風俗のプレイ・器具で相手にケガをさせてしまったら|客側が負う責任と初動対応
「不起訴なら、なかったことになる」とは限らない
メンズエステや風俗店でのトラブルで警察の捜査を受けた方から、「不起訴になれば全部なかったことになるのか」というご質問をよくいただきます。
結論から言えば、不起訴処分になれば前科はつきません。ただし、それは「記録が一切残らない」ということとは別の話です。捜査を受けたという事実自体は、処分の内容にかかわらず捜査機関の記録に残ります。これが「前歴」です。
「前科」と「前歴」は日常会話ではほとんど区別されずに使われますが、意味も、記録が置かれる場所も、消え方も違います。ここを混同したまま不安だけを抱えていると、必要のない場面で怯えたり、逆に本当に気をつけるべき局面を見落としたりしかねません。
本コラムでは、前科と前歴の違いを整理したうえで、性風俗をめぐる刑事トラブルで不起訴になっても残るものを具体的に見ていきます。
前科と前歴はどこが違うのか
定義の違い
いずれも法令上の用語ではなく、実務上の呼び方です。一般的には次のように整理されています。
- 前科……刑事裁判で有罪判決を受け、それが確定した経歴。拘禁刑(2025年6月1日に懲役・禁錮が一本化されたもの)だけでなく、罰金刑や科料でも前科です。執行猶予がついた場合も、有罪判決である以上は前科にあたります。
- 前歴……犯罪の嫌疑をかけられ、被疑者として捜査の対象になった経歴。不起訴処分で終わった場合でも前歴は残ります。警察限りで事件を終える微罪処分の場合も同様です。
つまり、両者を分けるのは「起訴されて有罪判決が確定したかどうか」の一点です。示談が成立して不起訴になった事案は、前歴にとどまり前科にはならない、という関係になります。
記録が置かれる場所の違い
| 前科 | 前歴 | |
|---|---|---|
| 発生する場面 | 有罪判決の確定(罰金・略式命令・執行猶予を含む) | 被疑者として捜査の対象になった時点 |
| 記録の所在 | 警察・検察の犯歴記録+本籍地の市区町村が管理する「犯罪人名簿」 | 警察・検察の内部記録 |
| 参照される場面 | 資格の欠格事由や選挙権の確認、その後の刑事処分の判断など | その後の刑事処分の判断など |
| 一般の人が見られるか | 見られない | 見られない |
犯罪人名簿は、法務省訓令である犯歴事務規程に基づき、罰金以上の刑(道路交通法関係の罰金は除かれます)について本籍地の市区町村に記載されるものです。一般に公開される性質のものではなく、就職活動の際に応募先企業が照会して調べられるようなものでもありません。
「消え方」の違い
前科については、刑法34条の2に「刑の消滅」という規定があります。拘禁刑の執行を終えるなどした後、罰金以上の刑に処せられずに10年が経過したとき、罰金以下の刑であれば5年が経過したときに、刑の言渡しは効力を失います。執行猶予の場合は、猶予期間を無事に経過すれば刑の言渡しの効力が失われます(刑法27条)。この段階で犯罪人名簿からは抹消され、資格の欠格事由なども問題にならなくなります。
もっとも、刑の言渡しの効力が失われても、警察・検察が保有する犯歴の記録がなくなるわけではありません。仮に再び事件を起こした場合、処分を検討する際の事情として参照されうる点は変わりません。
一方、前歴については、こうした期間経過による抹消の規定が置かれていません。前歴それ自体は資格制限などの法律上の効果を生むものではありませんが、記録としては長く残るものとお考えいただくのが実際に近いところです。
風俗トラブルで前科がつく・つかないの分かれ目
性風俗をめぐるトラブルで問題になりやすい罪と、前科との関係を整理します。
**罰金刑で終わっても前科はつきます。**ここは誤解の多いところです。
- 不同意わいせつ罪(刑法176条)……6月以上10年以下の拘禁刑で、罰金刑がありません。起訴されれば正式な裁判となり、有罪であれば執行猶予がついても前科になります。
- 不同意性交等罪(刑法177条)……5年以上の有期拘禁刑。こちらも罰金刑はありません。
- 性的姿態等撮影罪(いわゆる撮影罪)……3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金。略式手続で罰金を納めた場合も前科です。
- 東京都迷惑防止条例違反……1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。同じく罰金で終わっても前科になります。
- 児童買春……相手が18歳未満だった場合の別レイヤーの問題で、5年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が定められています。
なお、成人同士の合意による本番行為そのものについては、売春防止法に客を処罰する規定が置かれていません。つまり「本番があった」という事実だけで前科がつくわけではありません。分かれ目になるのは相手の年齢と同意の有無です(詳しくは「本番があった場合、処罰されるのは誰か」のコラムをご覧ください)。
略式手続については、もう一点補足します。略式命令の告知を受けてから14日以内であれば、正式裁判を請求することができます(刑事訴訟法465条1項)。「その場で書類にサインすれば早く終わる」と説明され、内容をよく確認しないまま同意してしまうケースがありますので、内容に納得できない点があるときは、その段階で弁護士にご相談ください。
不起訴でも残るもの
ここからが本題です。不起訴で前科がつかなかったとしても、次のものは残ります。
1. 前歴(捜査機関の記録)
