デットエクイティスワップとは?資本金を増やす負債の資本化、そのメリットと税務リスク

松本尚典

松本尚典

テーマ:会社 借金 債務 減らす


負債を純資産に切り替える、デットエクイティスワップ


企業の決算時の財政状態を表示する貸借対照表は、企業の「財布の中身」ともいえる財産、すなわち総資産の内訳と、その総資産が、他人資本である負債と、自己資本である純資産のいずれによって構成されているのかを表示する機能を持っています。

他人資本は、いわば会社の外部から調達した資金であり、将来返済すべき負債です。一方、自己資本は、株主によって会社に払い込まれた資金や、営業活動によって蓄積された利益などによって構成される純資産です。

従って、他人資本を、自己資本に移し替える行為は、原則として慎重に扱われなければなりません。借入金などの負債を、帳簿上の処理だけで自己資本に見せかけることが安易に認められれば、会社の利害関係人、すなわち金融機関、取引先、株主、税務当局などに誤った財政状態を示すことになりかねないからです。

しかし、会社法の手続を適切に踏むことにより、負債を資本に転換する方法が認められています。

その一つが、ここでとりあげる、デットエクイティスワップという方法です。

デットエクイティスワップとは、会社の借入金などの債務、すなわちデットを、会社の資本、すなわちエクイティに転換し、増資を行う手法です。

今回は、このデットエクイティスワップについて、そのメリットだけでなく、中小企業経営者が注意すべきリスクや、安易な活用に潜む危険性にも触れながら、解説してゆきたいと思います。

最近、目立つ不適切な デットエクイティスワップの活用相談


経営コンサルタントとして、経営者の方から御相談を受ける中で、最近、デットエクイティスワップに関する相談が目立つようになりました。

具体的には、「新たに営業をしてきた税理士の方から、デットエクイティスワップを勧められたが、気軽に実施しても問題はないのでしょうか」という内容の御相談です。

お話を伺ってみると、従来から会社の実態を把握している顧問税理士ではなく、面識のなかった新規の税理士から提案を受けたというケースが複数ありました。

どうやら、一部の税理士資格者の中に、営業活動の入口として、デットエクイティスワップを比較的安易に提案している方がいるように見受けられます。

もちろん、デットエクイティスワップは、会社法上の手続に基づいて実施されるものであり、適正な手続と実態が伴っていれば、それ自体が違法なものではありません。

しかしながら、会社の借入金などの債務を、会社の資本に転換して増資を行うという性質を持つ以上、単なる資本金創出のテクニックとして、安易に利用すべきものではありません。

長年にわたり会社の実態、借入金の発生経緯、財務内容、税務上の論点を把握している弁護士、税理士、公認会計士などの専門家の指導のもとで実施するのであれば、適切な資本政策の一環として活用できる場合があります。

一方で、会社の実態を十分に把握していない士業者が、営業目的でデットエクイティスワップを提案し、そのまま形式的に手続を進める場合には、経営上・税務上の大きなリスクを伴う可能性があります。

デットエクイティスワップの実態は、裁判所の検査役の検査が必要な現物出資


その危険性を理解するためには、デットエクイティスワップの基本的なメカニズムを理解する必要があります。

株式会社における資本金は、株式会社が、株主が有限責任を負う物的会社であるという性格から、債権者や利害関係人にとって、会社の信用を支える重要な基礎となります。そのため、株式会社の資本金については、資本充実の原則により、現実に払い込まれた財産によって構成される必要があります。

株式会社を設立する際、その設立登記において、株式の払込みが現実に行われたことを示す証拠書類が求められるのは、そのためです。

従って、本来、株式会社の資本金は、金銭が現実に会社の銀行口座に払い込まれてはじめて計上できるものです。

ただし、会社の形態は、株式会社だけではありません。その原型ともいえる、合名会社や合資会社も、現在の会社法において設立が認められています。これらの会社は、株式会社における株主にあたる社員が、会社の債務について無限責任を負う人的会社です。

人的会社の場合、債権者などの利害関係人からすれば、社員が会社の債務について無限責任を負うため、株式会社に比べて資本充実の原則は相対的に緩和されています。

そのため、金銭による払込みだけでなく、現物出資によって会社に財産を拠出することが認められています。

現物出資とは、設立時や増資時における出資を、現金ではなく、不動産、動産、有価証券、債権などの財産によって行うことです。例えば、個人事業で物販を営んでいた方が、商品在庫を出資して株式の発行を受け、会社を設立するようなケースで利用されます。

