何故、企業は生き続けなければならないのか?
1、2024年問題を前に大転換に直面する運送業界
2024年は、物流業界にとって、大きな試練のはじまりの年にあたります。労働者の残業の上限規制が運送業界に適用される年で、これが、「2024年問題」といわれています。
おりしも、コロナ禍後の人材不足が重なり、運送業界に、運送の担い手である労働者の労働力が大きく不足する時代がやってきます。物流は、モノの動きの基本インフラであり、現在の日本の内需経済は、個人や企業が出す大量な荷物の、スピーディで確実な運送のインフラによって支えられてきました。これが、これまで通り、動かなくなるということになれば、大変不便な事態を引き起こします。
運送業界は、この問題を乗り越えるため、様々な合理化や、業務の見直しに着手しており、これまで拡大路線を続けてきた物流の世界に、大きな試練が押し寄せています。
2、新しいヤマト運輸を「創業」した小倉昌男氏
さて、このような物流の中で、郵便小包という官製のつかいづらいインフラに挑み、「個人宅」に「迅速」に「届けてほしい時間に届ける」サービスを作りあげたのが、ヤマト運輸の小倉昌男氏です。
ヤマト運輸は、小倉昌男氏のお父様の代で、関東最大の運送業者になっていました。しかし、その運送対象は、主に百貨店などの個別配送で、個人宅から回収する荷物は、官業である郵便小包だけが、唯一の配送方法でした。全国に公務員を配置する当時の郵便局しか、このような配送を行うことはできないと信じられてきたのです。
小倉昌男氏は、この課題に挑戦しました。
莫大な固定費投資がかかる個人宅から個人宅への配送という事業を採算にのせるためには、莫大な固定費を、利益が大きく上回る必要があり、取り扱い荷物を大きく増やさなければなりません。
3、個人宅への個別配送の壁に挑んだ男
そのため、小倉氏は、翌日配送・指定時間配送という「宅急便」を生み出し、従業員意識を、セールスドライバーに変えていきます。これは、物凄い執念がいる仕事です。
社内のあらゆる役員や従業員の抵抗勢力を説得しながら、小倉氏は、この誰も手掛けなかった事業に取り組んでいきます。
「小倉昌男 経営学」には、その小倉氏の事業の軌跡と、執念の事業の歴史が書かれています。
4、経営者の理念と執念
この本には、従来の運送事業の限界を感じ、事業のイノベーションを目指した事業家が、社内の保守的な体質や、リスク回避思考を変革する説得を続けながら、事業をイノベーションする執念が、語られています。
経営者が、マーケティングの領域を超えて、イノベーションをしようとすると、そこで戦わなければならないのは、実は、社内の専門家の意見です。
社内の専門家は、もちろん、サボタージュの意識で主張しているわけではありません。イノベーションというのは、従来の業界常識に挑んで、新たな事業モデルを創る活動です。それは、常識への挑戦であり、業界を知っている専門家ほど、そこに、リスクを感じるのは当然なのです。
その反対にあったとき、事業家を支えるのは、自分が事業を作りあげた自信と、自分の経営への理念と、そして、根拠のない執念なのです。
小倉氏の本のなかには、それに支えられた小倉氏の死闘ともいえる事業構築の過程が描かれています。
骨太のイノベーション事例の本だと思います。
5、撤退戦略の重要性と、絶対に撤退しない理念の両立こそ経営の道
事業計画を立案する際、撤退基準を定めておくというルールがあります。事業は必ずしも成功するというものではなく、一定の基準を割り込んだ場合は、撤退を決断するという基準を定めておくのが、事業計画の常道です。
しかし、一方で、スタートした事業について、絶対に撤退しないという覚悟で経営を進めることもまた、事業の成功の鍵でもあることも事実です。
経営者が事業を構想するとき、その構想は、自分の経営理念に沿ったものであるべきであり、また既存事業との強いシナジーがあることも必要です。そのような事業をスタートするという場合、単なる数字面の基準だけで、撤退を決めることはできません。
そのような事業の場合、撤退は、事業理念の崩壊を意味し、既存事業とのシナジーの破壊に繋がるからです。
プロダクト・ポートフォーリオマネジメントを成長戦略で描き、その中で撤退戦略を決められる古典的な成長戦略論で語れるほど、経営は、薄っぺたいものではありません。
撤退戦略は無意味なものではなく、撤退基準を意識して事業をスタートすることは重要です。しかし、それは安易な事業撤退を繰り返してよいということを意味しません。絶対に撤退基準を割り込むことをしない覚悟で事業に挑むための、ポジティブな基準なのであって、その基準を意識しながらも、絶対に事業を撤退しないように、万策を立てることもまた、事業家のミッションなのです。
6、大きな転換点にあるヤマト運輸を前に、改めて小倉経営学を味わう
先に書きました通り、ヤマト運輸は、2024年問題を前に、これまでの事業のあり方に、再び、大きなイノベーションを図る事態に立たされています。
小倉経式営を基礎に動いてきたヤマト運輸は、更に、大きなイノベーションとともに、変わってゆくでしょう。
そんな中で、僕は、改めて、小倉昌男氏の経営学を読み、味わい直しています。
何度読んでも、心を震わせるような、一冊です。
ホンモノの経営をお探しの方は、是非、お読みいただきたい経営の古典書の一冊だと僕は思っています。
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