事件が終わったあと|前科がついた場合の就職・住居・海外渡航
他人の家や建物に立ち入ったことで警察の捜査を受けている場合、取調べで繰り返し聞かれるのは「何のためにそこへ入ったのか」という点です。立ち入った事実そのものは防犯カメラなどで既に明らかになっていることが多く、争点が目的の側に移っていくためです。
もっとも、目的というのは本人の頭の中にあるもので、外から直接見えるものではありません。それにもかかわらず、捜査や裁判では盗撮目的だった、窃盗目的だったという形で認定されることがあります。何を手がかりにして、そうした判断がされているのでしょうか。
この記事では、住居侵入・建造物侵入の事件で「目的」がどのような形で問題になり、どのような事情から認定されていくのかを整理します。読み方の方向としては、疑いを避けるための説明の仕方ではなく、捜査機関や裁判所が何を見ているのかを知るためのものとお考えください。
この記事で扱う場面
次のような状況を想定しています。
・他人の住居や敷地に立ち入ったことについて警察から連絡があった
・立ち入った事実は認めているが、目的について説明を求められている
・盗撮目的だったのではないか、窃盗目的だったのではないかと聞かれている
・家族が立ち入りで逮捕され、目的をめぐって捜査が続いている
いずれの場合も、事情によって結論は変わります。ここでは一般的な考え方を説明しますので、具体的な見通しは個別に確認していただく前提でお読みください。
刑法130条の条文に「目的」は書かれていない
住居侵入罪と建造物侵入罪は、刑法130条前段に定められています。
(住居侵入等)
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。
この条文を読むと分かるとおり、条文の中には「盗撮の目的で」「窃盗の目的で」といった文言は置かれていません。目的は、この罪が成立するための独立した要件として書かれているわけではないのです。
なお、法定刑の表記については、2025年6月1日から懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されています。古い解説記事では「三年以下の懲役」と書かれていることがありますが、現在の条文は拘禁刑です。
それでは、条文に書かれていない目的が、なぜ捜査の中心になるのでしょうか。
それでも侵入の目的が問われる三つの理由
目的は、次のような形で事件の見え方を動かします。
| 場面 | 目的が影響する形 |
|---|---|
| 「侵入」に当たるかの判断 | 管理する側が立入りを受け入れていたといえるかを判断するときの、考慮事情の一つになる |
| 問われ得る罪の範囲 | 盗撮目的であれば撮影に関する規定が、窃盗目的であれば窃盗に関する規定が、立入りとは別に問題になる |
| 捜査の進み方 | 目的や動機を解明するために取調べや捜索が続き、身体拘束が長引くことがある |
このうち一つ目は、条文の解釈にかかわる部分です。裁判所は、立ち入りが管理する側の意思に反するものかどうかを判断するにあたって、その場所の性質、使用目的、管理の状況、管理する側の態度、そして立入りの目的などの事情から客観的に判断するという考え方を示しています(最高裁昭和58年4月8日判決)。立入りの目的は、この判断の材料として条文解釈の中に組み込まれています。
二つ目は、罪名の広がりです。立ち入ること自体は一つの行為でも、そこで何をしようとしていたかによって、別の規定が重なってきます。
三つ目は手続の側です。立入りの事実だけであれば早期に処理される事件でも、目的について説明がつかない状態が続くと、その解明のために捜査が続けられることがあります。
外から見て普通の立入りでも、目的によって侵入と評価されることがある
目的が判断を動かす例として、しばしば取り上げられる判断があります。
現金自動預払機の利用客の暗証番号などを盗撮する目的で、営業中の銀行支店の出張所に立ち入ったという事案について、最高裁は、そのような立入りが管理権者である支店長の意思に反することは明らかであるとして、立入りの外観が一般の利用客と特に異ならなくても建造物侵入罪が成立すると判断しました(最高裁平成19年7月2日決定)。
出入りが自由な場所に、他の利用客と同じような様子で入っていく行為であっても、目的によっては侵入と評価され得るということです。
同じ考え方は、住居の側でも問題になります。訪問すること自体は許されていた相手であっても、真意を伝えていれば立ち入りを認めなかったといえる場合には、形式的な承諾があったことが結論を左右しないと整理されることがあります。
目的はどのように認定されるのか
ここからが本題です。目的は本人の内心にあるものですから、これを直接に示す証拠は限られています。
本人の説明が直接の手がかりになりやすい
目的について直接に語る証拠は、多くの場合、本人の供述です。取調べで説明した内容が調書にまとめられ、後の判断の資料になります。
そのため、取調べでは目的や動機について繰り返し質問が重ねられます。同じことを何度も聞かれていると感じる場合、その質問が事件の中心にあるからだと考えられます。
