年収のカラクリ ~年商5億円を超えた経営者たちの、自分の年収の決め方の技~
このコラムは、事業計画作成法を伝授します②~SWOT分析の具体的な進め方~から、内容が連続しています。お読みになっていない場合、一旦、前回のコラムにお戻りいただき、そちらを読んでから、このコラムをお読みください。
SWOT分析の結果を活用する鉄則 ~孫子に学ぶ~
さて、前回のコラムで行ったSWOT分析を、事業計画に、どう反映するべきかについての実践的な方法に進みましょう。
ここが大切なことですが、SWOT分析は、それを分析しただけでは、単なる自己評価に過ぎません。
今回の発信内容のように、事業の計画に、この分析結果を実践的に活かすことが大切です。
その際の切り口の鉄則を、まず、述べさせていただきます。
・機会を最大限生かし、
・脅威をできるだけ回避し、
・強みをいかに発揮して
・弱みを顕在化させないようにする
中国の兵家の古典書であり、いまでも世界の経営者に読み継がれている、「孫子」。
その冒頭の「計編」は、まさに、戦争における計画や戦略について述べられた部分です。
「孫子曰く、兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道。察せざるべからざるなり。」
(孫子は言う。戦争とは、国家の最重要事項である。国民の死活がかかり、国家存亡の分かれ道であるから、よくよく熟慮すべきである。)
この言葉で始まる孫子では、計画の重要性をとき、軽挙盲道や、勇み足の行動を慎むべきと説いています。
経営とは、企業の最重要事項である。社員やその家族の生活がかかり、企業の存亡の分かれ道に次々と出くわすのであるから、よくよく熟慮すべきである。
このように言い換えられるように、孫子の兵法は、近現代の経営者たちの重要な指針とされてきました。
そして、更に、孫子は、天や地の利(つまりこれは外部環境)、人事・マネジメント・そして統制(これは内部環境)に関する情報を、敵と味方について収集し、それによって、敵と味方に関して、有利不利を諮れと、説いています。
自らが大きく、内部環境・外部環境をあわせて敵に対して有利な場合、短期決戦で、勝利をおさめることを勧めています。
そして、敵が大きく、味方が不利な場合、正面からの戦争を避け、敵の内部分裂を諮る工作を行い、敵を弱らせる諜報戦を勧めています。
機会や強みを徹底的に打ち出す計画を練り、脅威や弱みを直視して、これを顕在化させないように、回避することを、孫子は主張しています。
まさに、私たちの事業計画も、孫子がとくのと、同じなのです。
機会を最大限生かす
では、まず、前回のコラムの事例のAさんのお蕎麦やさんの事例を基礎にして、その機会を最大限生かすことを検討しましょう。
機会
Aさんが蕎麦やさんを出店するF市は、最近、駅付近に、再開発が進み、今後、タワーマンションがいくつも建設される計画になっています。タワーマンション建設は、分譲で、その価格も高いため、賃貸物件などよりも、定着する家族を、周辺自治体から移動させる効果があります。タワーマンションを購入できる世帯主は、高所得層です。Aさんの店は、老舗の蕎麦やさんの暖簾をかけるわけですから、高所得者層の家族が増える、F市の状況は、大きな機会になります。
マーケティングの計画で、Aさんは、この点を充分意識して、店の広告などを考える必要があります。
F市のタワーマンションの分譲に関する情報や、住民の引っ越しがスタートする時期などを調べ、そこに重点的に広告を打つ計画を、マーケティング計画に入れるべきです。
Aさんは、運転資金が圧倒的に不足しています。創業融資は、創業後、時間がたつと、借入がしにくくなります。また、金融緩和から、金融引き締めに金融当局が入ると、借入金は調達しにくくなります。開店時に、できるだけ早く、政策金融公庫などの機関を利用して、借入金を調達する計画をたてるべきです。
