戦略は組織に従うのか、あるいは、組織は戦略に従うのか
1.ストックオプションとは?
経営コンサルタントを行っていると、時々、思いがけない会社の社長から、唐突に、こんな質問を受けることがあります。
「ストックオプションをタダで社員に出したいのですが、どうすればいいのでしょうか?」
「思いがけない会社の社長」と申し上げたのは、その社長の経営戦略の方向性が、およそ、ストックオプションに適さない(つまり、やっては駄目な会社という意味)会社の社長からの、唐突な申し出を受ける、という意味です。
このような申し出は、社長が、どこかで、ストックオプションという言葉を聞いてきて、
「どうやら、現金を出さずに、ボーナスを株で出して、従業員が辞めるのを防げるものらしい」
というような、安易な考えで、思いついたという場合が多いように感じます。
さて、ストックオプションとは何でしょうか?
ストックオプションとは、株式会社の従業員や取締役が、自社の株式を、あらかじめ定められた価格で取得できる権利を言います。
ストックオプションを持つ従業員や取締役は、将来、株価が上昇した時点でストックオプションの権利を行使します。その時点で、権利行使価格で株式を取得し、その後、時価で株式を売却することで、利益を手にすることができます。
基本的には、上場企業が実施する政策ですが、近い将来上場を目指す企業でも、実施することもあります。上場を目指していなくても、最近では、企業のバリューをアップして、M&Aで売却を目指す創業のチームが、ストックオプションで利益を目指すという目標を共有するため、行うこともあります。
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会社にとって、重要な従業員や取締役に、会社の利益をあげる動機付けを与え、会社の成長を目指す経営者と、共通の目的を持たせるのが、狙いです。
2.ストックオプションの法的性格
ストックオプションは、法的には、会社法が規定する新株予約権の付与にあたるのが、一般的です。
会社法は、2002年の改正で、新株引受権にかえて、新株予約権の規定を創設しました。新株引受権は、新株発行に際して、株主に割り当てる株主割当に対し、第三者に割り当てる権利のことを言います。そこで、会社法は、新株発行と関係なく、株式を一定条件のもとで取得できる権利として、新株予約権を規定したわけです。
新株予約権は、ストックオプションとして利用される他、会社の敵対的買収から経営権を護るためにも利用されます。
そのため、新株予約権が株式の適正な価格に比較して、割安な払込価格で発行され、これが実行されますと、既存の株主の支配割合や、経済的な価値を侵害します。
そこで、新株予約権を適正な価格に比較して割安な払込価格で発行するには、株主総会の特別決議によらなければなりません。
3.ストックオプションの手続き面からみた条件
従って、まず、従業員や取締役にストックオプションを行う場合、代表取締役や取締役会で実行することはできません。
株主総会を開催し、そこで、現在の株価と、ストックオプションの条件などを説明し、特別決議の承認を受ける必要があります。
既存株主から観ますと、特定の従業員や取締役にストックオプションが与えられ、それが実行された場合、自分の会社の支配割合が下がり、株価も下落します。
通常、ストックオプションを実施する企業は、上場企業、またはそれを目指すか、それと同等の企業価値がある会社ですので、株主に大きな不利益を与えるストックオプションに、株主の同意をえるのは、なかなか難しい場合が殆どだと思います。
ストックオプションが可能な会社の条件は、第一に、3分の2以上の株式を保有する株主が、自分の不利益を受けても、ストックオプションを実行することに同意をしてくれる会社ということになります。
4.企業価値という面からみた条件
さて、今度は、ストックオプションを受けとる従業員や役員の立場からの、条件をみてみましょう。
ストックオプションは、先ほども書きました通り、ストックオプションを持つ従業員や取締役が、将来、株価が上昇した時点でストックオプションの権利を行使することが前提です。
従って、基本的には、株価に市場価格がついている企業、すなわち公開会社で行われます。
非公開会社であっても、近いうちに上場をする企業がストックオプションを実施することはできます。しかし、東京証券取引所の現在のスタンスからみると、株式の上場というのは、確実性のあるはなしではありません。
社長が上場を目指して企業を成長させていたとしても、上場の条件は、非常に厳しくなっており、確実に上場できるものではありません。上場が不確実な段階で、希望的な観測でストックオプションを従業員や役員に行ったとしても、その期待が裏切られてしまうと、それは逆効果になります。
僕も、経営コンサルタントとして、上場を目指して、上場できず、それを契機に会社が傾いた事例を、幾社もみてきました。上場は、会社が一丸になってそれを目指す場合、上場をしくじってしまうと、ストックオプションは、単なる「紙切れ」になってしまい、ストックオプションを受けたキーマンの社員が、一斉に退職してしまうという事例もあるのです。
上場というのは、あくまでも「目標」であって、それを既定路線にして会社を動かしてしまうと、その反動は、予想よりも非常に大きいことを、経営者は念頭において、行動をしたほうがよいでしょう。
勿論、M&Aでの会社の売り抜けということでも、M&Aはクロージングのその瞬間まで、流れる可能性があるものですから、上場以上に不安定です。M&Aの話を予測して、ストックオプションを行うというような話も、「画にかいた餅」だと思ったほうがよいでしょう。
いずれにもして、ストックオプションを行える会社の第二の条件は、ストックオプションを受けるヒトにとって、将来の株価に価値がでる会社であるということです。
5.税務面からみた条件
さて、ストックオプションを受けるヒトからみた点をもう一点指摘をしなければなりません。
ストックオプションは、それを実施する会社からは、給与や賞与と異なり、現金の流出がありません。
しかし、それを受けとった側は、現金が入らないのと同時に、それが入ったのと同じに、課税等のコストがかかる、ということです。
企業というものは、営利団体ですから、寄付や贈与という、無償の行動を行うと、それが無償の行動とは認められず、客観的な価値に相当する行動と税務上、評価されるという性格があります。
従って、ストックオプションは、それを賞与として受け取ったヒトは、新株予約権の客観的な価値を報酬として受け取ったとみなされ、所得税等の課税をされる可能性があります。
この点、
「ただで出せる」
「ただで貰える」
という軽い感覚で、経営者と従業員との間で、気軽にストックオプションを行ってしまうと、後で、予想もしない課税が発生する可能性があります。
従って、ストックオプションを実行する場合、顧問税理士さんにしっかり相談をして、受け取る人の所得税や住民税の課税について、しっかり把握し、それを納得したうえで、ストックオプションを行うことが必要です。
これが、第三の条件です。
このように、ストックオプションは、その条件に、いろいろと制約があります。
会社側、受ける側、ともに、長期的な観点からみて、それが、双方にメリットがあるかどうか、しっかりと検討をして、行うことが必要だと思います。
続く
松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
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