外に残った事実を組み合わせて推認する
一方で、本人が目的を語らない場合や、語った内容がそのままには受け取られない場合もあります。そうしたときには、外に残った事実をいくつも並べて、そこから目的が推し量られていきます。
| 確かめられる事情 | 何を判断するために見られるか |
|---|---|
| 持っていた物や服装 | 説明された目的と持ち物がかみ合っているか |
| 立ち入った時間帯と経路 | 通常の来訪として説明できる態様か |
| 立ち入る前後の行動 | 周囲を歩いていた、待機していたなどの経過があるか |
| 滞在した時間と屋内での動き | どこへ向かい、何をしていたか |
| 端末に残っていた記録 | 撮影や検索、位置に関する記録が説明と整合するか |
| その場所や相手との過去の経緯 | 以前から同じ場所や同じ相手にかかわる経過があるか |
一つ一つは、それだけでは目的を示すものではありません。深夜に人の家の前を歩いていたという事実も、それ単独では何も決めません。ただ、これらが一定の方向にそろっているとき、目的が推認される材料として扱われます。
説明と客観的な事実がかみ合うかが見られている
捜査機関が確かめようとしているのは、供述の内容そのものよりも、供述と外形的な事実との整合です。説明された目的を前提にしたとき、その持ち物や行動が自然に理解できるかどうかという見方をします。
この見方は、目的の認定に限らず、正当な理由の有無が問題になる場面でも用いられています。侵入用の器具の携帯について定めた警察の運用指針では、本人から動機や目的の説明を求めたうえで、次のような点を総合して判断するものとされています。
・その説明に照らして不自然な物を一緒に持っていないか、逆に通常あるはずの物を持っているか
・説明された目的に合う職業に就いているか
・その時刻、その場所でそれを持っていることに合理性があるか
・その他、言動や周囲の状況に不自然な点がないか
考え方の骨格は、侵入の目的が争われる場面でも共通しています。説明が信用されるかどうかは、説明の熱心さではなく、説明と残された事実とがどれだけかみ合うかによって判断されていきます。
盗撮目的が疑われやすい場面
盗撮目的が問題になるのは、撮影機器の存在が立入りと結びつく場面です。小型の撮影機器を持っていた、撮影用の機材が自宅から見つかった、端末に撮影に関する記録が残っていたといった事情が、立入りの目的と結びつけて検討されます。
撮影に至っていない段階でも、機器の設置や向ける行為に関する規定が別に置かれているため、撮影されたものが残っていないことが結論をそのまま決めるわけではありません。この点は、撮影に関する規定の未遂や設置の扱いを扱った記事で別に整理しています。
また、盗撮目的が疑われる事件では、他にも同種の行為がなかったかという方向に捜査が広がることがあります。端末の解析から捜査が広がる過程については、別の記事で扱っています。
窃盗目的が疑われやすい場面
窃盗目的が問題になるのは、施錠の状況や立ち入った経路、そして持ち物が手がかりになる場面です。工具類を持っていた、手袋をしていた、通常の出入口ではない場所から入ったといった事情が検討されます。
なお、実際に物を持ち出していない場合に、窃盗の未遂が成立するかどうかは、これとは別の枠組みで判断されます。屋内でどこまでの行為に及んだかという、窃盗の実行の着手の問題です。この点については、何も持ち出していない場合の扱いを扱った記事で整理しています。
実務では、住居侵入の犯罪事実を記載するときに「金品窃取の目的で」といった形で目的が書き込まれることがあります。目的は、記載された事実の一部として認定の対象になります。
目的が立証されなくても問題になる規定
見落とされやすいのが、侵入の目的が示されなくても別に問題になり得る規定があるという点です。
| 規定 | 問題になる行為 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 軽犯罪法1条3号 | 正当な理由がなく、合かぎ・のみ・ガラス切りなど、他人の邸宅や建物に侵入するのに使われるような器具を隠して携帯する | 拘留又は科料 |
| 特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律3条 | 業務その他正当な理由がなく、ピッキング用具などの特殊開錠用具を所持する | 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 同法4条 | 業務その他正当な理由がなく、ドライバーやバールなど政令で定める指定侵入工具を隠して携帯する | 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
これらは、侵入の目的があったことを示さなくても、器具を隠して持っていたこと自体を捉える規定です。軽犯罪法の規定は、住居侵入の前段階にあたる行為を対象とするものと説明されてきました。
つまり、目的が明らかにならなかったからといって、それだけで話が終わるとは限りません。逆に言えば、目的の立証が難しい事件について、こうした規定の側で処理が検討されることもあります。
