刃物を持ち歩いていただけ|銃刀法と軽犯罪法の使い分け
この記事は2026年9月時点の法令・公表資料に基づいています。脅迫罪・強要罪の法定刑は、2025年6月1日に施行された拘禁刑への一本化を反映しています。結論は個別の事情により異なります。
「やめたいと伝えたら、母の名前と勤務先が書かれたメッセージが送られてきた」「実家の住所と、玄関までの道のりを撮った動画を送ってしまっている」。いわゆる闇バイトや匿名・流動型の犯罪グループをめぐるご相談では、相手が持っている材料が自分の情報にとどまらず、家族の情報にまで及んでいることがあります。
こうした場面では、「一人で抱えずにすぐ相談を」という案内が広く行われています。呼びかけとしては正しいものです。ただ、実際に相談が止まっている方の多くは、相談先が分からないのではありません。相談すること自体が、家族を巻き込む引き金になるのではないかと考えて動けなくなっています。
この記事では、家族の情報を握られている場合に、誰に、何を、どの順序で伝えるかを整理します。脅されている状態から離脱する手順そのものは「家に行く」「学校にバラす」と脅されている|安全に抜けるための手順で、身分証を送った直後の対処は身分証の写真を送ってしまった|個人情報を握られた後の対処で扱っています。
家族の情報が相手の手にあるとき、何が変わるのか
渡っているのは「自分の情報」だけとは限らない
警察庁が非行防止の広報啓発用にまとめた資料には、応募した方が実際に送ってしまった情報の例が挙げられています。
- 身分証と一緒に写した自分の顔写真。
- 家族構成、家族の氏名、家族の勤務先。
- 交際相手の氏名、生年月日、顔写真。
- 自宅マンションの入口から部屋までの道のりを撮影した動画。
- 面接と称して長時間かけて撮影された、電話帳・写真・SNSの履歴を含む端末の中身。
ご本人が「自分の情報を渡した」と認識している場合でも、実際には家族や交際相手の情報まで含まれていることが少なくありません。同じ資料には、断ろうとした方に対して「自宅に押しかける」「母親から狙う」と告げられた例や、実家へ押し掛けられた例も記載されています。
守る対象が二つになると、順序が問題になる
家族の情報が渡っている場合、考えるべきことは二つに分かれます。
| 守る対象 | 中心になる問い | 主に動くことになる相手 |
|---|---|---|
| 自分の刑事責任 | どこまで関与したか、それをどう説明するか | 弁護士・捜査機関 |
| 家族の安全 | どこまで具体的な予告が届いているか、生活の経路が知られているか | 警察 |
この二つは、どちらか一方を選ぶものではありません。ただ、同時に全部を動かそうとすると手が止まります。相談が進まない原因の多くは、相談先が分からないことではなく、順序が決まっていないことにあります。
「家族に危害を加える」という言葉の法的な位置づけ
家族を対象にした告知も、自分への脅迫として扱われる
脅迫罪は、害を加える旨の告知の対象が本人である場合(刑法222条1項)だけでなく、親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対する告知であった場合にも成立します(同条2項)。義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨げたりした場合の強要罪にも、同じ構造の規定が置かれています(同法223条1項・2項)。
矛先を家族に向けた言い方であっても、脅している側の行為が法的に軽くなるわけではありません。ここは、「自分に向けられた脅しではないから警察には扱ってもらえないのではないか」という誤解が生じやすいところです。
条文が指しているのは「親族」であること
一方で、222条2項・223条2項が挙げているのは親族です。交際相手や友人を対象とした告知が、この規定にそのまま当てはまるとは限りません。もっとも、金銭や作業を求める手段として用いられていれば恐喝罪(同法249条)などの問題になり得ますし、対象が誰であれ、予告の内容と具体性は記録しておく意味があります。脅している側の行為の評価そのものは、前掲の記事で整理しています。
相談が止まる三つの理由と、その解き方
ご相談の場で語られるためらいは、おおむね次の三つに整理できます。
| ためらいの中身 | 実際に起きていること | 順序の組み替え方 |
|---|---|---|
| 家族に知られたくない | 家族が何も知らないほど「家族に知らせる」という言葉は働く | 先に自分から伝え、材料としての価値を下げる |
| 相談したら自分が捕まる | 脅されている立場と、関与を問われ得る立場は同時に成り立つ | 両方を扱える相手に、時系列で説明する |
| 相談したら家族が報復される | 警察庁は、保護した後に本人や家族が危害を加えられた事例は把握していないとしている | 保護措置の内容を確認したうえで判断する |
警察庁は2024年10月、応募者やその家族から相談を受けた際に、一時的な避難や周辺のパトロール強化といった保護措置を行うよう各都道府県警察へ通達を出しており、2025年11月末までの実施件数は544件と公表されています。この取り組みの中身は応募しただけで、まだ何もしていない|この段階でできることで詳しく触れています。
安全に相談する順序
家族の情報が渡っている場合の順序は、次のようになります。
- 渡っている情報と、届いている予告を書き出す。
- 家族のうち、誰に何を伝えるかを決める。
- 警察の窓口を選んで相談する。
- 弁護士に、関与の範囲と説明の仕方を整理してもらう。
- 住所・通学先・勤務先といった生活の経路の手当てを検討する。
第一 消す前に、書き出す
