店の担当者が弁護士でない場合|非弁の疑いがある交渉への対応
「『リラクゼーション』と書いてあるお店だったので、性的なサービスのある場所だとは考えていませんでした」。「『回春』という名前が付いていたので、当然そういう内容だと思って申し込みました」。お店とのトラブルのご相談では、店名やコース名をめぐるこうした行き違いが、入り口でよく語られます。
インターネット上の説明では、「名称ではなく実態で判断される」と書かれていることが多く、この説明自体は誤りではありません。ただ、そこで話が終わってしまうと、それでは名称は何のために付いているのか、名称の違いにはまったく意味がないのか、という疑問は残ったままになります。
この記事では、「回春」「リンパ」「メンズエステ」「リラクゼーション」といった呼び名が、法律の中でどう扱われているのかを、利用する側の視点から整理します。届出のある営業とない営業で立場がどう変わるかは別のコラムで扱っているため、ここでは名称という一点に絞って説明します。
この記事で扱う範囲
この記事で扱うのは、次の四つです。
- お店やコースの名称が、法律上どのように扱われているか。
- 名称が判断に影響する場面と、影響しない場面の切り分け。
- 名称を手がかりにできること、できないこと。
- 名称をめぐって行き違いが起きたときに、実際に効いてくるもの。
処分の見通しや示談の進め方、届出の有無による違いそのものは、それぞれ別のコラムで扱っています。
「回春」「リンパ」は法律の中に出てこない言葉
まず出発点として、これらの言葉は法律用語ではありません。業界の中で使われてきた呼び名であり、条文にも、行政の様式にも、定義は置かれていません。
法律が使うのは、行われている内容を表す言葉
風営法は、個室を設け、その個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業を、店舗型の性風俗関連特殊営業として定めています(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条6項2号)。人の住居や宿泊施設で同じ役務を提供し、そこへ人を派遣する形の営業は、無店舗型として定められています(同法2条7項1号)。
どちらの条文にも、店の呼び名やコース名は出てきません。書かれているのは、どこで、誰に対して、どのような内容の役務が提供されているか、という三点だけです。名称は、この判断の材料の一つにはなっても、判断そのものを決める要素ではありません。
統計上の分類はあっても、資格や許可を意味しない
総務省の日本標準産業分類には「リラクゼーション業(手技を用いるもの)」という細分類が置かれ、手技を用いて心身の緊張を弛緩させるための施術を行う事業所と説明されています。名前が国の告示に載っていると聞くと、公的なお墨付きがあるように感じられるかもしれません。
しかしこれは統計をとるための区分であって、この名称を掲げるために免許や許可が要るという意味ではありません。同じ分類の説明の中では、医業類似行為を業とする事業所は別の分類に振り分けられるとされており、分類上の名前と、資格の有無や届出の有無は、別々の話として整理されています。
見られているのは、どこで、誰に、何をしたか
実際の場面で法律が見ているものを、呼び名の例と並べて整理すると、次のようになります。
| お店やコースの呼び名の例 | その言葉が伝えていること | 法律が見るところ |
|---|---|---|
| 回春、性感 | 一定の内容を期待させる言葉 | 個室や派遣先で、性的な内容の役務が提供されているかどうか |
| リンパ、アロマ、もみほぐし | 施術の手法や雰囲気 | 実際に行われている行為の中身と、資格が要る行為に当たるかどうか |
| リラクゼーション、エステ | 業種としてのイメージ | 名称ではなく、提供されている役務の実態 |
同じ名前でも扱いが分かれることがある
「メンズエステ」と名乗るお店の中には、性的な内容を含まない一般の施術業もあれば、届出をして派遣型の営業をしているお店もあり、届出のないまま個室で性的な内容の役務を提供しているお店もあります。名前は同じでも、法律上の位置づけは三つに分かれます。
呼び名を変えても評価は変わらない
逆に、コース名を穏やかな言葉に置き換えたり、「自由恋愛の範囲」といった説明を添えたりしても、実際に行われている内容が変わらなければ、法律上の評価は変わりません。名称の付け替えは、行われていることの中身までは動かしません。
それでも名称が意味を持つ場面はある
名称に意味がないという説明も、それはそれで言い過ぎです。制度が名称を正面から扱っている場面が、少ないながら存在します。
届出書には「呼称」を書く欄がある
無店舗型の性風俗関連特殊営業を営もうとする者は、公安委員会に届出書を出すこととされており、その記載事項には、営業所の名称にあたる呼称が含まれています(同法31条の2第1項)。つまり、届け出た内容の中に、その営業がどのような名前で客に示されているかが記録されています。
ここから分かるのは、名称は営業の種類を決める要素ではなく、どの営業がどの名前で行われているかを結び付けるための情報だということです。名称が先にあって扱いが決まるのではなく、扱いが決まっている営業に名前が付いている、という順序になります。
資格の側から見ると、名称は規制の対象になっている
もう一つは、施術の資格に関する法律です。あん摩、マッサージ、指圧を業として行うには免許が要るとされており(あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律1条)、施術所の広告についても、広告できる事項が限られています(同法7条1項)。
厚生労働省が令和7年2月に示した広告の指針では、施術所の名称として、カイロプラクティック、整体、リラクゼーション、リフレクソロジーといった言葉は、資格に基づく業態と紛らわしい名称にあたるとして、広告できない例に挙げられています。病院や診療所と紛らわしい名称を付けることも禁じられています(医療法3条1項)。同じ指針は、資格を持たない事業者の広告についても、国家資格が必要な業務を行っていると誤認させる表示は適切でないとしています。
