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事業計画を作成するスタート段階で大切なこと
今、このコラムを読もうとされておられる方は、おそらく、何らかの事情で、会社の事業計画を作成しようとされているのかと思います。あなたの立場は、企業の経営者、または経営企画に携われる責任者の方でしょう。
ある特定の事業をスタートすることになり、経営者の方であれば、金融機関からの融資を受ける、投資家やVC(ベンチャーキャピタル)から投資を受ける、などの事情かもしれません。また、経営企画に携っている方であれば、会社の役員へのプレゼンをするという事情かもしれません。
あなたの立場と目的は、私にはわかりませんが、まず、事業計画を策定する場合、私が、最初に申し上げたい助言は、「いったん、あなたの目的を忘れて、事業計画を策定してみましょう」ということです。あなたの目的がなんであれ、その目的を設定し、事業計画をそれに向けて作成すると、必ず、その事業計画は、チープなものになってしまうからです。
例えば、あなたが、経営者で、金融機関や信用保証協会に提出する事業計画を作成しようとしているとしましょう。このケースが、一番、わかりやすいのですが、この場合、必ず、その先方の機関から、所定の書式が手渡されます。最悪な事業計画の作成法というのは、このような書式を机において、その記載されている部分を埋めようとするやり方です。
まず、金融機関や信用保証協会の事業計画の書式というものは、そもそも、あれを埋めてください、という趣旨の書式ではないのです。あの書式とは全く別の事業計画を策定したうえで、書式の中の当該箇所には、その要約を記載し、そのうえで、詳細は、その事業計画の、どこのページを参照、と記載をするのが、最も正しい方法です。
そもそも、あの書式程度の分量の事業計画で、出資や融資を受ける、という態度自体が、金融機関から観ると、「真剣度が足りない」という評価になってしまいます。まして、あの書式ですら、すかすかの記載をして、提出をするなど、そもそも論外なのです。
日本の金融機関は、事業計画内容よりも、物的担保を重視する傾向にありますから、固定資産がたっぷりあって、担保物件が豊富にある企業であれば、その程度の事業計画でも、融資はおります。しかし、創業したての企業であるとか、物的担保がなく、事業計画内容と、社長の人的担保(連帯保証)だけが、与信の資料となっているような企業の場合、事業計画や社長の経歴は、別紙資料をしっかりつけて提出しなければなりません。
そのような事業計画では、金融機関が手渡す書式の求める情報をはるかに超える、事業の計画のディティール(詳細)まで、しっかりと記載しなければなりませんし、そうでなければ、そもそも信用されないと思ってください。
ここから、スタートする事業計画の策定法では、このような事業計画をどう作成していくのか、という、ノウハウを公開して参ります。そのため、事業計画を作成するスタート段階では、一旦、目的を忘れていただき、功利性を忘れて、取り組むのが、よい事業計画を創り上げるコツです。
そもそも、事業計画とは何か?
では、事業計画とは、そもそもなんでしょうか?
事業というものは、それが動き出しますと、様々なスタッフがチームに参加し、そのチームも、機能別に、様々な動きをしはじめます。そのチームのメンバーは、それぞれが、各々の立場から、その事業に関係することになります。そうなりますと、事業が進むうちに、その事業に関わってくるヒトの立場によって、事業の見え方が異なってきます。
例えて申し上げましょう。
大きな象のところに、目隠しをした象を見たことがないヒトを、数人連れていきます。そうして、こう質問をします。
「今、あなたの前に、象という動物がいます。さて、象とは、どんな動物でしょうか?」
Aさんは、象の鼻を触って、こう言います。
「象とは、細長いヘビのような動物です。」
Bさんは、象の脚を触って、こう言います。
「象とは、木の柱のような動物です。」
Cさんは、象のしっぽを触って、こう言います。
「像とは、細い枝のような動物です。」
Aさん、Bさん、Cさんは、全員が、きちんと象を触っています。しかし、全員、象を間違えた姿で把握してしまっています。
それは、Aさん、Bさん、Cさんが、全員、象の全体像をみていないからです。
では、どうすれば、この把握の相違を正すことができるのでしょうか?
全員が、目隠しをとり、全員が象を自分の目で見れば、全員が同じ象の姿を表現することができます。
事業でも同じことが起きます。各自が、事業というものの、別々の部位に携わってしまうと、事業が、まったく別のものに見えてしまいます。これを正し、全員が同じ事業の全体像と目的を同じように観るためのツールが、事業計画です。
事業を進める関係者すべてが、事業を、同じ視点から観る必要性があります。そうでなければ、正しい協業が行われず、事業は、当初の目的や、経営陣・企画部門の目的と離れてしまい、失敗してしまいます。
事業計画とは、事業に関係するすべての関係者(金融機関や出資家も含みます)に、事業の目的や、何故、その事業を行うのか、こういうポイントから、スケジュールや予算に至るまでの、全体像を示し、全員が、同じ事業の全体像を見続けて協業するために作成するものです。
読むヒトが惹きつけられる事業計画は、事業理念から始まる
では、事業計画を立案する上で、一番重要で、一番初めに策定しなければならない事項から、話を始めます。
それは、事業の理念です。
事業理念と言いますと、非常に難しそうに聞こえます。
要するに、次のような問いに答えることです。
・あなたは、何故、そもそもその事業を遂行しようと思ったのですか?
・その事業を遂行して、どのような目的を達成したいのですか?
・その事業の結果で、どのような社会的な価値が生まれますか?
