年収のカラクリ ~年商5億円を超えた経営者たちの、自分の年収の決め方の技~
このコラムは、「事業計画の作り方①~④」から、内容が連続しています。そちらをまだ、お読みになっていない場合、一旦、①~④のコラムにお戻りいただき、そちらを読んでから、このコラムをお読みください。
前回④では、ポーターのファイブフォースを使い、
既存競合企業との競争。
新規参入の脅威。
代替品・代替サービスの脅威。
供給者の交渉力。
顧客の交渉力。
という5つの視点から、自社が置かれている競争環境を考えました。
ここまでで、
「自社は、誰と、何をめぐって競争しているのか」
という競争環境の輪郭が見えてきました。
しかし、競合の名前を挙げただけでは、競争戦略は立てられません。
次に必要になるのが、
競合は、誰を顧客にしているのか。
何を強みにしているのか。
どのような商品を、いくらで売っているのか。
顧客から、なぜ選ばれているのか。
逆に、顧客が不満を感じている部分はどこなのか。
自社と比較した場合、何が違うのか。
という具体的な情報を集めることです。
そして、その情報から、
「自社は、どの顧客に対して、競合とは何が違う価値を提供し、なぜ自社を選んでもらうのか」
を決めていきます。
これが今回のテーマである、競合情報の収集・分析と、競争戦略の立案です。
競合分析は「競合企業一覧」を作ることではない
僕が事業計画を拝見していると、
企業名。
所在地。
商品。
価格。
Webサイト。
売上規模。
といった競合一覧表を作り、それで「競合分析を行った」とされているケースがあります。
もちろん、一覧表を作ること自体は必要です。
競争相手を整理する第一歩になるからです。
しかし、それだけでは、競争戦略を立てるには不十分です。
競合分析で本当に知りたいのは、「競合が存在すること」ではなく、「顧客が、なぜ競合を選んでいるのか」です。
例えば、競合の商品価格が1000円で、自社の商品価格が1200円だったとします。
この数字だけを見て、
「競合より200円高いから、値下げしなければならない」
と判断するのは早計です。
競合は、
量が多いから選ばれているのかもしれません。
立地が便利だから選ばれているのかもしれません。
ブランドに信用があるのかもしれません。
予約しやすいからかもしれません。
接客がよいのかもしれません。
一方で、自社は1200円でも、競合以上の品質や体験を提供できているかもしれません。
したがって、競合調査では、
「競合が何を売っているか」と同時に、「顧客は何を買っているのか」を考える必要があります。
競合に関する情報は、公開情報・現地・顧客視点の3方向から集める
それでは、具体的に競合情報をどう集めればよいのでしょうか。
僕は、大きく3つの方向から情報を集めることを勧めています。
競合情報を集める3つの方向
・Webサイト、SNS、Googleマップ、プレスリリースなどの公開情報
・店舗、商品、サービスなど、実際の顧客接点
・口コミ、レビュー、顧客の行動など、顧客側から見える情報
一つの情報だけで判断せず、複数の情報を組み合わせることが重要です。
まず、公開情報を徹底的に調べる
現在では、競合企業について相当な情報を公開情報から集めることができます。
例えば、
公式Webサイト。
商品・サービスページ。
料金表。
Googleマップ。
SNS。
YouTube。
求人情報。
プレスリリース。
経営者インタビュー。
採用ページ。
会社概要。
決算公告など公開されている財務情報。
業界団体の資料。
などです。
ここから、
ターゲット顧客。
商品構成。
価格。
営業地域。
販売方法。
ブランドイメージ。
新商品。
新店舗。
採用している職種。
今後強化しようとしている分野。
などについて仮説を立てることができます。
ただし、公開情報は、それだけで会社の内部事情を断定できるものではありません。
例えば、
「営業職の求人を増やしている」
という事実があったとしても、
急成長しているのか。
退職者が増えているのか。
新規事業を始めるのか。
までは分かりません。
重要なのは、
事実と推測を分けることです。
事実として確認できるもの。
そこから考えられる仮説。
さらに確認が必要なもの。
を分けて記録します。
エリアビジネスでは、現地を自分の脚で歩く
店舗、不動産、ホテル、飲食、小売など、エリアが売上に大きく影響するビジネスの場合、僕は現地を自分の脚で歩いて確認することを重視しています。
これは、Web上の情報だけでは把握しにくい情報が多いためです。
前回までと同じ、F市で蕎麦店を経営するAさんを例に考えてみましょう。
Aさんは現在、年商3000万円前後の既存店を経営し、次の成長を検討しています。
その場合、
駅から店までの人の流れ。
曜日・時間帯による人通り。
近隣店舗。
競合店の価格。
店舗の入りやすさ。
店頭で何を訴求しているか。
周辺の住宅やオフィス。
新しい建物。
閉店した店舗。
駐車場。
駅や道路からの動線。
などを確認します。
地図やスマートフォンを使って、公開されている範囲の情報を整理していけば、Web検索だけでは分からなかった市場の姿が見えてきます。
ただし、店舗内での撮影などについては、店舗側のルールに従う必要があります。