利用する側から見ると、この規制は一つの手がかりになります。「リラクゼーション」という言葉は、資格を持つ施術所が名乗ることを想定されていない呼び方です。この言葉が掲げられているお店は、国家資格に基づく施術を行う場所ではない可能性が高い、という読み方はできます。もっとも、それは資格の有無についての手がかりにとどまり、届出の有無や、そこで何が行われているかまでを示すものではありません。
名称から「安全かどうか」は読み取れない
ご相談でよく聞かれるのが、「名前が普通のマッサージ店だったので、まさか摘発されるような店だとは思わなかった」という説明です。しかし、名称は届出の有無と連動していません。
穏やかな名前でも、届出のない営業のことがある
店内で性的な内容の役務を提供する形態は、地域の規制との関係で新たに届出をすることが難しく、届出のないまま営まれている例が少なくありません。その場合、看板やサイトに掲げられる名前は、むしろ穏やかな言葉が選ばれる傾向があります。
直接的な名前でも、届出をしている営業のことがある
反対に、内容を思わせる名前を掲げていても、派遣型として届出をしている営業もあります。名前の露骨さと、手続の有無は、別の軸の話です。名称の印象だけで、そのお店の法律上の位置づけを推し量ることはできません。
行き違いが起きたとき、名称は何に効くのか
名称が問題になるのは、たいてい何かが起きた後です。場面ごとに、名称がどこまで効くのかを整理すると、次のようになります。
| 場面 | 名称が持つ意味 | 実際に効いてくるもの |
|---|---|---|
| お店に捜査が入ったとき | ほとんど働かない | そのお店が手続をしていたか、自分の行為に別の問題がなかったか |
| 料金や追加請求でもめたとき | 申込みのときに何を前提としたかを示す事情の一つ | 料金とオプションについて、どこまで説明があり、何に同意したか |
| 施術で体調を崩したとき | ほとんど働かない | どのような行為を受け、どのような結果が生じたか |
料金の話では、名称より説明の中身
追加料金や違約金を求められた場面で、「そういう名前の店だと思っていた」という説明だけでは、話は進みません。相手方との間で問題になるのは、申込みの時点でどの範囲の内容にいくらと説明され、自分がどこまで了解したのか、という点です。名称は、その了解の中身を推し量る材料の一つにすぎません。
名称が期待と食い違っていたことを主張するのであれば、予約の画面、料金表、当日のやり取りといった、説明の中身が残っているものを手元に置いておくほうが役に立ちます。
捜査の場面では、名称は理由にならない
お店に捜査が入り、利用者として話を聞かれる立場になった場合、「名前が普通のお店だった」という説明は、自分の立場を左右する材料にはなりにくいところです。問われるのは、いつ、どのお店を利用し、何が行われたかという事実です。手続をしていない営業であったこと自体は、利用した側の責任を問うものではありませんが、名称を理由に説明が変わるわけでもありません。
名称の代わりに確かめられること
名前から読み取れることには限りがあります。それでも、後から振り返れる材料はいくつかあります。
- 料金体系とオプションが、申込みの前に文字で示されていたか。
- 説明を受けた内容と、当日案内された内容にずれがなかったか。
- やり取りの記録が、予約サイトやメッセージに残っているか。
- 支払いの方法と、領収の記録が残っているか。
- 連絡先として示されているのが、個人の番号だけになっていないか。
- 何かを書面に署名して渡していないか。
こうした記録は、行き違いが起きたときに、名称よりもはるかに大きな意味を持ちます。
よくあるご質問
「リラクゼーション」と書かれた店を利用しただけで、客が処罰されることはありますか。
風営法の手続に関する規定は、営業する側に向けられたもので、利用しただけの客を処罰する仕組みにはなっていません。名称がどうであったかも、この結論を左右しません。ただし、相手が18歳未満であった場合や、自分自身の行為に別の問題がある場合は、これとは別の話になります。
「回春」と名前が付いていれば、それだけで違法な店ということですか。
名称だけでそう決まるものではありません。行われている内容が性風俗関連特殊営業にあたるかどうか、その営業について届出がされているかどうかで扱いが分かれます。名前は、その判断を示す表示ではありません。
「リンパ」「マッサージ」と書かれていれば、資格を持った方が施術しているのですか。
そうとは限りません。あん摩やマッサージを業として行うには免許が要るとされていますが、実際には、これらの言葉が資格と関係なく用いられている例もあります。表示だけで資格の有無を確かめることは難しく、この点は行政の指針でも課題として取り上げられています。
まとめ
- 「回春」「リンパ」といった呼び名は法律用語ではなく、条文にも定義は置かれていません。
- 風営法が見ているのは、どこで、誰に、どのような内容の役務が提供されたかであり、名称ではありません(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条6項2号、2条7項1号)。
- 無店舗型の届出書には呼称の記載欄がありますが、これは名称が扱いを決めるという意味ではありません(同法31条の2第1項)。
- 施術の資格に関する法律では、名称や広告の表示自体が規制の対象とされています(あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律1条、7条1項、医療法3条1項)。
- 名称と、届出の有無や安全性は連動していません。穏やかな名前でも手続のない営業があり、その逆もあります。
- 料金でもめた場面で効いてくるのは、名称ではなく、どこまで説明を受けて何に同意したかという記録です。
- 捜査の場面でも、名称は説明の材料になりにくく、問われるのは実際に何が行われたかです。
風俗店とのトラブルでお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店とのトラブルに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。お店から金銭を求められている方、支払った金額の返還を検討されている方、警察から連絡を受けて対応に迷われている方のいずれについても、事実関係を整理したうえで、取り得る対応をご説明します。
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