザー

というように、それぞれの専門分野を連携させます。

重要なのは、

昔からの顧問だから正しい。

新しく営業してきた専門家だから危険。

と人間関係だけで判断することではありません。

その提案について、法務・税務・財務・経営の四つを合理的に説明できるかで判断することです。

M&A前のDESは、「企業価値を高く見せるため」に行わない


M&Aを予定している会社で、

役員借入金。

債務超過。

自己資本比率。

などを改善する目的からDESを検討する場合があります。

これは合理的なケースもあります。

しかし、

「DESをして貸借対照表を良く見せれば、高く売れる。」

と考えるのは間違いです。

M&Aの買い手は、

DES前の貸借対照表。

役員借入金の発生経緯。

DESの内容。

会社の過去の損益。

将来のキャッシュフロー。

まで確認します。

したがって、

財務構造を形式だけ変更しても、

会社の企業価値が突然増えるわけではありません。

むしろ、

なぜDESが必要になったのか。

DES後、会社がどう強くなるのか。

を説明できることが重要です。


DESを使う目的は、「資本金を増やすこと」ではない


DESの本質を最後に整理します。

DESによって、

負債を減らす。

純資産を増やす。

債務超過を改善する。

返済負担を軽減する。

資本構成を整理する。

ことができます。

しかし、

DESそのものが目的になってはいけません。

会社に本当に必要なのは、

収益を改善する。

キャッシュを生む。

金融機関から信用される。

後継者が承継できる。

外部資本を受け入れられる。

M&Aの買い手から評価される。

という経営状態です。

DESとは、「資本金を作るテクニック」ではありません。

会社の負債と資本の構成を見直し、その後の成長・再生・承継につなげるための資本政策です。


DES・役員借入金・資本政策を、会社全体から見直したい経営者の方へ


「役員借入金が大きくなっている」

「債務超過を解消したい」

「DESを勧められたが、本当に実行すべきか判断できない」

「増資後の税務が心配だ」

「許認可の財務要件を満たすために資本政策を見直したい」

「事業承継前に、社長と会社との貸し借りを整理したい」

「M&Aを予定しており、財務体質を整えておきたい」

こうした課題は、

DESという一つの手法だけから考えるのではありません。

会社の、

収益力。

キャッシュフロー。

借入金。

役員借入金。

純資産。

株主構成。

税務。

事業承継。

M&A。

までを一体として考えます。

そのうえで、

返済するのか。

DESするのか。

現金増資するのか。

別の資本政策を選ぶのか。

を判断します。

年商5億円の壁を突破するための経営者伴走コンサルティング

年商3000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、2026年3月期・グループ総売上高48億円の企業グループを経営する現役オーナーCEOである松本尚典が、収益改善、キャッシュフロー、役員借入金、資本政策、事業承継、企業価値向上、M&Aまで、経営判断と実行に継続して伴走します。

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