やり取りを消したくなる段階ですが、消えるのは自分の側の記録だけで、相手の手元にある画像や情報は残ります。むしろ失われるのは、自分がどこで止まったのかを説明するための材料です。家族のどの情報を、いつ、どの手段で渡したのかを、覚えている範囲で書き出してください。
第二 家族のうち、誰に何を伝えるか
すべてを一度に話さなければならないわけではありません。最初に必要なのは、次の三点です。
- 相手の手元に、家族の誰の、どの情報があるか。
- どのような予告が、いつ届いているか。
- 自分がいまどの段階で止まっているか。
報酬の額ややり取りの細部は、後から順に話せば足ります。伝える相手を選ぶときの基準は、同居しているかどうかよりも、その人の情報が相手に渡っているかどうかです。勤務先を知られている家族が何も知らないままでは、通勤経路や来訪者への対応といった手当てができません。家族や職場に伝わる経路そのものについては、会社・学校に知られるのはどの段階か|通知の仕組みと事実上の経路をあわせてご覧ください。
第三 警察の窓口を選ぶ
差し迫った状況であれば110番、急ぎでない相談であれば警察相談専用電話「#9110」や最寄りの警察署が窓口になります。未成年の方については、各都道府県警察本部の少年相談窓口や少年サポートセンターが設けられています。警察庁の資料には、少年相談窓口に電話をして保護に至った例が紹介されています。
第四 弁護士に整理を頼む
弁護士は、職務上知り得た秘密を保持する義務を負っており(弁護士法23条)、この義務は依頼に至らない相談の段階から及びます。連絡方法について、自宅への郵便を避けたい、日中の電話を避けたいといった希望を伝えることもできます。相談すること自体が秘密を増やす行為に感じられる点については、「バラすぞ」と言われた|秘密を人質に取られたときの考え方で整理しています。
ただし、ご本人が未成年の場合は、保護者に伝えないまま手続を進めることは事実上難しくなります。順序としては、家族への共有を先に置いたほうが動きやすくなります。すでに口座や携帯電話を渡している、受け取りや送金に関わっているという場合は、刑事事件としての見通しを立てる段階に入りますので、受け子をしてしまった|自首・出頭の判断と弁護士同行の意味もご確認ください。
ご家族が先に気づいた場合
本人からではなく、家族が先に気づくこともあります。警察庁の資料には、書き置きを残して所在が分からなくなった息子について母親が警察に相談し、経緯が判明して本人が保護された例が紹介されています。相談は、本人からでなければ受けられないというものではありません。
このとき、強い叱責が先に出ると本人が口を閉ざし、警察や弁護士に伝えるべき情報が失われます。気づいた段階で確認しておきたい点は、【親向け】子どもが闇バイトに関わっているかもしれない|兆候と最初の対応にまとめています。
順序を崩しやすい行動
- やり取りやアカウントを消してから相談する。
- 相手に「家族には全部話した」「警察に行く」と先に伝える。
- 家族の情報を消してもらう条件として、次の指示に応じる。
- 家族に伝えないまま、自分の住所だけを移す。
- 相手の連絡先を家族に渡し、代わりに交渉してもらう。
いずれも、状況を動かしたいという動機から出てくる行動です。ただ、相手に先に通告する対応は、こちらの手当てが整う前に相手を動かすことになりかねません。順番を決めてから動くほうが、結果として早く収まります。
よくあるご質問
相談したことが相手に伝わることはありますか
相談の事実がそのまま相手に通知される仕組みはありません。弁護士には守秘義務があり、警察への相談も、相手に通告してから行われるものではありません。ご心配な点は、相談の冒頭で確認しておくと安心です。
家族に話す前に、相手に「家族に話した」と伝えてもよいですか
順序としては、実際に伝えたうえで言うほうが安全です。伝えていない段階で告げると、相手が家族へ直接接触する動機を与えることがあります。伝える時期と内容は、相談先と決めてから動くことをおすすめします。
家族の情報を取り消してもらうことはできますか
相手の手元にあるデータを取り戻す方法は、現実にはありません。この段階で中心になるのは、情報を回収することではなく、その情報が脅しとして働きにくい状態をつくることです。家族への共有と警察への相談は、いずれもその方向の手当てにあたります。
まとめ
- 家族の情報が渡っている場合、守る対象は「自分の刑事責任」と「家族の安全」の二つに分かれる。
- 家族を対象にした害悪の告知も、自分に対する脅迫罪・強要罪として扱われ得る(刑法222条2項、同法223条2項)。
- ただし条文が挙げているのは親族であり、交際相手や友人については別の構成を検討することになる。
- 順序は、書き出す、家族に伝える、警察の窓口を選ぶ、弁護士に整理を頼む、生活の経路を手当てする、の順になる。
- 家族に伝える際に必要なのは、渡っている情報、届いている予告、いまの段階の三点である。
- 弁護士の守秘義務は相談の段階から及ぶが(弁護士法23条)、未成年の場合は保護者への共有を前提に考える。
- 相談は本人からでなければ受けられないものではなく、家族からの相談も可能である。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、闇バイト・匿名流動型の犯罪グループに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。ご本人からのご相談だけでなく、ご家族からのご相談も承ります。
すでに脅しが届いている場合も、まだ迷っている段階の場合も、経緯を整理したうえで、どの順序で動くのが安全かをお示しします。ご相談は24時間受け付けており、初回のご相談は無料です。出頭や自首への同行も全国で対応しています(移動に要する費用は別途申し受けます)。


