年収のカラクリ ~年商5億円を超えた経営者たちの、自分の年収の決め方の技~
このコラムは、「事業計画の作り方①~③」から、内容が連続しています。そちらをまだ、お読みになっていない場合、一旦、①~③のコラムにお戻りいただき、そちらを読んでから、このコラムをお読みください。
前回③では、SWOT分析で抽出した、
強み。
弱み。
機会。
脅威。
をクロスSWOTによって組み合わせ、自社がこれから進むべき戦略の方向を考えました。
しかし、「自社が何をしたいか」だけでは、事業計画は完成しません。
なぜなら、実際の市場には顧客がいて、その顧客を獲得しようとする他社がいて、代替となる商品やサービスがあり、仕入先や販売先との力関係も存在するからです。
そこで④からは、
「自社は、どのような競争環境の中で事業を行うのか」
を分析していきます。
競争戦略は、成長戦略とともに、事業計画の重要な柱だ
僕が中小企業の経営者の方と事業計画を検討していると、
「売上をどう増やすか」
「どの商品を伸ばすか」
「新しい店舗を出すか」
「海外へ進出するか」
といった成長戦略は、比較的よく考えられている一方で、
「その成長を実現するために、誰との競争に勝つ必要があるのか」
という競争戦略が十分に検討されていないケースがあります。
競合を調べることは、決して楽しい作業ではありません。
自社より優れた商品。
自社より安い価格。
自社より強いブランド。
自社より便利なサービス。
こうした現実を直視しなければならないからです。
しかし、自由な市場で事業を行う以上、競争環境を無視することはできません。
しかも、競争相手とは、単に「自社と同じ商品を売っている会社」だけではありません。
顧客から見れば、
別の商品。
別の業態。
新しい技術。
今まで存在しなかったサービス。
さえ、自社の商品を選ばなくなる理由になります。
したがって、事業計画では、
競争するのか。
競争を避けるのか。
差別化するのか。
特定の顧客層へ集中するのか。
新しい市場をつくるのか。
といった判断まで考える必要があります。
成長戦略が「どこへ伸びるか」を決めるものだとすれば、競争戦略は「その市場で、なぜ自社が顧客から選ばれるのか」を決めるものです。
競合は「同業者」だけではない|ファイブフォースで競争環境を考える
では、自社が考えるべき競争相手は、どこまでなのでしょうか。
ここで役に立つのが、マイケル・ポーターが提唱した「ファイブフォース」という考え方です。
ファイブフォースは、単純に「競合企業を5種類に分ける」という理論ではありません。
自社が属する業界の競争環境と、利益を生み出しやすい構造かどうかを、5つの競争圧力から分析するフレームワークです。
ファイブフォース
・既存競合企業との競争
・新規参入の脅威
・代替品・代替サービスの脅威
・売り手(供給者)の交渉力
・買い手(顧客)の交渉力
この5つを、前回まで使用してきたAさんの蕎麦店の事例で考えてみましょう。
現在のAさんは、東京都郊外のF市で蕎麦店を8年間経営し、年商3000万円前後まで事業を育てています。
そして、今後、
既存店をさらに成長させるのか。
第二店舗を出すのか。
新しい商品・販売方法へ進むのか。
を検討しています。
この経営判断を行うために、自社を取り巻く競争環境を分析します。
1.既存競合企業との競争
最も分かりやすいのが、現在すでに存在する競合企業です。
Aさんの蕎麦店の場合、
近隣の蕎麦店。
駅周辺の蕎麦店。
同程度の価格帯の和食店。
などが考えられます。
ただし、
「店舗から半径何km以内にある蕎麦店」
という機械的な考え方だけでは不十分です。
実際の競争範囲は、顧客がどの範囲から店を選んでいるのかによって決まります。
例えば、Aさんの店が老舗から暖簾分けを受け、本格的な手打ち蕎麦を強みにしているのであれば、近所の顧客だけではなく、電車や車を利用して遠方から来店する蕎麦好きの顧客もいるかもしれません。
逆に、平日のランチ需要が中心なら、商圏は狭くなる可能性があります。
したがって、
顧客住所。
Googleマップでの検索行動。
最寄り駅。
車での所要時間。
デリバリー可能範囲。
予約客の居住地域。
などから、実際の商圏を把握することが重要です。
競合を決める基準は、「自社から何km離れているか」ではなく、「同じ顧客から選択肢として比較されているか」です。
2.新規参入の脅威
次に、新規参入です。
現在は競合していなくても、今後、その市場へ参入してくる企業が存在します。
Aさんの場合、
新しく開店する蕎麦店。
