【不貞慰謝料】相手に資力がない場合|請求する側にできること
この記事は、2024年4月1日に施行された改正民法(認知の無効の訴えに関する規定の見直し)を反映しています。施行日より前にされた認知には改正前の規定が適用されるため、認知をした時期によって考え方が分かれます。
交際していた相手との間に生まれた子を認知した後になって、相手から「実はあなたの子ではない」と打ち明けられたり、DNA鑑定で血縁がないと分かったりすることがあります。認知は戸籍に記載され、養育費や相続にも関わるため、事実と違うのであれば元に戻したいと考えるのは自然なことです。
ただ、認知は「取り消したい」と届け出れば済むものではなく、家庭裁判所の手続によって「無効」を確定させる仕組みになっています。また、2024年の民法改正で、認知をした本人が無効を主張できる期間に制限が設けられました。この記事では、認知の後で自分の子ではないと分かった場合に何ができるのか、手続の流れと期限、養育費や戸籍の扱いまでを順に整理します。
認知は「取り消す」ことができない|争う道は「認知の無効」
認知とは、結婚していない男女の間に生まれた子について、父が自分の子であると認めることです。市区町村に認知届を出すことで法律上の父子関係が生じ、戸籍にもその旨が記載されます。
民法785条は、認知をした父または母はその認知を取り消すことができないと定めています。気持ちが変わった、相手と別れた、養育費の負担が重いといった理由で認知を撤回することは認められていません。子の身分が父の意思によって揺れ動くことを防ぐための規定です。
一方で、そもそも血縁上の父子関係がない場合は、認知が事実に反していることになります。この場合は「取消し」ではなく、認知についての反対の事実があるとして、認知の無効を主張する道が用意されています(民法786条)。インターネット上の法律相談でも「認知を取り消したい」という表現がよく見られますが、手続としては「認知無効」の調停・訴えを指していると考えるとよいでしょう。
役所への届出や当事者の合意だけでは元に戻らない
認知届を撤回する届出はありません。相手の女性が「取り消すことに同意している」という場合でも、当事者の合意だけで戸籍の記載を消すことはできず、家庭裁判所で無効が確定した後に、その結果に基づいて戸籍を訂正する流れになります。
結婚中に生まれた子の場合は別の手続になる
婚姻中に生まれた子は、認知ではなく嫡出推定によって父子関係が生じます。この場合に父子関係を争うのは嫡出否認などの手続で、期間も別に定められています。この記事は、結婚していない間に生まれた子を認知したケースを前提にしています。
認知の無効を主張できる人と期限
改正民法では、認知の無効を主張できる人を子、認知をした人、子の母に限り、それぞれ期間を定めました。
| 主張できる人 | 期間の起算点 | 期間 |
|---|---|---|
| 認知をした人(父) | 認知をした時(胎児認知の場合は子の出生の時) | 7年以内 |
| 子またはその法定代理人 | 子または法定代理人が認知を知った時 | 7年以内 |
| 子の母 | 母が認知を知った時 | 7年以内 |
子の母については、無効の主張が子の利益を害することが明らかなときは認められません。また子は、認知した人と認知後に継続して同居した期間が3年を下回るときは、7年を過ぎていても21歳に達するまで無効を主張できるとされています(認知した人による養育の状況に照らして、その人の利益を著しく害するときを除きます)。
認知をした本人は「認知の時から7年」に注意する
認知をした本人にとって重要なのは、期間の起算点が「血縁がないと知った時」ではなく、「認知をした時」だという点です。たとえば認知から8年が経ってから血縁がないと分かった場合、改正後の規定のもとでは、認知をした本人から無効の訴えを起こすことは原則としてできません。疑いを持った段階で、戸籍謄本で認知の日付を確かめておくことが出発点になります。
2024年3月31日以前の認知は改正前の規定による
期間制限を含む改正後の規定は、施行日である2024年4月1日以後にされた認知に適用されます。それより前の認知には改正前の規定が適用され、利害関係人はいつでも無効を主張できるとされていました。最高裁平成26年1月14日判決は、血縁がないことを知りながら認知した本人も、利害関係人として無効を主張できると判断しています。
ただし同判決は、個別の事情によっては、無効の主張が権利の濫用として認められない場合があることにも触れています。認知に至った経緯や、その後どのくらいの期間、親子として過ごしてきたかといった事情が考慮されることになります。
血縁がないと知っていて認知した場合
相手の子ではないと分かったうえで、関係を続けるために認知したというケースもあります。改正後の規定は、知っていたかどうかで訴えを起こせるかどうかを区別していませんが、事案によっては一般的な権利濫用の考え方が問題になる可能性は否定できません。認知の経緯は、早い段階で正確に整理しておくことが大切です。
家庭裁判所での手続の流れ
認知無効は、いきなり訴訟を起こすのではなく、まず家庭裁判所に調停を申し立てるのが原則です(調停前置)。おおまかな流れは次のとおりです。
- 家庭裁判所(原則として相手方の住所地を管轄する裁判所)に、認知無効の調停を申し立てます。
- 調停で、当事者双方が「血縁上の父子関係がなく、認知が無効である」ことに合意します。