銀行という組織は、「天気のときには、傘を貸したがり、雨が降ると傘を貸さない」ものです。企業の資金調達は、赤字が出て、資金がきつくなってからでは、銀行は、もう資金を貸してくれないのです。従って、操業時の流動資産に余裕がある間に、銀行から早々に資金を調達する資金調達計画をたてる必要性があるでしょう。
また、少子高齢化が益々、進むのは、F市も同じです。老舗の蕎麦やさんという、Aさんのビジネスでは、店舗設計や、設備では、高齢者のお客様に配慮し、高齢者の方が好む店舗設計計画を、出来る限り意識すべきでしょう。
強みを発揮させる
次に、Aさんの強みを発揮する要素を検討しましょう。
強み
Aさんは、老舗の蕎麦やさんで、地道に働き、手打ちそばの技術や、そばつゆの製法を習得しています。老舗蕎麦やさんからの暖簾分けをしてもらったわけですから、そのブランド力を、最大限発揮するような計画を立てるべきでしょう。
イニシャルの費用はかかるかもしれませんが、単に、居抜きの店を活かすだけでなく、老舗の暖簾分けの店舗に相応しい店装を施し、ブランド力を打ち出し、手打ちそばやつゆ、更に器にこだわり、商品の価格戦略で、中上位の客層を意識した、攻めの価格を採用することも必要かもしれません。
一方、F氏は、ベットタウンでもありますから、価格に充分見合うだけの量を意識するなど、「お得感の演出」も重要かもしれません。
また、老舗蕎麦屋さんを目指してきてくれるお客様を意識し、広告を地域以外に広げたり、あるいは、テレビ出演などの広報を積極的に打ち出すことも重要です。有名な老舗の蕎麦やさんの暖簾分けや、長年勤めあげたAさんのストーリーを、プレスリリースとして、メディアに打ち出す方法も、有効かもしれません。
勤めていた蕎麦屋さんから、蕎麦粉や、食材、酒などの仕入れ先についてもご紹介いただき、蕎麦粉の産地の表示や、こだわりの酒蔵の酒を置くなど、商品の差別化も武器になるでしょう。
また、老舗蕎麦店での勤務経験があるBさんを、パートタイムのリーダーにして、他の新しいスタッフの教育なども担当してもらうなどの、人事戦略も重要です。
脅威を回避する
さて、次は、外部環境のマイナス面である脅威です。
脅威がない事業は存在しません。重要なことは、脅威から目を背けるのではなく、それを直視して、いかに、そのマイナス面を回避し、場合によっては、その脅威から、チャンスを生み出す発想も、重要です。
脅威
Aさんの事業は、飲食業です。従って、仕入れる食材とともに、働くヒトもまた、生産性を生み出す重要な経営資源となります。
社会保険料などのコストは、今後、上昇を続けるでしょう。この脅威から逃げて、従業員を雇わないという発想をするのではなく、コストが上昇しても耐えられるほどの、生産性を、ヒトの力から生み出す努力が、開業段階から必要になります。
単に、時間から時間を働いてくれるヒトを探すのではなく、採用に十分な配慮を払い、ポテンシャルの高い人材を、徹底的に求人して見つけ出し、採用後に、教育指導や、モチベーション向上策を行い、生産性をあげることが、重要です。
また、日本の少子高齢化という流れは、飲食事業にとっては、長期的に大きな脅威となります。高齢者は、外食に比較的、お金を使わなくなります。従って、それでも、なおかつ、高齢者に愛される外食店であることを追求する姿勢が重要でしょう。加えて、店になかなか来店できない高齢者のために、店舗とデリバリーを両立し、外食と、中食を、スタート段階から展開できる事業計画が必要でしょう。
上質な国内産の蕎麦粉は、蕎麦ブームで、供給に対し、需要が多く、値が上昇傾向にあります。Aさんの最大の原価コストを構成する、蕎麦粉の価格が上昇していくことを意味します。蕎麦粉価格が上昇しても、吸収できるだけの商品へのこだわりを持ち、蕎麦の価格に転嫁できるだけの、自信のある商品と、メニュー構成を練る必要があるでしょう。
弱みを顕在化させない
最後に、弱みです。
自分の弱みを直視することが、ヒトは、誰でも、一番、苦手です。
サラリーマンと、独立の最大の違い
ここで、サラリーマン時代の成功と、独立の成功の違いを、この弱みの観点からお話ししましょう。
