不同意性交等罪とは?風俗の本番トラブルで問題になる点を弁護士が解説
「名前がニュースに出るのではないか」という不安
風俗店やメンズエステでトラブルになり、警察から連絡が来た、あるいは被害届を出されそうだという状況に置かれたとき、多くの方がまず心配されるのが「名前が報道されるのではないか」「会社を辞めることになるのではないか」という点です。
刑事責任そのものよりも、報道と失職のほうが怖い、という感覚は決して珍しいものではありません。
もっとも、この二つは実際には別々の問題であり、それぞれ下げられるリスクの下げ方が異なります。報道されなくても職を失うことはありますし、報道されたからといって直ちに解雇が有効になるわけでもありません。
ここでは、風俗トラブルを客側の立場から扱う弁護士の視点で、実名報道がどのように決まるのか、報道と失職のリスクを下げるために何ができるのか、そして何ができないのかを整理します。
なお、被害を訴えている相手が実際にいる事案では、報道や失職を避けること自体が目的化すると、かえって不利な結果を招きます。逃げ隠れではなく、被害への向き合い方を含めた早い段階の対応が、結果的にリスクを小さくするという前提でお読みください。
実名報道に法律上の基準はない
まず押さえておきたいのは、「どの事件を実名で報道するか」を定めた法律は存在しないということです(少年事件に関する少年法61条・68条の規定を除きます)。
実名報道は、おおむね次の二段階の判断を経て行われます。
- 警察の発表
- 警察が、記者クラブ向けの発表でどの事件をどこまで公表するかを判断します。
- 報道機関の判断
- 発表を受けた新聞社・テレビ局・ネットメディアが、報じる価値があるか、実名で報じるかを各社の基準で独自に判断します。
したがって、警察が実名で発表しても各社が報じないことも、逆に警察発表が匿名でも取材によって報じられることもあります。どちらも裁量に委ねられている以上、「この事件なら報道されない」と事前に言い切れる人はいません。
報道の起点になりやすいのは「逮捕」
報道されるタイミングも法律で決まってはいませんが、実務上、逮捕の直後が最も多いとされています。逮捕は捜査上の明確な区切りであり、「誰がどのような容疑で身柄を拘束されたか」という情報が、報道機関にとって扱いやすいためです。
裏を返せば、逮捕されずに在宅で捜査が進む事件は、報道に至りにくい傾向があるといえます。著名人でない一般の方の場合、この差は小さくありません。送致時、起訴時、判決時に初めて報じられることもありますが、まずは逮捕の局面が分かれ目になります。
風俗トラブルで報道されやすいケース・されにくいケース
風俗の利用そのものは、成人同士であれば原則として客が処罰される行為ではありません。報道の引き金になるのは、あくまで利用の過程で生じた犯罪の嫌疑です。
報道価値が高いと判断されやすいのは、一般に次のような事情がある場合です。
- 被害が重大な事案(不同意性交等罪に問われるようなケースなど)
- 相手が18歳未満だった事案
- 余罪が多数ある、態様が計画的であるなど悪質性が高いとみられる事案
- 被疑者が公務員・教員・医療従事者など、社会的な信頼が特に問われる立場にある場合
- 店舗の一斉摘発など、それ自体が社会的関心を集めている事件の一部として扱われる場合
一方で、次のような場合には実名が報じられにくい傾向があるとされます。
- 逮捕されず在宅で捜査が進んでいる場合
- 比較的軽微とみられる事案で、示談が成立しているなど解決に向かっている場合
- 性犯罪の事案で、被疑者を実名にすると被害者が特定されるおそれがある場合(このような理由で被疑者を匿名にする例もあります)
ただし、地方紙やネットメディアでは、軽微とみられる事件でも報じられることがあります。傾向はあっても保証はない、という理解が実態に近いといえます。
報道のリスクを下げるためにできること
「報道されないようにしてほしい」と本人やご家族が警察に頼んでも、個人的な事情として受け止められるにとどまるのが通常です。現実的に取り得る手段は、次のようなものになります。
1. 事件化そのものを避ける段階の対応
被害届が提出される前であれば、当事者間で解決が図られ、刑事事件として立件されずに終わる可能性が残されています。この段階での対応が、結果的に報道リスクを最も大きく下げ得る局面です。
もっとも、店を通じてその場で高額な金銭を支払う、内容を確認しないまま書面に署名するといった対応は、後になって被害者本人との関係では解決になっていなかったと判明することが少なくありません。詳しくは、示談で刑事事件化を防ぐ方法を扱った記事をご覧ください。
2. 逮捕を避け、在宅事件として進めてもらうこと
逮捕は、逃亡のおそれ・証拠隠滅のおそれがあると判断されたときに行われる手続きです。したがって、住居が定まっていること、出頭要請に応じる意思があること、関係者に働きかけていないことなどを具体的に示すことで、身柄を拘束せずに捜査を進める判断につながることがあります。
弁護士は、これらの事情を整理した意見書(上申書)を捜査機関に提出し、身体拘束の必要性が乏しいことを主張します。すでに警察が動いていることが分かっている段階で自ら出頭する対応も、状況によっては検討に値します。