競合分析だからといって、非公開情報を不適切な方法で収集してよいわけではありません。
競合調査は、公開情報と、通常の顧客として適切に取得できる情報の範囲で行うことが原則です。
実際に競合の商品・サービスを購入してみる
競合の商品やサービスを、通常の顧客として購入できるのであれば、実際に利用してみることも有効です。
Aさんなら、主要な競合店を顧客として利用します。
そこで見るべきなのは、単なる味だけではありません。
例えば、
予約のしやすさ。
店への入りやすさ。
接客。
待ち時間。
メニューの分かりやすさ。
価格。
商品の品質。
量。
提供スピード。
店内の雰囲気。
会計。
再来店したくなる理由。
まで、一連の顧客体験を見ます。
重要なのは、
「自分なら、もっとおいしい蕎麦を作れる」
と職人の視点だけで評価しないことです。
競合分析では、「自分がどう感じたか」より、「顧客は、なぜこの店を選ぶのか」を考えます。
競合より味がよくても、
場所が分かりにくい。
予約できない。
価格が分かりにくい。
入りづらい。
提供に時間がかかる。
のであれば、顧客から選ばれない可能性があります。
商品そのものと、顧客体験の双方を分析する必要があります。
競合情報は、同じ比較軸で並べる
競合についてさまざまな情報を集めても、それぞれについてバラバラに感想を書いているだけでは、比較ができません。
そこで、競合ごとに同じ項目で整理します。
例えばAさんであれば、
競合比較の主な項目
・主なターゲット顧客
・主力商品
・価格帯
・商品品質
・立地
・営業時間
・ブランド
・接客
・店舗体験
・集客方法
・Googleマップ等での顧客評価
・リピーターを生み出している要因
・自社より優れている点
・自社より弱いと考えられる点
・自社が真似をするべきではない点
・自社が学べる点
といった形で比較します。
BtoB企業なら、
顧客規模。
業種。
商品・サービス内容。
料金体系。
契約期間。
営業方法。
導入実績。
専門性。
Webサイトからの集客。
アフターサービス。
などへ項目を変更すればよいでしょう。
競合分析で大切なのは、情報量ではありません。同じ比較軸で並べ、自社との違いが見える状態にすることです。
事実と仮説を分けて、競合を分析する
競合分析では、「推理力」も必要です。
ただし、推理したことを事実だと思い込んではいけません。
例えばAさんが、ある競合店を見て、
「昼は混んでいるが、夜は弱いのではないか」
と感じたとします。
これは、まだ仮説です。
そこで、
曜日を変えて確認する。
時間帯を変えて確認する。
予約状況を見る。
口コミを見る。
複数回観察する。
などによって、仮説の確度を上げていきます。
また、
「この商品が人気なのではないか」
「この顧客層を狙っているのではないか」
「価格より利便性で選ばれているのではないか」
といったことも、まず仮説として扱います。
そして、別の情報と照合します。
競合分析とは、競合について何でも知ることではありません。限られた情報から仮説を立て、その仮説を複数の事実で検証し、経営判断に必要な精度まで高める作業です。
競合の「真似」をすることが、競争戦略ではない
競合調査を行うと、
「この商品は売れていそうだ」
「このサービスは面白い」
「この広告は反応がよさそうだ」
と感じるものが見つかります。
ここで注意が必要です。
競合が成功しているからといって、そのまま自社へ導入すれば成功するとは限りません。
競合と自社では、
ブランド。
顧客。
立地。
価格。
原価。
人材。
資金力。
技術。
販売チャネル。
が違うからです。
例えば、大手チェーンが低価格商品を販売できるのは、
大量仕入れ。
セントラルキッチン。
高い店舗稼働率。
強い資本力。
などを背景としている可能性があります。
それを小規模企業が表面だけ真似すれば、粗利益を失うだけになることがあります。
競合から学ぶべきなのは、「何をしているか」という表面ではなく、「なぜ、その施策がその会社では成立しているのか」という構造です。
そのうえで、
自社の強み。
顧客。
経営資源。
ブランド。
に合わせて、自社独自の方法へ変換します。
競合分析から、「自社が選ばれる理由」を見つける
ここが、競合分析で最も重要な部分です。
競合について調べる目的は、
「競合に勝つ方法」
だけを考えることではありません。
「顧客から見たとき、自社を選ぶ明確な理由をつくること」
です。
Aさんの市場を調べた結果、
低価格の店は多い。
チェーン店も多い。
しかし、高品質な手打ち蕎麦を、入りやすい雰囲気で日常的に楽しめる店が少ない。
という状況が分かったとします。
その場合、
「老舗の技術を基礎にした本格的な手打ち蕎麦を、日常利用できる価格と店舗体験で提供する」
という方向が、一つの競争ポジションになるかもしれません。
重要なのは、
品質。
価格。
ブランド。
立地。
商品構成。
サービス。
などを個別に考えるのではなく、
「誰に、どのような価値を、競合とは何が違う形で提供するのか」
を一つの方向として決めることです。
競争戦略では「誰と戦うか」以上に、「どの競争を避けるか」が重要
競合分析をすると、つい、
「どうやってこの競合に勝つか」
という発想になります。
しかし、中小企業にとって重要なのは、すべての競合と正面から競争することではありません。
