【男女トラブル】相手が精神的に不安定|安全に関係を終える手順

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 相手がうつ状態で通院している。気分の波が激しく、泣き崩れたり急に怒り出したりする。以前、自分を傷つけたことがある。こうした相手との関係を終えたいと考えながら、「今伝えたら悪化させてしまうのでは」「具合の悪い人と別れるのは許されないのでは」と迷い、切り出せないまま時間が過ぎているというご相談があります。男女どちらの立場でも起こります。

 この記事で扱うのは、はっきりした脅しはないものの、相手の心の状態が不安定であることが別れを難しくしている場面です。交際相手が法律上どのような立場にあるのかを確認したうえで、伝える前、伝える場面、伝えた後の順に手順を整理します。

この記事の要点
・交際相手には、相手の心身を支え続ける法律上の義務はありません。相手の病気や体調が理由でも、交際を終えること自体が違法になるわけではありません。
・入院などの判断に関わる「家族等」に交際相手は含まれませんが、保健所などに「関係者」として相談することはできます。
・伝える時期は、相手の気分ではなく、支え・安全・お金の三つの条件で考えると先に進みやすくなります。
・伝え方は対面に限られません。方法ごとの向き不向きを知ったうえで選びます。
相手やご自身に危険が差し迫っている場合は、読み進める前に110番または119番へ連絡してください。急を要しない段階での警察への相談は「#9110」で受け付けています。


どの記事から読むか|「不安定さ」と「脅し」を分ける

 同じ「相手が不安定で別れられない」という悩みでも、相手が口にしている言葉によって、最初に考えるべきことが変わります。

相手の状態最初に考えること
気分の落ち込みや感情の波があるが、脅しの言葉はない伝え方と、相手を支援につなぐ手順(この記事)
「別れたら死ぬ」など、自分を傷つけると告げている相手の安全を専門機関や家族に受け渡すこと
「別れたら殺す」など、こちらへの加害を告げているご自身の安全の確保と警察への相談
自分を傷つける行為や暴力がすでに起きている110番・119番


 自傷をほのめかされている場合は「別れたら死ぬ」と言われて別れられない|自傷をほのめかす相手への対応を、こちらへの危害を告げられている場合は【男女トラブル】「別れたら殺す」と言われた|自傷の予告とは別の対応が必要になる理由をご覧ください。以下は、表の1行目にあたる場面を前提に進めます。

交際相手は、相手の心身に責任を負う立場にはない

 別れを切り出せない理由として多いのが、「自分がいなくなったら、この人はどうなるのか」という思いです。まず、法律がこの点をどう定めているかを確認します。なお、相手の病気や体調が理由であっても、交際を終えること自体が違法になるわけではありません。

確認する点夫婦・親族の場合交際相手の場合
生活を支える義務夫婦には同居・協力・扶助の義務(民法752条)、直系血族と兄弟姉妹には扶養の義務(民法877条1項)がある法律上の義務はない
入院などへの同意精神保健福祉法の「家族等」として同意する立場になり得る「家族等」に含まれない
保健所などへの相談相談できる「その他の関係者」として相談できる
関係を終えること離婚の手続が必要になる各自の自由(婚約・内縁は別の検討が要る)


治療の判断は、法律の上でも家族と医療の側に置かれている

 精神保健福祉法は、入院などについて意思を示す立場にある人を「家族等」と定め、配偶者、親権を行う者、扶養義務者、後見人または保佐人を挙げています(5条2項)。本人の同意がなくても行われる医療保護入院も、この「家族等」のいずれかの同意が要件とされています(33条1項)。交際相手は、この範囲に含まれていません。

 つまり、相手の治療をどう進めるかを決める役割は、法律の上でも交際相手ではなく、家族や医療・行政の側に置かれています。交際相手が一人で相手の状態を抱え込むことは、もともと想定されていないということです。

ただし、支援に「つなぐ」ことはできる

 一方で、同じ法律は、保健所などが相談に応じる相手として、本人や家族等に加えて「その他の関係者」を挙げています(47条1項)。交際相手も、相手の状態が心配だという立場から、地域の保健所や精神保健福祉センターに相談することができます。受付の方法は窓口によって異なります。

 責任を負う立場ではないが、支援の入口につなぐことはできる。この区別が、以下の手順の土台になります。

「落ち着くまで待つ」を、条件で置き換える

 「今は具合が悪いから」「もう少し落ち着いてから」と考えているうちに、数か月、数年と過ぎてしまうことがあります。相手の気分の波を基準にすると、伝えてよい時期はなかなか訪れないためです。

 そこで、時期を相手の状態ではなく、こちらで確かめられる条件で考えます。

  • 相手に、自分以外の支え(家族、主治医、支援機関など)がつながっていること。
  • 合鍵、共有アカウント、位置情報の共有など、安全に関わるものを整理できていること。
  • お金や物のやり取りを、別れ話とは切り離して扱う見通しが立っていること。


 欠けている条件があれば、それが次に取り組むことです。時期を探し続けるより、条件を一つずつ満たしていくほうが、現実的に前へ進めます。

伝える前に整えておくこと


相手の支えを増やしておく

 相手の家族と連絡が取れる関係であれば、相手の体調を家族が把握している状態にしておくと、伝えた後の受け皿になります。家族との関係が薄い場合や、誰に頼ればよいか分からない場合は、保健所や精神保健福祉センターに、交際相手の立場から相談してみてください。こうした公的な相談窓口は無料で、秘密も守られます。

 相談先の名称と連絡先は、伝える場面で相手に手渡せるよう控えておきます。全国共通の「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)に電話をかけると、その地域の公的な相談窓口につながります。

