事業計画作成法を伝授します④~競争相手は、誰か?~

松本尚典

松本尚典

このコラムは、「事業計画作成法を伝授します①~③」から、内容が連続しています。そちらをまだ、お読みになっていない場合、一旦、①~③のコラムにお戻りいただき、そちらを読んでから、このコラムをお読みください。

さて、②~③では、SWOT分析を行い、その分析によって、とるべき作戦が、多々わかってきました。さて、次に、SWOT分析の中でも、何点か登場した、競争に関わる情報収集と、その情報に基づく競争戦略を、ここからは、集中してとりあげます。

競争戦略は、成長戦略とともに、事業計画の重要な柱だ


中小企業の経営者の方が、立案された経営計画を拝見すると、よくあるのは、「成長戦略」はよく考えられているけれども、競争相手、すなわち競合の情報調査や、その分析、そしてそれを踏まえた「競合戦略」が不十分、または不存在な事業計画です。

その理由をお伺いすると、
「いや~。ウチみたいな零細企業の場合、競争なんて、考えるレベルではないと思ったので。」
「競争って、どこまでが競争相手なのか、漠然としていて、よくわからなかったので。」

このような答えが帰ってきます。

確かに、競合企業の情報を直視し、そこから、勝ための戦略を考えることは、成長モデルを考えるよりも、「しんどい」作業です。加えて、競合といわれても、それがどこまでの範囲なのか、漠然としていて、とらえどころがないかもしれません。

しかしながら、どんな事業でも、一社で市場を独占する会社は存在しません。競争は、市場でビジネスをする以上、避けて通れないものであり、避けて通れないのであれば、競合に対して、それを明確に定義して、どのような姿勢で臨むかを明確に決めておく必要があります。

競争を挑んで勝つのか、競争を避けてニッチな市場を狙うのか、別の商品サービスで挑むのか、といった、競争を前提とした作戦を明確に決めておくことが、事業計画の最大のポイントの一つです。

競争を考えることは、大企業は勿論、中小零細企業でも、絶対的に必要なことなのです。

競合相手は、どこまでを考えればよいか? ~ファイブフォース


では、競争というものの対応を避けて通れないとして、そもそも、競合相手をどこまで考えればよいでしょうか?今回のコラムは、まず、競合の範囲を把握する方法について、買いてまいります。

この議論は、裏を返せば、競争に関する情報収集・分析・戦略立案のターゲットは、何か、という「領域」を策定することを意味します。

ここで、競争戦略をマネジメント論として展開した、マイケル・ポーターが、「競争の戦略」の中で展開している、ファイブフォースという考え方を紹介しましょう。

ファイブフォース
ポーターは、事業は、次の5つのフォース(チカラ)から、競合を迫られていると説いています。

・競争業者
・新規参入者
・代替品
・売り手
・買い手


このファイブフォースが誰にあたるかを、②のコラムで出したAさんの蕎麦やさんの事例に沿って、観てみましょう。

競争業者


まず、競争業者とは、所謂「競合業者」のことです。

Aさんのお蕎麦やさんであれば、地域や、その地域にデリバリーができる他の蕎麦やさんということになります。

Aさんは、老舗の蕎麦屋さんで長年修行をし、暖簾分けをしたわけですから、おそらく、その元の店とは、エリア的に市場が重ならない場所に出店しているでしょう。従って、元のお蕎麦屋さんは競合とは考えなくてもよいでしょう。

Aさんのように、飲食店でエリアビジネスを展開する場合、Aさんの店を中心に、半径で●kmの円を描き、そこに出店する店を競合と把握することを一般的には行います。

しかし、僕は、そのような単純な競合設定では、「甘い」と考えています。

Aさんの店舗の場合、老舗の蕎麦やさんの暖簾をかけているので、蕎麦好きの方は、ある程度の距離(車や電車で移動する距離)から来客すると考えられます。そうすると、F市あるいは、その近隣の市町村や、最寄り駅の鉄道がとまる駅の周辺の蕎麦やさんは、競合と捉えなければなりません。

その程度の広域な地図を作成し、そこに、蕎麦屋さんの場所を落とし込み、その全体の蕎麦やさんを競合と把握しなければなりません。

新規参入者


さて、これまで述べてきた競争業者・競合は、重要な競争対象ではありますが、ポーターは、この競争業者だけが競争戦略の把握の対象ではないと唱えています。

第二に、ポーターが重要だとの述べるのが、新規参入者です。

新規参入者とは、未来において、競争業者・競合となるであろう相手を言います。
これは、これから、新規開店をしてくる蕎麦屋さんが含まれることは勿論です。しかし、それだけではありません。