経営資源には限界があります。
特に、
大手企業と価格で競争する。
大手企業と広告量で競争する。
大手企業と店舗数で競争する。
という戦い方は、中小企業には不利な場合があります。
そこで、
顧客層を変える。
商品を変える。
付加価値を高める。
専門分野に集中する。
地域を限定する。
サービスの深さで差別化する。
という方法によって、競争条件そのものを変えます。
よい競争戦略とは、強い競合すべてを倒す戦略ではありません。自社の強みが発揮でき、利益を生み出せる競争領域を選ぶ戦略です。
経営戦略と経営戦術の違いを、競合分析から考える
ここで、「戦略」と「戦術」の違いを改めて整理しておきましょう。
競合A店に対して、
新しいメニューを投入する。
広告を出す。
価格を変更する。
キャンペーンを行う。
という具体的な活動は、戦術です。
一方、
「価格競争には参加せず、本格的な蕎麦を評価する地域の中高付加価値層へ集中する」
というのは戦略です。
あるいは、
「店舗数を増やすより、既存店のブランドと利益率を高める」
というのも戦略です。
戦略
・誰を顧客とするか
・どの市場で競争するか
・どの価値で選ばれるか
・どの競争を避けるか
・どこへ経営資源を集中するか
戦術
・どの商品を作るか
・いくらで売るか
・どの広告を出すか
・どの営業手法を使うか
・どの業務を改善するか
戦略とは「自社が進む方向と、勝つための基本方針」を決めること。戦術とは、その戦略を実行する具体的な方法です。
戦略が曖昧なまま戦術だけを増やすと、
広告。
SNS。
新商品。
値引き。
営業。
イベント。
などを次々に行っても、施策同士がバラバラになってしまいます。
競合分析から競争戦略を立てる5つの手順
ここまでを、実務の手順として整理してみましょう。
1.競争環境を定義する
④のファイブフォース分析を使い、既存競合、新規参入、代替品、供給者、顧客の力を把握する。
2.主要な競合について情報を集める
公開情報、現地調査、商品・サービスの利用、顧客評価などを組み合わせる。
3.同じ比較軸で自社と競合を比較する
顧客、商品、価格、ブランド、販売方法、サービスなどについて、自社との違いを見る。
4.顧客が競合を選ぶ理由を分析する
「誰が強いか」ではなく、「顧客は何を評価しているか」を考える。
5.自社の競争ポジションを決める
誰を顧客とし、どの価値を提供し、どの競争を避けるのかを決める。
ここまでできれば、競合分析は単なる情報収集ではなく、事業計画の重要な戦略部分になります。
競争戦略が決まると、次に「ビジネスモデル」が見えてくる
①からここまでの流れを振り返ってみましょう。
①では、
「なぜ、この事業を行うのか」
という事業目的を決めました。
②では、
SWOT分析によって、自社の強み・弱みと、市場の機会・脅威を整理しました。
③では、
クロスSWOTによって、自社が進むべき戦略の方向を考えました。
④では、
ファイブフォースによって、自社を取り巻く競争環境を把握しました。
そして今回⑤では、
競合の具体的な情報を集め、
「誰に、何を、どのような違いによって提供すれば、自社が選ばれるのか」
という競争戦略を考えました。
ここまで進むと、次に考えるべきことが見えてきます。
それは、
「その戦略を、どのような仕組みで継続的に売上と利益へ変えるのか」
というビジネスモデルです。
競合には簡単に真似できない強みを、どの部分に組み込むのか。
誰から、どのように売上を得るのか。
誰と組むのか。
どこを自社で行い、どこを外部へ任せるのか。
どのように利益を生み出すのか。
これを設計していきます。
次回⑥では、いよいよ、ここまで分析してきた事業目的、SWOT、競争環境、競争戦略を一つにまとめ、「自社独自のビジネスモデル」をどのように構築するのかを考えていきます。
続く
事業計画の作り方⑥|競合に模倣されにくいビジネスモデルをどう設計するか
年商5億円の壁を突破するための経営者伴走コンサルティング
年商3000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、2026年3月期・グループ総売上高48億円の企業グループを経営する現役オーナーCEOである松本尚典が、事業計画、競合分析、競争戦略、ビジネスモデルの設計から具体的な実行・成果検証まで継続して伴走します。
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初回120分経営カンファレンス
継続的な経営コンサルティングをご検討いただいているオーナー経営者を対象に、自社の競争環境、現在の経営課題、今後の成長戦略を整理し、本コンサルティングが課題解決に適しているかを双方で確認します。
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URVグローバルグループの中小企業経営者 成長経営支援
経営戦略、事業計画、競合分析、競争戦略、新規事業、組織、マーケティング、財務、海外展開など、企業の成長に伴って複雑化する経営課題を、戦略立案から実行まで支援します。
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