和食チェーン。
駅前再開発に伴って出店する飲食店。
既存の大手外食企業による蕎麦業態への参入。
などが考えられます。
ここで重要になるのが、「自社の市場には、他社が簡単に参入できるのか」という視点です。
もし、
少ない資金で開業できる。
特別な技術が必要ない。
ブランドの差が小さい。
顧客が簡単に店を変更できる。
という市場なら、新規参入の脅威は高くなります。
逆に、
長期間の技術習得が必要。
強いブランドがある。
有力な仕入先との関係が必要。
顧客との長期的な信頼関係がある。
簡単には取得できない立地や設備が必要。
という市場では、新規参入障壁は高くなります。
Aさんの場合、手打ち蕎麦の技術、暖簾分けブランド、既存顧客との関係などを強化することは、他社が簡単に再現できない参入障壁を高めることにもつながります。
3.代替品・代替サービスの脅威
競合分析で、非常に見落としやすいのが代替品です。
Aさんの蕎麦店へ行こうとしている顧客は、
「A蕎麦店にするか、B蕎麦店にするか」
だけを考えているわけではありません。
例えば、
「今日の昼は何を食べようか」
という顧客の需要に対しては、
ラーメン。
うどん。
パスタ。
寿司。
定食。
コンビニ弁当。
スーパーの惣菜。
自宅での食事。
デリバリー。
など、さまざまな選択肢があります。
これらは、商品そのものは蕎麦ではありません。
しかし、
「昼食を食べる」という同じ顧客ニーズを、別の方法で満たしています。
これが代替品・代替サービスです。
企業向けの事業でも同じです。
例えば、
出張というサービスに対するWeb会議。
紙媒体広告に対するWeb広告。
人が行っていた作業に対するAIやシステム。
新品購入に対するレンタル・サブスクリプション。
などが代替になります。
競合を見るときには、「同じ商品を売っている会社」ではなく、「顧客が自社を選ばなかった場合、代わりに何を選ぶのか」を考えることが重要です。
4.売り手(供給者)の交渉力
第四が、売り手、つまり供給者の交渉力です。
Aさんの蕎麦店なら、
蕎麦粉。
つゆの原材料。
酒。
野菜。
食器。
設備。
などを提供する仕入先が該当します。
ここで見るべきなのは、
「仕入先が将来、競合になるか」
だけではありません。
むしろ重要なのは、
仕入先が、自社に対してどの程度強い交渉力を持っているか
です。
例えば、
仕入先が非常に少ない。
他社製品への切り替えが難しい。
その原材料が商品の品質を大きく左右する。
特定の仕入先に依存している。
仕入先が値上げしても取引をやめにくい。
という状態では、供給者の交渉力が強くなります。
Aさんが、
「この産地、この生産者の蕎麦粉でなければ、商品の品質を維持できない」
という状態で、供給者が限られていれば、その仕入先の交渉力は非常に強くなります。
原材料価格が上昇すれば、Aさんの利益率は直接影響を受けます。
したがって事業計画では、
仕入先を複数持つ。
代替原料を研究する。
長期的な取引関係を構築する。
価格改定できる商品力を持つ。
仕入価格の上昇を吸収できる粗利益率を確保する。
といった対応を検討します。
また、供給者自身が川下へ進出する可能性も、業界によっては追加的なリスクになります。
しかし、それは「売り手の定義」そのものではなく、売り手の力を考える際の一要素として捉える方が適切です。
5.買い手(顧客)の交渉力
最後が、買い手、つまり顧客の交渉力です。
飲食店の場合、一人ひとりの消費者が、
「価格を10%下げなければ買わない」
と直接価格交渉をするケースは少ないでしょう。
しかし、顧客には、
別の店へ行く。
別の商品を買う。
来店頻度を減らす。
価格比較をする。
口コミやレビューを参考にする。
という選択肢があります。
特に、
商品の差が小さい。
店を変更する負担がない。
競合店舗が多い。
価格情報を簡単に比較できる。
という市場では、顧客側の力が強くなります。
BtoBでは、さらに分かりやすくなります。
例えば、売上の40%を一社の大口顧客に依存している企業なら、その顧客から値下げを要求された場合、断ることが難しいでしょう。
このような状態は、
買い手の交渉力が非常に強い状態
です。
したがって、
顧客を分散する。
自社にしかない価値をつくる。
簡単に他社へ変更できないサービスをつくる。
ブランドを構築する。
継続的な関係をつくる。
ことによって、買い手側に競争条件を一方的に決められない状態を目指します。
ファイブフォースは「競合企業一覧」を作るためのものではない