・あなたにとって、その事業の遂行は、あなたの過去の経験の、どこを活かせるのですか?
・あなたは、その事業のどこが好きなのですか?
まず、あなたは、上記の問いに答えてみてください。
すべての問に答えられなくても構いません。この5つの問に答えたら、その中で、あなたが、最も強く納得できる答えがあれば、その答えから、事業理念は導き出せます。
ちなみに、上記の5つの問の、どれ一つにも、強く納得できる答えが見つからない場合、あなたの事業には、理念が存在しない可能性があります。
経営者の理念が存在しない事業というのは、次のような場合があります。
・親の事業を、成り行き上、継ぐことになった
・儲かりそうだとヒトに言われて、転売ビジネスや、代理店、フランチャイズビジネスをやることにした
・ヒトから誘われて、ヒトがはじめた事業を一緒にやることにした
結論から、言いましょう。非常に、厳しいことを言うようですが、このような動機で、事業をはじめるとしたら、事業をはじめることを辞めたほうがよいでしょう。絶対に、継続的に成功できません。必ず、こういうヒトは、その事業が上手くいかなくなったり、当初に思い描いていたこととづれたりしますと、その時点で、事業を投げ出してしまいます。
事業にとって最も重要なことは、継続性と、継続させる強い意志です。
事業をはじめるとわかりますが、事業の遂行には、必ず固定経費がかかってきます。固定経費というものは、売れる・売れないにかかわらず、事業のベースを維持する費用として、固定的に支出される経費のことです。そのため、一時的に利益がえられても、その利益が継続的に回収できなければ、固定経費が賄えなくなり、その事業は、必ず失敗します。事業にとって、重要なことは、短期的に利益が出ることではなく、継続的に利益が出て、それが安定することです。
しかし、継続的に利益を出すと口でいっても、それは途方もなく、難しいことです。継続的に利益を、楽をして、出し続けられるビジネスモデルはあり得ません。事業を安定的に行えているヒトは、この楽ではない、利益を出し続けるビジネスモデルを、改良を続けながら、模索を続けているのです。つまり、親から受け継いだ事業、ヒトから誘われた事業、なんとなく儲かりそうだと思ってはじめた事業が、そのまま、利益を継続的に出し続けられることはありえません。
事業を安定的に行えているヒトは、自分の理念に立ち帰り、それに拘りつつも、修正を加えて、利益を出し続けるビジネスモデルを、改良を続けながら、模索を続けているのです。それができるのは、その事業に、自分なりの理念をもって、はじめたからです。
初心に立ち返るときや、苦しくなったときに、事業理念が生きる
事業理念の重要性を考えるうえで、非常に参考になる事例を、一つあげてみましょう
21世紀に入り、デジタルカメラがカメラの主力商品群となった時、最も重大な危機にたったのが、フイルムメーカーでした。20世紀に、世界に冠たる地位を構築したフイルムメーカーは、アメリカのコダック社と、日本の富士フイルムでした。
フイルムが要らないデジタルカメラの普及が進む中、この二つの企業は、その後の企業の方向性に大きな差が出ました。
コダック社は、自社のフイルム技術に絶対的な自信をもち、1975年に他社に先駆けてデジタルカメラを開発までしていたにも関わらず、デジタルカメラとフイルムは共存すると考え、フイルムを中国の中産階級向けに販売する戦略をたてて、フイルムメーカーとしての自社の位置づけにこだわり続けました。
一方、富士フイルムは、フイルムに依存していた自社の売上に危機感を抱き、企業理念に立ち返り、事業の再構築に挑みました。
「わたしたちは、先進・独自の技術をもって、最高品質の商品やサービスを提供することにより、社会の文化・科学・技術・産業の発展、健康増進、環境保持に貢献し、人々の生活の質のさらなる向上に寄与します。」(富士フイルムグループ 不変の価値観 より)
富士フイルムは、フイルムという成功事例に自社の強みを見出すのではなく、その開発を通して培った基礎技術にこそ、自社の強みを見出し、生き残るべきであるとの方向性に企業の舵を切ります。この方向転換は、富士フイルムグループの、不変の価値と彼らが呼ぶ、企業理念に立ち返る中で、生み出された経営戦略を基礎にしました。
こうして、生まれたのが、フイルム技術を基礎に開発した化粧品製品であり、そこから発展した、同社グループの医療機器事業でした。
こうして、その後、倒産したコダック社と、フイルムの基礎技術から発展した新たな事業でより大きな事業を築いた富士フイルムの、大きな差が生まれたのです。
事業理念をしっかり見つめることから、事業計画をスタートする
企業が、売れそうな製品やサービスを、今、売って短期的な利益を出そうと考えても、外部環境の変化や、競争環境の激化により、それは長続きしません。そして、長続きしなければ、企業は、最後に、膨らんだ固定経費を賄うことができなくなり、その削減を強いられて体力をそがれ、廃業(最悪の場合、倒産)します。
創業した事業が、30年間生き残る確率は、日本では、わずか、02%です。1000人のオーナー社長が登場して、30年後に社長を続けていられる方は、1000人中、わずかに2人しかいません。
事業には、必ず、波乱や苦しい時が来ます。その時に、生き残るには、しっかりとした理念のもとに、事業を開始しているか、という要素が、重要な条件の一つになるのです。
事業計画をたてる場合、まず、先にあげた問いに答え、その答えから、自分の事業理念を、しっかりと把握して、そこから、事業計画を書き始めることが、重要なのです。
続く
[囲み装飾]松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
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