お金と物の話は、別れ話と同じ場に載せない

 交際中に立て替えた通院費や生活費、貸したお金、相手の家にある荷物など、清算したいものがあることも多いでしょう。ただ、別れを伝える場で清算の話まで持ち出すと、話し合いが長引き、次に会う理由も生まれます。別れ話とお金の話は、日を分けて扱うほうが、関係を区切りやすくなります。

 また、相手が強く混乱している状態で交わした約束は、後になって効力を争われる余地があります。民法は、意思表示をした時に意思能力を有しなかった当事者の法律行為を無効としています(3条の2)。清算を書面にするのであれば、相手が落ち着いている時期に、必要に応じて第三者を介して行うほうが、後の争いを避けやすくなります。反対に、その場の雰囲気に押されて、支払いや交際の継続を約束する書面に署名することも避けてください。

伝え方を選ぶ|四つの方法の向き不向き

 別れ方の一般的な解説では、対面で誠実に伝えることがすすめられることが多くあります。ただ、相手の感情の波が大きい場合、対面が常に最善とは限りません。誠実さは方法よりも、同じ内容を同じ調子で伝え続けることで示すことができます。

方法向いている場面注意したい点
対面相手の様子を確かめ、その場で相談先を手渡したい場合人目のある場所を選び、終える時刻を先に決めておく
電話・通話顔を合わせる緊張を避けつつ、声で伝えたい場合長時間になりやすいため、区切りを付けて切り上げる
文章(LINE・メールなど)対面では話が進まない場合や、伝えた内容を正確に残したい場合突き放した印象になりやすいため、相談先の案内を添える
家族や代理人を介する本人同士では話が収まらない場合や、金銭など法的な問題を含む場合家族を説得役にしない。弁護士は法的な問題がある場面で窓口になる


文章で伝える場合の組み立て

 文章で伝える場合は、次の順で短くまとめると、読み違いや議論の余地が少なくなります。

  1. 関係を終えるという結論。
  2. 一文にとどめた理由(書く場合)。
  3. 今後の連絡の扱い。
  4. つらいときの相談先。


 たとえば、「これまでありがとう。考えた末に、この関係を終えることにしました。気持ちは変わりません。今後、個人的なやり取りは控えます。つらいときは一人で抱えず、ご家族や相談窓口を頼ってください。」といった形です。長い説明や謝罪を重ねると、まだ話し合いの余地があるように受け取られることがあります。

病状を別れの理由にしない

 理由として相手の病気や体調を挙げると、「治療を続けるから」「良くなるまで待ってほしい」という話に移り、結論が先送りになりがちです。また、相手の病状は、他人に知られたくない情報です。共通の友人などに別れの経緯を説明するときも、相手の病名や通院の事実には触れないでください。必要な範囲を超えて広めると、プライバシー侵害の問題を生じさせ得ます。

伝えた後|心配と連絡を切り離す

 別れを伝えた後、相手の様子が気がかりになるのは自然なことです。ただ、心配から本人に連絡を取り続けると、関係が終わったのかどうかが曖昧になります。心配をどこへ向けるかを、あらかじめ決めておきます。

状況連絡する先
命や身体に危険が迫っているおそれがある110番・119番
差し迫ってはいないが、相手の様子が心配相手の家族、保健所・精神保健福祉センター
相手から連絡が続き、自分では対応しきれない警察相談専用電話「#9110」、弁護士
自分自身が眠れない、気持ちが沈むなど消耗している医療機関、こころの健康相談統一ダイヤル


 相手からの連絡がやまず、復縁の求めや待ち伏せに変わってきた場合は、対応の枠組みが変わります。記録の残し方や連絡の遮断のしかたは、ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方で解説しています。

よくあるご質問


別れた後に相手の病状が悪化したら、責任を問われますか

 交際を終えたこと自体を理由に、法的な責任を問われることは原則として考えにくいといえます。ただし、交際中に暴言や暴力があった場合など、別れ以外の行為が問題にされることはあります。婚約や内縁の関係にあった場合は、解消のしかたが問われることもあります。

相手の家族から「治療費を負担してほしい」と言われました

 交際相手であるという理由だけで、相手の生活や治療を支える法律上の義務が生じるわけではありません。その場で支払いを約束したり、書面に署名したりすると、後から争いにくくなることがあります。求めに応じるかどうかを決める前に、経緯を整理してご相談ください。

同棲していて、相手が一人で生活できるか不安です

 同居を解消する場面では、住まいの名義や荷物の扱いという別の論点も生じます。相手が一人で生活を続けられるか不安がある場合は、出ていく日を決める前に、相手の家族や自治体の福祉の窓口につないでおくと、急に一人になる状況を避けやすくなります。ご自身が避難を必要としている状況であれば、交際相手から避難したい|安全な別居・避難と保護の手続きをご覧ください。

まとめ


  1. 交際相手には、相手の心身を支え続ける法律上の義務はなく、相手の病気が理由でも交際を終えることは違法ではありません。
  2. 入院などに関わる「家族等」に交際相手は含まれませんが、保健所などに相談して相手を支援につなぐことはできます。
  3. 伝える時期は、相手の気分ではなく、支え・安全・お金の三つの条件で考えます。
  4. お金や物の清算は、別れ話と同じ場に載せず、相手が落ち着いた時期に扱います。
  5. 伝え方は対面に限られず、文章や第三者を介する方法も選べます。
  6. 伝えた後の心配は、本人ではなく、家族や専門の窓口に向けます。


 相手の状態を気づかう気持ちと、関係を終えるという判断は、両立させることができます。その途中で金銭の求めや執拗な連絡が加わってきた場合には、法的な対応を検討できる段階に入ります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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