いずれも逮捕を防ぐことを約束するものではありませんが、何もしないままでいるよりは選択肢が広がります。
3. 被害者との示談
被害を訴えている方との間で示談が成立し、事案が解決に向かっていると評価されれば、身体拘束の必要性も、あえて公表する必要性も相対的に小さく評価され得ます。
ただし、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は2017年の法改正で非親告罪となっており、示談が成立すれば当然に不起訴になるわけではありません。宥恕(相手が処罰を望まない意思)を含む内容にできるかどうかが実務上の分かれ目になります。示談交渉は捜査機関を通じて連絡先の取次ぎを受けて行うのが原則で、本人が直接連絡を取ることは避けるべきです。
4. 捜査機関・報道機関への申し入れ
弁護士から捜査機関に対し、事案の性質や不利益の大きさを踏まえて公表を控えるよう意見を述べることや、報道機関に対して記事化を控えるよう申し入れを行うことがあります。
ただし、報道機関にはこれに応じる義務はありません。申し入れをすれば報道を避けられる、という性質のものではない点は率直にお伝えしておく必要があります。
5. 避けるべき対応
次のような行動は、報道リスクを下げるどころか、逃亡や証拠隠滅のおそれを裏づける事情として評価され、逮捕の可能性をむしろ高めるおそれがあります。
- 現場から逃走する、警察からの連絡を無視する
- 撮影データやメッセージを削除する
- 被害を訴えている相手に直接連絡し、謝罪や交渉を試みる
- 事情をSNSに書き込む、知人に広く相談する
「報道」と「失職」は同じ問題ではない
報道されなくても職を失うことはある
逮捕された場合、逮捕後の身柄拘束は最大72時間、勾留が付けばさらに原則10日、延長で最大10日と、合わせて最長23日間に及ぶことがあります。この間は出勤できず、外部への連絡も自由にはできません。報道が一切なくても、長期の無断欠勤という形で勤務先の知るところとなり得ます。
逆にいえば、身体拘束を避けることは、報道対策であると同時に失職対策でもあります。
報道されても、直ちに解雇が有効になるわけではない
私生活上の非行を理由とする懲戒処分は、就業規則上の根拠があり、処分が重すぎず、弁明の機会など手続が踏まれていることが求められます(労働契約法15条)。裁判例でも、私生活上の行為であることや刑が軽微であることを理由に懲戒解雇が無効とされた例があり、一方で企業の社会的評価を著しく低下させるおそれがあると評価されて有効とされた例もあります。
報道の有無や職業が報じられたかどうかは、この判断に影響する事情の一つです。
前科の有無が長く影響する場面もある
なお、公務員は、拘禁刑以上の刑を受けると法律上当然に職を失う扱いとなり、民間企業とは前提が異なります。
また、2026年12月25日に施行されるこども性暴力防止法(いわゆる日本版DBS)により、学校や認可保育所などでは、子どもと接する職に就く人について特定の性犯罪の前科を確認する仕組みが始まります。前科があれば自動的に排除されるわけではなく、事業者が内容を踏まえて判断するとされていますが、教育・保育に関わる職種の方にとっては、報道以上に起訴されるかどうか、前科がつくかどうかが長期的な影響を左右し得ます。
報道されてしまった後にできること
すでに実名で報じられた場合でも、記事や検索結果の削除を求める余地は残されています。
裁判所は、その事実を公表されない法的利益と、公表を続ける理由とを比較して判断する枠組みを採っています。検索結果の削除については最高裁平成29年1月31日決定が厳しい基準を示しましたが、その後の最高裁令和4年6月24日判決は、SNS上の投稿の削除について「明らか」という限定を採らないことを示し、時間の経過や刑の言渡しの効力が失われていることなどを考慮して削除を認めました。
とはいえ、重大な事件や公表から間もない時期の記事について削除が認められるとは限らず、紙媒体の回収や拡散した情報のすべてを消すことは現実的ではありません。手続には時間と費用がかかり、事案が改めて注目されるおそれもあります。可能性はあるが確実ではない、という前提で検討すべき手段です。
まとめ
- 実名報道の基準を定めた法律はなく、警察の発表と報道機関の判断という二段階で決まります。
- 報道の起点になりやすいのは逮捕であり、在宅で捜査が進む事件は報道に至りにくい傾向があります。
- 報道リスクを下げる現実的な道筋は、事件化の前段階の対応、逮捕・勾留を避けること、示談、そして弁護士からの意見書・申し入れですが、いずれも結果を保証するものではありません。
- 逃走・データの削除・被害者への直接連絡は、逆効果になるおそれがあります。
- 報道と失職は別の問題です。報道がなくても長期の身体拘束で職を失うことはあり、報道があっても解雇が当然に有効になるわけではありません。
- 職種によっては、報道よりも起訴・前科の有無が長く影響します。
風俗トラブルは、店や相手方からの請求と刑事手続が同時に進み、判断を迫られる場面が続きます。どの局面で何を優先すべきかは事案によって異なりますので、早い段階でご相談ください。