- 家庭裁判所が、DNA鑑定の結果などをもとに事実関係を調べます。
- 合意が正当と認められれば「合意に相当する審判」が出され、異議がなければ確定します。
- 確定後1か月以内に、申立人が市区町村へ戸籍訂正の申請をします。
認知をした本人が申し立てる場合、調停の相手方は子です。子が未成年であれば、親権者である母が法定代理人として手続に関わります。認知の有効・無効は当事者の合意だけで決められる事柄ではないため、双方が合意していても、裁判所が事実を調べたうえで判断します。
相手方が調停に出てこない場合や、血縁がないことを争って合意できない場合は、調停は不成立となり、家庭裁判所に認知無効の訴え(人事訴訟)を起こすことになります。訴訟では、DNA鑑定の結果をはじめとする証拠をもとに、血縁上の父子関係の有無が判断されます。
DNA鑑定の扱い
血縁の有無を判断するうえで、DNA鑑定は中心的な資料になります。手続の中で裁判所を通じて鑑定を行うこともあれば、手続の前に民間の機関で鑑定を受けていることもあります。
ただし、子の検体を母や子の了解なく採取して鑑定に出すと、その方法をめぐって新たな対立を生むことがあります。また、検体の採取方法や本人確認がはっきりしない鑑定は、手続の中で十分な資料として扱われないこともあります。鑑定を考えるときは、結果をどの場面で使うのかを見越して方法を選ぶことが大切です。なお、相手方が鑑定に応じない場合でも、そのこと自体がほかの事情とあわせて判断の材料とされることがあります。
戸籍・相続・養育費はどうなるか
認知の無効が確定すると、認知の時にさかのぼって法律上の父子関係がなかったことになります。これに伴い、主に次の点が変わります。
- 戸籍については、確定後の戸籍訂正申請によって認知の記載が訂正されます。
- 相続については、法律上の父子関係がなくなるため、子は相続人ではなくなります。
- これからの養育費については、父子関係を前提とした扶養の義務がなくなります。
- これまでに払った養育費については、子に返還を求めることはできないと定められています。
支払ってきた養育費は取り戻せるか
民法786条4項は、認知が無効とされた場合でも、子は認知をした人が支出した子の監護の費用を償還する義務を負わないと定めています。子の生活のために使われた費用を、後から子に負わせないための規定です。2024年3月31日以前の認知について支払い済みの費用をどう扱うかは、個別の事情を踏まえた検討が必要です。
一方で、母が事実を知りながら「あなたの子だ」と告げて認知させた場合などには、母に対して損害の賠償を求めることが検討される場面もあります。もっとも、母がどこまで事実を知っていたのか、どのようなやり取りがあったのかが問われるため、当時のメッセージや支払いの記録を残しておくことが重要です。
取り決めた養育費の支払いをどう止めるか
公正証書や調停で養育費を取り決めている場合、認知無効の手続を始めただけでは、その取り決めが自動的になくなるわけではありません。疑いを持った時点で一方的に支払いを止めると、強制執行の申立てを受けるおそれもあります。支払いの扱いは、認知無効の手続と並行して、取り決めの形に応じた方法で整理していく必要があります。
「自分の子ではない」と聞かされた段階で気をつけたいこと
相手からの告白や周囲の話で疑いを持った直後は、動揺から急いで行動しがちです。次の点を意識しておくと、後の手続を進めやすくなります。
- 戸籍謄本で認知の日付を確認し、7年の期限との関係を把握すること。
- 「あなたの子ではない」と伝えられたメッセージや会話の記録を保存しておくこと。
- これまでの養育費の支払い記録や、取り決めの書面を手元にそろえておくこと。
- 子本人に対して、父子関係の話を直接持ち出さないこと。
- 養育費の支払いを独断で止める前に、取り決めの形を確認すること。
相手が「あなたの子ではない」と言っても、それが事実とは限りません。関係がこじれる中で出てくる言葉の場合もあれば、こちらが血縁を否定しようとしても相手が強く争う場合もあります。言葉だけで結論を出さず、鑑定と手続を通じて事実を確かめていくことが、子にとっても当事者にとっても負担の少ない進め方になります。
弁護士に相談する意味
認知無効の調停は、ご本人で申し立てることもできます。ただ、認知した時期によって適用される規定が変わること、期間の起算点を誤ると主張の機会を失うおそれがあること、養育費の取り決めや母への請求をどう扱うかといった周辺の問題が重なることから、全体の見通しを立ててから動くほうが安心です。
当事務所では、交際関係の解消に伴う金銭の清算や、妊娠・認知をめぐる相手方とのやり取りについてもご相談をお受けしています。相手方と直接話し合うことが難しい場合には、弁護士が窓口となって連絡を取ることもできます。
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認知の後で血縁がないと分かった場合、法律上は認知を「取り消す」のではなく、家庭裁判所で「無効」を確定させる手続になります。認知をした本人には期限もあるため、まずは認知の日付と手元の記録を確かめ、早めに今後の進め方を検討することをおすすめします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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