サラリーマンというのは、会社が大きい組織のため、自分の強みを発揮すれば、会社から評価を受けます。
しかし、自分が独立する場合、ここが最もサラリーマン時代と違うですが、強みを発揮するだけでは、成功できません。
強みがないようなヒトは、そもそも独立しないです。独立するヒトは、サラリーマンであれば、会社から非常に高い評価をされるような方ばかりなのです。
独立して、サラリーマン時代と最も違うところは、強みが足りないから、潰れるのではなく、弱みから潰れる、という点です。
ヒトは、誰もが弱みを持っています。弱みがないヒトはいません。しかし、残念ながら、独立をしたヒトは、その弱みから、崩れてしまいます。
営業が得意なヒトは、経理や財務、法務などから崩れます。
商品開発が強いヒトは、営業で崩れます。
独力で事業を推進する仕事のできる方は、部下の人事から崩れます。
ヒトの調整が上手い方は、自分のビジョンを打ち出す経営戦略の欠如で崩れます。
このように、独立で重要なことは、強いところでチカラを発揮するのは当たり前で、弱みから、崩壊しないようにすることなのです。
私のような経営コンサルタントというのは、企業の経営者についたとき、その経営者の弱みを見抜き、その弱みが顕在化しないように補佐することが最大の仕事なのだと、私は思っています。
このように、弱みを自覚し、その弱みを顕在化させないように守ることが、経営では最も重要なのです。
そのような視点で、弱みをみていきましょう。
弱み
Aさんは、老舗の蕎麦店で長く仕事をし、蕎麦打ちの技術もありますが、一方では、多様な飲食店での経験が乏しいわけです。従って、Aさんは、まず、自分の競合になる飲食業(地域の蕎麦やさんだけが競合ではありません。様々な価格帯の飲食店、デリバリーサービスすべてが競合です)にサーチに訪れ、その商品や価格帯、サービスなどを、広く視察し、研究をする必要があります。
競合の研究です。
そこから、自分の店のマーケティングを見直し続け、イノベーションを実行し続ける必要があります。
自分の技術に依存し、視野狭窄に陥るのではなく、他の企業や店から、お客様を「飽きさせない」方法も、学ぶ必要があります。また、メニュー構成も常に見直してゆく必要があります。
老舗蕎麦ささんのブランドは、家庭から観ると、「敷居が高い」と評価される可能性があります。この点も意識しながら、他の店舗の事例をみて、そこから、敷居の高くない、お客様に気軽にお越しいただける店づくりの方法も、学ぶ必要があります。
新たな仕入先の摸索もし続ける必要があります。
今までいた店からご紹介いただいた仕入れ先とのお付き合いも重視しつつ、同時に、客観的な位置から、仕入先も見直し、仕入れ価格や商品も、新しい取引先から、話を聞く姿勢も重要です。
万が一、Aさんが身体をこわしたりすれば、Aさんの店は、開店できなくなります。この点、Aさんしか、常勤者がいないということは、弱みになりますから、最初は、パートさんだけで、従業員をスタートしつつも、経営の安定を睨み、どこかの時点で、パートさんの中から、社員になって貰える人材を常に意識して、探すことも必要です。
Aさんの店舗は、居抜きの店舗ということもあり、周辺の家賃相場よりも家賃が高い店舗を借りています。割高の家賃は、粗利益から賄わなければなりませんから、周辺の競合店ができた場合、価格競争力において、大きなハンディを負います。これを、吸収するためには、割高な商品でも、お客様に満足いただけるように、付加価値を高くすることが必要です。店舗や器での高級感の演出、商品の満足度の追求、サービスの徹底など、他の競合店よりも、工夫を続ける必要があります。
以上のように、SWOT分析の結果を活かす方策をあげて、これを事業計画に随所に活かす工夫をしなければなりません。
さて、次回は、上記の中にも触れましたが、競合の分析とそれを戦略に活かす方法を発信いたします。
続く
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