しかし、現金と異なり、現物出資では、その出資される財産の価値が、本当に株式の発行価額に相当しているのかが問題になります。もし、実際の価値が過大に評価されれば、会社の資本が実態以上に大きく見えることになり、債権者等の利害関係人を害するおそれがあります。

そこで、株式会社における現物出資については、原則として、裁判所によって選任された検査役による財産価額の検査が必要とされています。

つまり、現物出資は、本来、非常に慎重な手続のもとに認められる手段であるということです。

さて、デットエクイティスワップは、債権者に対する債務という負債、すなわちデットを、資本、すなわちエクイティに転換する方法です。このとき、債権者は、会社に対して有する債権という権利を出資に用いることになります。実質的には、債権という財産によって出資を行うことと同視されるため、従来は現物出資の一種として理解されてきました。

そのため、上記で述べた裁判所による検査役の選任と、検査役による厳格な検査手続が必要とされていました。

その後、会社法のもとで、一定の要件を満たす場合には、裁判所の選任する検査役による調査を経ずに、弁護士、税理士、公認会計士などの専門家による証明によって手続を進めることができる道が設けられました。

これにより、顧問税理士等による一定の確認手続を経たうえで、司法書士による増資の登記手続を行う形で、デットエクイティスワップが中小企業でも利用しやすくなりました。

しかし、この制度の趣旨は、実態のある債権を、適正な手続により資本へ転換することにあります。会社が社長に役員報酬を過大に支払い、その資金を会社に戻して役員借入金を作り出し、それを形式的に資本に振り替えるような使い方は、極めて慎重に考える必要があります。

特に、人材紹介業や人材派遣業など、一定の資産要件や財務基盤が求められる事業において、現金の実質的な払込みを伴わない資本金創出策として、デットエクイティスワップを安易に持ち掛けるケースがあると聞き及んでいます。

税理士等が資格に基づいて作成する書類を利用し、形式的な登記手続によって資本金の増加を行うことができたとしても、その背後に実態のある債権が存在するのか、その債権の発生経緯が適正であるのか、税務上問題がないのかは、別途厳しく検討されるべき問題です。

軽率なデットエクイティスワップの利用は、税務調査に繋がり兼ねない


現在の会社法が、一定の要件のもとで、裁判所による検査役の選任を経ずにデットエクイティスワップを可能にしているのは、負債を資本に転換する手続が過度に硬直的になりすぎることを避け、企業再生や資本政策を円滑に進めるためです。

決して、実態のない負債を作り上げ、それを形式的に資本へ転換し、現実の払込みを潜脱することを認める趣旨ではありません。

このような処理は、税務上も問題視される可能性があります。特に、役員報酬、役員借入金、会社への貸付金、資本金の増加が短期間に連続して行われている場合には、税務調査において、その実態や合理性を確認される可能性があります。

デットエクイティスワップは、正しく活用すれば、債務超過の改善、金融機関との関係整理、企業再生、事業承継、M&A前の財務改善などに役立つことがあります。

しかし、安易に使えば、財務内容を実態以上に良く見せる処理となり、金融機関、取引先、税務当局からの信用を損なう原因にもなりかねません。

利用を検討する経営者の方は、単なる資本金創出策として飛びつくのではなく、自社の財務状況、借入金の発生経緯、税務上の影響、将来の資本政策まで含めて、慎重に判断する必要があります。

デットエクイティスワップを提案された場合には、「登記ができるか」だけで判断するのではなく、「経営上、本当に必要なのか」「税務上、合理的に説明できるのか」「金融機関や取引先に対して、適正に説明できるのか」という視点から検討することが大切です。

中小企業の資本政策、財務改善、事業再生、許認可取得のための資本金対策は、形式だけを整えればよいものではありません。経営者自身が、自社の信用を守るために、実態に即した判断を行うことが不可欠です。

デットエクイティスワップや増資、役員借入金の処理、資本金要件への対応について不安がある経営者の方は、実行前に一度、第三者の視点で確認されることをお勧めします。誤った資本政策は、後から修正することが難しく、税務・金融機関対応・許認可対応に影響することがあります。

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松本尚典
専門家

松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

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