売上5000万円を超える社長は自分で作ろう! 法人概況説明書

松本尚典

松本尚典

テーマ:事業計画 法人税申告 


法人概況説明書は、顧問税理士さんが作ってくれない場合が多い


会社を設立し、その際に、税務署に、決算申告の税務書類の送付を希望した企業には、決算を迎えると、決算書類の一式が管轄税務署から送られてきます。

その中に、法人概況説明書という書類が入っています。

この書類は、平成18年度税制改正以前には、提出義務がなかった書類です。それが、この改正によって、法人税法施行規則35条の5号で作成が義務付けられました。

僕が、経営コンサルティング契約をして、最初に行うことは、過去数年分の法人税申告書類を預かって、精読するという作業です。

そうすると、よく、この法人概況説明書を提出していない企業に出くわします。税理士さんに、全部、申告を任せていて、社長が、何も自分の会社の法人税申告の書類を読んでいない会社によくあることですが、顧問の税理士さんは、この書類を作ってくれない場合が多いのです。

そうすると、知らずに、社長は、数年間、法人概況説明書を税務署に提出していないことがよくあります。

この書類を提出していないことで、一番困った企業は、2020年のコロナ禍で行われた、持続化給付金の申請手続きでした。

法人概況説明書の裏面には、月次の売上や、主たる販管費を記載する項目があります。持続化給付金は、前年度の月次の売上を基礎に、売上が減少したことを証明する必要がありました。

ところが、法人税の申告書には、企業の月次の売上が掲載されている、残高試算表の添付をしません。そのため、持続化給付金の申請では、前年度の月次の売上を証明する正式な書類として、税務署に提出した法人概況説明書の裏面のコピーの提出が求められたのです。

従って、顧問税理士さんが作成してくれないからといって、法人概況説明書の提出を怠っていると、この証明が非常に大変だったわけです。

加えて、この法人概況説明書は、単に、月次の売上を記載するという機能だけではありません。法人税申告の数字が並んでいる定量的な書類に対して、この書類には、社長しか書くことができない、定性的な企業の情報を記載する欄
が所狭し、と並んでいるのです。

この書類を書くことで、社長は、税務署への申告を通して、自分の会社の一年の振り返りと、来期の見込みの概観をすることができるようにできています。

義務付けられているとうことで、部下に書かせるのではなく、年商5000万円を超えた企業で、今後、自分の会社の計画的な成長を図りたいと思っている社長は、是非、この書類を、総務担当に丸投げせずに、自分で作ってみることを、僕は、お勧めします。

法人概況説明書の記載内容を概観する


では次に、この法人概況説明書という書類には、どのような記載内容が求められているのか、その書き方のコツを含めて、解説をしてゆきましょう。

法人概況説明書は、大きくわけて、5つの区分に分けられています。

①会社の基本情報を記載する部分
②財務諸表の主要情報を記載する部分
③事業形態を説明する部分
④月次推移表
⑤当期の営業成績の概要


このうち、①については、総務的な記載事項ですから、何も、社長が自分で記入する必要はありません。

経営者にとって、重要な部分は、②③④⑤の各部分です。

以下、この各部分の内容を書いて参ります。

財務諸表の主要情報を記載する部分


この部分は、法人概況説明書の、表面の下部にあたる部分です。

この部分を埋めるには、損益計算書と貸借対照表から、抜き書きして数字を埋めていく必要があります。

顧問税理士さんの事務所では、会社から提出された期中の会計帳簿と証拠書類を基礎に、仕訳を行い、これに期末の決算整理を加え、損益計算書・貸借対照表・株主資本等変動計算書・注記表を作成しています。

このうち、損益計算書・貸借対照表・株主資本等変動計算書は、いわば、「社長の一年間の成績表」のような重要書類
です。

この書類を、税務申告が済んでしまうと、まったく見ていない社長もいると思いますが、それでは、会社は成長していきません。

勉強が伸びる子供が、自分の成績表を検証して、次の期に自分の弱点を補い、得意な分野を更に強化するのと同じで、業績が伸びる社長もまた、自分の成績表である財務諸表を、しっかりと、分析し、反省をする必要があります。

法人概況説明書の財務諸表の主要情報を記載する部分は、この財務諸表の中の主要な勘定科目を抜き出して記載をさせるように作られておりますので、これを埋めながら、社長は、自分の成績を検証できるようになっているのです。