また、Aさんの蕎麦やさんの事例に即して説明しましょう。

Aさんが、仮に、競争業者として、一定の近隣エリアの他の蕎麦やさんを競争業者と考えたとしましょう。しかし、例えば、今、ファミリーレストランでも、和食のメニューに力を入れてきています。

Aさんの店の近隣エリアにあるファミリーレストランが、蕎麦を、ライスやパンの代わりに提供するメニューを開始するとしたら、それは、そのファミリーレストランも競争の相手になります。

新規開店をしてくる新参者の蕎麦やさんよりも、セントラルキッチンや工場を持って、効率性の高い生産を行い、大量な仕入れロットで原材料の原価を落とすことができる大手のファミリーレストラン企業のほうが、競合としては、充分、対策をたてなければならない相手であると思います。これが、新規業者です。

代替品


さて、ポーターは、更に、競争相手として、「代替品」をあげます。

Aさんの蕎麦や屋さんの事例で、ここでも考えましょう。
Aさんの店のお客様は、Aさんの店に行こうかと迷ったとき、何も、近隣の蕎麦や屋さんだけを比較検討して、Aさんの店に行くことを決めるわけではありません。

「今日は、何を食べに行こうか?
ラーメンかな?
パスタもいいな?
それとも、日本蕎麦にしようかな?」

こんな風に、考えるわけです。
そうしますと、Aさんは、お客様にご来店いただくには、ラーメンや、パスタをお客様が選択することに勝つ必要があります。

そうすると、ここでいう、ラーメンやパスタが、代替品です。

競争業者だけでなく、新規参入者や代替品まで考慮するとしたら、Aさんの競争相手は、非常に広範囲に広がることが、おわかりになるでしょう。

そう、現実のビジネスでは、蕎麦屋さんは、決して、近くの蕎麦屋さんとだけ競争しているわけではないのです。

売り手と、買い手


さて、ポーターは、更に、競争相手を広げていきます。

「売り手???
買い手???
それって、競争相手なの?」

こんな声が聞こえてきそうです。

しかし、現実のビジネスでは、売り手や買い手こそ、非常に重要な新規参入者になりえる相手なのです。

どういうことでしょうか?

ここでも、また、Aさんの蕎麦やさんの事例で考えましょう。

売り手


Aさんは、老舗の蕎麦屋やさん出身で、その関係から、様々な仕入れ業者さんを、元の店から紹介してもらえることでしょう。

これらの仕入れ業者さんが、「売り手」です。
この売り手は、Aさんにとって、単なる仕入先という関係を超えて、その年の蕎麦粉の生産状況など、様々な情報を齎してくれる強いパートナーであることは間違いありません。

しかし、そのような「川上」の業者は、逆をかえせば、Aさんに利益を乗せて商品を卸しているわけですから、Aさんよりも、原料を安く調達できるルートを持っており、かつ、商品の情報にも精通しています。

例えば、そばつゆの出汁に欠かせない鰹節のメーカーで、蕎麦の飲食事業に進出をした有名な企業があります。この会社は、もとをただせば、蕎麦屋に鰹節を卸す会社でした。このように、川上に位置する会社は、低コストかつ豊富な情報をもって、川下の事業に参入することができます。川下の企業からみると、突如、いままで取引先だと考えていた企業が、競合として、立ちはだかってくる可能性を意味します。

買い手


一方、今度は、買い手についてです。

Aさんの店の場合、買い手は、売り手のように原材料や業界情報に強みがあるわけではありません。しかし、例えば、Aさんの会社がデリバリーサービスで、商品を配送している場合、デリバリーサービス企業は、Aさんよりも、地域の競合情報や、販売情報に精通している可能性があります。また、Aさんの店の顧客情報を、組織的に収集できるかもしれません。

このような意味で、買い手もまた、重要なパートナーであるとともに、そのマーケットに関する情報を武器に、競合として参入してくるリスクがあります。

誰が、競争相手になりえるかの策定は、非常に広い


以上、ポーターが示すファイブフォースが、お分かりいただけたでしょうか?

ファイブフォースは、誰が競合になりえるかを策定するための思考のフレームワークですが、競合とは、考えている以上に、広範囲な概念であることがお分かりいただけたでしょうか?

このように、広範囲に策定した競合に、しっかりと情報収集の範囲を広げ、その情報を分析し、それが顕在化した時に勝てるような戦略を立案することが、競争戦略なのです。

次回のコラムでは、今度は、競合情報の収集・分析と、競争戦略の立案について、説明して参ります。

続く

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