条文に「目的」が書かれている罪との違い
刑法の中には、目的が明文の要件になっている罪もあります。強盗の罪を犯す目的で予備をした者を処罰する規定(刑法237条)がその例です。この場合、目的が示されなければ罪は成立しません。
ストーカー行為等の規制等に関する法律も、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的があることを、条文上の要件としています。
これに対して住居侵入罪は、目的を要件として書いていません。目的が示されなくても罪自体は成立し得る一方で、目的の内容が「侵入」該当性の判断や、加わる罪の範囲、手続の進み方を動かしていくという構造になっています。ここが分かりにくさの原因です。
なお、窃盗については予備を処罰する規定が置かれていません。窃盗目的で器具を持って歩いていたという段階を捉える規定として、先に挙げた軽犯罪法や特殊開錠用具法が働くという関係にあります。
「そのような目的ではなかった」と説明する場合
盗撮や窃盗の目的を否定する説明としては、部屋を間違えた、酒に酔って経路を誤った、以前住んでいた場所だった、忘れ物を取りに行った、相手に会って話をするつもりだったといったものが挙がります。
こうした説明が受け入れられるかどうかは、内容の筋の通り方だけでは決まりません。前に述べたとおり、その説明を前提にしたときに、持ち物や時間帯、その後の行動が自然に理解できるかが見られます。
説明のうち、記憶がはっきりしない部分を推測で埋めてしまうと、後から客観的な資料と食い違ったときに、説明全体の受け取られ方に影響することがあります。覚えていない部分は覚えていないままに伝えるほうが、結果として整理しやすい場面が多いといえます。
説明が途中で変わったときに起きること
取調べの中で説明が変わること自体は、記憶の整理が進めば起こり得ることです。ただし、変わった経緯は記録に残るため、なぜ変わったのかが改めて確認されます。問題になるのは、変わった後の説明が正しいかどうかというよりも、変化の理由を説明できるかどうかです。
なお、取調べで作成される書面には、供述調書のほかにもいくつかの種類があります。どの書面に何が残るかについては、別の記事で扱っています。
目的を説明しないという選択について
供述しないという対応も、法律上認められた選択です。他方で、立ち入った事実が防犯カメラなどで既に明らかになっている場合、目的について何も語られない状態が続けば、その解明のために捜査が続くという面もあります。
どちらが適しているかは、証拠の状況、事案の内容、本人の記憶の確かさによって変わります。一般論として一方に決められる問題ではないため、資料を見たうえで判断していくことになります。
身体拘束の長さに影響しやすい理由
立入りそのものの法定刑は、他の犯罪と比べて重いものではありません。それでも身体拘束が続くことがあるのは、目的や動機の解明が捜査の中心にあるためだと説明されています。
目的について一定の見方が固まると、そこから別の罪の捜査が始まり、手続がさらに続くこともあります。立入りだけの事件として見ていると、なぜ長くかかっているのかが分かりにくくなりますが、捜査の関心が目的の側にあると考えると、進み方の理由が理解しやすくなります。
相談前に整理しておきたいこと
弁護士に相談する際は、次の点を思い出せる範囲で整理しておくと話が進みやすくなります。
1.いつ、どこに、どのような経路で立ち入ったか
2.そのとき何を持っていたか、どのような服装だったか
3.その場所や相手と、これまでにどのようなかかわりがあったか
4.警察でどのような質問を受け、どのように答えたか
5.署名した書面があるか、その内容を覚えているか
6.押収された物や、提出した物があるか
覚えていない部分は、無理に埋めずにそのまま伝えていただいて差し支えありません。あいまいなまま整理したほうが、後の見通しを立てやすい場面もあります。
まとめ
・刑法130条の条文に、盗撮目的や窃盗目的といった文言は書かれていない
・それでも目的が問われるのは、「侵入」に当たるかの判断材料になり、加わる罪の範囲と手続の進み方を動かすため
・立入りの外観が一般の来訪と変わらなくても、目的によって侵入と評価された判断がある
・目的を直接示す証拠は供述に偏るため、持ち物・時間帯・経路・その後の行動・端末の記録などから推認される
・見られているのは説明の内容そのものよりも、説明と外形的な事実がかみ合っているか
・目的が示されなくても、侵入用の器具の携帯や所持を捉える規定が別に置かれている
・記憶があいまいな部分を推測で埋めると、後の食い違いにつながることがある
・供述しないという選択もあるが、事案と証拠の状況によって適否が変わる
立入りの事実を認めていても、目的の受け取られ方によって、その後の手続の進み方は変わってきます。どの資料が残っているのか、どの説明が客観的な事実とかみ合っているのかを一つずつ確かめていく作業が、見通しを立てるための出発点になります。判断に迷う段階であっても、早い時期に資料を整理しておくことで、選べる対応の幅を保ちやすくなります。