前述のとおりです。不起訴の理由が嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予のいずれであっても、捜査の対象になった事実は記録に残ります。この記録が一般に開示されることはありませんが、将来別の件で捜査を受けた場合に、処分を検討する際の事情のひとつとして参照されることがあります。
2. 指紋・DNA型・顔写真のデータ
逮捕された場合、指紋やDNA型、顔写真が採取され、警察のデータベースに登録されます。これらの取扱いを定めた国家公安委員会規則には保存期間の定めがなく、「保管する必要がなくなったとき」に抹消するとされているにとどまります。
この点については、無罪判決が確定した方が抹消を求めた訴訟で、名古屋地裁が令和4年1月18日にデータの抹消を命じ、控訴審の名古屋高裁も令和6年8月に同様の判断を示して確定した事例があります。もっとも、これは無罪確定という事案についての判断です。不起訴処分になった場合に自動的に抹消される運用が確立しているとまではいえず、日本弁護士連合会も2023年にこの点についての勧告を出しています。
3. 報道やインターネット上の記事
実名報道は逮捕の段階でなされることが中心で、その後に不起訴になったとしても、記事が自動的に取り下げられるわけではありません。検索結果や投稿の削除を求める道はありますが、最高裁は平成29年1月31日の決定で、削除が認められるのは公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるという枠組みを示しており、実際に認められる例は多くありません。他方、令和4年6月24日の最高裁判決は、逮捕から相当の期間が経過した事案でSNS投稿の削除を認めており、時間の経過が考慮される余地もあります(「風俗トラブルで実名報道はされる?」のコラムで詳しく扱っています)。
4. 店や相手方が持っている情報
刑事処分とは別に、店側やキャストの側があなたの氏名・電話番号・身分証のコピー・勤務先の情報を把握していることがあります。不起訴になった後に、店から「示談金がまだだ」といった金銭の請求が続くケースは珍しくありません。刑事事件が終わったことと、民事の請求が終わることは別問題です。請求書に書かれた金額がそのまま支払義務の額になるわけでもありません。
5. 身柄拘束による事実上の影響
逮捕後72時間、勾留は原則10日、延長を含めて最長で23日間の身体拘束がありえます。不起訴で釈放されても、その間の欠勤について勤務先に説明が必要になることは残ります。私生活上の行為を理由とする懲戒処分は労働契約法15条の枠組みで判断され、当然に有効になるわけではありませんが、事実上の負担が生じることは避けられません。
告知や公表をほのめかして金銭を求める言動が伴う場合には、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(同249条)の問題になりうる領域です。
「前科がない=何も聞かれない」ではない場面
履歴書と面接
履歴書に前歴を書く必要はありません。前科についても記載義務が一律にあるわけではありませんが、賞罰欄が設けられていたり面接で直接尋ねられたりした場合に、事実と異なる回答をすれば、後に経歴詐称と評価されるおそれがあります。刑の消滅後であれば、賞罰欄に「なし」と記載して差し支えないと解されています。
資格や公務員の身分
資格の欠格事由は「拘禁刑以上の刑に処せられた者」「罰金以上の刑に処せられた者」といった形で定められているものが多く、罰金の前科でも影響する制度があります。公務員は拘禁刑以上の刑を受けると法律上当然に失職します。いずれも前歴では生じない効果です。
不起訴で終わったときにしておくとよいこと
不起訴処分告知書を取得しておくことをおすすめします。検察官は、不起訴処分をした事件について被疑者から請求があったときは速やかにその旨を告げなければならないとされており(刑事訴訟法259条)、これに基づいて交付される書面です。氏名・罪名・不起訴処分とした旨・処分年月日などが記載されます。不起訴の理由までは記載されないのが通常です。
自動的に送られてくるものではなく、担当した検察庁に請求する必要があります。弁護人が代理で請求することもできます。職場への復職の説明や海外渡航の手続など、後になって「事件が不起訴で終わったこと」を書面で示す必要が生じる場面がありますので、必要になってから慌てるより、処分が出た時点で取得しておくほうが確実です。
あわせて、やり取りの記録を自分で消さないこと、相手方や店に直接連絡しないこともお伝えしておきます。刑事処分が終わっても民事の請求が残っている段階では、記録が自分を守る材料になります。
前歴にとどめるために動ける時期は限られている
前科を回避する現実的な方法は、起訴されない結果を目指すことです。そのために意味を持つのが被害者の方との示談ですが、性犯罪は2017年の法改正で非親告罪となっており、告訴の取下げや示談の成立が自動的に不起訴に結びつくわけではありません。宥恕(許すという意思)の条項が入っているかどうかなど、内容が問われます。
また、示談が処分の判断に反映されるためには、検察官が処分を決める前に成立している必要があります。ご本人が被害者の方に直接連絡を取ることは避け、捜査機関を通じた取次ぎや代理人を介した交渉によることになります。
「まだ何も起きていない」「警察から連絡があっただけ」という段階でのご相談も歓迎します。弁護士には弁護士法23条に基づく守秘義務があり、これは相談の段階から及びます。相談したこと自体が不利に働く仕組みはありません。