事業形態を説明する部分


次に、法人概況説明書の裏側の上部にあたる部分に、事業形態を説明する部分があります。

ここは、他の部分と違って、文章で説明をするようになっています。つまり、社長が自分の会社の形態について、税務署に、定性的な情報である文章で、説明をする項目です。

・兼業の状況
・事業内容の特異性
・主な設備等の状況
・決算日の情報
・帳簿類の備え付け


このような情報を記載するのですが、上の3つは、欄が大きくなっています。

税務署に報告をする、という気持ちではなく、自分の会社を外部の第三者に説明をするという気持ちで、文章を作ることで、自分の会社に在り様を把握する、よい訓練になります。

月次推移表


次は、法人概況説明書の裏側の下部にあたる部分に、月次推移表を記載する部分があります。

これは、期中の仕訳を入力した情報によって出来上がる残高試算表を使って、書き込みます。

残高試算表は、細かい情報が記載されていますが、法人概況説明書では、財務諸表の主要情報を記載する部分の記載とおなじく、主要な項目(売上・仕入・外注費・人件費・源泉徴収額)などに限定して、月次の推移を記載するようになっています。

企業の会計では、売上と仕入れの対応によって、売上利益(粗利益)を把握します。そして、そこから、外注費と人件費・源泉徴収額の合計額という、いわば、ヒトにかかる経費を抜き出して記載することで、粗利と、人件費割合という、経営を進めるうえで、経営者が押さえておかねばならない基本情報を、法人概況説明書では、抜粋して記載するように求めています。

これもまた、経営者が、法人概況説明書をつくりながら、月次数字の推移の概要を把握するのに、非常に優れた表になっています。

当期の営業成績の概要


最後に、法人概況説明書の裏側の下部にあたる部分に、当期の営業成績の概要の欄があります。ここは、事業形態を説明する部分とおなじく、文章で説明をするようになっています。つまり、社長が自分の会社の形態について、税務署に、定性的な情報である文章で、説明をする項目です。

法人概況説明書を書いてくるなかで、経営者からみて、今期の売上と利益は、どうだったのかを、反省して各部分となります。

いわば、決算の総括です。

僕の場合、法人概況説明書は、社長を務める会社すべてを自分で作る


このように、法人概況説明書は、決算にあたり、会社の今のありようと、今期の業績を振り返り、来期にどのように会社を成長させてゆくか、に関して、想いを馳せるのに、都合がよい書類です。

従って、僕は、法人概況説明書は、自分が投資し、社長を務める日本に登記をおく会社のすべてで、自分で作成するようにしています。

これは、会社が大きくなってくれば来るほど、大切なことだと思います。

売上が5000万円を超えた会社こそ、社長自ら、法人概況説明書を自分で作成しなければならないと僕は思っています。そのため、僕自身は、各会社の規模にかかわらず、すべて、自分で、決算数字が出たところで、法人概況説明書に向き合います。

ちなみに、会社を経営し、決算をしてみると、わかるのですが、顧問税理士に決算を任せると、殆どの税理士さんは、決算後2か月後の申告期限ぎりぎりで、申請書をアップし、それを、税務署に送っています。

クライアントの会社が税理士さんに出す証拠書類が遅れることが原因だと多くの税理士さんは言われますが、これを早く出しても、やはり、税理士事務所では、ぎりぎりまで、申告書の作成がかかります。

税理士さんの業務は、顧問先の申告業務が一定時期に集中するため、致し方ないのかもしれません。

ただ、僕が、顧問税理士を一切つけずに、自社内で、決算と税務申告を行うのは、これが、経営者としては、非常に嫌だからです。

決算書が出る前に、十分、数字を考慮し、加えて、すべての申告書が揃ったあとで、経営者として、そのすべてに目を通し、納得と反省と、そして来期への計画まで想いを馳せたうえで、税務署に、申告書を出したいというのが、僕自身のオーナー株主兼社長としての、責任ではないか
と思っています。

このようなニーズに、しっかりと、時間の余裕をもって、仕事をしてくれる税理士さんに、僕は、いままで会ったことがありません。

だから、すべて、決算書や税務申告書、そして、最後に制作する法人概況説明書まで、自社内で制作をしているのです。

時々、間違えた記載をしてしまうこともありますが、今の税務署は、非常に、親切ですので、担当官が、電話連絡をくれ、間違いを丁寧に教えてくれます。必要があれば、税務署に行けば、丁寧に指導をしえくれて、補正をさせてくれます。

悪質な脱税行為を行っている会社は別でしょうが、そうでなければ、日本の税務署は、本当に納税者である会社に対して親切
です。

税務署の指導をうけながら、充分、自分で申告書類を作成することが、今はできます。

少なくとも、法人概況説明書は、社長が自分の手で作成してみては、いかがでしょうか。

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