ここまで5つの競争圧力を見てきました。
・既存競合との競争
・新規参入の脅威
・代替品・代替サービスの脅威
・供給者の交渉力
・顧客の交渉力
ここで改めて確認しておきたいことがあります。
ファイブフォースは、
「競合会社をできるだけたくさん探す」
ためのフレームワークではありません。
「この業界で、利益を生み続けることを難しくする力は、どこから働いているのか」を考えるためのフレームワークです。
例えばAさんの場合、
近隣蕎麦店との競争が最も大きな問題なのか。
原材料の上昇が利益を圧迫しているのか。
飲食以外の代替サービスへ顧客を奪われているのか。
新しいチェーン店の参入が脅威なのか。
顧客が価格に敏感で、値上げできないことが問題なのか。
によって、取るべき戦略は全く変わります。
つまり、
競争環境を正しく定義できなければ、競争戦略も正しく立てられないのです。
「競合は誰か?」ではなく、「顧客は何と比較して自社を選ぶのか?」と考える
中小企業の競合分析で、僕が特に重視している問いがあります。
それは、
「あなたの顧客は、自社の商品を買わなかった場合、何を選びますか?」
という問いです。
この質問をすると、自社が想定していなかった競合が見えてくることがあります。
例えば、
高級レストランの競合が、他の高級レストランだけとは限りません。
顧客にとって「特別な時間を過ごす」という目的なら、
ホテル。
旅行。
コンサート。
高級食材を購入して自宅で楽しむこと。
なども、限られた可処分所得を奪い合う競争相手になる場合があります。
BtoBでも、
コンサルティング会社の競合が、他のコンサルティング会社だけとは限りません。
社員を採用する。
AIを導入する。
システムを購入する。
業務そのものをやめる。
という選択肢が代替になることもあります。
競合分析は、自社の商品から見るのではなく、顧客が解決しようとしている課題から見ることが重要です。
この発想に変えるだけでも、競争環境の見え方は大きく変わります。
競争環境を把握したら、次は「競合の情報」を集める
今回の④では、ファイブフォースを使って、
「自社は、どのような競争環境に置かれているのか」
「誰と、何をめぐって競争しているのか」
を整理しました。
しかし、
競合が誰なのか分かっただけでは、まだ競争戦略は立てられません。
次に必要になるのは、
競合は、誰を顧客にしているのか。
何を強みにしているのか。
価格はいくらなのか。
どのような商品を売っているのか。
どの販売チャネルを使っているのか。
どのような口コミや評価を得ているのか。
自社との違いは何なのか。
という具体的な情報を集めることです。
そして、その情報を基礎に、
真正面から競争するのか。
差別化するのか。
顧客層をずらすのか。
価格競争を避けるのか。
ニッチ市場へ集中するのか。
という競争戦略を決めていきます。
「競合を知る」ことが目的ではありません。競合を知ったうえで、「自社はどのような位置を取れば、顧客から選ばれ、利益を生み続けられるのか」を決めることが目的です。
次回⑤では、今回定義した競争環境を基礎に、競合に関する情報をどのように収集・分析し、そこから競争戦略を立案するのかを具体的に解説します。
続く
事業計画の作り方⑤|競合情報をどう集め、競争戦略へ変えるか
https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/column/5091911/
年商5億円の壁を突破するための経営者伴走コンサルティング
年商3000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、2026年3月期・グループ総売上高48億円の企業グループを経営する現役オーナーCEOである松本尚典が、事業計画、競合分析、競争戦略の策定だけで終わらず、具体的な実行と成果検証まで継続して伴走します。
https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/service1/5002501/
初回120分経営カンファレンス
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https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/936
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